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転生を希望します!  作者: 黛ちまた
学園編

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魔王と聖女

セラ視点です。

 ワタシは貴族が嫌い。

 そう言いながら自分も貴族の出身で、嫌いだからと言って平民になる事を望んでる訳ではない。

 好きだ嫌いだで生きていける程易しい世界では無い事は分かっていた。

 そんなワタシの胸の内を理解してくれたのは、アルト一門を束ねる宗主、リオン・アルト様──大旦那様だけだった。

 大旦那様はワタシの好きなように生きて良いとおっしゃって下さった。

 だからワタシは、跡を継ぎたくないと我儘を言った。

 父は激怒したけど、宗主である大旦那様が認めた事を、父が拒否する事は出来ない。

 代わりに弟が嫡子として立った。弟は自分が嫡子になった事を、喜んでいた。


「お前が羨ましいよ、セラ」


 そう言ってラトリア様は悲しそうに微笑んだ。


 アルト家長男として生まれたけど、この方のご気性は優しすぎる。

 しかも、アルト家の歴代の中でも群を抜いて優れていると言われるリオン様の跡を継ぐ事の重圧は並ではない筈。

 貴族らしからぬ優しさを持つラトリア様がワタシは好きだった。

 いつか、この方を支えて生きていくのだと思っていたのに、ワタシは逃げ出してしまった。

 それだけは、本当に申し訳ないと思っている。いつか、別の形でお詫びを出来たらと、それだけが心残りだった。




 ある時、転機がラトリア様に訪れた。


 皇都に留学していたラトリア様の弟君、ルシアン様がカーライル王国に戻られてしばらく経った頃だったと思う。


 ルシアン様の婚約者、アレクサンドリア伯爵家の令嬢、ミチル・レイ・アレクサンドリア様が、転生者である事が発覚した。

 転生者に関する事は国が決める。その事を知ったルシアン様は突然、アルト家を継ぎたいと言い出した。

 普通なら、何を馬鹿な事をと反対される内容なのだが、これが全てのピースが上手くハマるきっかけになる。


 ラトリア様を次期アルト家当主に相応しくないと、仕える事を拒否していた弟は、ルシアン様に恭順の意を示した。

 弟が嫡子になる事を喜んだ理由は、ここにあった。

 ラトリア様ではなく、ルシアン様にお仕えしたかった弟は、私が嫡子として家を継ぎ、ラトリア様に仕えるだろう事を許せなかったのだ。

 だから、己が嫡子になり、ルシアン様を主人と仰いだ。


 アルト一門の宗主は、仕える三つの一族の総意を受けて選ばれる。

 他の家は、ラトリア様でも、ルシアン様でも、どちらが宗主になってもお仕えすると意思表明をした。

 でも、ワタシの一族は、嫡子となった弟がラトリア様を拒否した。


 リオン様は、ラトリア様がアルト家を仕切るには優しすぎると思っていたようで、ルシアン様に跡を継がせたかったようだ。

 結果、アルト家の次期当主はルシアン様に決まった。

 当のラトリア様も、多分、誰よりも喜んでいたと思う。


 全てが上手くまとまろうとしていたけど、ワタシは気になることがあった。

 そうまでしてルシアン様が固執する、ミチル様の事。


 遠巻きにミチル嬢を観察する。

 その可憐な見た目がルシアン様を虜にしたのだろうか?

 確かに美しいけど、それだけであのルシアン様がここまで執着されるとは思えなかった。

 転生者だから?

 聞けば転生者である事が分かったのは婚約後で、リオン様すらミチル様が転生者である事を見抜くのに時間を要したと言うから、何だか面白かった。

 世の中の全てを見知っているかのように見えるリオン様を、ちょいちょい出し抜いていると言うミチル様に興味が湧いた。


 皇女対策として、焦るようにして婚姻関係を結んだ二人を、他の貴族達は生温かく見守っていた。

 アルト家は代々恋愛結婚をする家だったから、余計にそう思われた訳だが、アルト家がそんなお花畑な家の筈はない。お二人が妻を愛してる事は勿論だけど、恋愛結婚にこだわるのには理由がある。

