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逆さ虹の森の来訪者

「大変だー! 大変だー!」


 ある日の夕方、ヘビのトイくんが叫ぶ声を聞いて、キツネのコンちゃんが栗の木畑を飛び出しました。

 この方向からして、きっとトイくんは北の広場にいるのでしょう。そのことをコンちゃんは確信していました。


「トイさん、一体どうしたんです?」


 そう言いながら広場に駆け込んできたコンちゃんは、その光景に驚いて立ち止まりました。

 そこに、銀杏畑からやってきたリスのスーくんもやって来て、


「おいおい、トイ、どうしたんだよっ⁉︎」


 と叫び、コンちゃんと同じように、びっくりして動けなくなりました。


「コンちゃーん、スーくーん、助けてくれよー」


「お、おい、トイ……」


「……それ……人間、ですよね?」


 そう。広場に、男の人がいたのです。

 しかも……。


「へ、変なこと考えてないよねー? 言っとくけどー、僕ー、何にもしてないよー。この人がー、ここで倒れてたんだー!」


「えーっ⁉︎」


 そう。倒れていたのです。


 その人の身につけている服はボロボロ。顔も腕も足も傷だらけ。しかも、何も持っていません。

 これには3匹とも、どうしたらいいか分かりません。


「……とりあえずは、私の家の隣の小屋に運ぶのはどうでしょう? あそこなら一応、布団も用意できますよ」


 コンちゃんの提案に、2匹が「そうだな」「さんせーい」と言うと、コンちゃんがくるりと宙返りをします。

 すると、あらあら不思議。コンちゃんが大きくなりました。これなら背中に男の人を乗せられます。


 コンちゃんは背中に男の人をおぶって、「南の根っこ広場で、6匹で話し合いましょう。先に行って、3匹を根っこ広場に集めてください」と2匹にお願いし、返事も聞かずに栗の木畑を駆けました。返事を聞かなくても、きっと2匹がそうしてくれるのは分かっています。


 走って走って、沢山走って家に着くと、人間に変身して家の隣にある小屋に男の人を運び、小屋の中のベッドに男の人を寝かせました。この小屋は作られた目的のひとつに人間を泊めることもありましたから、一通りの家具が揃っているのです。

 そのあとは元の姿に戻り、家から梨をひとつと薬草を沢山取ってきました。


 梨は男の人が起きた時のため、枕元に置いておきます。きっと男の人は、喉もカラカラ、お腹もペコペコなはずです。梨は水分たっぷりで美味しいので、ひとまずはこれでいいでしょう。

 薬草は怪我をしているところに巻いてあげました。これで少しは良くなるはずです。

 あとは蝋燭をつけて、テーブルの上に置きました。外はもう暗いので、蝋燭ひとつでも大分明るくなります。

 最後に、置き手紙を書きました。


『なるべくすぐに戻ります。

 枕元の梨はご自由にお食べください。

 怪我がひどいので、まだ外は歩き回らないでください。外は暗くなって危ないです。

 薬草を巻いてありますから、勝手に葉っぱを取らないでください。

 今野(こんの)むぎ』


 今野むぎって? と思われたかもしれませんね。

 これは、コンちゃんが人間に化けている時に使う名前です。

 今野という名字は本名であるコンから、むぎという名前は小麦色の毛の色からです。コンちゃんの毛はフサフサで、とても綺麗なのです。


 コンちゃんは静かに古小屋を出て、そして急いで走っていきました。オンボロ橋だけは静かにそっと渡り、渡り終えたあと、すぐに根っこ広場に向かって、まっしぐらに走ったのでした。

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