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街での活動 その59 簡単なお仕事

サクサク進めます。道程も、物語も

 気合を入れて出たものの、目的地までする事はない。馬に揺られながらクーの魔術講義を受け、水場につけば馬を休ませながらデベルから支給された食料を頂くのみ。


 目的地も以前に暗殺に向かったところの近くにある砦である。デベルは地図を渡してくれたが、殆どは地図なんてなくても知った道だったりする。しかも一部は俺が何日も夜間巡回していた範囲。ぶっちゃけ地図に書かれている以上の事を俺と俺の馬は知っている。なのでデベルの立てた計画を無視し、勝手にサクサク進んでいくのであった。


「それにしても、対象者につけられているタグって何なの?ケイツハルトはクーなら分かるって言ってたけど」


「製品管理用のタグですね。読み取り用の術式が発動すると、情報を発信しかえす機能を持っています。私やテオは読み取り術式を使えませんが、型番を伝えられているので私の走査範囲に入れば見つけられます」


 クーは技術広報用の資料を天に浮かべながら説明した。


「製品管理用のものを人につけているのか。なんだかなぁ」


「位置情報を取得するのに使用しているようです。以前、この種の管理タグは応答がなかった場合に、読み取り範囲に存在しないのか、それともタグが壊れているのか判別できないという問題がありました。その問題を克服するために、ブロードキャスト時には世界のどこにあっても位置情報だけは返す機能を付与したものが、この改良型になります。全世界ブロードキャストでも反応がなければ、タグが壊れているのが確定します」


「でもそれ、壊れているって分かったら結局あるはずの場所を目視で確認するんでしょ?それなら読み取り失敗した時点で目視確認すれば良いだけじゃん」


「やれやれですね。判別できないという事が大問題だというのに」


「そんな事より、どこにあっても位置情報を取得できるって方が凄い事だと思うんだけど……」


 相変わらず昔の人の価値観はよくわからない。


「そんなに使いどころのある技術ではありませんよ。タグの数が増えればコリジョン解決のために読み取り時間は膨大なものになりますし、全世界ブロードキャストもそれに対する応答も他の人に丸聞こえです。軍事作戦に使える様な代物ではありません」


「あぁ……ハエ男の家系は製造部門だもんね……製品管理用の情報が飛び交ってたら読めちゃうよね……。そりゃ後ろから奇襲も受けるわ」


「これはあくまで製品管理用タグなのです。製品に付けたまま出荷されるのも、あくまでライフサイクルアセスメントを検証する目的であり、個人情報を取得する目的では決してありません」


 クーは資料の隅にかかれた小さな注釈を指差して説明した。よく分からないが、軍事用でない事は確からしい。


 俺はタグの仕様を確認しながら、軍事的に使えないものか検討した。位置がバレても意図がバレなければあるいは……。


***


 そうこうしている内に目的地にはすんなり着いた。そして砦の内外を歩き回って調査して作戦を練った。


 俺とクーは幻影で人の目を欺く事が出来る。とはいえ、物理的な囲いを突破する力はない。(ピッキングという手もあるが)錠には鍵が必要だし、重い扉は自力であけられない。


 さらに、クーの仕様により第三者に見せられる幻影は一種類に絞られる。奪還対象と敵兵に別の幻影を見せる事は出来ない。奪還対象に怪盗姉妹を見せる時は敵兵にも同様のモノが見えてしまうし、奪還対象の姿を敵兵から見えなくすると、奪還対象自身からも見えなくなる。第三者の救出は俺達にとっては意外と面倒くさい任務なのだ。


「こういう時の定石は外環術式かな」


「そうなりますね」


 外環術式は魔術戦の定石の一つ。敵陣の周囲に魔法陣を構築し、内部に魔術をかける方法だ。正面から対峙して勝たずとも、バレずに術式を完成できれば勝ちとなる。実に魔術師らしい卑怯な戦術である。


「でも夜になると扉にかんぬきかけられちゃうし、実行するなら昼間かねぇ。なんか怪盗っぽくないね」


「実行は明後日の夜に確定しています。既に時刻を指定された予告状が届けられていました。イタズラと思われて捨てられてはいますが、出された予告は実行されねば成りません」


