036.破廉恥とはこういう事を言います
窓の外が明るくなってきよったー…。
徹夜で前世の事を全て白状させられた…。
何故そう言った行動に及んだのかとか、心理的な事まで話す事になったので、白状と言うのが一番しっくりくる…。
犯罪者の尋問ってこんな感じかな、って思った…。カツ丼、自腹でいいので食べさせて下さい…。
私の人生を説明させられた後は、前世の私の異性関係を詳らかにしないと気が済まなかったようで、尋問を受けマシタ。
──ミチル、初恋は?
──え?よ、幼稚園?
──ヨウチエンとは?
──5〜6歳ぐらいの幼児を養育してくれる施設です…。
──その初恋の人とは?その後も?
──幼稚園を卒園してからは会ってません。名前も覚えてません。(マサル君だったかユースケ君だったか、それすらも覚えてない…)
──それ以降、誰かを好きになったり、好かれたりは?
──…ありません…(悪かったな、モテなくて!)
──本当に?
──前世の私の容姿は酷いものでしたから…(これ何てプレイなの。私そんなに悪い事した?!)
──以前のミチルの周囲にいた男達は見る目がないのですね。
──アリガトウゴザイマス(フォローが逆にダメージ与えてくるよ!!)
──誰かを好きになる事も、本当になかったのですか?
──ありませんでした…?(かなり早い年齢で乙ゲーにハマりこんだからね!…いや、小学生の時、誰かを好きになりかけたような…?)
──誰?
──(ひぃっ、何故分かった?!)いえ、揶揄われたりするうちに、そんな気持ちは霧散しました…。
──そう(めっちゃ良い笑顔!)
──中学生の時は、好きになりそうな人が悉くクラスメートの可愛い子を好きになっていたので、好きにもならなかったです。
──それは僥倖ですね。
──ソウデスネ…?(僥倖?!そこまで?!)
──あぁ、でも結婚は?こちらのように恋愛感情はなくとも結婚する事はあったのでは?
──イエ、仕事(と乙ゲー)ばかりでした(やめて!HPはもうゼロです!)
──では、前世のミチルは誰のものにもなっていないのですね?
──ソウデス(年齢=彼氏いない歴ですが何か!!)
ルシアンが病んでる事は分かっていたけど、前世にまでそれが及ぶとは…!!
すげぇよ、ヤンデレ!ついでに言うなら私の口からはエクトプラズム絶対出てた!!
「大変有意義な時間でした、ありがとう、ミチル」
徹夜の疲れも見えない顔で、イケメンはにっこり微笑んだ。
ご満足いただけてナニヨリです…。
「ドウイタシマシテ…」
「では、寝ましょうか」
「ハイ…」
ベッドに横になった途端、泥のような眠気が私を襲ってきた。
それはそれは良い笑顔でルシアンは言った。
「ミチルに特別な人がいなくて本当に良かった」
前世は許してあげて…。みんな転生後の事まで想定して生きてないからね?
それもう、悟りの世界だから。輪廻意識し過ぎですから。
あぁ、病んでる…。
まぶたが降りてくる。
ルシアンの唇がまぶたに触れる。
「おやすみなさい、私のミチル」
うっとりした目を私に向けると、私を抱き寄せた。大きくて温かい手が私の髪を撫でる。
離して欲しくて争った結果、更に強く抱きしめられたので、諸々諦めてそのまま寝た。
お昼頃に目覚めた私は、セラが持って来てくれたブランチを黙々と食べていた。
ルシアンはほぼ徹夜の状態で登城したらしい。鉄人なのか?アレは人なのか…?
セラが苦笑いを浮かべた。
「相思相愛になったら色々落ち着くかと思ったんだけど、ヤンデレだったかしら?そのテの人種には関係ないのねぇ…」
かつて教えた単語を、的確に使いこなしてますね、セラ。さすがです。
ルシアンは本当にヤンデレだと思う。
正直に私の何処にそこまで惚れる要素があるのか、さっぱり分からん。
この前レシャンテに私を好きになった理由なんかを話してたけど、それだけでここまでなるかな?!と思ってしまうんだけど。
アレ、完全に自家中毒なんじゃね?って思う。
あぁ、なんか、僕、ミチルの事ちょっと好きかも?
↓(この間特に接点なし)
うん、好き
↓(この間特に接点なし)
大好き
↓(この間特に接点なし)
僕だけのものにしたい
…みたいなさ。
ほぼ接点ゼロでも加速する親密度。攻略不要。
想像したら地味に凹んできたー。
昨日の尋問による自分史自白プレイで瀕死な所に、自ら塩塗り込んでしまったー…。
「どうしたの?美味しくなかった?」
そう言ってセラは私のブランチからミニトマトを取って口に入れた。
「いえ、美味しいです。ちょっと考え事をして…」
「ふぅん?どんな事考えてたの?」
「ルシアンの私への気持ちって、自家中毒と言うか…思い込みなんじゃないかなと…」
セラにおでこを瞬間的に2度突かれた。
「痛い!」
2度突きとか高速過ぎない?!
