第14話 『一発逆転』 〜高梨、ざまぁ!〜
お久しぶりです! 本作を覚えていてくれたら幸いです。
前話投稿でのブックマークの急上昇により期待に応えられるか不安になり、なかなか手がつかなかったのと、勉強で忙しかったのでこのように遅くなってしまいました。ごめんなさい。
お詫びというわけではないですが、今回はいつもの3話分くらいでかなり長くなってます。
翌日の放課後、昨日織姫を見つけた場所で織姫と落ち合う。あまり人目につかないところといったら狭い校内だと限られてくるもんな。俺は別にどこで織姫と会ってもいいんだけど、彼女は人目が多いところは嫌とのことだ。俺が率いてる(?)仲良しグループと織姫が率いてるグループは、そんなに仲が言い訳じゃないから内通してると思われたくないんだって。
「お、美波ちゃん。それじゃあよろしくね……?」
「うん、織姫ちゃん昨日ぶり! じゃあ、早速行こっか!」
この時間帯ならまだやつは学校に残っていると思う。いつも通りにいけば、教室で織姫の派閥の女の子達と談笑しているはずだ。
俺の斜め後ろに織姫が付き添う形で2人で教室へと向かう。つい昨日までは仲がよかったわけでもないし、かといって昨日友達になれたわけでもないのでお互い無言ですたすたと歩く。
ふと、後ろを振り向くと、すぐ後ろにいたはずの織姫は、俺より3メートルほど後ろを歩いていた。顔を見ると……何やら浮かない顔している。やはり緊張しているのだろうか?
「ねえ、大丈夫? 無理そうならやめとく?」
「へーき……。ちゃんと覚悟して決めたことだもん。」
「そっか。もし無理そうならちゃんと言ってね?」
「うん。」
織姫の足取りは、そのまま軽くはならず、俺が気にしているうちに教室の前へと着いてしまう。
もし引き返すなら今しかない。確認の意を込めてすぐ脇にいる織姫の方をちらりと見る。
彼女は、俺の顔を見て小さく頷く。俺が心配するまでもなかったな。彼女の覚悟は固く、もう揺るぎない。俺に出来るのはそのサポートをで彼女の背中を押してやるだけだ。
ガラガラッ
俺は教室のドアを開ける。見つけた。やつはまだ教室に案の定残っていた。予想通り、織姫の取り巻き達とおしゃべりしていたようだ。
「織姫ちゃん、ついてきて。」
「うん……」
織姫と一緒につかつかとやつのところへ向かう。程なくしてやつも俺たちに気づいたみたい。
「あれー、珍しいねぇ。僕の織姫ちゃんと僕の美波ちゃんが仲良いのは喜ばしいね。 美波、どうしたんだい? 俺のことが恋しくなったのかい?」
はぁ。この場に及んでまだこんなことを言ってやがる。言い返したくなるが……ダメだ。こういうやつは、相手がムキになって言い返してくるのを楽しみにしてるのだ。何か言い返そうというものなら、愚の骨頂というわけだな。
故に、俺より頭一つ分背の高いやつをただ睨むだけに留め、率直に要件を述べるのに留める。
「高梨、山本さんが用があるって。話があるから着いてきて。」
「へぇ。織姫と美波ちゃんが俺に用があるのか。直ぐに行くとするよ。可愛い子の頼みを断ろうものなら男が廃るってもんよ。」
やつは、髪の毛を手櫛しながら、無駄に白く揃った歯を見せてニカッと笑い、俺たちの方を見てくる。おえええ、マジで気持ち悪い……。これで自分はモテてカッコイイけどクールだなんて、自分で思ってるあたり、本当に救いようがないな。
やつの顔を見ていたら気分が悪くなったので、俺は一足先に、織姫の制服の袖を掴み、話し合うための場所へ歩き始める。
「二人とも、仲良いねえ~」
あー、無視無視。
着いた場所は……昨日と同じ、階段の踊り場だ。あー、やっと着いたあ。よかったよかった。俺がやつより前を歩いていたから、階段を登ってる途中、やつの視線を太股の辺りに感じて気持ち悪かった。ほんと、自分の彼女がすぐ近くにいるってのに何考えてるんだろ。あー、さいあくぅ。
俺は、屋上への扉前で仁王立ちになり、織姫は俺の横にいる。やつは、俺たちより2段降りたところで壁によりかかった。俺は、普段怒っても怖くないと自分でもわかっているので、せめて格好くらいは偉ぶるのだ。なんせ久我美波の身体になってからというもの、このルックスと声だと威圧感なんてないに等しい。前に、家の鏡の前でぷくぅとほっぺを膨らまして怒ってる顔をしてみたが、全く自分でも怖くなかった。更には、背の中の一部の特殊性癖者からすると、御褒美ですらあるかもしれない。
「ねえ、高梨。私達が何言いたいがわかる?」
「ん? 俺に告りにきてくれたんだろ?」
「「なっ!?」」
は? コイツナニイッテルノ?
