スーくんと逆さ虹の森
次の日のこと。
北の広場に集まったみんなは、森の中でかくれんぼをすることにしました。
「じゃ、念のためルールを説明するわ。ルールはよっつよ」
そう言って、リコちゃんがルール説明を始めます。
ひとつ。隠れる範囲は北の森の中だけ。
ふたつ。古小屋や倉庫、コンちゃん、スーくん、トイくんの家に隠れるのはダメ。池の中に潜るのも禁止。ただし、木に登るのはオッケー。
みっつ。おには1分数えてから探し始めること。
よっつ。次の鬼は一番最初に見つかった動物。
「質問はある?」
「あの……北の森って、どのあたりですか?」
タキさんが早速質問します。
「つまりは川を渡ったり森から出たりしなけりゃセーフだ。他にはなんかあるか?」
その問いには、ライくんがぶっきらぼうに説明してくれました。
「いや、もう大丈夫です」
「よーし! じゃあ、鬼を決めよう!」
スーくんがそう言って、頬袋から7つのドングリを取り出しました。ひとつだけ、種類が違います。スーくんはそれを素早く木のうろに放り込み、
「タキさん、ドングリ1個取って!」
と言いました。
タキさんはちょっと驚きましたが、すぐにその意図を理解してドングリをひとつ取り出します。
そのあとは、動物のみんなの間では順番が決まっているのでしょう、誰が何をいうこともなく、ドングリを取っていきました。
「あ、言い忘れてたけど、ひとつだけ種類の違うのを取ったやつが鬼だからな?」
スーくんがタキさんにそう説明して、せーので全員がドングリを見せました。
森の動物たちは鱗のような帽子のついたドングリ。タキさんだけは、シマシマ模様のついた帽子のドングリです。
鬼は、タキさんに決まりました。
「じゃあ、数えますよ?」
タキさんはそう言って確認し、いーち、にーい、さーん……と数え始めます。森の動物たちはバラバラに散っていきました。
「……ごーじゅしち、ごーじゅはち、ごーじゅきゅう、ろーくじゅう! もーいいかい」
返事はありません。
「……今から探し始めますよー」
そう叫んでおいて、タキさんは森を歩き始めました。
森の中を歩き始めて気付きましたが、森の中には意外にも沢山のトラップがありました。
ある時は変なところからドングリが飛んできたり。
ある時は突然(タキさんに取っては小さすぎる)落とし穴が開いたり。
「……みんなどこかなぁ」
タキさんが呟いたその時、頭上からドングリが。
しかし、ふさふさの髪の毛のせいか、全く気付かないまま歩き続けています。
その後もしばらく、ぽすり、ぽすりと、いくつかのドングリが落とされて、頭の上に山のように積み上がった後、突然山がバランスを崩してドングリが崩れ、そこでようやくドングリの存在に気付きました。
「⁉︎」
上を見上げると、リスの尻尾がほわほわ動いているのが見えました。
「スーさん、見つけましたよ」
「あちゃー、見つかっちゃったか。次は俺が鬼だな」
「森の中のトラップとかドングリも、全部スーさんの仕業ですか?」
「ちぇーっ、バレたか」
「バレバレですよ」
スーくんとタキさんは森の中を歩いてみんなを探しながら、おしゃべりしていました。
「ところで、スーさんは生まれもここなんですか?」
「いや? 生まれは別の森だ。仲間にイタズラばっかり仕掛けてたら、森から追放されてなー」
軽い口調なのに重たい話を語るスーくん。
なんでこんなことを聞いたんだろう、こんなつもりじゃなかったのに、とタキさんはすぐに後悔しました。
「困ってしばらく歩き回っていたらこの森を見つけたんだ。そんで、逆さまの虹が気になって森に入った。そして森を歩き回ってみたが、動物が見つからない。……っていうのもな、この森には当時、トイしか住んでなかったんだ」
スーくんがそう言った時、ぴくり、と、近くの木の根っこが動きました。よく見ると影になっているだけで、その色は緑色です。
「トイさん、みーつけた」
「見つかっちゃったかー。あ、でもスーくんがいるから2番目かなー?」
トイくんがするするっと出てきました。
「そうだぜ、トイ。よかったな!」
「なにそれー、僕、割と鬼好きなのにー」
そう言って膨れるトイくんは、とても楽しそうでした。