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街での活動 その58 事前調整

無くせないかと思いつつ、でもやはり必要な気がしてダラダラ書いてみる

 デベルから捕虜奪還の依頼を受けた帰り道、俺は既に後悔していた。詳細を聞いたら、夜中にコッソリ抜け出して実行できるレベルじゃなかった。敵陣に乗り込むのだから当たり前といえば当たり前なのだけれど……。


 何日も出歩くとなればアヒムにも説明をしなければならない。そんなの無理無理無理。それだけで断る理由になる。しかしその退路はデベルに先回りされていた。デベルは、俺が以前にした逆らえない兄の話を覚えていて、手紙を用意していたのだ。


 手紙は筒状に丸められて蝋で封がされている。その封に押されたスタンプは鷲の図柄。鷲のモチーフは支配者にしか許されていない。


 情けない事に、俺はそれを見ただけで動揺し、拒否できずに受け取ってしまった。非常識の塊であるはずの怪盗姉妹としては相応しくない反応だ。常識が通じる事をデベルに見せてしまったのは、本当に大失態だった。気まずくてクーの顔すら直視できない。


「うぅ……どうやって説明しよう……」


「ヤレヤレ、適当に誤魔化すしかないですね。幸い、手紙の内容はどうとでも取れるもので、テオがどう説明しても矛盾しません。テオの好きにしてください」


 ぐぬー。やはり少し冷たい。


 俺は歩きながら、アヒムに怒られずに済む言い訳を考えた。が、そんなモノは思いつかなかった。


***


「えーと、そういう訳で、チンピラをからかって遊んでいたら、変な人に目を付けられてコレを渡されました」


 俺の前には眉間にシワを寄せまくったアヒムと、真剣な顔をしたグラハルトが居る。アヒムに手紙を渡したところ、いきなり頭にゲンコツを落とされてグラハルトの部屋に連れて来られたのだった。


「グラハルト様、この書簡の印は本物でしょうか」


「分からぬな。中を見て検めるとしよう」


「グラハルト様、ルドルフ様にお伝えしなくても宜しいのですか?」


「それも中身次第だが──。相手は身元を隠していたテオに渡してきている。こちらの立場を知らないのであれば、テオを通して秘密裏に関係を結ぼうとしていると読める。また、テオの身分を知りつつ渡してきたとするならば、正規の命令系統に乗せられない秘密の案件という事だ。どちらの場合も相手が本物の王であるとすれば、ルドルフ様を巻き込むべきではない───と俺は思う」


「グラハルト様、王の事をお聞きしても?どの様なお方なのですか」


「俺も何度か拝謁した事がある程度だ。しかし、からめ手を好む方だとは聞いている。この様なことをされてもおかしくはない」


 グラハルトは封を解き、俺達にも見えるように広げた。俺もアヒムも身を乗り出してそれを見る。そこには命令形の一文が書かれているのみだった。


“シークレットオペレーション・ゲフィオンに協力せよ”


 俺達は理解できずに固まった。


 ゲフィオンとは、神話に出てくる女神の名だ。とある王から『一晩に耕せた分だけ土地をやる』と言われたところ、彼女は巨人族との間に四人の子供をもうけ、その子供らを巨大な牛に変えて鋤を引かせ、一晩で広大な大地を削り取ったとされる。そうして主神に与えられたミッションをトンチ(子作り)で乗り切った、豪快ながらも頭の切れる女神である。ちなみに処女神の一人で、生娘のまま死ぬと彼女の元に送られるらしい。処女要素のかけらもない女神なので、送られた人に待っているのはきっとダメ出しと再教育。


「うーむ……」


 グラハルトが唸る。まぁそうだろう。これだけでは何がなんだか分からない。


「これは……偽物かを疑う以前に、イタズラかを疑いますね」


 アヒムが嫌そうな顔をして言った。感情を表に出したアヒムに対し、グラハルトは冷静に答える。


「だが、王らしいといえば王らしいとも思えるのだ。これだけでは上に報告もできないし、下手に報告をすれば秘密を漏らした事にも成る。さらにこれで我らが何かをしたとしても、この書簡は命令を受けた証拠にならない。かといって無視する訳にもいかない。非常にやっかいだ」


