第16話 『奇遇の出会い』~『晩餐会②』~
あ、お久しぶりです……
波多野さんが運転する自動車に乗ってしばらくすると、立派な洋館が見えてきた。和洋折衷を体現した久我家とは対照的に、純粋な西洋風建築である。レンガづくりの外観が、なんとなく明治時代を連想させた。
「やあ、大岡くん。リサさんもお久しぶりです。」
「久我くんも元気そうだね。」
出迎えてくれたのは、お父さんとだいたい同じくらいの年齢の男女二人とその子供たちだった。
「大岡くんは、僕の大学の同期でね、精密機械の会社『大岡製作所』の社長なんだ。医療機器も扱っていてね、評判がいいんだ。」
その会社なら知ってる!内視鏡のCMで有名なところで、久我製薬と同じく、東証一部上場企業だ。
大岡社長の子供たちと挨拶するが――
「こんばんは、久我美波です。」
「ごきげんよう、大岡莉江です。」
「「ほえ??」」
ほぼ同時に挨拶をした俺と少女――莉江ちゃんはお互いにあっけにとられた。
帽子に『CAP』のロゴが入ったトレーナーにスニーカーというラフな格好だったこの前とはうってかわって、ふわっとしたちょうちん袖の青いワンピースに、髪はハーフアップにしてリボン型のバレッタで留めている。
良家のご令嬢だ!!(ブーメラン)
いやあ、前に会った時と雰囲気が全然違うから、挨拶するまで気がつかなかったよ。
「おや、お友達かな。」
「ええと、お父さま、ほら私って美波さんのファンでしょう?それでお話したことがあったのよ。」
「そうなのかい、美波?」
「そんなところかな!」
そういえばこの前の週末に出かけていたけど、二人一緒だったの?と聞かれたので、適当にうなずいておく。
「姉さんだけズルいよ。僕たちもサイン欲しい!」
サインは、莉江ちゃんの弟くん3人への分(莉江ちゃんは、3人の弟の姉らしい)、更には莉江ちゃんパパ、ママの分まで書くことになったと記しておく。
夕食は、かなり広いリビングのテーブルをみんなで囲んで食べた。フレンチのコース。いつもは、大岡家の執事さんが食事を作っているところを、今日は特別に銀座の高級レストランの料理人を招いて作ってもらったらしい。そりゃあ、こんだけ美味しいわけだ。いつもは、体型維持のためにたくさんは食べないんだけれど、今日はお腹ぽんぽんになるくらい食べちゃった。
食後、俺は、莉江ちゃんの部屋に行き、おしゃべりに花を咲かせていた。ベッドの上にクッションをいっぱい持ってきて、お菓子をつまみながら学校の話や趣味の話をする。
莉江ちゃんの素は「アタシ」らしいが、普段は猫を被っているようだ。
「最近仲良くなった子でね、ベガちゃんっていう子がいるんだけど――」
「待って、もしかしてその子、織姫って書いてベガって読む名前だったりしない?」
え、何故わかった!?エスパーか??
