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第19話 『和解』

遅くなりすみません。難産でした。

 とうとう『プランA』の実行日である土曜日がやって来た。織姫にスピカさんに会ってもらう場所は、俺の家。ちなみに『プランB』とは、もし織姫がスピカさんに会うことにもっと難色を示すようだった場合のときの計画で、織姫には知らせずにスピカさんと会ってもらうというものだ。結局、織姫は難色を示したものの、自分でスピカさんと向き合うことを選んだので『プランB』は採用されなかった。俺はこれでよかったと思う。自分で前へと踏み出したことが大事だからな。


 段取りとしては、俺が家で待機して、既に家に来て待機しているスピカさんとおしゃべりして時間を潰している間に、陽菜ちゃんには波多野さんが運転する車で織姫を迎えに言ってもらうことになっている。


「じゃあよろしくね、陽菜ちゃん」

「うん! 織姫ちゃんを連れてくるね!」


「波多野さんもよろしくお願いします。」

「分かりました、お嬢様。それでは行ってまいります。」


 窓から手を振る陽菜ちゃんを乗せた車は、織姫を迎えに走っていった。


「それではスピカさん、家の中に入りましょうか」


「はい」


 スピカさんと、共に家の中へと入る。前回と違って莉江ちゃんがいないが、べつにスピカさんと2人きりだからといって緊張するはしない。スピカさんは俺がちょっと引くレベルのシスコンなだけで話しやすい人だし、子役をやっていたせいか、初対面の人と話す際にも大して緊張はしない。ドラマの撮影の打ち合わせだって初対面の人がたくさんくるもんな。



 俺の部屋へと戻ってきた俺たちは、座敷テーブルに向かい合って座る。


「それじゃあ、今日はよろしくね。美波ちゃん」


「こちらこそよろしくお願いします。スピカさんに来ていただいたおかげで、織姫ちゃんの状況がいい方に進展すると思います。」


「そんなにかしこまらなくていいのに。それより、普段のあの子の様子を教えてくれないかしら。ほら、私は一人暮らししてるし? 本人からはちょっといろいろ聞きづらいし……?」


 どうやらこの様子だとスピカさんも今日を楽しみにしていたみたいだ。いろいろ取り繕いはするものの、この人は、大の妹好きだもんね。そんなに妹っていいものなのかな? 前世の俺に妹はいなかったし、今世でも兄だけだし。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 スピカさんのお望み通り、俺は、学校での織姫の様子や、この前の織姫の家での勉強会の時のことなどを話した。


「そかそか、そんな感じなのですね。話が聞けてよかったです。うーん、でもやっぱり、わかってはいてもこれだけ妹に避けられてると悲しくなります……。

 『私なんかとは住んでる世界が違う、だから馬なんて合いっこない』ですか……。あの子は自分を過小評価し過ぎなのですよね。そうなった原因の大部分は、お母さんの教育方針の影響なのでしょうけど。お母さんだって悪気があった訳ではなくて、あの子のためを思ってたわけですから『悪』とは決め付けられませんし、それに自己評価が低いまま悩んでいるあの子に優しい言葉1つかけてあげられなかった私も悪かったと思います……。」


 悲しげなスピカさんに俺もつらくなる。スピカさんだって、お母さんの期待に応えるのに必死だったし、大学に入ってようやく将来の目標を見つけ、精神的に自立出来たくらいなのだ。年齢を計算してみると、スピカさんとベガは受験や入学などの節目の時が重なっていることがほとんどで、年の離れた妹に気を配るのは難しかっただろう。



 ススッ



 不意に襖が開いたので、見ると、陽菜ちゃんと織姫と栗原さんがいた。ちょうどスピカさんとの話もひと段落ついたところだし、いい感じの流れだな。


「やっほー、美波ちゃん。戻ってきたよ!」


「べ、織姫、久しぶりですね」

「う、うん。ひ、久しぶりだね、お姉ちゃん」


 織姫は、ぎこちない笑みを浮かべながら敷居のところにまだ立っている。チラリとスピカさんの方を見ると、彼女も織姫と同じような表情を浮かべている。ふたりとも顔の表情までこんだけ一緒なんだから、やっぱり姉妹なんだなって思う。元々の顔もけっこう似てるし。織姫のほうが童顔だけど。