 家同士の利害関係が問題事を引き起こす事は少なくない。何かあった時に実家ではなく、夫を躊躇なく選ばせる為、アルト家の男は妻を一人のみとし、妻を溺愛する。

 一見愚かに見えて、これによってアルト家が妻の実家関連の煩わしい事から逃れたのは一度や二度ではなかった。

 それ以外にも理由はあるのだけど。


 ただ、ルシアン様とミチル様は異例だった。

 ルシアン様はアルト家男子としては酷く閉鎖的な性格で、能力は高いにもかかわらず何にも関心を示さない。

 何事も思うままにしてきたリオン様の、最初の挫折は子育てだったらしい。

 褒めても怒っても宥め賺しても、何をしてもルシアン様は心を閉ざすばかりで、年をおう毎に内へ内へと向かっていく。

 誰もルシアン様の心を開く事が出来なかった。


 そんなルシアン様を変えようとしているミチル様に、リオン様が目を付けない筈はない。

 これまでアルト家と婚姻を結んだ家は侯爵家以上が殆どで、伯爵家のミチル様を迎え入れるのは大変珍しい事だったけど、ルシアン様を変える唯一の存在だった事もあり、婚約を反対する者はなく、むしろ誰かに取られる前に確保しろと言う声まで上がる始末だった。

 あの時のアルト一門は、一種のお祭り騒ぎのような状況だったと言っていい。

 ミチル様は穏やかな性格で思慮深く、欲も少ない珍しい方だった。

 伯爵家の出である事は問題にはならなかったが、リオン様はアレクサンドリア家の者達を好ましくは思われなかったようで、いかにしてミチル様から切り離すかを考えた。

 その際に、手酷い事をしてミチル様がリオン様に不信感を抱くことは避けねばならない事だった。

 でも、他でもないミチル様が家族を厭い、家族との接触を最小限にし、アルト家に迷惑がかからないようにと注意を払っていた。

 どうやら、前世の記憶が戻ってから、家族の性格を受け入れられなくなったようだ。


 リオン様は、転生者であるミチル様の力を最大限に引き出す為にも、アレクサンドリア家を事実上潰す事に決めた。

 ルシアン様もミチル様にとって害にしかならない家族を排除する事になんら躊躇はしなかった。

 驚いたのは、人との争い事を嫌うラトリア様が、自発的にアレクサンドリア家当主を破滅させる為に動いた事だった。


 何故、そんな事をしたのかとラトリア様に尋ねたら、ラトリア様は自分の為だよ、と苦笑した。


「セラ、ミチルはね、私たち家族が普通に話しているのを寂しそうに見るんだよ。

彼女は家族の愛を受けずに、むしろ虐め抜かれて育っている。前世の記憶を取り戻したから、こうして耐えていられるのだろうけど、そうなる前のミチルは、痛みを抱え、その痛みから逃れる為に食べる事に逃げていたようだ。