「いや、アタシの恩師の妹かも。」
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話は5・6年前に遡る。
当日、小学六年生だった莉江は、国立大学付属の小学校に通っていた。中学受験を控えていたために学習塾に通わせる案もあったが、愛娘を心配した父親の意向で自習学習が中心だった。しかし、六年生ともなれば話は変わり、家庭教師を雇うことにした。
家庭教師を依頼する時に、莉江の父親は『最高学府に優秀な成績で通っていて、聖アグネスの卒業生である女子大生』を派遣会社に要求した。
やって来たのは…山本乙女という人だった。
大学には特待生として入っており、言うまでもなく聖アグネスの出身で、在学していた6年を通じて優等生でもあった。
当時、親元を離れて独り暮らしを始めたばかりで、少しでも自立するためにアルバイトをしていたのだ。
確かな教養と、“乙女”の名前に恥じぬ、清楚で知的な美貌を持つ彼女は素晴らしい家庭教師となり、それまで長女ということもあって中々年上の人間に甘えられる機会がなかった莉江のよき理解者でもあった。
教え方が大変うまく、―――本人が努力したのは言うまでもないが―――彼女の言う通りに勉強した莉江の成績は瞬く間に伸びていった。そして、晴れて合格したのだが。
スピカには悪癖?があった。
「先生には莉江ちゃんよりひとつ下の妹がいるのですが、この子がそれはもう可愛くて可愛くて…」
「ベガはお勉強と運動は少し苦手ですがいつも頑張っていますし、お絵描きがとても上手いんです。母にはなかなか理解してもらえませんが。」
「ほんとにほんとに、いい子なんです。でも、あの子の前に行くと緊張してしまって、普段の半分も言葉が出なくなってしまって。だから、私を怖い人だと思っているのか近づいてきてくれません。」
所謂シスターコンプレックス――シスコンと呼ばれる人種だった。
まあ莉江が面白がっていろいろ聞き出したのもある。
そんなわけで、莉江は、織姫という人物には直接会ったことはないが、恩師を通じてわりあい詳しくその人となりを知っているのだ。
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「――ということがあったんだよね。その高梨ってやつ、ほんと酷いでしょ?
織姫ちゃんはさ、誰かに認めて貰える環境になかったから、あんなのと付き合って、今回のようなことになっちゃったわけなんだよね。だからそれを何とか解決したいと思うの。」
「美波ちゃん! あたし、織姫ちゃんを何とかしてあげられるかも!」
「え? ちょっと待って。どういうこと? あ、そういえばさっき……」
「そう! わかったみたいね。私の恩師――スピカさんの伝手を借りよう!」
やっぱりそうだった。さっき、織姫のことを、私の恩師の妹って言ってたもんね。
「でも、どーやって協力してもらうの?」
「んー、私よりは美波ちゃんのほうが、織姫ちゃんについて詳しいだろうから、美波ちゃんも交えて話したいんだよね。今度、スピカさんも交えてファミレスで集まらない? 私がスピカさんに声をかけて、おっけー貰えたらの話だけど。どう?」
「いいね! スピカさんに会うの、楽しみだな~♪」
「うふふふ、楽しみにしててね。スピカさんはとってもいい人だから。」
どうやら俺たちはスピカさん(織姫と同じくキラキラネームらしい)という織姫の姉の力を借りるために、今度、ファミレスで話し合いをすることになりそうなのだった。
あと半月くらいしたら更新速度あがります。それまで次話は、お待ちください。
今回オススメするTS作品はこちら↓↓↓
『コントラクト・スプラウト ~受肉した俺と異界の種〜』(緑樹 様)
Vtuberになろうとしてた主人公(男)が、そのキャラクター(ロリエルフ)になってしまう魔法ありのローファンタジーの話です。わちゃわちゃとした主人公達のやり取りに心温まる一方、異界から現実世界へと入り込んだ、人を狂わせる「種」による混乱。その混乱をおさめるべく、ロリエルフの主人公が奔走する!
この少しのシリアスみが、いい感じにこの作品へのスパイスになっています。って言っても、すごいシリアスなわけじゃ無いので、シリアス苦手な人(私とか)でも楽しくドキドキ読めます。今のところ毎日更新されてますので、是非読んでみて下さい。
『TS兵器擬人化転生 航空母艦 信濃(美少女)になった俺』(紀伊七甲 様)
作者は、あの『TS現代転生 黒髪美少女退魔師になった俺』の作者と同じ紀伊七甲様です。
この話は、主人公(男)が、TS擬人化兵器、航空母艦「信濃」になる話です。ビジュアルは、ア〇ールレーンのキャラクターみたいな感じです。(ア〇レンの私の推しキャラは、ユ〇コーン、ジャ〇リン、ク〇エリです笑)
TS擬人化兵器ものって、こんだけなろうに作品がある中で、ほんの僅かしかないんです!とても斬新な作品だと思いません!?
すごいエモいので、是非読んでみて下さい。
後書きに40分かかった……。
それでは次話でお会いしましょう! そら




