第6話 『偽恋同盟』
今話で高梨と付き合ってる疑惑払拭です!
最近恒例となった大神君との放課後ラノベ談義に向かうべく、俺は、図書室に行くために荷物をまとめ、これから図書室で返却する予定の『アイカさんはギャップが激しい』の8巻を机の中から引っ張り出す。大神君は、おそらく先に行っているはずだ。
「あ、久我さん。久我さんもラノベ読むの?」
「!? も、桃井さん!」
桃井さん――俺が前世好きだった子が話しかけてきた。俺の机の上にあったラノベを見て声をかけてきたのかな? 彼女とは、先日LINE交換をしたが、共通の話題などなくて話しかけようと思ったが話しかけられないでいた。それにしてもいきなりでビックリしたぁ。
「う、うん。ラノベ読むよ。」
俺は、しどろもどろになりながらも答える。
「そっかー、私もね、結構ラノベ読むんだ。んで、今から図書室にラノベ返しに行くの。久我さんも多分そうだよね……?」
「うん。一緒に行く?」
「うん!」
2人で図書室へ向かう。図書室は教室棟と別棟の校舎にあるので少しばかし遠い。着くまでお喋りをする。
「いや〜、久我さんがラノベ読むって意外だったな~。久我さんってさ、あの久我製薬のお嬢様じゃん。だからもっと難しい本読んでるのかなーって思ってたんだ。」
「ふふふ、私だってこういう本も読むんだよ〜。ま、大神君に勧めてもらったんだけどね。」
「よ、羊平!?」
「う、うん。そうだけど?」
ど、どうしたんだ? 入学したばっかりなのに妙に大神君に馴れ馴れしいな。
「あ、私、羊平とは幼なじみなんだよ。そかそか~、久我さんと仲良くなっちゃうなんて羊平もやるな~。」
ニヤリ、とする様子も可愛い。大神君、桃井さんと幼なじみだったのか! こんな可愛い子と幼なじみだなんてずるいぞ!
図書室に着く。既に大神君は着いており、ラノベを読んでいた。
「おーい、大神君、お待たせ〜」
「羊平はろ〜」
大神君は目線を上げ会釈した後、本を閉じる。その後は3人でお喋りした。
お喋りし始めてから30分くらい経った頃だろうか、大神君が急にキョロキョロし出す。どうしたんだろ。
そして、声を潜めて話し始めた。
「ねぇ、久我さん。あの事、陽菜にも相談してみたらどうかな? 僕だけに相談するよりも広い視野で見られるよ。三人寄らば文殊の知恵って言うしね。幼なじみの僕が言うのはなんだけど、陽菜は口堅いよ?」
あの噂を払拭する打開策を陽菜ちゃんにも考えてもらうって事か。んー、いいんじゃのかな?
「ねえ、2人とも~、あの事ってな〜に~」
「わかった。話すよ。」
俺がそう言うと、陽菜ちゃんは真剣な顔になって俺の方に向き直る。
俺は、ヤツに始業式の日に告白された、付き合っていないのに付き合ってると噂が流れて嫌だ、ということを話した。
「へ~、そーだったのか~」
「巻き込んじゃってごめんね? 何か打開策があれば教えてほしいんだけど……。」
「巻き込んじゃってなんて……気にしなくていいよ! だって私達、友達でしょ?」
友達……
その言葉の意味するモノ――それは、俺が前世で欲しかったが手に入らなかったものだ。
だけど、今は違う。転生して友達が出来た。小学校でも中学校でも。そして、高校でも。改めて転生して良かったと思う。ヤツが云々という事では無く、友達が今世では出来たことだけで大きな収穫だ。
もし、前世の俺が、ヤツのこと云々抜きで、転生するかどうか選べたとしたらどうしていただろうか。今の俺なら迷いなく選ぶだろう。転生する道を。
俺は、友達だと陽菜ちゃんに言われたことが嬉しくなり、目から汗がぽろりと出てしまった。
「あ゛りがどうぅ〜陽菜ぢゃん……」
「ちょ、美波ちゃん!?」
うーん、俺、転生してから涙もろくなったのかな……
俺の目からの汗が止まり、落ち着いてから陽菜ちゃんに改めて問い直す。
「陽菜ちゃん、何かいい考えあるかな?」
「うーん……、あっ!」
どうやら何か思いついたらしい。
それから彼女が語った内容とは……
端的に言うと、俺と大神君が「偽コイ」をするというものだ。
どうしてこんな突拍子もないことを思いついたかというと、『アイカさんはギャップが激しい』から思いついたのだそうだ。『アイカさんはギャップが激しい』のヒロイン社長令嬢アイカは、旧家の出の御曹司(3巻初登場)に付きまとわれ、熱烈に付き合うよう言われる。しかし、この男はナルシストで独占欲が強かった。
そこでアイカさんは、自分の素を知っている、冴えない主人公に頼み込むのだ。偽の彼氏になってください、と。そして、主人公はアイカさんの協力を得ながら、アイカさんにつりあう男になれるように自分を磨いていく、という物語だ。
どうやらそれを俺たちにやれば? ということらしい。俺=アイカ、大神君=主人公で。う~ん、たしかにそれなら噂は払拭できるだろうし、大神君とは仲がいいけれど……大神君と付き合うの……?
俺がうんうん唸っていると陽菜ちゃんが付け足す。
「あ、演技だけでいいんだよ。美波ちゃん、演技得意でしょ? 子役やってたし。気楽に、ね?」
「う、うん!」
そっか、俺は小中学校の時、子役をしてたから演技なら俺の得意領域だ。どんと任せろってもんよ!
その後、大神君の了解も得て、「偽コイ」をすることが決まった。大神君を納得させるのは大変だった。「ふ、ふえぇ〜、僕にはそんなの無理ですぅ~」って感じだったのだが、俺が頼み、陽菜ちゃんが脅し、なんとか協力してもらうことにこじつけた。そして、演技は明日から早速実行だ。
すっかり仲良くなった俺達は、3人のLINEグループを作り、少しお喋りした後、校門前でばいばいをした。俺は車に乗って帰宅した。
ーーーー
翌日。
俺は、作戦通り、手を恋人繋ぎしながら教室に入る。ちなみに陽菜ちゃんは、同時に後ろのドアから入り、様子を見届けることになっている。
「みんな、おはよぉー」
「――!?」
俺を見た子達は、固まる。その波は教室中に広がり、やがてクラスにいた生徒全員が凍りついた。
そして近くにいた女子の1人が、恐る恐る話しかけてくる。
「久我さん……どういうこと?」
「どういうことも何も私たち、付き合い始めたんだ。」
「ふぁ!?」
その子は大袈裟な程までに驚いた。リアクションが良くて面白いな。ん〜、やっぱり演技は楽しい。
すると、別の女子が声をかけてくる。
「ねえ、高梨君と付き合ってたんじゃなかったの?」
「あー、彼とは元から付き合ってなんかないよ。彼が勝手に勘違いしてただけ。」
俺はそう言って、離れた所にいるヤツに向かってニヤリとする。
「あいつ、ぜってえ俺の女にしてやる。」
そう1人の男――高梨祐也は呟いた。しかし、クラスメイトたちの意識は今日に入ってきたばかりのカップルに向かっていたため、誰もその呟きを聞き取ることはなかった……。
今話執筆にあたり、呉様にアドバイス頂きました。ありがとうございます。
今後も作品に対して何か御意見ございましたら、感想か個人メッセージでよろしくお願いします。第三者から意見は貴重なので助かります。
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次の更新は……未定。明後日に出せたらいいな。
【8月10日】ごめんなさい。日曜日には出せそうにないです。