トイくんと逆さ虹の森
「お、そうだ。トイ、俺がこの森に来た時のことを話してたんだ。続きはトイが話してくれないか?」
「んー? いいよー」
タキさんとスーくんとトイくんは、他のみんなを探しながら歩きます。そして、トイくんは語り出しました。
「この森はねー、元々は蛇の森だったんだー。だけど僕って食いしん坊でしょー? みーんなに『お前は食いすぎだ』っていっつも怒られてたんだー」
うう、とタキさんは頭を抱えます。
正直、重たい話は嫌いなのです。
「それである年にねー、全然食べ物が取れなくなったんだー。僕ねー、食べ物が食べられなくなるのが嫌でねー、食べ物を溜め込んだのー。そしたらねー……、みんなの食べ物がねー、無くなっちゃったの」
しょんぼりとトイくんは語ります。
「その頃は逆さ虹もなかった頃だったのー。その時はドングリ池がただの池だと思われてたから、誰も願いを叶えてもらおうとか思わなかったの。だからね、みんなね……」
その続きは「言わなくていいよ」とタキさんが止めました。
「……僕のせいで、僕はひとりぼっちになったんだー」
トイくんは、それだけ言いました。
それだけで十分でした。
「その時、逆さ虹がかかったんだー。虹を見ると幸せになるけどー、その逆さまだから不幸の虹だと思ったんだよねー。その時、僕は確かに幸せじゃなかったしねー」
「……そんな時、俺らは出会ったんだ」
スーくんが不意に、口を挟みました。
トイくんはうなづきます。
「そう、その通りなんだよねー。
……そして、スーくんがいなかったら、僕はきっとここにはいなかった」
トイくんが言葉を継ぎました。いつもの語尾を伸ばした話し方ではない、話し方で。
しかし、次に話し出した時には、いつもの口調に戻っていました。
「僕ねー、もう食べ物なんていらないって思ったの。仲良しみんなに会いたいって、それだけで……それで、北の池に沈んじゃおうかと思ったのー。……でもね、その時にトイくんを見つけたんだー」
「……『君、だあれ?』って言ったトイの声を聞いて、『こいつは俺と一緒だ』って思った。それに、俺ももうひとりぼっちは嫌だった。だから言ったんだ。『俺はスーだ』って。そしたら、『僕はトイ』って言って、無言で歩き出した。付いて来いってことかと思って追いかけたら、そこはトイの家だった。そして、食べ物を分けてくれたんだ」
「僕の家にだけは、食べ物があったからねー。それに、僕もひとりぼっちは嫌だったんだー」
「それで一緒にこの森で暮らし始めたんだ」
「……そうだったんですね」
なんともないように語るが、苦しそうな顔をするスーくんとトイくん。
そんな2匹を見ていられなくて顔を上げると、
「……あ、リコさん、みっけ」
「あら、見つかっちゃったわ」
木の上で枝に紛れて隠れていたリコちゃんを見つけました。