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コンちゃんはどうしてお人好し?

「どうしてコンさんは……そんなに優しいんですか? 僕は、タヌキなのに。ずっと……コンさんたちを、騙していたのに……」


 タキさんの目からは、ポロポロ涙がこぼれています。


「どうして泣くんです? タキさん。もしかしたらですけれど、他の森からここまで来るのに、タヌキのままだと危ないから、人間に化けていたのではないですか?」


 タキさんは泣きながら、その通りだとうなづきました。


「なら、自分の身を守るためだったのに、どうしてタキさんを責めることが出来るでしょう? さあ、顔を上げてください、タキさん」


 コンちゃんは訳が分からなくて、タキさんを精一杯慰めます。そんなコンちゃんに、ふと、タキさんは尋ねます。


「……僕のことを、コンさんは憎んでいないのですか? 僕は……タヌキですよ?」


 しかし、コンちゃんは目を丸くして、


「どうしてこんなに心優しい方のことを憎まなければならないんです? 自分の身のために仕方なく人間に化けていたというだけで、この森の皆を騙していると思って罪悪感に苛まれてしまうほど優しい方なのに」


 と、心底不思議そうに言いました。

 さて、それを聞いて驚いたのはタキさんです。


「……コンさん、あなたは知らないのですか? 昔、キツネとタヌキはいがみ合っていたという話を」


「? いいえ? それに、もし過去にいがみ合っていたとしても、今は仲良くすればいいだけですよ」


 コンちゃんの答えに、タキさんはさらにびっくり。


「その通りなのですけれど……過去にいがみ合っていた過去をずっと、親に祖父母に、周りの大人に言われて育つと、どうしてもキツネ嫌いに育ってしまい……だからあなたに一番最初に会った時、思わず避けてしまったのです。すみません。今ではもう、慣れましたけど……」


 申し訳なさそうに語るタキさんに、コンちゃんは目を伏せます。


「そうでしたか……私には、親がいないものですから、その話を聞かずに育ったのでしょう」


「え」


「両親は私が生まれてすぐに流行病で死んだそうです。祖父母に引き取られましたが、祖父母も寿命ですぐに亡くなり、私は死を呼ぶ忌子だと言われました。本当はそんなことはなかったのですけれどね……。そのせいで、誰も私を仲間に入れてくれませんでした。石をぶつけられて育ちました。そしてある朝、気付いたら、この森にいました」


「ということは……」


 タキさんの問いに、コンちゃんはうなづきます。


「ええ。私はキツネの集落から捨てられたのです。それで私は決めました。私は誰にでも優しくなろう、どんな人にも親切にしよう、と……」


 タキさんはようやく気付きました。どうしてこんなにもコンちゃんが、外部からきた自分を助けてくれるのかを。

 コンちゃんは、昔されて苦しかったことを、誰にもしたくないのです。誰も苦しませたくないし、みんなに幸せでいてほしい。それこそ、自分が不幸になったとしても……。

 また、その辛い過去のおかげと言ってはいけないのかもしれませんが、コンちゃんは、キツネには嫌われているはずのタヌキである自分を嫌わずにいてくれる、そのことがこんなに嬉しいことに、初めてタキさんは気付きました。

 胸が苦しくなるやら、口の中が苦く感じるやら、心が温まってくるやら、熱いものが込み上げてくるやらで、タキさんの心の中はぐしゃぐしゃです。


 それに気付かないコンちゃんは、不意に苦笑いをして、こう続けました。


「それでも幼い頃のことがトラウマなのでしょうね、どんなに信用している相手でも、頭のどこかで『完全に信じちゃいけない』と思ってしまうのです。他にもいたずらを仕掛けられると……どうしても昔を思い出して、仕掛けてきた相手としばらく話す気になれない時もあります。そんなことはしたくないので、頑張って我慢するんですけどね」


 はは、とコンちゃんは笑いますが、その目は悲しそうでした。

 コンちゃんは心の中に沢山の傷を抱えながら、嫌な気持ちになっても全て抑えながら、相手を傷つけないように行動していたのです。相手を傷つけたくないがために。

 そのことを知ってしまっては、タキさんはもう我慢が出来ません。一番泣きたいのはコンちゃんのはずなのに、タキさんが泣き出してしまいました。


「コンさん……もしかしたら、キツネの集会に行っても、ひとりぼっちなんじゃ……」


 コンちゃんはひょい、と根っこ広場から飛び出しました。


「ええ。でも、お陰でタキさんと仲良くなれました」


 もし長い間過去の話を聞かされていたら、私もタヌキ嫌いになっていたかもしれませんからね、とコンちゃんは嘘をつきました。


 そう。『にちようび』の集会なんて嘘なのです。嘘についてのことを語ろうとしたら、どうしても嘘を重ねなければならなくなります。そんなことを根っこ広場で話したら、たちまち根っこに捕まるでしょう。なのでコンちゃんは広場の外に出たのでした。

 しかし、タキさんはその意図には気付きません。


 タキさんはガシガシと目をこすって、涙を拭います。そして、根っこ広場の真ん中で言いました。


「僕の願い事は、僕の里が元に戻ることです。そして今、新しい願い事ができました。それは、タヌキとキツネのいがみ合いがなくなることです」


 願いを叶えるための(コンちゃんのついた)手順のひとつ(嘘のひとつ)である、「根っこ広場でドングリ池で叶えたい願い事を言う」を無事にタキさんは終えました。

 コンちゃんはそっと辺りを見回します。隠れているみんなは(この願いならむしろ早く叶えてあげたい)というかのようにうなづきました。


「さあ、タキさん。次に行きましょう」


 何事もなかったかのようなコンちゃんの笑顔。

 タキさんはうなづいて根っこ広場を駆け出します。

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