嘘つきタキさん
「ひとつ目の決まりです。ドングリ池に行く前に、根っこ広場で願い事を言うこと」
わざとらしくツンとして、コンちゃんは言いました。
「どうしてです?」
「そうすれば、ますます願い事が叶いやすくなると言われているのですよ」
——嘘でした。
本当は嘘なんてつきたくありませんが、もしもこの人が悪い人だったら、という思いが、コンちゃんの頭にちらつきます。
いくらお人好しのコンちゃんでも、疑う心は持っています。頑張って隠していますが、他の人よりも、人一倍強い警戒心を持っているのです。
もしこの人が悪い人なら、よくない願い事を持っているなら、願いを叶えさせるわけにはいきません。
なので、どうしても事前に本当の願いを知りたくて、こんな手段を取ったのでした。
もしその内容が、叶えても大丈夫そうならそのままドングリ池に行きます。もしダメそうなら一度家に帰り、可哀想ですが夜になったら眠ったタキさんを森の外に置いていこうという風に、話し合いで決まっていました。嘘をついているかどうかは、根っこ広場が教えてくれます。
根っこ広場のあちこちには、動物のみんなが隠れています。
木の上にリコちゃんとスーくんが。根っこに紛れてトイくんが。木の陰にはマイクくんが。そして木のうろの中にライくんが。
でも、そんなことなど知らないタキさんは、それを信じ込んでいます。
「おや、そうなんですね。それなら早く行きましょう」
「そうですね。根っこ広場はこちらですよ」
根っこ広場に着きました。
しかし、コンちゃんは根っこ広場に入りません。
「さっきは言い忘れましたが、根っこ広場にはひとりきりで入らなきゃいけないんです。その方が、願いが叶いやすいそうですよ」
「そうなんですか? 分かりました」
タキさんはうなづいて、ひとりきりで根っこ広場の中に入りました。
しかし……。
「……う、う、うわぁ! ね、根っこが絡みついてくる……!」
タキさんが何も言わないうちから、なぜかタキさんに根っこが絡みつき始めたのです!
何も言っていないのに嘘つきというのは、どういうことなのでしょう?
「た、タキさんっ! 言い忘れていましたが、ここは根っこ広場、嘘をつくと根っこに捕まる広場なんですっ!」
こうなっては仕方がありません。コンちゃんがタキさんのそばに近寄り、叫びました。
「……分かりました! 分かりましたから、根っこさん、離してください! 離してもらわないと、本当のことが言えません!」
タキさんが泣きそうな声で叫びました。
その言葉は本当だったのでしょう。根っこがスルスルとタキさんから離れていきます。
「……タキさん、離してもらわないと本当のことが言えないって……?」
コンちゃんは不思議そうに尋ねました。
「……ええいっ!」
タキさんは何が怖いのか、ブルブル震えていましたが、声を振り絞って叫び、くるりと宙返りをします。
——そこにいたのは、タヌキでした。
「ぼ、僕は、タヌキなんです。僕の住んでいる森が、最近小さくなってて、食べ物もなくて。だからここに来たんです。森を元どおりにしてくださいってお願いする為に」
タヌキのタキさんは、震えながら俯き、言いました。その言葉に偽りはないのか、根っこはびくともしません。
そんなタキさんを見たコンちゃんは、こてりと首を傾げ、その次の瞬間には、「ふふふ、」と笑っていました。
今度はタキさんが驚いて、顔を上げます。
「あら、タキさんってタヌキだったんですね! いいですねえ、そのふさふさな尻尾。私の尻尾も、私がいうのもなんですが、なかなかの自慢だと思ってたんですけどねぇ……タキさんの尻尾には敵わなそうです」
楽しそうに笑うコンちゃん。その言葉に偽りはないらしく、根っこはびくともしません。
そのことが信じられなくて、タキさんはぽつりと呟きます。
「……どうして?」
「えっ?」




