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街での活動 その57 利害の一致点

 次のクエストはデベルから発注された。


 別にこちらから仕事を貰いに行ったわけではない。コローナお嬢様のところに遊びに行ったら、メモで呼び出されたのだ。楽しい気分の時に不意をつかれたので、俺はちょっと機嫌が悪い。


「突然よびだしたんですから、もちろんこちらにも良い話なんでしょうね」


「フン、お前らが定期的に顔を出さないのが悪い」


「あらあらデベルさん、そんなに会いたかったのですか?嬉しいー(棒)。怪盗家業はお休み中なのですよ。今は皆さんお忙しいですからね」


 今の衛兵には俺達の遊びに付き合う余裕はない。転位陣なんてものの存在を知ってしまったので、警備方法が根底から覆されてしまった。どうして良いか分からず、単純に人手をかけて巡回を強化する羽目になっている。それでも完全に攻撃を防げるかは疑問。それしか出来ないからやっているだけ。そんな状態が続き、衛兵達は体力的にも精神的にも徐々に追い詰められている。なので俺達も空気を読んで『おとなしくしてます』と宣言している。


「チッ、無駄話はもういい。単刀直入に言う。お前らには捕虜奪還に向かってもらう」


「えー、なんで私達がー」


「この間の後始末の一環だ。この間の戦闘で、わが国が捕虜を殆ど取らなかったのは知っているな」


「ええまぁ。むしろ『頼むから帰って』とばかりに、道中の食料支援までしたとか」


「その通りだ。奴等は転位での移動を前程にした部隊で、補助する人員はおろか食料すら殆ど所持していなかった。それなのに術を使う奴が真っ先に逃げ帰ってしまったのだからな。こちらの支援がなければ帰る事もままならなかった。かといって、こちらにも捕虜を何百人も抱える余裕はない」


「置き去りのまま迎えに来ないなんて酷いですよねぇ」


「誰かが腹いせで石を投げつけてたからな」


「えー、それ私達のせいですかー?」


 俺は苦笑しながらも否定した。


「まぁアレが無くともだ。残された敵兵の話では、前に暗殺されかけた事があるので、少しでも不安要素があれば来ない。敵が居るかも知れない状況では絶対に来ないという事だがな」


 俺のせいだった。この話題には深入りしたくない。俺はさっさと話を進める。


「えっとそれで、こちらは帰したんだから、そっちも返せって奪いに行くわけですか?何その非言語コミュニケーション。ちゃんと偉い人同士で交渉してくださいよ」


「無論、然るべき手段で交渉はなされる。しかしその交渉の真っ最中に捕虜を奪って欲しい。国とは関係のない別の勢力として。そういう依頼だ」


「国と無関係な勢力が奪還って、そんなの誰も信じないでしょうに。国として信頼なくしますよ」


「今の王にとって、この程度は序の口だ。証拠がなければそれでいい」


 今の王は卑怯者で通っている。会戦しても早々に逃げ出すが、逃げながら相手を罠にかけ損耗を強いる戦をする。その上で別の連隊に相手の手薄な所を攻め込まさせ、相手が戦争を継続できないようにするのだ。そういった嫌らしい方法で、戦では負けても国としては負けずに領土を護ってきた。


 しかし、今回の戦争では本当に負け続けていた。


 これまでは敵軍の位置や行動を把握し、先回りする事で対処できていた。これにはデベルの情報網も絡んでいるのだろう。デベルはお金や文書だけとはいえ、長距離でも瞬時に転送する事ができる。そんな組織の協力があれば、有利に事を進められるだろう。


 しかし今や相手は兵そのものを転位できる。別働隊で裏をかこうにも、気付かれた時点ですぐ大軍を送り込まれる。それどころか背後に転位され、魔女の力で一方的に蹂躙される。今は情報を瞬時に送れる程度では有利にならない。


 いきなり王都を攻め落とさないのは、まだ敵が転位出来る事を隠したがっているからだろう。さすがにそんな事をすれば、世界中の国に敵にとして認識される。その程度の理由で、この国は負けずに済んでいた。


