073.剣術大会本戦
お昼休み、当然ながら剣術大会のことが話題になる。
「ルシアン、あれは皇都での剣術なのか?」
ジェラルドの質問に、「いえ、私のは古武術ですので、燕国の剣術です」と答える。
「燕国の古武術? 何処でそれを?」
「皇都留学中に、燕国から来ていた留学生から教えてもらいました」
そんな簡単に身に付くのか? 古武術って……?
「古武術は私のように体格に恵まれない者に向いている武術ですから、助かります」
ジェラルドに比べればね、ルシアンは細いです。
この国、というか大抵の国の剣術は、刃の無い剣を力で振るい、相手を叩き伏せるものだから、体格が物を言う。
その点、古武術は体格に恵まれない燕国の人が編み出したものなので、筋力のない人でも使える。
翌日のジェラルドとフィオニア様の試合は見に行けなかった。休んでいたのもあって、課題の提出が済んでない奴があったからだ。
ジェラルドは婚約者のロザリー様が見に来るって言うし、フィオニア様はファンのみなさんがいるから大丈夫でしょう。
ちなみに婚約者がまだ決まっていないフィオニア様は、我が国の令嬢の最後の希望と言われている。
本戦に出場するのは四十人弱。
剣術が全く駄目な人は大体予選で落ちている。
今日の試合で八人まで絞られるというから、結構凄い。
間を一日明けて、最終戦。
ルシアン、王子、ジェラルド、フィオニア様は全員本戦に出場です。
みんな今日は午前と午後で二試合ずつ出場する。
ここでこの四人がぶつからないといいなぁ。
せっかくなら最終戦に進んでいただきたい!
朝から観戦しているけど、さすが三年生ともなると、身体も出来て来ているし、六年間の集大成というのもあって、なかなか見応えのある試合が繰り広げられていく。
騎士団に入ろうという人が多く本戦に残ってるから、みんな体格いい。
そんな中、王子とルシアンとフィオニア様は異質。
ジェラルドはガッチガチではないけど、筋肉あるしね。
さて、次はジェラルドの試合です。予選は見れなかったので、楽しみ!
剣を持つジェラルドは、確かにカッコいい。未来の騎士団長と言われているからね。
是非勝ち残って優勝していただきたいです!
「ジェラルド様ーっ!」
少し離れた席で声援を送る令嬢がいる。
スミレ色した髪をツインテールにしてる。後ろ姿しか見えないので、どんなお顔かは分からないけど、もしかしてジェラルドの婚約者のロザリー様かしら?
ジェラルドがその令嬢の方を見て相好を崩したので、間違いない! ロザリー様だ!
あんなデレデレしてて試合大丈夫だろうか?
「始め!」
ジェラルドも相手の選手も剣を構えたまま同時に駆け寄り、剣と剣が激しい音をさせてぶつかる。
激しい鍔迫り合いの末、押し切ったのはジェラルドだった。
弾き飛ばされた相手が体勢を整えようとする間も与えず、ジェラルドは次の一撃を叩き込み、相手はその力を捌けずに片膝を突いた。
「勝者、ジェラルド!」
わーっ! という歓声に混じって、ロザリー様と思われる令嬢の、ジェラルド様ステキー! という叫びが。
……うん、ラブラブで何よりです。なんかちょっと生温かい気持ちになった。
ジェラルドの何試合か後に王子の試合になった。
王子は筋力は多くない感じだけど、動体視力が凄い良いみたいで、相手の攻撃を上手く避け、スキを突いて攻撃していくスタイルだった。
これがまた、上手いこと相手の動きを誘発すると言うのか。ミスを誘うんだよね。
フィオニア様は不思議な戦い方と言うか……。
相手選手の剣と剣が切り結んだと思うと、相手の剣が軽く弾かれる。
剣と剣がぶつかった次の瞬間、くるりとフィオニア様の剣が回転して相手の剣が弾かれ、喉元にフィオニア様の剣が突きつけられてて、相手が降参する。
さすがアルトファミリー。やはり暗殺集団だったか……。
ルシアンの古武術の戦いも不思議で、気が付くと終わっていた。
今回の試合も、相手の剣とルシアンの剣がぶつかる! と思ったらルシアンの剣は相手の剣をすいっとよけて、相手の手を叩き、その衝撃で相手選手が剣を落とし、ルシアンが相手の喉元に剣を……となって終わったのだ。
フィオニア様とルシアンの戦いは似てる、けど違う。
二人のは前世で言うところの日本の剣術っぽいのだと思われる。二人とも皇都にいた時に教えてもらったのかなー。
四人とも、本戦の2試合を順調に勝ち進んだ。
「フィオニア様ってお強いのね」
セラにそう言うと、そうね、と頷いた。
「アレが本気で戦ってるのは見たこと無いけど、強いと思うわよ」
え、そうなの?
