届かぬ想い
次にフィオニア様にお会いする時、何故自分を修道院から助けて下さったのか、お伺いしたいと思っていた。
叶うなら、この想いを、フィオニア様に伝えたい。
そう思うのに、フィオニア様を前にすると、私は何も言えなくなってしまう。
何でも見透かしているような、水色の瞳に見つめられると、何も言えなくなる。
きっと、私の気持ちもご存知だろうと思う。
フィオニア様はディンブーラ皇国の学院に留学しているのだと、クレッシェン様はおっしゃっていた。
卒業後は祖国にお戻りになられるのだと。
「姫、本日はお別れのご挨拶に参りました」
血の気が引くのが分かった。
フィオニア様はまだ、皇国にいらっしゃるのだと思っていたのに。
心の準備が何一つ出来ていない状態で別れを言われてしまい、足元がぐらつくようだった。
もし立っていたなら、その場にうずくまったと思う程に、足に感覚がない。
「まだ、最終学年ではないと、お伺いしておりました。何か、戻らなくてはならない事があるのですか?」
言ってから、出過ぎた質問だったことに気付き、慌てて謝罪した。
「も、申し訳ございません。出過ぎた質問を……」
いえ、とフィオニア様は首を軽く横に振ると、「姫の疑問にお答えしてから、お別れしようと思い、本日はお伺いしたのです」と、おっしゃった。
私の疑問。フィオニア様はお見通しなのだわ。
「何故私が、修道院に姫を迎えに上がったのかと、不思議に思ってらっしゃることと思います」
「……はい」
「私はさるお方のご命令を受け、姫を探し、こちらにお連れしました」
命令──分かっていたことなのに、フィオニア様の意思ではないかも知れないと分かっていたのに、ご本人の口からはっきりと言われてしまって、胸が痛くて、泣きそうだった。
それからしばらくの間、私もフィオニア様も無言だった。
「姫、どうぞお健やかにお過ごし下さい」
そう言って立ち上がり、礼をして私に背を向けるフィオニア様。
躊躇いのないその姿に、私は焦りを感じ、声を上げた。
「フィオニア様!」
フィオニア様はその場で立ち止まった。けれどこちらを向いては下さらない。
「姫のお気持ちには気付いておりました」
思いがけないその言葉に、私はまた、何も言えなくなる。
「貴女は恋に恋してらっしゃるだけです。私でなければならない訳ではない」
「そんなことありません!」
そんなことはない。私は、フィオニア様をお慕いしている。
こんなにも、胸が苦しくて、恋い焦がれている気持ちを、ただの恋への憧れだと、フィオニア様は言う。
「フィオニア様は! フィオニア様は私のことを、何とも思ってらっしゃらないのですか?」
そこでようやく、フィオニア様は私の方を向いた。
その表情は、一切の感情を映していなかった。
「私は主人の命を受けて姫をお迎えに上がっただけの存在にございます。……姫に想いを抱くなど、ありえないこと」
その言葉に偽りはないのだろう。
フィオニア様の表情は、目は、いつもと変わらない。
主人の命令で保護した娘が、勝手に自分に想いを抱いただけなのだろう。
「姫、お幸せにおなり下さい」
深々とお辞儀をして、フィオニア様は部屋を出て行った。
泣いて泣いて、食事もしようとしない私の元に、クレッシェン様がいらっしゃった。
保護していただいてる身で、このような醜態を晒している私を、クレッシェン様は呆れてしまわれるかも知れない。
クレッシェン様は私の頭を撫でた。
「フィオニア殿の事を、それ程までに想っているとは思いもよらなかったよ」
まぁ、あれだけの美丈夫だから、無理もないね、とクレッシェン様は苦笑する。
「フィオニア殿のことは諦めなさい」
貴族に平民が恋い焦がれても、無駄なことだというのは分かってる。
分かっては、いるのに。
「相手が悪かったね。他の方なら、まだ、可能性はあるのだけどね」
「フィオニア様は、何処かの王族の方なのですか……?」
「いや、そうではないよ」
それ以上は、何も教えてはいただけなかった。
私は、あの方を諦めなくては、ならない。
はっきりと拒まれてしまったのだから。
分かっている。
分かっていたことなのに。




