1話
「ん、んん?ここはどこだよ。って、痛っ」
目を開けたら、暗い場所にいた。
だが、手を伸ばし手探りで状況確認すると、四方壁に囲まれているという感じだ。
すると、自分の背後の壁に再び触った途端、壁が奥に動くのと同時に微かな光が差してきた。
「なるほど。ここが扉だな」
俺は手で押すと軽々と開き、そのまま外へと出た。
「って、これなんだよ。まさか異世界転生の初っぱな、掃除用具入れに送られてたってわけ!? くそぅ・・・あいつめ!」
少し前に出会ったとあるドジっ娘のせいで、最悪のスタートを切ったわけだったが、次の瞬間その恨みは消え去った。
というのも、ここは公衆大浴場の女子更衣室という感じだ。
その証拠に少し離れた扉の向こうから女性の声が聞こえる。
「おいおい待てよ、これって。なんたる巡り合わせだよ!」
すぐそこに天国への入り口がある。
そう、これは仕方がないのだ。
誰かさんの不手際によってここに送られたと思うのだが、この先は俺に与えられた使命なのだ。
え?浴場で欲情?
・・・やかましいわ!
ラノベ尽くし生活だった俺は、ドアを開けて一歩踏み出したら、その瞬間に桶やら石鹸やらを投げられて頭に当たり、気絶したまま警察に突き出されるっていうのがオチなのは見当がつく。
だが、逃げ足に関しては自信がある。
「ほんの一瞬だけだからいいよな。見たら直ぐに消えるから」
そう言いながら徐ろにドアを開けて、大人の階段を歩もうとし、見たのは・・・
「おい坊主。風呂に入るなら、ちゃんと服脱ぎな」
「ちくしょう・・・」
俺は誰にも物を投げられることなく、誰にも追いかけられることもなく、走ってその場から立ち去っていた。
「なんだってんだ、この世界は。俺にはいいこと尽くしが起こると思っていたのに、入った先は男湯だったっていう。それも、見たのはスキンヘッドのオッサンの尻。女性の声が聞こえたのは気のせいだったっていうのかよ・・・」
そんなこんなで外に出た俺だったが、現在俺の手持ちは左腕に腕時計を付けているだけで、それ以外には何も持って来ていないはず。
率直にいうと、何も為すすべがないのだ。
ふとここでズボンのポケットに膨らみがあることに気がついた。
これが、ユイが言ってた相棒ってやつか。
「えーと、どれどれ。『この紙は貴方の今の状況に応じて、ちょっとしたアドバイスが映し出される、パピルスという特殊な紙です。よろしくお願いします』お、丁寧だな。こちらこそよろしく」
俺が文面を読み上げたら、すぐさま文字が消えて、次の言葉が浮かび上がってきた。
『スケベなあなたは今すぐ警察に出頭して、自分の行いを反省しなさい』
・・・よし、燃やすか。
足元に落ちていたライターを手にし、火をつけ・・・。
『いや、ちょっと待ってください。私を今ここで燃やしたら、あなたにとって不利益ですよ。だから、やめっ・・・』
まあ確かにこいつがいなくなれば、困るな。
この先何すればいいかわからないし。
どういうことか音声機能も付いている感じで、まるで人間と普通に話している感じだ。
俺は火をつけかけていた手を止め、ライターを元の場所に置いた。
「お前次舐めたこと言ったら、容赦しないからな・・・ それで、どうすればいいんだよ」
『そうですね。まずはこの世界の説明から。周りを見て分かると思うのですが、ここはあなたが来た地球の言葉で言うと、いわゆる中世の街並みです』
その通り、俺は煉瓦造りの建物に囲まれ、石畳で舗装された道の端にいる。
向かいには昼の書き入れ時なのか、3.40代の男性が露店を出して、ご飯の用意へと買い物をしている主婦への呼び込みを行っていた。
『それでそこらへんにモンスターとかはいますが、生息地に行かなければ大してそいつらに襲われることもなく、魔王という存在すらない平和な世界となっています』
それは素晴らしいことだ。
中世にして、平和な世の中。
誰もが望む良いことではないか・・・・・・。
え・・・?
「ちょ、ちょっとどういうことだよ。魔王に脅かされた、荒れ果てた世界じゃなかったのかよ。魔王討伐のために送られたわけじゃないのかよ!?」
『討伐?どうしてここに来たんですか?あなたが来た日本と同じように、市民がごく一般的な生活を送っている世界ですよ。まぁ、生活にちょっとした制限はありますが・・・ もしかしたら・・・ちょっと待ってくださいね。あなたの過去のデータを読み取りますから』
こいつすげえな。
何でも調べることができるのか。
というか、制限って何?・・・と思いかけた瞬間、パピルスの読み込みが終わったらしい。
『どうやらあなたはとある女性によって、本来の行き先とは違った所に転送されたらしいですね』
あ、あっ、あいつか・・・。
本当に許せねえ・・・。
付属の商品を付け忘れて、さらに二度の配送ミス。
まぁ、一度目のミスに関しては一瞬の間ユイに感謝してしまった荷物がここにいるが・・・。
「で、で、その世界に行くにはどうすればいいんだよ。宅配便屋にでも行けばいいのか?それとも、お前が何とかしてくれるのか?」
『いや、私にはそんな能力はありませんよ。あなたに対しては、アドバイスをするだけ。あと、ちょっとしたからかいも」
「最後の機能いらねーよ」
知って誰得という情報もあると思いますが、一応主人公の設定。
[名前]瀬也 海人
[年齢]17歳
[身長]170cm
[服装]上はパーカー 下はジーパン 靴はスニーカー
[顔つき]黒髪黒目
[特技]料理、逃げ足が速い