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序章

 目の前には一人の女性が立っている。

 おかしい・・・。

 少し前まで自宅で夕食の用意をしていたのに。

 今日は親の帰宅が遅いから、得意の豆腐ハンバーグを作っていたところだった。


「あ、あの・・・ 一体・・・」


 と言いかけたが、この状況は大体推測できる。

 辺りを一瞥すると、見慣れない比較的暗い空間の中で2人しかいないという感じだ。

 恐らく俺は何らかの形で死んだ。

 それでいて今現在は異世界へと転生されるシチュエーションなのだ。

 いや、なぜとっさにこの様な思考に成れるのかって?

 ロクに友達と一緒に遊ぶことなく、家でラノベや漫画に読み耽っていたことによる弊害だよ。

 そしてこの女性は・・・。


「私の名前はユイ。とある役人よ。言ってみれば、配達業者兼徴税員かしら。あなたは先ほど死んだの」


 なんだよその長い名前の職業。

 というかやはり思った通りだ。

 この後俺はチート能力を手に入れ、魔王を討伐し、勇者となって歴史の一ページへと刻まれるという運命が待っているということか。

 なるほど。

 テンプレ感満載だが、こういったことは嫌いではない。

 寧ろ、子供の頃から冒険もののゲームばかりをやっていた俺にとっては、念願のことである。


「そこであなたに頼みたいことがあるのだけど・・・ 行ってもらいたい世界があるのよ」


そら来たぞと言わんばかりに、心の中でガッツポーズをした。


「それで、その世界で何をすればいいのですか?」


 帰ってくる言葉は予測できてはいたが、ここは敢えてじらしてみる。

 なぜじらすのかって?

 それは2、3メートル先にいる、配達業者という肩書きを持つ美少女とのひと時をできるだけ長く過ごしたいからだ。

 年は俺と同じくらいだろうか?黒髪短髪で黒目であり、見た目的には日本人女子高生というところだ。


「その世界はね、少し前まで魔王によって脅かされていたのだけど、勇者が現れて平和な世の中が訪れた、かと思ったら、再び新たな魔王が出てきて、荒れた世界になってしまったの」


 ユイはそう言いながら溜息をつき、肩を落とした。


「つまり俺にその世界に行って、事態の収束を図ってほしいということですね」


「そういうことよ。お願いしてもいいかしら。勿論無理にとは言わないわ。他に平和な世界があって、嫌ならそっちの方でもいいけど、ただそっちは・・・」


 ユイのその後の言葉を聞かずにすぐさま行くと返事をした俺は、この後授けられるであろうチート能力について考えを巡らせていた。

 攻撃力が最大になったりだとか、はたまた無限の回復力を誇る魔法を習得するだとか。

 もしやこの人に頼めば、欲しいものなら何でも手に入れられるのではないか。

 そうなるなら魔王討伐は諦めて、沢山の美少女を出してもらい、ハーレム生活を送るのでも構わない。

 というか、できればそっちのほうがいいのだが・・・。

 そんな俺をよそにユイは着々と準備を進めており、気がついたら異世界行きのボタンを押していた。


「それじゃあ、いくわよ。ちなみに、相棒みたいなものも一緒に送っておくから、その子のこともよろしくね!」


 えっ・・・。それはあまりにも急なことだったのだ。


「あの・・・異世界特典のチート能力は・・・?」


「チート能力?あっ・・・」


「・・・え?」


 俺は、姿が消えかかっていたが顔が青ざめるユイの姿をとらえたのと同時に、今まで生きてきた中でも一番聞きたくなかった“あっ”を耳にした。


「えーっと・・・ごめんね。忘れていたわ。悪いけどそのままの状態で頑張って!」


 嘘だろ。

 確かに美少女、それもドジっ娘が顕現したが、こういうのは求めていなかった。

 俺は返す言葉もないまま、その場から去っていった。

 俺は17歳にして、二度目の人生終了を味わったのであった。





「・・・本当に申し訳ないこと仕出かしちゃったわ。それも二回も」

 男がいなくなった部屋でドジっ娘が彼の実際の行き先を知ることがないまま、静かに閉じた本の中にはこう書かれていた。


『瀬也 海人

死因:豆腐の角に頭をぶつける

備考:役人の悪ふざけによって豆腐を鉛に変えた為』





 

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