だから私は、ミチルに幸せになってもらいたい。

意に添わぬ生き方を余儀なくされていた私を、計らずも助けてくれたミチルの幸せの枷になるような存在なら、たとえ血が繋がっていても、それは家族ではない。

ミチルの家族には私たちがなればいい」


 その為に、手を汚すとラトリア様はおっしゃった。

 あれだけ嫌がっていた事を、この人は受け入れる事にしたのだ。

 一度懐に入れた者を大切にするのが、アルト家だ。

 ミチル様は大切にされるだろう。


 そんな時だった。

 ルシアン様と顔を合わせる事になった。


「頼みがある」


 挨拶が終わると直ぐにルシアン様は切り出した。


「私の妻に仕えて欲しい」


 転生者であるミチル様は、今後、命を含め、色んな者から狙われる可能性があり、ルシアン様はアルト家の後継者として不在の場合が増える。

 それは避けられない。

 だからその為に、ミチル様の為だけに仕える存在が必要なのだと言った。

 それは他の人間でも良いのではないかと問うと、ルシアン様は首を横に振った。


「貴方は男としてミチルを見ないだろう」


 跡継ぎになる事を放棄した後、ワタシは女を愛せない男であると周囲に話した。

 引かれるかと思っていたのに、意外な事に周囲は気にしてないし、挙句それを理由にミチル様に仕えろと命令される始末だった。


「それに、貴方はとても心の機微に聡い。胸の内を明かさないミチルの、心の支えになって欲しい」


 ラトリア様も、ルシアン様も、ミチル様の心の平安を望んでいるとおっしゃる。

 ワタシなんかが、ミチル様を支えられるのかしら……。


「兄上、何を迷うのですか? ルシアン様からのご命令なのですから、謹んでお受けすべきです。

それとも、ラトリア様でないと駄目ですか?」


「そう言うのじゃ、ないのよ。ワタシは家を捨てたのに、そんな大役を引き受けていいものかと思って」


 何だ、そんな事ですか、と事もなげに言う弟が、少し憎らしい。

 弟はいつも自分の中に答えがあって、迷いがない。


「家を継ぐ事はお嫌だったのでしょうが、アルト家の為に働く事はお嫌いではないのでしょう?」


 それは、そうなのだけれど。


「ミチル様は、兄上のお好きな性格だと思いますよ。

貴族らしからぬご気性で、爵位に関係なく分け隔てなく接する方ですが、ただのお人好しでもなく」


 この弟が、こんな風に人を評価するのも珍しい。


「働かない人間を養ったりはしませんよ?」


 にっこり微笑んで、さっさと受け入れろと脅してくる弟に、ワタシも覚悟を決める事にした。

 何だかんだ言って、ワタシはミチル様に興味があった。







*****







 目の前で首を傾げながら書類を眺めるミチルちゃんを、見るともなしに見ていると、ルシアン様が部屋に入って来た。

 入れ替わるようにして部屋を出る。


 二人の時間を邪魔してはいけない。

 それがこの屋敷の使用人達の共通認識である。


 ミチルちゃんは基本奥手で、前世でも恋愛には疎かったらしく、その所為なのか、恋愛に関しての行動がおかしい。

 何故そこまで?! と聞きたくなる程逃げ腰な時もあれば、急に大胆になってルシアン様を戸惑わせる。


 白の婚姻を終了させようと、ルシアン様が細心の注意を払っていたのを、明後日の方向から突撃して閨を共にする等、本当にミチルちゃんは恋愛に関して、予測が付かない。

 基本ルシアン様が優位に立っているようだけど。


「る、ルシアン! ちょっと待っ……!」


 扉の奥からミチルちゃんの驚いて戸惑う声がした。

 うん、今日もルシアン様の奇襲が成功した模様。

 アルト伯爵家は今日も平和。




 ワタシの一族は、類を見ない特殊な力を持つ。

 でも、それは皆同じではない。

 基本的に他者に影響を及ぼす能力だ。

 そしてこの力こそ、皇族をはじめとした諸国の王達が欲しがるものだ。


 弟が使えるのは、暗示をかけるというもので、暗示をかけられた者は、弟の思うように動く。

 ただ、それは相手の身体に触れなければ発動しない。

 危険な能力を、危険な奴が手にしたな、と、能力を聞いた時に思ったものだ。


 ワタシの能力は、幻覚を見せるというもの。

 この力を、宗主様の命令を受けて、仮面舞踏会の会場に来た貴族達全員に施した。

 彼らが見たいと思うものを見るようにと念じた。

 ワタシの能力も、相手に触れなければ発動しないので、会場の入り口で胸に挿す用の花を手渡しすることで触れた。

 結果として、ミチルちゃんの姉、ドリューモア・アレクサンドリアは、身を滅ぼした。


 貴女の姉を滅ぼしたのはワタシなのよ、そう言ったら、ミチルちゃんはどんな顔をするのだろう。


「ねぇ、ミチルちゃん。

三人兄妹の末っ子なのでしょう? お兄様とか、お姉様はどんな人だったの?」


「見た目だけのロクデナシです」


 そう言って盛大にため息を吐く。

 うん……尻拭いさせられたものね……。


「会いたくなったりはしない?」


「ないですわ」


 被せ気味に否定されてしまった。


「婚約者がいるのに浮気するような、爛れた思考回路を持っていたなんて、軽蔑します」


 もしそれが、人為的にそうさせられたものだったなら?

 それでも貴女は同じように思うのかしら?


