表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/22

今野むぎと田沼タキ

 数日が経ち、今日は、コンちゃんが一日中今野むぎに化ける日です。

 今は午前中のお茶の時間。

 タキさんと今野むぎ(コンちゃん)が、古小屋で話していました。今野むぎが焼いた木の実のクッキーや果物を切って皿に盛ったのを食べながら、春に溜め込んだタンポポの根っこを乾燥させたもので作ったコーヒーを飲みながら。


「今野むぎさん」


「あら、ずっとむぎでいいって言ってるのに。なあに?」


「……むぎさんは、どうしてこの森に住んでいるんですか?」


 数日前にコンちゃん以外の人の過去を聞いたタキさんは、今野むぎの過去も聞いてみたいと思っていました。

 しかし。


「……あんまり昔のことは思い出したくないの」


 悲しそうに言う今野むぎの声を聞き、タキさんはコンちゃんから聞いたライくんの話を思い出しました。

 過去のことを話したくないがために、いやいや話すときでも嘘をつくライくん。

 今野むぎもまた同じなのだろうと思い、タキさんはすぐに「……なら大丈夫です、すみません」と謝ります。

 本当は今野むぎなんていう人間が存在しないがために、コンちゃんがそのような嘘をついただけなのですが。

 そのことが、コンちゃんにとっては心苦しくてなりませんでした。

 お茶請けのための果物がやけに多いのは、きっとそのせいでしょう。


「ねえ、タキさん」


「なんですか?」


 今野むぎは何かを言いかけて、そして。


「……どうです、私の自慢の果物は?」


 そう言って明るく笑いました。何かを誤魔化すように。


「美味しいです、とっても」


 タキさんはちょっと不思議に思いましたが、きっと過去のことを思い出して嫌な気分になったのだろうと思い、スルーすることにしました。


「ふふ。実はね、トイくんが美味しい果物の見分け方を教えてくれたの」


「確かにトイさんはたくさん食べますしね、見分け方を一番分かっているのかもしれませんね。……ところで、今日はコンさんがここに来ませんね。いつもなら、毎日ここに来てくださるのに」


「あ、それはね。7日に一度のキツネの集会に行っているからよ? 帰りも遅くなるから、多分今日は会えないわね」


 ——本当は、目の前にいるんですけどね。


 コンちゃんはその言葉を言いたくて言いたくてたまりません。しかも、目の前で「今日はお会いできないなんて。残念ですね……」なんて、しょんぼりしながら言われたら。

 口を開きかけて、すぐに閉じて。

 コンちゃんはその言葉を必死に我慢します。

 その代わりに、


「……コーヒーの方は、どう? 口に合うといいんだけど」


「美味しいですよ。でも一つだけ言っていいならば、僕はもう少し薄い方が好みですね」


「あら、じゃあ次はそうするわ」


 そんな風にくだらない話を語り合って。


「むーぎちゃん、木の実のクッキーあるー?」


「あら、トイくん。あるわよ。食べる?」


「食べるーっ! ……あっ! いっそのこと、北の広場でみんなとお茶にしようよー」


「いいわね! みんなを呼んできてよ、私がお茶とお茶請けを用意していくから」


「おっけーい」


 ひょんなことから森のみんなでお茶会が始まりました。もちろん、その場にいる全員が、楽しいひと時を過ごしましたよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