っていうか、相手にならなすぎて試合がすぐ終わってしまって、フィオニア様はお強いんだろうなーぐらいの印象で終わってるんだけど。
「ルシアンとどちらが強いのかしら? やっぱり主人に勝ちを譲ったりするの?」
「そんな可愛い性格じゃないわよ。ルシアン様もお強いから、どちらが勝つのかしらね」
もはや殿下とジェラルドは決勝戦に進めない前提で話している失礼な私とセラだった。
モニカ、ごめん。
間に一日置いての、最終日。
八人に絞られた選手。王子とジェラルドが初戦でぶつかる。
その勝者がフィオニア様と当たる。
ルシアン側は騎士団副団長の令息といった、厳つい系と対戦するようだ。
うぅ……大丈夫だとは分かってるんだけど、勝負事は時の運だったりもするし、落ち着かない。
初戦はルシアンと、騎士団副団長のご令息。
うわぁ、すっごい身体! 腕とか太い!
ルシアンと並ぶと、倍はあろうかという体躯。
だ、大丈夫なのかな……。
ハラハラしている私にモニカがにっこり微笑み、私の手に自分の手を重ねて言った。
「エイドリアン様はお強いですわよ。ジェラルド様がいなければ優勝最有力と下馬評では言われておりましたもの。
ただ、フィオニア様とルシアン様の戦い方を見て、誰が優勝するのか分からない、と言われております。
私の予想ではルシアン様ですが」
「モニカ、そこは殿下と言うべきでは……」
「願望と事実は異なりますわ、ミチル」
リアリスト!
リアリストすぎる!
そこはもうちょっと、未来の夫を尊重してあげて欲しい!
エイドリアン様は完全な? パワー戦で、一撃で相手の剣を叩き折るという荒業をして、勝って来ているらしい。
これまでも相手の剣粉砕しまくってたらしい。うーん、これは切り結んだら終わりっぽいなぁ。
相変わらず落ち着いた様子で剣を持つルシアンに、剣を構えてルシアンを睨みつけるエイドリアン様。
うっ、緊張する……!
「始め!」
エイドリアン様はルシアンとの間合いを詰めては来たものの、すぐには打ち合って来ない。
これまでの試合を観ていると、相手が仕掛けた瞬間、ルシアンが反撃をして相手がカウンター受けて終わる、というパターンが続いているからだろう。
と、その時、ルシアンはぐっとエイドリアン様の懐に踏み込んで喉元に剣を突き付け、顎に剣先が触れた。
「勝者、ルシアン!」
わーっ! という歓声と共に、ルシアンは体勢を戻すと、闘技場を後にした。
エイドリアン様はぽかんとした顔をしていたけど、かぶりを振って、苦笑した。
うわぁっ!
うわあああぁっ!
ルシアンがかっこよすぎる!
あれ、戦場だったら間違いなく相手、死んでるよね?!
きゃーっ! ルシアン様カッコいいーっ!
心の中で叫ぶ私だった。
第三試合は王子とジェラルド。
友情対決ですよー!
これは私、王子を応援しますよ!
王子頑張ってー!!
「ジェラルド様ーっ! 頑張って下さいませー!」
今日も今日とてスミレ色ツインテールのロザリー様は、精一杯ジェラルドを応援してる。
青春! 青春してる!!
え、なんかいいな、青春!
私も次のルシアンの試合の時、声をかけてみようかな!
