今野むぎと田沼タキ
数日が経ち、今日は、コンちゃんが一日中今野むぎに化ける日です。
今は午前中のお茶の時間。
タキさんと今野むぎが、古小屋で話していました。今野むぎが焼いた木の実のクッキーや果物を切って皿に盛ったのを食べながら、春に溜め込んだタンポポの根っこを乾燥させたもので作ったコーヒーを飲みながら。
「今野むぎさん」
「あら、ずっとむぎでいいって言ってるのに。なあに?」
「……むぎさんは、どうしてこの森に住んでいるんですか?」
数日前にコンちゃん以外の人の過去を聞いたタキさんは、今野むぎの過去も聞いてみたいと思っていました。
しかし。
「……あんまり昔のことは思い出したくないの」
悲しそうに言う今野むぎの声を聞き、タキさんはコンちゃんから聞いたライくんの話を思い出しました。
過去のことを話したくないがために、いやいや話すときでも嘘をつくライくん。
今野むぎもまた同じなのだろうと思い、タキさんはすぐに「……なら大丈夫です、すみません」と謝ります。
本当は今野むぎなんていう人間が存在しないがために、コンちゃんがそのような嘘をついただけなのですが。
そのことが、コンちゃんにとっては心苦しくてなりませんでした。
お茶請けのための果物がやけに多いのは、きっとそのせいでしょう。
「ねえ、タキさん」
「なんですか?」
今野むぎは何かを言いかけて、そして。
「……どうです、私の自慢の果物は?」
そう言って明るく笑いました。何かを誤魔化すように。
「美味しいです、とっても」
タキさんはちょっと不思議に思いましたが、きっと過去のことを思い出して嫌な気分になったのだろうと思い、スルーすることにしました。
「ふふ。実はね、トイくんが美味しい果物の見分け方を教えてくれたの」
「確かにトイさんはたくさん食べますしね、見分け方を一番分かっているのかもしれませんね。……ところで、今日はコンさんがここに来ませんね。いつもなら、毎日ここに来てくださるのに」
「あ、それはね。7日に一度のキツネの集会に行っているからよ? 帰りも遅くなるから、多分今日は会えないわね」
——本当は、目の前にいるんですけどね。
コンちゃんはその言葉を言いたくて言いたくてたまりません。しかも、目の前で「今日はお会いできないなんて。残念ですね……」なんて、しょんぼりしながら言われたら。
口を開きかけて、すぐに閉じて。
コンちゃんはその言葉を必死に我慢します。
その代わりに、
「……コーヒーの方は、どう? 口に合うといいんだけど」
「美味しいですよ。でも一つだけ言っていいならば、僕はもう少し薄い方が好みですね」
「あら、じゃあ次はそうするわ」
そんな風にくだらない話を語り合って。
「むーぎちゃん、木の実のクッキーあるー?」
「あら、トイくん。あるわよ。食べる?」
「食べるーっ! ……あっ! いっそのこと、北の広場でみんなとお茶にしようよー」
「いいわね! みんなを呼んできてよ、私がお茶とお茶請けを用意していくから」
「おっけーい」
ひょんなことから森のみんなでお茶会が始まりました。もちろん、その場にいる全員が、楽しいひと時を過ごしましたよ。




