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街での活動 その50 いとも容易く現実化するとんでもない世界

区切りどころを見失って長くなりました

「ケイツハルト様、今のは伝説にある|隕石≪メテオ≫では……」


「デベルよ。お主はワシの話を聞いておらなんだか。今のはメテオではない。投石じゃ」


 デベルはそういう事を言いたいのではない。


 伝説にあるメテオは、名前を言ってはいけない大魔王の象徴。大魔王を名指しで否定した結果、いくつもの国がメテオを落とされて消滅。人々の間では名前を呼ぶことすらタブーとなったとされる。


 各地にある円形の湖には大抵メテオ伝説があり、モルダバイトなどのインパクトグラスには大魔王の魔力が残っているとして、高値で売られている。


 まぁ、大人が小さい子供にする怖いおとぎ話の一つだ。誰でも知っているけれど、大人は誰も信じていない作り話。俺だってもう信じていなかった。


 でもケイツハルトの話しを聞いていると、そのおとぎ話は全くのデタラメでもない様に思えてくる。


 ケイツハルトのやっていた嫌がらせが伝説に出てくるメテオであり、伝説の大魔王はケイツハルトなのでは。デベルの言っているのはそういう事だ。


 しかしそれが伝説になったのは、ケイツハルトやクーが眠りについてから。なので話が通じてない。仕方が無いので俺が指摘する。


 すると、ケイツハルトは笑い出した。


「フォッフォッフォ、ワシほど人類に貢献した者もおらんのじゃよ。それが人類の敵の大魔王じゃと?ありえぬ。先ほどのジョンブール人もな、ワシと同じく妬み嫌われておった。宣伝映像の行いだけでも、ワシの評価は回復したはずなのじゃ」


 どうやら恐怖の大魔王はその自覚がないらしい。俺とデベルが反応に困っていると、クーがズバっと切り込んだ。


「ヤレヤレ、ケイツハルトは人の心が分かっていませんね。それだから嫌われるのです」


「むむ!何がいかんのじゃ!」


 ここでケイツハルトを非難できるのはクーしか居ない。俺とデベルはクーに期待の目を向ける。


「配信方法が最悪でした。ケイツハルトは全人類に強制同時配信してしまったではないですか。映像割り込みのブロードキャストなんて、誰でも殺意が湧きますよ。ましてやそれをやったのが嫌われ者のケイツハルトなのです。殺されてしまうのも当然ですよ」


「ぬぅ……一度嫌われると挽回するのは難しいものなのじゃのう……」


 いや一番の原因は映像の内容だと思うんだが。手の届かない空から、一方的に破壊される側の恐怖は理解できないようだ。幽霊コンビはやはりどこかネジが外れている。


「ではケイツハルト様、この投石を他に行っていた者はいますか?」


「いや、おらぬな。宣伝が足りなかったのかもしれぬ」


「そういう問題じゃない気が……」


「単純に技術的な問題ですね。転位加速で音速を超えるには、ミリセコンドオーダーの発動が必要です。しかも結界内に閉じ込めながら行う必要があり、アンカーが結界に当たれば爆発します。一人で行うのは当然困難。複数人で円陣を組んで同時発動させる試みも行われましたが、成功はしていませんね」


 おっと、やろうとしている人は居たようだ。俺が思うより人類は業が深い。


「ふーむ、必要だったのは宣伝映像ではなくやり方の講座じゃったか。そんな難しくないんじゃがの。こう指の中で魔力を発振させ、周波数をあげながら指先に押し込んでいくイメージでブブブーン、キィーンと……」


 ケイツハルトがまたアンカーを振動させだしたので、俺とデベルはビクっとする。しかし、アンカーは飛んでいかず、一瞬でピタッと静止した。そっか、止める時は普通の馬車から降りるのと変わらないのか。


「ケイツハルト、その『ね、簡単でしょう?』みたいのも止めるべきです」


「ぐぬぬ……」


 伝説の大魔王は、孫に怒られるお爺さんみたいにしょんぼりした。俺は呆れて見ている事しかできなかったが、デベルは冷静に動いた。


「つまり、今も昔もこの投石が出来るのはケイツハルト様ただお一人という事ですね。私は急ぎやる事が出来ました。王都まで飛ばして頂けませんか?あとクソジャリの二人!投石の事は絶対に口外するな!いいな!絶対だぞ!」


