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悪夢が終わる悪夢


 気が付くとタクトは小さな交差点の近くに立っていた。


「何故?俺はさっきまで…」


「ねぇ、ねぇねぇ」


 後ろからの声に気付いて振り返るとそこには女が立っている。

 歳はタクトと同じくらいだろうか、酷く汚れた格好をしており、痩せ細った体は夏だと言うのに白く、発育が悪いのかとても小柄だった。


「死体…いらないの?小銭?だっけ?あげたら、もらえる」


 そして、女はとても無知で、発する言葉は意味が分からず、何を言いたいのか分からない。


「いらないよ!もう俺に構わないでくれ!」


「いらない?何欲しい?虫、食べれないの?美味しいって何だろう、食べろって言われた、でも、食べれないの?分からない、何で何で何で何で」


 ジジッ…ジジジジ…ジジジ!!


「うぁあ!あああ!」


 突然耳元で鼓膜を破る程の大きな音が鳴り響く、それをセミの鳴き声だと理解する前にタクトの耳は聞こえなくなった。


「………、…………、……?」


 女が何かを言っているがタクトには聞こえない。

 タクトは女に怒鳴ろうとしたが口が塞がれており声も出ない。


 いったい何が口を塞いでいるのか、口に手を当てた時、何かがモゾモゾと動くのを感じた、そこでタクトは気付いた、気付いてしまった。

 口の中で蠢くたくさんのセミの存在に…。



 ◆  ━



「うわあああああ!」


 タクトは周りを見渡す、そこはよく知った場所だった。

 自分の部屋、そして自分のベッド、タクトは布団を被りガタガタと震える。

 自分の口に指を入れ、何も入っていないことを確認する。

 無い、あるわけが無い。大丈夫だ、あれも夢だったんだ。

 タクトは自分にそう言い聞かせてなんとか気持ちを落ち着かせようとした。



「タクトー?大丈夫?凄い声したけどー?」


 部屋の外から母親の声が聞こえてくる、どんな酷い夢を見た後でも母親の声というものは安心感があった。

 タクトは少し冷静になり深呼吸をする。大丈夫、いつもの自分だ。


 今は何時だろうか、時計を確認してみるが何時なのか分からない。

 時計にあるはずの物が無い、カッカッカッカッと秒針を刻む音はするのに針が無い。


 携帯電話を確認しよう、そう思いベッドから降りると足に激痛が走る。膝から下が動かない。それどころか力も入らずその場に転んでしまった。


「え、え!?な、何で、あ、あああ!母さん!母さん!」


 タクトの母親は部屋に入ると怪訝な顔でタクトを見下ろす。

 タクトの様子を見ても慌てた様子は一切なかった。


「なぁにぃ?タクト、母さんちょっと忙しいんだけど」


「足が!足が動かないんだ!」


「え?自転車なら修理に出したわよ?」


「自転車!?それなら直ったって言ったじゃないか!違うんだよ!足が痛くて動かないんだよ!病院、病院連れて行ってよ!」


「だーかーらー、自転車に足が絡まってるから修理に出してるんでしょ?」


「は?何…を」


「もう、良いから早く寝なさいよ」


え?寝る?今起きたんじゃないのか?寝る時間なのか?

 タクトはもう何が何だか分からない、分からないがもう寝たくは無かった。

 寝たくない、寝たらまたあの女が居るに違いない、もう嫌だ、嫌だ、嫌だ、起きる度に何かがおかしくなっていく、全てあの女のせいだ。

 頭の中はあの小柄で汚ない女への恐怖でいっぱいになっていた。


「寝たく…ない…」


「まったくこの子は高校生にもなって、早く起きなさい」


「は?え?さっき…、え?」


 視界にノイズが走り、端から黒ずんで消えていく。



 ━━━



 視界が戻ってくる、周りを見渡すとそこは自分の部屋、そしてベッドに横たわる自分、タクトは大粒の汗を垂れ流し目を見開いていた。自分の呼吸がうるさい。


 足は…動く…時計…は、ちゃんと針がある、針は6時を差しておりカーテンの外は明るかった、朝だ、いつもの朝、何もおかしくないいつもの朝。


「は、はは、そうか、全部…全部夢か…、長い夢だったな…」



 部屋を出て台所に行くと母親が料理を作っていた、タクトはおそるおそるそれを覗き込むがそこにあったのは卵、人参、豆腐…、いたって普通の食材。


「どうしたの?手伝いに来たの?」


 タクトの行動を母親が不思議がる、本当にいつもの朝だ。ここでようやく安堵した。深いため息が漏れる。やっと夢が終ったんだ、そう理解した。


「いや、変な夢を見てたみたいでね…」


「あらそう、変な子ね」




 タクトはいつもの様に朝の支度をして学校に行く準備をし、玄関の扉を開ける、それはいつもと変わらない行動だった。

 長い悪夢から覚めていつもの生活が戻ってきた、…はずだった。



「なんだよ…これ…なんで…」


 外に出ると…外灯の灯りだけが道を照らしていた。

 朝だったのに、外は夜だった。



 タクトは自分の家へと振り返る、そこには確かにいつもの自分の家がある。

 しかし部屋の灯りはどこも点いておらず、人の居る気配は無い。

 そして、玄関の扉は閉まっており…鍵がかかっていた。



次で終わる予定でございます。

タクトのSAN値は今どれぐらいでしょうかね、ゴリゴリ減っていそうですね。

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