願い事はドングリと共に
「……そういえば、ドングリは拾いましたか?」
「あっ!」
すっかり忘れていました。
ドングリ池で願いを叶えるためには、ドングリを投げ込まなければなりません。
「幸いなことに、まだ木の実の木の森の中です。探せばドングリはすぐ見つかるでしょう」
それを聞いたタキさんは、ほっと一安心。そしてドングリを探し回り、そして、いくつか拾っていきました。なぜか、コンちゃんもドングリを拾っています。
「集まりました?」
「はい」
「じゃ、ドングリ池に行きましょう。ちゃんと付いてきてくださいね?」
「もちろんですよ!」
2匹は軽やかに森の中を駆けました。木になるものが、木の実から柿に変わっていきます。そして完全に柿だけになり、だんだん近付いてきているのか、少しずつ明るくなってきて、そして……。
「……ここがドングリ池ですよ」
「……!」
そこには、口では言い表せないほどに美しい池がありました。
池の形はドングリの形。なるほど、ドングリ池と呼ばれるわけです。
「さぁ、ドングリを投げ込んで、願い事を唱えてください。そうすれば願いは、きっと叶います」
コンちゃんの言葉に、タキさんは微笑んでうなづきます。
ひゅうっ、ぽちゃり。
「僕たちの住む里が、元に戻りますように」
ひゅうっ、ぽちゃり。
「タヌキとキツネがいがみ合わなくなりますように」
そしてなぜかもう一つ。
ひゅうっ、ぽちゃり。
「逆さ虹の森で暮らせますように」
「……えーっ!」
聞いた瞬間、コンちゃんはびっくり仰天。
そんな話、一度もしていません。
「ど、どうして突然?」
「……ここでずっと過ごしていたら、ここが好きになってしまいました」
タキさんはにっこり笑います。
そして、不意にコンちゃんの耳に口を近付けて。
「それに、僕もある意味仲間はずれなんですよ。……リコさんに似ているのでしょうか、太鼓が好きでしてね、ずっと鳴らしてると怒られるんです。そろそろ家出しようかなんて考えてたんですよ」
驚いてコンちゃんがタキさんを見ると、タキさんはいたずらっ子ぽく笑っていました。
それを見て、思わずコンちゃんも笑います。
「……それじゃあ、私もお願い事をしましょうか」
コンちゃんがそう言うのを聞いて、今度はタキさんが驚きます。
「何をお願いするのですか?」
「すぐに分かりますよ」
ひゅうっ、ぽちゃり。
「いつまでもこの森のみんなが幸せでいられますように」
「……素敵な願いですね」
タキさんがしんみりとして、コンちゃんが満面の笑みを浮かべます。そして不意に、コンちゃんがこそこそっとタキさんに耳打ちをして、
「もちろん、『みんな』の中にはタキさんも入っていますよ? だってこの池に願ったなら、叶わないことはありませんもの。それに、北の森で楽しそうにしていたタキさんは、昔からここに住んでいるかのようでしたよ。タキさんはもうとっくに、この森の仲間だったんです」
その言葉に驚き、タキさんがあまりにも嬉しくて泣きそうになった、その時。
ひゅうっ、ぽちゃり。
「?」
「あれ?」
「コンちゃんが幸せでありますように!」
声がした方を振り返ると、そこには他の森のみんながいました。
「どうしたんです、みなさん。そんなに急に」
コンちゃんがキョトンとしてそう言った瞬間、みんなが口々に語り出したのは、みんなが根っこ広場で考えていたことでした。
それを聞いたコンちゃんはさらにキョトン。
そして。
「ふふ、気にしなくていいんですよ。私はみんなに幸せをもらっています。だから私はそれを返すだけです」
それに、とコンちゃんは続けます。
「みんなが私の幸せを願ってくれた、それだけで充分、幸せです」
その優しい微笑みに、嘘はありませんでした。