「は?誰がいつの間に?」


「デベルの手の者が内部に居るのでしょうね」


「もう俺らが救出する必要ないんじゃないかな……」


「潜入している者を使い潰したくないからでしょう。よくある事です」


 その理屈は理解できる。でも納得は難しく心がモニョる。俺は少しやる気を失い、真面目に考える事を放棄した。


「じゃあ、当日の昼から次の日の朝まで全員眠らせてしまおう」


「それなら問題ないですね。時間すら奪う。怪盗としてもイケています」


 俺とクーはそうして砦の周りに外環術式の構築を始めた。構築には丸一日かかったが、それでも前日には作り終え、残りの一日で警備の切り替えや伝令の出入りする時刻を確認する事が出来た。デベルの日程計画を無視していて正解だったといえる。


 そして、午後の伝令が出たところで作戦を開始した。夜には伝令が戻ってくるが、異常に気付いて報告に向かってももう間に合わない。


 俺はゆっくりと術式に魔力を込めた。俺の魔力量では即効性は全くない。なのでじわりじわりと眠気を誘っていく。徐々に兵隊達の会話が減り、動きが鈍くなる。ところどころで転んだり、ぶつかる音がしだす。捕虜の一部は外で砦の補修にあたっており、体を動かしている分かかりが悪い。それでも徐々に増す眠気には誰にも勝てず、バタリバタリと倒れていく。一時間後に起きていられる者は居なかった。チョロいものだ。普通の軍隊など魔術師にかかればイチコロ。今回の任務は楽勝である。


 日が出てる内に術をかけたので、殆どの扉は鍵がかけられていない。扉を警備する兵士も居るが、既に寝息を立てて崩れている。俺はそういった兵士を脇に寄せて寝かしなおし、順調に侵入していった。


 奪還対象は捕虜とはいえ指揮官なので労務には就いていない。そんなに悪くない部屋に軟禁されていた。扉に鍵はかかっているが、鍵は近くの部屋にあったので簡単に入手できて開けられた。


「おじさんおじさん、起きて。連れ帰りに来ましたよ」


 俺は奪還対象の体と精神に直に触れて覚醒を促す。


「うっ、うーん……はっ!何だお前たちは!どこから入った!」


「最近活躍中の怪盗姉妹です。諸事情により貴方を連れ出しに参りました」


「なっ!なんだと!連れ出してどうするのだ!殺すのか!殺す気か!俺を始末すると言うのか!誰か!誰か居ないのか!捕虜が殺されるぞ!助けてくれ!」


「どうしてそうなるかな……」


 奪還対象のおじさんは錯乱して手が付けられなくなった。突然の出来事に混乱するのは分かるけれど、こんな可愛らしい少女の二人組みを前に怯えて錯乱するなんて訳が分からない。天国と勘違いしても良いくらいだと思うのだが。


「お姉様、タグが付けられた人物はもう一人居ます。そちらを先に相手にしましょう」


「そだね。落ち着くまで少し時間が必要そうだもんね。おじさん、それじゃあまた後でくるね」


「来るな!二度と来るな!」


 俺は扉に鍵をかけて軟禁状態に戻す。殺す気はないけれど逃げられても厄介だ。


 もう一人は少し離れた部屋に居た。こちらはまだ若い。ハンス兄さんより少し上といったところか。健康そうで暴れられると厄介だ。俺は手を取ってゆっくりと端から覚醒を促す。先ほどの様にゆすったりせず、自然に目を開けるのを待った。


「んっ、んー……?」


「お目覚めですか?」


 俺は対象者を刺激しないように、目が合ったところで微笑んだ。


 そうしたら、次の瞬間俺の胸がサワサワされた。


「ちょっ!?何すんだこの変態!」


 バチーン!


 俺は顔面に平手打ちを放った。


「あいった!あいったー……あれ?これ夢じゃないの?」


 その反応は正しい。起きたら傍に少女が微笑んでいたのだ。虜囚の身からすれば夢と間違えるのは間違ってはいない。とはいえ夢だと思ったら乳を触るのか。畜生、こいつも訳が分からない。


 順調だった作戦は、変な奪還対象たちのせいで雲行きが怪しくなりだした。

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