 しかしここに来て、卑怯者の王が反撃を企んでいるようだ。


「そんなセコい仕返しで、負けてないアピールですか。ヤレヤレな王様ですねぇ」


「フッ、それ以上は詳しくは言えん。ただ、まもなく戦争は終わる。もう出来る事は限られているのだ」


「へ!?そうなんですか?それは嬉しい情報です」


「普通の戦争はな、基本的に国の兵隊同士が殺しあうものだ。領民の死者はそこまで多くはない。領地と領民はセットで、奪い合いの対象でもある。それを破壊してしまっては、戦争の意味すら薄れるというものだ。まぁ無論、戦場にもなれば巻き込まれたり略奪にはあうがな。それら領民が居て、物資を生産し続けてくれるからこそ国も戦争が継続できる。だがしかし、突如起こった謎の天災により、敵国の領地が広範囲に領民ごと破壊された。戦争はもう続けられない」


「謎の天災ねぇ……」


「報告によれば、投石の対象となった町に向かう途中、その道中に二つか三つはあるはずの村も存在しなかったとの事だ。村がというより、あたり一帯が破壊されていた。木々はなぎ倒され、構造物は砕けて原型をとどめず、地上の生き物は全て血を吹いて息絶えていた。さらにその周辺の村々でも轟音と地響き、季節はずれの嵐や雷鳴に見舞われた。突如起こった謎の天変地異に皆が戦々恐々とし、農民にとっては戦争より大事なはずの収穫祭の準備すら止まっているらしい。もう破壊の跡が大規模すぎて、誰にも何が起こったか想像できない。しかも敵国にしてみれば、そんな報告が国中から同時に届いているのだ。もう謎の天災としか言いようが無い」


「何が起きているか分かってたら、それはもう関係者ですもんねぇ。っていうか、そんな情報を持っているデベルさんって、関係者ってバレバレですよね」


「フッ、情報屋が情報を持っていても、何ら不思議な事ではないだろう?広いツテがある。それだけだ」


 忘れていたが、デベルの裏世界の表の顔は情報屋だった。大抵は主謀犯だが。


「状況は分かりましたが、王様が何をやりたいのか分かりませんねぇ。敵が戦闘継続不可能なら、攻勢の好機じゃないですか。捕虜だって正々堂々と武力で奪還すればいいのに」


「国は我ら二国だけではないからな。この国にだってもう攻勢に回すような戦力はない。下手な運用をすれば、次に別の国から攻め込まれるだろう。それは向こうも同じだ。なので、早急に、平和的に講和する。それが両国の利害の一致点だ。王がしたいのは、その上で正々堂々とペテンにかける事だな。それで王の威厳を保つ。それが王の望む落としどころだ」


 正々堂々ペテンにかけるとか、ペテンで王の威厳を保つとか、突っ込み所満載な説明に俺は苦笑した。


「本当にヤレヤレな王様ですね……。でもそれで?王様の要望どおりに私達が捕虜を奪還したとして、私達にどのような報酬を頂けるので?」


「戦争が早期に、平和裏に終わる。兵士達も戦争から解放される。それでは不満か?」


「えー、それって報酬って感じがしないですよう……素直に嬉しいけど……」


 戦争が終われば自分の村に帰れるのだ。協力できるなら協力したい。俺はクーに目線を送り、依頼を受けても良いか問う。クーはそれを受け、ため息をしながら答える。


「ヤレヤレ、仕方が無いですね。兵士の中にはお姉様の想い人も含まれますしね」


「え!?あれ?デベルさんの提案ってそういう意味?」


 俺は驚いてデベルを見る。デベルは真面目な顔で俺の返答を待っていた。どうやら俺は素でデベルの意図を勘違いしたようだ。


「うー違うー。依頼は受けるけど、想い人のためとか違うー。そんなんじゃないー」


 俺は説明できないもどかしさにバタバタ暴れながら地団駄を踏んだ。

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