根っこ広場のどんぐりクッキー
森のみんなは、美味しそうな匂いを嗅ぎました。
その匂いを、みんな知っています。
みんなが匂いをたどっていくと、根っこ広場に着きました。そこには今野むぎに化けたコンちゃんが。その手には、クッキーの入ったカゴが。
「どんぐりクッキーを焼きましたよ」
「やったあ!」
わっと歓声が上がる中、
「おーっ! うまそーう!」
食いしん坊のトイくんは早速「いっただっきまーす!」と言い、パクパクとクッキーを食べ始めます。
「と、トイっ! 俺らの分もちゃんと残せよ!」
「やっぱりおいしーい!」
トイくんは全く話を聞いていません。
「ああ、それなら心配しなくても大丈夫ですよ」
慌てるライくんに、コンちゃんは後ろ手に回していた右手をひょい、と前に出しました。
そこにあったのは、クッキーの入ったカゴが、もうひとつ。
「こんなこともあろうかと、2個目のカゴを用意済みです」
「さっすがコン! 俺たちも食べようぜっ」
「そうね! コンちゃんのクッキーは絶品だもの」
スーくんとリコちゃんがそう言って、他の5匹もクッキーを食べ始めました。
「クッキーの歌を歌いたくなるほど美味しいわ」
「おい、そんな歌あんのかよ……まあ、でも上手いのは確かだしなぁ」
「今回は私がいうのもなんですが、いつもよりもいい出来ですよ」
「まちがいねぇな! いつもよりも美味いよ、コン。ま、いつも美味しいけどな」
「もぐもぐ……やっぱり、コンちゃんのクッキーは最高だねぇ」
それぞれがそれぞれの感想を述べ、2つのカゴを空っぽにしたところで、コンちゃんは語り出します。
「そういえば、昨日やってきた人間のことですけれど……」
名前は田沼タキということ。
逆さ虹の森に来た理由は、ドングリ池に行って、自分の故郷でありだんだん小さくなってきている集落を元どおりにしてほしいと願うためだったこと。
ケガは治りつつあるがまだ完治ではないので油断はできないこと。
食欲はあるようなので大丈夫だろうということ。
「……どうしましょう?」
「どうしましょう、って言われても……」
「その願い事が本当かどうかも分かんないしなー」
「た、たしかに……」
目的がドングリ池となると、森のみんなの警戒心が高まります。
だってドングリ池は、願い事を叶える池。
今のところは森のみんなは悪いお願い事をしたことがないので分かりませんが、もし誰かが悪いお願い事をしたら、池はその願いを叶えてしまうかもしれません。
そんなこと、みんなは到底許せません。ええ、お人好しのコンちゃんでさえ。
「……一度、ここに連れてきて願いを言わせるか?」
ライくんの提案に、みんなはなるほどとうなづきます。
「たしかに……。ここならその……田沼さん? その人の願い事が本当かどうか分かりますものね」
リコちゃんはそう言って、ひょい、と空を飛びながら宙返り。
「で、でも……どうやって、つ、連れてくる?」
マイクくんの疑問には、「俺に任せとけ」とスーくんが言いました。
「騙すことを考えるなら得意だぜ?」
「そうだねー。スーくん、頼むよー」
のんびりとトイくんがそう言って、とりあえずお開きとなりました。
「コン」
根っこ広場をでたコンちゃんに、前からスーくんが不意に呼びかけます。
「スーさん、なんですか?」
「その、えっと……田沼タキか。その人間は多分早くドングリ池に行きたくて気が急いてるだろうから、落ち着かせるためになんか言っといてくれよ。例えば、満月の夜じゃないと願いは叶わないとか」
コンちゃんはうなづきました。
たしかに、気が急いて勝手に1人で外に出られたりしたら大変です。ドングリ池を見つけて願いを叶えられてしまうかもしれませんからね。
「分かりましたけど、今日が満月ですからその言い訳は無理ですねぇ……。なら、こうしましょうか。川の水が増える日なんてどうでしょう?」
「そんな日あるのか?」
「ありますよ。ひと月に1回、川の水が増えるんです。次に川の水が増えるのは10日後です」
「丁度いいな。川も池も水が関わってるから、水の神様がやってくる日、なんて言えばいいかもしれない。じゃ、それで頼むよ」
「分かりました」
スーくんはとたとたといなくなってしまいました。
残されたコンちゃんは1人立ち尽くし、俯きました。
「……」
その胸の中には、田沼タキさんを騙すことに対する罪悪感。それと共に、もし田沼タキさんが悪いひとだったらという正義感に近いもの。
相反する2つに胸の中をかき混ぜられたような、ぐちゃぐちゃな気持ちのまま、コンちゃんは立ち尽くしていました。