「絶対に絶対にそんな事ルシアン様の前で言っちゃ駄目よ!命が惜しかったら!」
セラの顔が真っ青です。
命まで?!
監禁ぐらいかと思ったんだけど、甘かったの?!
「ルシアン様に聞かれたらと思ったら寒気が…」
ブルブルと身体を震わせながらセラは言う。
「いつもいつも素っ頓狂な事ばっかり思い付くけど、なんでそこに行き着いたのよ…?」
素っ頓狂とか久々聞いたー。
サラダのトマトをフォークで刺し、口に入れる。
うむ、すっぱい。
「先日、レシャンテとルシアンの会話を盗み聞きしてしまったのですけれど…その中で、ルシアンが私との馴れ初めと、何故私を好きになったのかを話していたのです。
あれだけで、ここまで想われるものなのかなぁ、と…」
盛大なため息を吐くと、セラは呆れたように私を見て言った。
「情は確かに過ごした時間に比例するかも知れないけど、人の心に刺さる言葉なんて一つでも十分なんじゃないの?逆も然りでしょ?その一言で決定的に嫌いになる事だってあるじゃない?」
確かに。
セラ先生、凄い説得力がありますね?!
生きた年数は前世を加えたら私の方が上の筈なのに、人間力って奴?!
「それに、浮気者よりいいんじゃない?ちょっと一途が過ぎるだけで」
アレは一途と表現して良いものですか…?
「妻も一人だけで、ドロッドロに溺愛していただける訳だし?」
溺愛が過ぎて命の危険を感じる時があるんだけどね…。この前本当にヤバかったー…。転生するかと思ったわー…。
「地位も名声も富もあって、文武両道だし、イケメンだし?」
確かにね。
全てを兼ね備えてますね。大分規格外だよね?
だからこそ何で私?と思ってしまう訳なんだけどね?
「ただちょっと、ヤンデレなだけよ?」
ちょっと…?
ちょっとで前世の異性関係やら、魂結び付けるとかないだろ!
正真正銘のヤンデレですよ!何処に出しても恥ずかしくないぐらいの純度100%のヤンデレです!
前世のヤンデレ診断やらせてみたいぐらいですよ!!
「どうしたのですか、セラ。そんなにルシアンを誉めそやして?」
「ミチルちゃんの目が覚めたら困るなぁ…って」
セラの言う意味が分からず、首を傾げる。
「あまりに冷静に分析してるから、ルシアン様への気持ちが変わったのかと…」
「それはありませんけれど…むしろ昨日の感じは…前世の話で逆に私への気持ちに変化が出るのではと、そっちの方が心配です」
「それはないわね」
あまりにきっぱりとセラが言い切るので、怯んでしまう。
「そうですか?」
「ミチルちゃんは考えが甘すぎるわ。ミチルちゃんが前世でモテていないことなんて、ルシアン様からすれば、ご褒美みたいなものよ」
ご…ご褒美…?!
「で、でも、容姿は全くもって美しくないんですよ?!」
「関係ないんでしょ。太ってたミチルちゃんに本気になったんだから、ルシアン様には。
汚れてない俺のミチルぐらいにしか思ってないわよ」
えっ、容姿を気にしないとか、超イケメンだけど!汚れてない俺のミチルはちょっとこわ…っ!
「ミチルちゃんの記憶の中にある異性は自分だけなのよ」
ぅわぁ…!!
ぅわぁ……!!(引)
「しかも魂を結びつけた結果、前世の記憶を保持したまま来世にいって、更にお互いが引かれあうんでしょ?
もうこれから永遠にルシアン様のもの確定よね」
分かっていた事だけど、改めてハッキリと言葉にされると、ちょっと、うん…病んでる…!!
「はい、あーん」
ハヤシライスを掬ったスプーンが口に運ばれる。
口に頬張り、咀嚼する私を見て、うっとりしているルシアン。
なんだろう…コイツの生殺与奪権を持ってるのは自分だ、みたいな悦だろうか…。
「美味しいですか?」
まだ食べてる所なので、頷く。
ふふ、とルシアンは笑うと、私のこめかみにキスをする。
…果たしてこれは、食事の風景と言えるのだろうか…?
ルシアンは帰宅するなり、私が抱きつくよりも先に私を抱きしめて窒息させかけ、キスの嵐攻撃をしてきた。
着替えてからは部屋にハヤシライスを運ばせ、そして今に至る。
ごくんと飲み込んでから、ルシアンに話しかける。
「ルシアンは食べないのですか?」
「ミチルを見ているだけで胸がいっぱいです」
いやいや!食べようよ!
