第8話 『驚愕ノ嵐』
僕の名前は、大神羊平。年齢は、15歳で、私立嶺泉高校に通っている。読み方が同じなので、よく下の名前を「洋平」と間違えるんだが、正しくは「羊」に「平」で「羊平」だ。僕はマイペースなのでこっちの漢字の方が合ってると思う。
僕の趣味は、ラノベを読んだり、アニメを鑑賞すること。あとは、何かについて考察すること。ゲームやアニメでいういわゆる考察班だ。僕はそういった考察を自分のブログである「ウルフとメリーの部屋」に載せている。名前の大神と羊からとった。幼馴染みの陽菜には「センスが...」と言われたが、個人的には気に入っている。質問者ウルフにメリー先生が答えていく形式で、中学から続けている。
まあ、僕は俗にいうオタクという人種だ。厚底メガネで太った、「デュフフ」と鳴く種類ではなく、自分の専門に関して静かに情熱を捧ぐ、ヒョロい種類のオタクだ。話を振られるといくぶんか饒舌になるせいか、変人として扱われることがしばしば。
僕は、可もなく不可もなくまったりと15年の人生を歩んできた。しかし、ココ最近僕を取り巻く環境は大きく変わった。
その激動は、僕が嶺泉高校に入ったことで始まった。僕がこの高校を選んだ理由は、ただ家に近いから。それでも、この高校は上の下くらいのレベルのがったであるため、そこそこ勉強はした。
僕は、これまで通り平穏な日々を送ろうと考えていた。授業は真面目に受け、部活には入ることなく、放課後は読書をする……そういった生活を贈るつもりだった。そんな僕の計画はいとも簡単に崩れ去ることとなる。
入学式当日。
「えっ……」
僕は、目を見張った。僕の目の前を通り過ぎたのは、オタクで芸能界に疎い僕でも見まごう事ない、天才子役の久我美波だった。正しくは、元か。先日、新聞でもテレビでも連日彼女の引退報道についてやっていたし、そうでなくても彼女は有名なので小学生の時から知っていた。同学年なのは知っていたが、よりによって同じ学校になるとは……。世の中案外狭いもんかもしれない。
その後、各自の教室に移動してさらに驚いた。彼女と同じクラスだったのだ。うーん、それにしても美人だなぁ。ラノベの中のヒロインみたいに髪の毛の色がカラフルだったり、ケモ耳が生えてたりすることなんてないが、正に2次元の世界から出てきたかのような美貌だ。一種の芸術品のような美しさを感じる……。
まあ、僕みたいなモブキャラと彼女みたいなメインヒロインは住む世界が違う。だから今後関わることはないだろけど、拝んでおく分にはタダだ。ああ、目が癒される……。
更には……席も隣だった。
しかしそれでもまだ僕の身にふりかかる更なる事態は止まらなかった。
委員会決めの時。
「はいじゃあ、○○委員会やりたい人~」
担任の剛力先生が中心となって委員会決めが行われていく。隣の席の久我さんは、さっきから手を上げたり下げたりしている。その原因は……どうやら高梨祐也くんみたいだった。多分僕以外は気づいてないと思う。彼女、さりげなく手を下ろしているし。高梨君――彼は、爽やか系イケメンだけど、性格はグイグイいくようだね。遠慮がない気はするが。あと、彼は自分が避けられていることに気づいてないと思う。
高梨君の持ち物は少し見ただけで高価なものと分かる。あの腕時計なんか『アルファ』じゃないか!いいな〜。
久我さんは社長令嬢という話だから親が決めた婚約者同士ということも考えられるが、可能性は低い。久我さんの佇まいと所作からは隠せない気品が滲み出ているが、高梨君からは全くもって感じない。恐らく、ある程度大手の企業に務める支店長の息子…くらいか?
だとすれば、どうしてこの前呼び出したんだろう。子役時代の弱みを握られているから直談判しに行ったとか?いや、ご令嬢なら、醜聞の一つや二つくらいもみ消せるのかもしれない。
ふと、久我さんの拳を見ればフルフルと震えている。よっぽど怒っているんだろうなぁ。
「じゃあ次〜、図書委員になりたい人〜」
「はいはいっ! 私、図書委員になりたいですっ!」
ん? 久我さん、積極的だな。明るい子だとは思っていたけど、こんなグイグイくるとは。よほど高梨君が嫌だったみたいだな。
「大神君もやりたいって言ってます!」
「えっ!?」
おいおい、マジかよ。高梨君が嫌なのはわかっていたが、まさか僕を盾にするとは……。もっと他に僕なんかより適任者がいたんじゃないのか? あと、久我さんに腕捕まれちゃったぁ……。
「お、2人で決まりだな。それよか、久我、そんなに必死になっちゃってどうしたんだ~? 青春真っ最中だな、がはははは」
剛力先生の快活な笑い声が教室内響く。
おいおい、脳筋。僕なんかが久我さんと釣り合うわけないじゃんかよ……。
そうして久我さんと僕は同じ委員会になった。やばい、心臓止まりそう。
そして、今現在。どうしてこうなった……。
彼女が高梨君から逃げるために偽コイ同盟なるものに協力したのだが……
「はい、全部1個ずつあげるねー」
「う、うん。」
久我さんが、久我さんの箸で僕の弁当箱へとアスパラ巻きを口に運び……
「んっ!?」
不意打ちされた。久我さんは、僕の弁当箱にアスパラ巻きを移すと見せかけて、僕の口に突っ込んだのだ。
こ、これって間接キス!? いや、まだ久我さんが箸に口をつけてないから違うか。でも、これから口をつけるんだからやっぱり間接キスになるのか……?
僕は、心臓をバクバクさせながらもなんとか飲み込んで、感想を絞り出す。
「ふぅ、びっくりしたぁ。そりにしても久我さん家のお弁当って美味しいね……。」
「あはは、ごめんごめん。私のお弁当は、料理の得意なメイドの栗原さんが作ってくれているから、いつも美味しいんだ〜」
「メイドさん……。さすが久我家だな……。」
久我さんは、俺に向かって微笑む。え、笑顔が眩しい……。
そこから僕の意識は半ば飛んだ。その後も彼女が何か言ったのに対して何か返答した気はするのだが、もう頭の中がショートして真っ白だった。何か、変な事口走ったりしてないだろうか……。
大神君の苦難は、終わりを迎えることはなさそうなのであった。
つ・づ・く
今話書くのすごい楽しかったです。
次回更新予定日は未定です。