 なるほど。詳細を書いていないのは『君、もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しない』という事か。それでいて王の命令である事をほのめかして無視できなくしている。卑怯者といわれる王がしそうな事だ。


「テオ、オペレーション・ゲフィオンとは何だ。知っていることを話せ」


「あ、いや、私も作戦名を今知ったところで詳しくは……何をしろと言われているかもお話ししかねます……。ただ、数日間帰れないのでその許可を頂きたく……」


「ふざけるな!それでは許可の出しようがないだろ!」


「やめろアヒム。極秘任務とはそういうものだ」


 グラハルトはアヒムをなだめた後、俺の方を見て話しかけてきた。


「テオ、答えられる範囲で教えてくれ。お前はこの任務を、一応は前向きにとらえている。少なくとも否定的ではない。それは何故だ?今はお前の話し方一つで私達の決断は容易に動く。その状況にも関わらず、お前は私達が否定するようには話していない。それは何故だ」


「そこまで前向きでもないのですが……どうも王様は性格が少しアレなようですし。ですが王様の計画がもたらす結果は私にとっても望ましいものなので、協力が出来るならしたい。……という所でしょうか」


「テオ、お前は王の計画を聞かされているのか!?」


「あ、内容まではしりません。ただ、結構早々に講和に持ち込む予定らしいです。そうなれば、お役御免の私達は村に帰れるって寸法です。やりましたね。先が見えてくると、面倒くさい事でも少しやる気が出るってもんです」


 それくらいは良いかなと、俺は情報を漏らした。これが今回の任務の報酬だ。報酬の話くらいはしないと交渉になりはしない。デベルもこれくらいは想定の範囲内のはず。


「な!?講和だと?王はアンブレの要求を呑むつもりか!?」


「なるほど、謎の存在に助けられたとはいえ、魔女による侵攻を一応は退けた今が好機という訳か……。ありえる話ではあるな。相手にとっては予想外の事態だろう。今なら最低限の割譲で済ませられるかもしれない」


 今度はグラハルトが感情を表に出し、アヒムが冷静に分析した。


「テオ、その講和が発表される時期は分かるか?予算調達のために請け負っていた任務等を整理しておきたい。こちらにも準備というものがある」


「詳しくは聞いていませんが、私の任務の結果が講和会議中に伝わるように企んでいるらしいので……一週間から二週間くらいだと思います」


「チッ、本当に早々にだな。だがよく情報をもってきた。テオ、よくやったぞ!グラハルト様、テオを出す許可を!こいつならより詳しい情報を持って帰るでしょうし、こいつが任務を終えて帰ってきた日時が講和が発表される日時の目安になります」


「う、うむ。だがテオ、お前は本当に良いのか?数日かかるというと、他の町、場合によっては敵陣への潜入任務だろう。危険だぞ」


「大丈夫です。皆と戦った時や、この間の戦闘よりは全然安全だと思います。それに、魔女や魔術師の居ない所への任務ですので」


「そうか。では許可を出すにあたり、俺からお前に一つ条件をつける」


 グラハルトがそう言ってタメを作った。俺とアヒムは少し緊張してグラハルトの言葉を待った。


「お前の意思を示せ」


「グラハルト様、それはどういう……」


 アヒムがグラハルトに真意を問う。


「どうもこうもない。わが国に有利となる王からの密命、真偽はさておきテオはそれを信じている。その様な任務に自らの意思を伴わずに就いてどうする」


 うーん、グラハルト個人の拘りなのか騎士の拘りなのか分からないが、俺は一介の兵士だから命令に従うのみでよいと思うのだけどな。


 とはいえ、意思を持って就けというのも上官命令だ。命令に従うのみというなら、この命令にも従うべきだろう。俺はレバーを操作するイメージで、意識を強制的に切り替える。


「ハッ!この度の任務は同胞を救うと同時に、王の権威を守るモノ。また、私が守ると決めている仲間の安全にかかわるモノ。必ずや成し遂げて見せます!なにとぞ許可を!」


「よし、許可する!行って来い!そして必ずや完遂して戻ってこい!」


「ハイ!」


 俺は各所への調整をアヒムに丸投げして、目的地の途についた。

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