恋に落ちた乙女みたいな事言わないで!
「駄目です、ちゃんと召し上がって下さいませ」
君はまだ成長期の筈だ!
「じゃあ、ミチルが食べさせて?」
とろけそうな程甘い声で、おねだりをするルシアンに、顔に熱が集まる。
これまでも散々食べさせてきてるのに、なんでっ!
「…ルシアンが…」
「うん?」
「甘い…!」
耐えきれずに私がそう言うと、ふふ、とルシアンは笑って、こめかみと頰にキスをしてくる。
ひぃーっ!
甘い!甘すぎてとける!
「とけそう?」
頷く。
分かってるならもうちょっと抑え目で!抑え目でお願いしたい!
昨日の話で私がどれだけ、そういった事に耐性がないかも分かった筈だ…!
「前世の分も、ミチルを甘やかしたい」
ぎゃーーーーーーーーっ!!
死刑宣告きたあああああああぁぁぁ!!
分かった上での、この甘々さ?!
何故そっちの思考にいった?!
普通に考えて、耐性ないんだな、って理解する所じゃないの?!
ルシアンは手に持っていたスプーンをお皿に置いてしまう。
ちょ、ごはん。
自分で食べるからスプーン下さい。
そっとスプーンに手を伸ばした所、お皿ごと遠ざけられてしまった。
「駄目。私が食べさせたいから」
「自分で食べれます…」
「私の癒しの時間ですよ?」
これの何処が癒されるんだね?!
私にとってはエネルギーをチャージしながらHPが削れていくという相反する状態だよ?!
「ミチルをずっと見ていたい。触れたいし、声を聞かせて欲しいし、食べさせたい。
甘やかして甘やかして、とかしてしまいたい」
愛しくて堪らない、と言って抱きしめられる。
糖度の高さで死ねる…!!
醤油一気飲みで死ぬみたいな感じで!
吐血で昇天!
顔から湯気が出そうになっていた所で、ハヤシライスタイムが再開された。
イケメンに給餌され、ガン見されながら、ひたすら食べる。
マナーレッスンより恐ろしいよ…!!
ほんの僅かな失敗も許されないこの緊張感…!
「じゃあ、今度は私の番ですね」
はい、と渡される新しいスプーン。
いやいや、待とうよ。
「この体勢では食べさせづらいので、隣に座りますね」
何故そんなに不満気なの…無理でしょ…お皿に向き合って座ってないんだよ?
「我儘は駄目ですわ」
食べさせてあげるというのに、何が不満だって言うんだ。
膝から逃げて横に座った所、ルシアンの腕が腰に回された。
?!
「そんなにくっついたら食べさせづらいですっ」
「離れたら生きていけません」
「全然離れてませんよ?!」
ぐいぐい手で押して適切な距離を保ち、ルシアンの口にハヤシライスを運ぶ。
じっと私を見つめるルシアン。
ひぃ……。
食べさせづらい……。
なんとか食べさせた後、話し合いを申し込む。
「ルシアン」
「なんですか?」
膝の上に戻され、抱きしめられた状態に元通りですよ…。
「いくらなんでも、溺愛が過ぎます。駄目です、こんな爛れた生活!」
「ミチルは私に愛されるのは嫌?」
悲しそうな顔で頰を撫でてくるルシアンに一瞬怯んだものの、ここで負けてはいかんと、頰を撫でる手を掴んでおろし、握る。
「それとこれとは別ですっ、節度を持って下さいませっ」
天寿を全うする前に死にそうだから!
「沢山甘やかしたい」
あっさり私の手の中から逃げたルシアンの手は、またしても私の頰を撫でる。
「ほどほどでお願いしますっ」
「ほどほどとは、どのぐらいまで許容されるのですか?」
「食事は普通にとりたいです」
「それから?」
「過度なスキンシップは駄目です」
「何故?」
「何故って…いくら夫婦とは言え、破廉恥です!」
ルシアンはふ、と笑った。
「ミチル、破廉恥って言うのは、こう言うのを言うんですよ?」
そのままカウチに押し倒され、首筋にルシアンの唇が触れた。
しかも、ワンピースの上からルシアンが太ももを触ってる?!
「る、ルシアン!」
「いつも私がしている口付けは、破廉恥に入りません」
えっ?
入るよ!
入るでしょ!
……入るよね…?
「正しい言葉の使い方を、教えてあげますね?」
いやーーーーーーーっ!!!
破廉恥ーーーーーーっっ!!!
ルシアンになりきってヤンデレ検定を受けてみた所、無事に
★立派なヤンデレ
ヤンデレ度は100%!素晴らしい。ヤンデレの中のヤンデレです。大好きだからって、監禁などしないようにしてあげてください。
という結果を得ました。ヤッター?!




