動物会議
「みんなぁー! 根っこ広場に来てくれよー!」
根っこ広場に着いたトイくんが、思いっきり叫びます。
「大事な話があるんだよっ!」
スーくんも思いっきり叫びます。
「なあに、なあに、大事な話って」
まず最初に来たのは、コマドリのリコちゃん。
今日も声が綺麗です。
「……なんだよぉ、暗いのに突然」
次に来たのは、アライグマのライくん。
突然呼ばれてご機嫌斜め。
「な、な、なあに……?」
最後に来たのがクマのマイクくん。
暗いのが怖いのか、体が震えています。
「とりあえず、コンちゃんが来るまで待とう!」
スーくんが言って、5匹はコンちゃんを待ちました。
「おまたせー、待った?」
コンちゃんが走ってやって来ました。
森のみんなは揃って首を振ります。
「で? なんだよ、話って」
ライくんがぶっきらぼうに問いかけます。
「……何かあったの?」
リコちゃんが綺麗な声で尋ね、それにトイくんが答えました。
「人間がー、この森に迷い込んできたんだー」
そこにスーくんとコンちゃんが補足を入れます。
「し、しかも倒れてたんだぜ!」
「一応今は、私の古小屋で寝かせていますけど……」
しばらくの間。
そして。
「——えーっ⁉︎」
南に住む3匹が、一斉に驚きの声をあげました。
「う、嘘じゃないよね?」
マイクが怖がって尋ねますが、それは南の他の2匹が否定します。
「嘘だったらとっくに根っこが3匹を捕まえてるわよ」
「間違いねえ。ここが大事な話し合いの時に必ずここが使われる理由を考えてみろ」
「そ、そうだね」
マイクはすぐに納得します。
「そんなことより、人間は私たちを狙ってきたんじゃないかしら?」
そのリコちゃんの問いは、北の3匹が全否定します。
「いや、それはないと思いますよ? 何も持ってませんでしたから」
「ボロボロの服を着てー、傷だらけで倒れてたんだー。コンちゃんの言ったようにさー、何も持ってなかったよー?」
「もし俺らを襲うなら、そんな格好は絶対しないだろ?」
その3匹の言葉に、南の3匹も納得しました。
「ならよぉ、何でそいつはこの森にきたんだ? 人間なんてよお、とっとと追い返した方がいいんじゃねえのかよ?」
ライくんの言葉には、何も言えません。そんなこと、北の3匹だって分からないのです。
「……倒れてたしー、何も喋らないしー……」
「ここに来た理由は……私たちにも分かりませんよ」
トイくんとコンちゃんがそう言って首を傾げ、
「……でも、看病ぐらいしたっていいだろ? 怪我したまんまの相手に、なんでこの森にきたかも聞かずに『とっととこの森から失せろ』なんて言えるかよ、ライ? それも気絶するほど疲れた奴に」
とスーくんが言いました。
「うぐっ……流石に……流石に俺も、そんなことは言えねえよ」
言い負かされたライくんは、気まずそうに俯きます。
「……じゃ、じゃあさぁ……その人が元気になるまでは面倒を見て、げ、元気になったら、帰ってもらうのはどうかなぁ……。ちゃ、ちゃんとこの森にきた理由も聞いてさぁ……悪いことじゃなかったら、叶えてあげても、い、いいんじゃないかなぁ……?」
ぶるぶる震える声で、マイクくんが言い、みんなが「さんせーい」と言いました。
「じゃあ、その間は誰が面倒見るのよ?」
リコちゃんの問いには、「私が見ますよ」とコンちゃんが自ら手を挙げました。
「私ならほら、人間に化けられるでしょう? それに、人間がちゃんと過ごせそうな場所って、古小屋くらいしかないと思いますしね」
「たしかになー」
トイくんが同意しましたが、
「待てよ。人間って、『しごと』ってやつがあるんじゃないのか? ずっと森にいたら、怪しまれるぞ」
と、ライくんが言いました。
「それなら、昼間はキツネのコンちゃんでいればいいじゃないか。で、夜は人間の今野むぎ、でいいだろ?」
と、スーくん。
「でもたしか、人間って7日に1回ある『にちようび』って日は『しごと』がお休みよ? 『にちようび』って日には、昼間も人間の今野むぎちゃんが森にいなきゃおかしいわ」
と言ったのは、リコちゃん。
「それなら『にちようび』だけは、昼間も今野むぎでいればいい」
と、またスーくんが言います。
「で、でも……そしたら今度はコンちゃんがいなくて怪しまれるかも……」
と、マイクくん。
「それなら……そうだ、別の森でキツネの集会があることにすればいい。集会があるのがたまたま7日に1回の『にちようび』だった、ってさ。で、朝早くに出かけて、夜遅くに帰ってくることにすればいい」
と、またまたスーくん。いたずら好きあって、誰かを騙すことを考えるのは得意です。
「いいなー、それー! じゃあー、そうしようかー!」
とトイくんが賛成します。他のみんなも「そうしよう!」と言いました。
とりあえず、今後どうしていくかは決まりました。
「なら私、何日後が『にちようび』なのか調べてくるわ」
リコちゃんがそう言って、空を飛んでいこうとします。それを止めたのはライくんでした。
「おいリコ、適当じゃダメなのかよ」
「ダメよ! 人間が森の外に戻った時、もしも間違ってたら怪しまれるわよ!」
「……ああ、たしかにな。なら、できるなら『こよみ』ってやつも合わせた方がいいぜ」
ライくんが納得して忠告を言ったところで、リコちゃんは「分かったわ」と言って再び空を飛んでいきました。
「ぼ、僕は、木の実をたくさん、集めるよ。に、『にちようび』って日にさ、今野むぎちゃんがクッキーを焼いてくれる、なんてことがあったら、き、きっと素敵だよ」
「そうね、マイクさん! そうしましょう!」
コンちゃんに褒められたマイクくんは嬉しそうに笑って、木の実拾いを始めました。
「……なら俺は、洗い物でもするか。おい、コン。洗う必要のあるものがあったら、いつでも言え。俺が完璧に洗ってやる。なんてったって、俺はアライグマだ」
「まあ、頼もしいわね。なら、早速お願いしてもいいかしら?」
ライくんとコンちゃんはそう言い合って、北の森へと戻っていきます。
「じゃあー、僕は果物を集めようかなー」
そう言ってトイくんはまず、近くの梨の木畑に向かいます。
その直後に、
「俺は薬草を集めよっと。あのケガだと、だいぶ薬草がいりそうだもんな」
そう言ってスーは、薬草の生えるドングリ池のほとりへと向かいました。
誰もいなくなった根っこ広場は、しんとしていて、何事もなかったかのようでした。