「何があったかは分かりませんけれど、あの場所に行った、それが全てだと思います」


 上手くは言えないと思う。ただ、その言葉に、ずっと胸の中にあった罪悪感が、少し、消えた。

 彼女は己の意思であの場所を訪れ、そして私の能力ちからで望むものを見たのだ。

 あれが、彼女の望みだった。


「姉は、いつもいつも、何かに飢えているような人でした。今は修道院で、己の心と向き合ってるといいのですけれどね。

私と比較する事に意味などなかった事に、気付いてくれていたら、いいなぁと思います」


 幼い頃より自身を虐め抜いた人間の事を、そんな風に言える事が信じられない。

 精神が歪む程に、逸した虐めだったと聞いている。


「ミチルちゃんって、お人好しよね」


「前世の記憶を思い出さなければ、こうではなかったと思いますよ。

姉みたいな人はあちらでも結構いたのです。どれだけキレイになっても、どれだけ褒められても、愛の言葉を囁かれても、満たされない。それは、自身の自己肯定感の低さによるものです。

姉はきっと、子供の頃、そうでもなかったのでしょうね。だからこそキレイになる事に、愛されることに、必死だったのだと思います。

された事を許す許さないはともかくとして、姉はそういう人間なのです」


そう言ってミチルちゃんは仕方ないと言わんばかりに苦笑した。


「ミチルちゃんって、変な子ねぇ」


 本当に、変な子。

 でも、ありがとう、ミチルちゃん。




 リオン様の策略通りに、マグダレナ教会は着実に、各国で根付いていった。


 浸透がリオン様の計画より早く進んでいったのは、ミチルちゃんが提案した懺悔室と、住人同士の交流が円滑に進んだからだと聞いてる。

 人は思っている以上に弱いのだな、と思った。


「ミチルが言うには、あちらの世界での宗教団体がしている事を真似した、という話だったけど、これ程有効とは。

彼女は人の心を大事にするね」


 ご自身の予想を良い方向に裏切られたことを、リオン様は喜んでいた。


「うちの聖女になって欲しかった」


 懲りずにまたゼファス様が言った。


「別に聖女である必要はないだろう」


「マグダレナ教会の事だけを考えれば、聖女が一番良い」


 リオン様は苦笑した。


「それだと計画が狂う」


 ゼファス様は呆れた顔でリオン様を見ると、白ワインを口にした。


「そなたは息を吸うように謀を企てすぎる」


 ふふ、とリオン様は笑う。


「ミチルは転生者だから良いのではないか、ゼファス。

同じ土俵で戦ってもつまらないだろう?

転生者のミチル・レイ・アレクサンドリア・アルトが、この爛れた世界を救う為の知恵をマグダレナ教会にもたらすのだよ。

人を救うのは人でなければ、人は強くならないぞ?

神頼みでは、より大きな人災に太刀打ち出来る精神になりようがない」


「……縁起でもない事を口にするが、間違いないのか?」


 ワインの入ったグラスをテーブルに置き、ゼファス様はじっとリオン様を見つめた。視線を逸らす事なく、リオン様は笑顔で見つめ返した。


「ルシアンが処理に当たる。あの子は間違いのない判断を下すだろうから、何も心配する事はないよ。

いやぁ、本当に賢く育って父親として嬉しいよ」


「その言葉、信じていいのだろうな?」


 ゼファス様の質問にリオン様は答えず、逆に質問をした。


「ねぇ、ゼファス、マグダレナの教会は何処まで広がっているんだい?」


「……大陸中にある」


「頼りにしているよ、聖下」


 苦虫を噛み潰したような顔をして、ゼファス様はぐっとワインを一気に飲み干した。


「言う通りに動いてやるが、失敗は許さんぞ」


「勿論。安心してもらっていいよ」


 満面の笑みのリオン様と、対称的な表情のゼファス様の顔を見て、ワタシも心の中でそっとため息を吐く。


 それから、ゼファス様は巡業中、何度となくミチルちゃんの名前を出し、嫌が応にもミチルちゃんの名前は知れ渡っていった。


 様々な思惑も、きっとリオン様の盤上にあるのだろう。

 ミチルちゃんが、リオン様の事を魔王、と言っていたけど、あれ、言い得て妙だと思う。


セラ一族の能力は、チートっぽいですが、万人に効くものでもなく、効力も永久ではありません。

相手によって、効果の効き目の程度もまた、違います。

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