モニカは、真剣な顔で王子を見つめてる。
負ける可能性が高いとしても、それでも応援したい、そんなモニカの気持ちが顔に出ていた。
その横顔はとてもキレイで、私は思わず息を呑んだ。
「始め!」
試合開始の掛け声が上がり、私は闘技場に顔を向けた。
二人は剣を構え、駆け寄り、一瞬剣がぶつかったかと思ったら、王子がすぐに剣を離して背後に引いた。
構え直されたジェラルドの剣がぶん! と音を立てて、王子の前の虚空をかすめる。
ジェラルドの剣の振りは早い。
あの体格で、すぐに次の攻撃が繰り出されるのは怖いものがある。
間合いを取ってジリ、と横に動く王子に合わせるように、ジェラルドも横に動く。
睨み合いが続いたかと思うと、ジェラルドが先に動いた。逃げるかと思われた王子がジェラルドに向かって行ったのは、ジェラルドにとって予想外だったらしく、ジェラルドが今度はバッ、と後ろに引き、そこを突いて王子が剣を突き出し、ジェラルドがその剣を打ち払った。
王子の剣が宙を舞い、王子は両手を軽く上げて降参のポーズをした。
「勝者、ジェラルド!」
歓声が闘技場内に広まる中、モニカは観客席の最前列まで駆けて行った。
モニカに気付いたらしい王子がモニカに寄り、手を伸ばす。同じように伸ばしたモニカの手と触れ合う。
その姿に、胸が熱くなった。
王子は負けたけど、でも、そんなのどうでも良い感じだった。二人を見ていたら、そんな気持ちになる。
今日の主役、この二人なんじゃ?!
ジェラルドが王子を迎えに来て、二人は闘技場を後にした。
席に戻って来たモニカの目はちょっと潤んでた。
可愛いわぁ!
第四戦はフィオニア様。
どんな試合になるのかなー。
フィオニア様も淡々としたもので、予選と同じように対戦相手の剣を弾き飛ばして終わった。
まだ本気出さないってことだろうか?
お昼休憩を挟み、準決勝が始まる。
ルシアンはまたしてもエイドリアン様と同じパワー系っぽい人が対戦する。
美男と野獣的な。
エイドリアン様が大丈夫だったので、今回も大丈夫だろうとは思うけど、私の緊張状態は続く。
声を出して応援したいのに、声が出ない。
私は緊張すると声が出ないタイプらしい。
「始め!」
突っ込んでも待っても駄目、というのが前回のエイドリアン様との試合で分かってるからか、今回の対戦相手は自分のスタイルを貫くことにしたのか、気合いを入れるように剣を上段に構えた。
八相の構えとかいう感じ。よく知らないけど。
相手を見ていたルシアンは、片手でもっていた剣を両手で持ち、剣先を下に向けた。
やだ、何してもカッコいい、あのイケメン。
どきどきする!
あれか、吊り橋効果か! 惚れちゃう奴!
二人共同時に動き、間合いを詰める。
あと二歩程で剣の射程に入る! という所でルシアンが片足だけ前に踏み込むようにして屈み、ルシアンは剣の持ち手部分だけを頭の位置程まで上げた。剣先は下を向いたまま。
相手の剣がルシアンの肩目掛けて振り下ろされる。
そこからルシアンは立ち上がり、下を向いてた剣先がシーソーのように上を向いて相手の剣とぶつかり、弾かれた。
相手選手の目は大きく見開かれ、口元だけは笑っていた。多分、剣を振り下ろした瞬間、勝利を確信し、口元に笑みを浮かべたのだと思う。
でも、剣が弾かれたことに目だけが反応した、そんな、アンバランスな表情だった。
一歩後ろに下がった相手は、呆然とルシアンを見つめる。
「勝者、ルシアン!」
わぁぁぁぁ!! という歓声が闘技場内に沸き起こる。
ルシアンは立ち上がると、いつも通りに闘技場を出て行った。
クール!
クール過ぎる!
観てるだけなのに、心臓が痛いぐらいドキドキいって、顔が熱い。
「惚れ直した、みたいな顔をなさってますわね、ミチル」
モニカのツッコミに、恥ずかしくて思わず顔を両手で隠す。
にやにやしているモニカ。
もー! モニカは!!
「可愛いお顔をお見せになって!」
「嫌です!」