お、面白い冗談だね、はははは。マジで寒気がする。
「もしかして、た、高梨、それって新手のギャグかな?」
なんとか笑みを浮かべながら何とか切り返す。うーん、子役で鍛えた営業スマイルをもってしてもぎこちなくなっちゃったかも。
「ははは、冗談じゃないんだけどな。まあ、その気になったらまた声をかけてくれよ。」
やつには、なにも呼び出される心当たりがないようなので俺の方から言う。まあ、もとから期待してなかったけどな。わかってるようなら今頃こんなことにはなってないだろうから。
「高梨、今回呼び出したのは、私についてじゃなくて、貴方の彼女、織姫についてよ。
最近彼女に何か失礼なこと言った記憶はないの?」
「いや、ないな。」
やつは、少しむっとしたような顔をする。自覚のないことについて怒られたことで頭にきたのだろう。
「そう。彼女ね、貴方に失礼なこと言われたせいでここ最近悩んでたのよ。いや、失礼ってレベルじゃないわ。貴方が言ったことは、全世界の女性を敵に回し、侮辱するようなことなの。」
「おいおい、黙ってきいてりゃあ、さっきからなんなんだよ。俺が織姫になにか悪いことしたってのか? 言い掛かりつけんじゃあねえよ。俺が何悪いことしたか言えんのか? 勝手なこと言ってんじゃね――」
「言えるわよ。」
やつは目を多きく開け、口をぽかんと開けたままフリーズする。いい気味だ。まさか、可愛い顔して普段ニコニコしてる子からこんなドス黒い声で出るだなんて思わなかっただろうな。
あー、自分でもびっくりするくらい低い声が出たな。こんな声、普段なら出そうものなら、たちまち噂になって『久我美波』のイメージはガラリと崩れてしまうだろう。
「ほんとに何も自覚ないのね。織姫ちゃん、彼、自覚ないようだから言ってあげて? 大丈夫だよ、私がついてるから。」
「う、うん……。」
織姫は、やつの方に向き直り、目を閉じ、拳を握る。
その手は、小刻みに震えていた。
あとは勇気を出すのみ。
「あのさこの前生でヤラせてって言ってたでしょ?万が一赤ちゃんできちゃったら困るしまだ覚悟も出来てないから辞めてください!お願いします!」
「ん? 何がダメなんだ? そんなに嫌ならピル飲めばいいだろ。それに1回ヤったくらいじゃあ孕まないだろ。ナマでも問題ないっしょ。俺が最高に気持ちよくしてやるぜ?」
「「え?」」
あー、ここまで言っても悪びれないってことからすると、本当に自分の発言に問題はないと思っているようだ。本当に救えない屑だな。
何が、やつ――高梨裕也という人間をここまで堕としてしまったのかはわからない。そんなことはわからないが、何があろうとやつの身勝手な発言で織姫が傷ついたのは確かなことなのだ。その事実は変わらない。もし、『救えない屑』でなく、『救える屑』になりたいとやつが本当に思うならここで謝るべきであるし、こちらとしても見直してやれるのに。
「お前ら、2人揃ってあほ面してどうしたんだよ。久我、可愛い顔が台無しだぜ?」
おっといけない。動揺しすぎて間抜け面をしていたようだ。それはともかくこの流れはまずい。このままやつが悪びれずにお開きになれば、今度、織姫とやつがお家デートかなんかをしたときに織姫が襲われてにゃまで致す事になるかもしれない。なんとしてもそれは止めなければならない。そのためには俺が人肌脱がなければ。
「あのさあ、高梨。あなたの意見はともかく、織姫ちゃんが嫌がってるの。なんとかならないの? 私としてはね、あなたが後日、彼女を襲って、そのぉ……、にゃまでそーゆーことしないか不安なのよ。」
やつは、口角をあげ、ニヤリと笑う。あと目付きが、俺のことを舌舐めずりするように見てきてキモイ。どーせ頭の中は、美少女の口からそーゆーことについてのそーゆー単語が出てきて興奮してるんだろう。元男の俺からしてもはっきり言ってキモイ。
「ねえねえ、にゃまってなんのこと? はっきり言ってくれないと分からないよー?」
「う、うっさい! そんなことよりあんたの彼女に対してなんか言いなよ!」
やつは織姫に向き直る。織姫は、何を言われるのか不安なのか俯いてしまっている。
「織姫、悪いが次回はナマでやらせてもらうぜ。俺のナマの初めてになれるんだから幸せだろ? お互いナマ初めて同士気持ちよくな――」
パシンッ
放課後の学校一ぱいに鳴り響くほど音高く男の右頬に平手打ちが炸裂した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