「それでは私は失礼しますね。皆様、ゆっくりしていってくださいね。」


 栗原さんはお茶とカステラを置いて戻って行く。おー、カステラカステラ♪ 好きなんだよね♪


 栗原さんが出ていくと、俺の部屋は静まる。陽菜ちゃんと織姫の目はカステラに釘付けのようだ。


「みんな、カステラ食べたそうだし……それじゃあ、お話の前にみんなでカステラいただきます?」


 あまりカステラにがっつくとはしたないかと思い、俺が黙っていると、スピカさんがカステラを食べることを提案する。

 も、もしかして、、、俺もカステラ食べたそうにしてたのが顔に出てたかな? 恥ずかしい……。



 カステラを食べ終わった後、いよいよ今日の話のメインに移る。


「えっとぉー、それじゃあ、本題に移ろっか。私なりに、スピカさんと織姫ちゃんの仲が良くなるよう色々考えてみたんだけど、聞いてくれる?」


「わかったわ。お願いね。」

「うん。」


 ーーー


「私が思うにはね、織姫ちゃんとスピカさんの関係がギクシャクしちゃってるのは、お互いの気持ちの理解と意思疎通不足だと思うの。だからスピカさんと織姫ちゃんには、お互いお互いへの赤裸々な気持ちを今から伝えあって欲しい。私は、2人から直接色々聞いたけど、やっぱり本人同士が自分の気持ちを言うのがいいと思う、私なんかが代弁するよりかね。


 でも、2人に一言ずつ私からコメントするよ。

 まずスピカさん。織姫ちゃんのこと本当は大好きなんだからそれを素直に伝えればいいと思います。スピカには申し訳ないんですけれど、織姫ちゃんにスピカさんが()()()()だってもう私が言っちゃったからもう何も心配は要らないですよ?


 次に織姫ちゃん。スピカさんは、織姫ちゃんのことを出来損ないだなんて思ってないですからね? いい所がない人なんているわけないじゃないですか。自分に自信を持ってどーんと構えてればいいんですよ!」


 2人に対して思ってることをぶちまける。様子を窺うと、2人とも頬は紅潮しているようだが、覚悟を決めたような面持ちをしている。お互いに歩み寄る踏ん切りがついたのだろう。

 背中を押す、という俺の仕事はここまでだ。十分お膳立てはした。ここからは当事者同士の仕事だ。


 先に沈黙を破ったのはスピカさん。


「織姫、今までごめんなさい、、、」


「お、お姉ちゃん謝らないでよ!!」


「いえ、いいんです。お母さんが織姫にいろいろキツく言ってたのは知っていました。でも、織姫には優しい言葉何一つかけてあげられなかった。織姫に声掛けてあげよう、あげようとは思ってたのだけど、今更声をかけたら、どうして今まで辛かったのに声掛けてくれなかったの? って、大好きな織姫に言われるのが怖かったんです、、、。どんどん遅くなるにつれて怖くて怖くてどうしようもなくなっていました。私も忙しいから仕方がない、しょうがないと自分に言い聞かせて…自分勝手な姉でごめんなさい。はぁ、私、受験戦争を駆け抜けて大学に入って、いいところに就職して少しは立派な人になれたかなと思っていたけれど、人間的にはちっとも成長していませんね……。」


「お、お姉ちゃん。私もごめんなさい。私、お姉ちゃん、お兄ちゃんに比べて何もできないから、出来損ないってお姉ちゃんやお兄ちゃんに思われてると思ってたの。だからお姉ちゃん達を避けるようになったんだと思う……。私の方から壁を作ってたのよ、きっと。だからお姉ちゃんは悪くなんかないっ!」


「グスン、ゔぅぅ……」


 スピカさんの言葉を聞いて感極まったのか、織姫は堰を切らしたかのように泣き出す。


「織姫、お姉ちゃんのとこにきてください」


 スピカさんは両手を広げ、織姫を包み込む。長らく2人の間にあった見えない壁は、今この瞬間、思ったよりも呆気なく崩れ去った。今、俺と陽菜ちゃんの前にあるのは、妹に対して素直になれないキャリアウーマンと自分に自信が持てない少女の姿ではなく、お互いを大切に想い合う姉妹の姿だった。


  俺たちはそっと部屋を出て二人きりにして、頃合いを見て戻った。


  話し合ったとはいえ、まだ何かくすぶるものがあるかもしれない。それでも、新しい関係が始まったのは誰の目にも明らかだった。


 


  二人で仲良く写った写真が送られてきたのを見て、俺はふと思うのだ。あの時…俺が『前世』と呼んでいる時間軸において、退学した織姫に真っ先に寄り添ったのは、スピカさんなのではないだろうか、と。



1週間更新やっぱり無理です。ごめんなさい。


お詫びという訳では無いですが、明日か明後日にもう1話投稿します。次に投稿する話は、主人公が転生しなかった世界線の、織姫目線のifストーリーの閑話となります。


自作品への評価ポイントって、確認するのになかなか勇気がいるんですけれど、この前見たら1000ポイント超えてて驚きました。キリのいい数字でスクショしようと思っていたんけれど、逃しちゃいましたね(笑)


今後もよろしくお願いします。

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