もう駄目か、やっぱりお願いを聞いてくれなかった――
そう思い、てたときだった。
パシンッ
閑静な放課後の学校に似つかわしくない高らかな音が私のすぐ側で響く。その音はまさに誰かが誰かに平手打ちしたときに鳴る音に違いなかった。
もしかして裕也が美波ちゃんに手をあげたのだろうか――
そんな考えが頭に過ぎり、ぱっと顔を上げる。
私の目の前に広がっていた光景は、私の予想していたものと違っていた。まるっきり正反対だった。
裕也の頬っぺには、真っ赤な紅葉のような手形がつき、ビンタされたことに対して、裕也は戸惑っているのか、目を大きく見開いていた。
しかし戸惑いを見せていたのも束の間、裕也の表情は変わる。目は、猛禽類のように獲物を品定めするような目になり、口は、獲物を捉えた肉食獣のようにニヤリと笑ってる。私は、裕也のこの表情が嫌いだ。こういう顔をしているときは、大抵よくないことを考えているときだ。
美波ちゃんはというと――
「え、えと、別にぶつつもりはなかったんだけど、あ、頭に血が登っちゃって……」
完全にテンパってあたふたしていた。視線は彷徨い、手を震わせおどおどしている。
本人の言うように本当にビンタするつもりはなかっんだろうけれど、でも手が気づいたら勝手に出ちゃったんだと思う。
「へえ。俺に手をあげちゃったか。あー、痛い痛い。頬っぺ痛いなー。悪いことしちゃったらごめんなさいしないとねえ。
でもねー、ごめんなさいして済むようなら警察は要らないんだよ。何か対価がないとねー、示しがつかないよ。元子役で学校のアイドルで品行方正な久我美波ちゃんが、暴力に訴えて手をあげちゃったなんて噂が、学校中に流布したらどーなるんだろうねー。
ヤらなくていいからさ、1回エッチしてくれるだけでいいぜ?」
「それはやだ……。」
美波ちゃんは、今にも泣きそうになって目を潤ませている。私の側で美少女がこういう表情をしていると、私の方まで 悪いことした気分になってくる。
――いつまでもこうして見ているわけにはいかない。
そんな思いが私の体の中で強くなっていく。2人の会話を聞いていて覚悟はついた。美波ちゃんは、普段親しくもない派閥の違う私のために、ここまで怒ってくれたのだ。その美波ちゃんの様子は、普段の可愛いくてほんわかした様子と違い、凛々しくかっこいいものだった。こんなにいい子は滅多にいない、と思う。
ここまできてまだぐずっているようなら私はクズだ。もしここでヘタるようなら『高梨』と同じクズになってしまう。今、私がするべきことは、『高梨』にガツンと言ってやることだ。もう覚悟は決まっている。
美波ちゃん、ここからは私のターン。あとは任せて――
パアアッン‼
「ぐほぉ!!」
「え?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ついつい、カッとなってしまいやつに手をあげてしまった。俺の言っていたことは悪くないと思うし、やつの言っていたことが100%悪いと思う。だけれども手をあげてしまったとなると別だ。
まだやつは手を俺に出してなかったから正当防衛も成り立たないし、俺がやつを平手打ちしたことが、学校中にバレるとやつの言う通りにまずいことになる。良くも悪くもこの整った容姿と子役をやっていたということで俺のことは、学校中の人が知っている。そんな中良からぬ噂が立てば、「え、あの久我さんがそんなことするんだ。うわぁ…」という風潮が広まり、俺の青春ライフが終了する。さらに悪い場合は、うちの久我製薬の沽券にも関わってくるかもしれない。
本当にどうしよう。1つくらいやつの、エッチじゃないお願いなら、聞いてやるのもこの際仕方ないことなのかな――
直後、俺の思考は吹き飛ぶ。
パアアッン‼
「え?」
突然のことに間抜けな声を出してしまう。何が起きたのか――織姫がやつを平手打ちしたのだ。
「高梨っ! あんた、私のためにこれだけ怒ってくれている美波ちゃんになんてことを言うのよ! サイテーね! 高梨、あたし、あんたとはもう別れるわ。あんたのことを好きになったのは私の見る目がなかったのね。」
織姫のいきなりの激昴にやつは、目をこれでもかと見開き驚いている。俺も驚いた。それに今、別れるって言ったか? 昨日あれだけ熱く語っていたのに。
「お、おい! どういうことだよ!? いいのか織姫! 俺と別れたらもうセッ○スできなくなるんだぞ!」
織姫は、肩を竦め、やれやれとあからさまに、まったくう、という感情を表現している。織姫もやつのクズさにようやく気がついたのかな? それにしてもやっぱりやつはクズだな。彼女とわかればなしになって口から出てくる言葉が、あれだなんてクズっぷりがよくわかるだろう。
「高梨、たしかにあなたの言葉はね、あの時――あなたと付き合い始めた時の私の心を癒してくれるようだったの。あなたにも言ったと思うけれど、私は、兄や姉と違ってスポーツや勉強の才能がなかった。そんな私には、あなたが私を必要としてくれるのが嬉しかったし、少なくとも口先では私のことを認めてくれた。才能云々じゃない、俺は織姫自身な好きだって。
でも、今から考えるとそのあなたの言葉ははただ口からでまかせだったのかもしれないと思うと、腹立たしいと同時に悔しいの。過去の私のあなたに認められたときの私の喜びを返してって。
さっきから美波ちゃん美波ちゃん言ってるけれど、どんだけ美波ちゃんと仲良くなりたいのよ。普通なら彼女の前でそんなこと言わないでしょ。要するに私はあんたの ハーレム計画(笑)の布石でしかなかったの? それに私のためにこれだけ怒ってくれた美波ちゃんに対して脅迫まがいのことをしてエッチしようだなんて本当に最低ね。
あなたは、あの時『私自身』が好きだって言ったけれど、正確には『私の身体』が目当てだったの? 1つ勘違いしているようだから言わせてもらうわ。」
「な、なんだよ。い、言ってみろよ。」
「私達は、エロゲの攻略対象のヒロインじゃないのよ。」
「!?」
「私はもうあなたとは別れるけれど、あなたが変わらなければ、また、彼女を作ったとしても同じことの繰り返しになるだけよ。」
織姫の言っていることは的を射ていた。なかなか高梨のことを言い表している表現だと思う。
実際にそういう感覚でいたからこそ、あれほど動揺するのだ。高梨は、俺たちを一人一人して見るのではなく、『攻略対象』のように見ていたんだろう。
「ふ、ふざけんなよ……」
「あ、言っておくけど今の会話は全て録音させて貰っているわ。あなたが美波ちゃんを脅してエッチをしようとしていたことがわかったら、美波ちゃんよりもあなたが困るんじゃない?」
「ななな!?」
え、まじ? そんなの初耳だぞ。いつの間にか録音していたのか。もっと早く言ってくれればここまでわーわーすることにならなかったんじゃ……いや、違うな。織姫はきっと本当は、持っていないんだ。たった今思いついたハッタリなんじゃないだろうか。ハッタリだとしても今の動揺している高梨には効果抜群だ。実際、織姫の策略にこんなにも驚いている。
さっきまではあんなにデカい態度をとっていたのにくせに今ここまで動揺しているしているとはいい気味だな。
「で、どうなの? 困るのはあんたのほうよ。」
「く、くそぉ。いいか、織姫と別れるのは認めてやる。今日はこのまでにしておいてやるから、絶対にその録音したやつを外に出すんじゃねえぞ。特に美波、お前だけは諦めねえからな。いつか絶対にその綺麗な顔をアヘらせてやる。じゃ、じゃーな!」
やつは、焦りに焦り。尻尾を巻いて階段を駆け下りていった。子供向けアニメの悪役バ○キンマン見たいな去り際だな。見ていてスカッとするな。勧善懲悪ってやつよ。
段々とやつの足音は遠ざかっていき、次第に聞こえなくなる。
「ふわぁ……」
俺の横で織姫がへなへなと崩れ落ちる。よっぽど緊張して、それが晴れた今、力が抜けてしまったのだろう。今の織姫の格好は、スカートが短い上に内股でペタンと座っているため、元男の俺からすると、パンツが見えそうでドギマギする。
「ねえ、録音してるってハッタリ? よく思いつたね。凄かったよ!」
「うん、そうだよ。わ、私のだめにあ゛んなに怒っでぐれてあ゛りがとう……」
織姫は泣き出してしまった。俺が織姫に手を貸したのは、同級生がやつの子供を孕んで退学していくのが見ていられなかったし、やつにガツンと言ってやるいい機会だと思ったからなんだけど……。そんな大層な考えがあった訳ではないからお礼を言われるとちょっと申し訳ないなぁ。
彼女は、俺を見上げる。
「本当にあ゛りがとう。美波ちゃん、だいすき。」
飛びっきりの笑顔だ。
この笑顔が守れただけで、織姫を助けてよかったと素直に思う。可愛い、そう織姫の笑顔を見て、俺はそう思った。
今後も織姫ちゃんは、ばんばん登場させます!