 デベルはバツの付けられた町の名前をメモすると、棺桶のような交換型転位陣に入って転位していった。


「壮大な前振りをしていきましたね」


「いやいや、デベルさんはそういうキャラじゃないでしょ。たぶん言ったら本気で怒られるよ。それに、私もさっきの事は人前で言わない方が良いと思う」


 気分を晴らすために幾つかの町を破壊しました。そんな事を言えるわけが無い。


 デベルが何を企んでいるのは気にはなる。デベルも悪い事を平気でやる人間だし。でもこの件は俺達の手に余りすぎる。それに別の国の遠い町の話だ。あえて口にする事も無い。俺はこの件に関しては口をつぐむ事にした。


***


 地上の街はというと、復興のためにすでに人が動きだしていた。


 北門は跡形も無く壊され、周囲も広範囲に吹き飛ばされてしまったのに、すぐに前向きに動き出せる大人達には敬服する。


 俺だったら「いっそ今この時に世界が滅びてくれないかな」と天に願うところだ。


 俺はそんな事を思いながら、自分と仲間の私物をガレキの中から掘り起こしていた。探し物の豆水晶とクーの走査で、埋もれた物も簡単に見つけることが出来る。でも掘り起こすのは少し大変。


 そこに、馬に乗った地雷お嬢様が父親と一緒にやって来た。護衛の騎士も連れている。貴族のお嬢様みたい。まぁ本物の貴族なんだけど、別の顔の方を見慣れているので変な感じ。


「この辺りにも塔を一つ建てたい。ここから城門塔までカバーできるか?」


「同じ高さ、単純な矢弾という条件であれば、二十度ほどの仰角で到達可能です」


「よろしい。では壁と平行になるように六十メートル四方で敷地を確保してくれ」


 お嬢様の父がそう言うと、使用人達が動き出して縄を張り出した。お嬢様たちも何か企んでいるようだ。とても気になる。


 俺は無邪気な子供を装って近付き、ヒゲダンディなお嬢様のパパに話しかける。


「何かここに作るのー?」


「コラお前近付くな!あっち行ってろ!」


 当然の様に護衛に止められた。仕方が無い、今度お嬢様の方に聞こう。


 俺はぷーっとふくれっ面で不満を表明しつつ、私物探しに戻ろうとした。そこにヒゲダンディが声をかけてきた。


「いや待て、そのスティレットに付いている紋章、お前もこの街の兵士なのか?」


 無断で私物化して持ち歩いているスティレットに気付かれた。無邪気な子供を全然装えていなかった。これは身分を明かさないとヤバイ。盗んだと思われたら捕まってしまう。


「あ、はい!シュラヴァルト領から来たテオと言います!今は南門で衛兵もやらさせて貰っています!」


「うーむ、この様な少年まで兵として徴用しているのか。この国の兵士不足もここまで来たか」


「あ、いや、これには色々と事情がありまして……」


 俺はお嬢様がよくやるのいびつな笑顔を少し真似して困った顔を作った。人不足と思わせるためのウチの領主の策略──とは言えない。


「だが案ずるな少年よ!ワシの構想が実現した暁には、少年兵など使う必要はなくなる。おヌシはすぐにでも村に帰れるぞ」


 うん、気を使ってくれてるのは分かる。でも面と向かって「要らない」って言われると、ちょっとカチンとくるものがある。俺だって色々頑張ってるのに。こういう時は……なんだっけ、領主を引き合いに出して反論するんだっけか。


「閣下、いくら私の故郷が田舎の小さな領地とはいえ、大人が居ないから子供を使うなどという事はしません。また、私は我が主が命じられて兵士としてこの街に来ています。不要だから帰れと言われて喜ぶなどと思わないで頂きたい」


 俺の反論と同時に、護衛の騎士が俺の前に割って入ろうとした。しかしヒゲダンディは動じずにそれを片手で制止。そして俺の目を見て、ヒゲを弄りながら言った。


「ふむ、ただの穴埋めではないようだな。ではこちらも誤解を解かせてもらおう。少年兵の否定には私なりの理由がある。それはオヌシの資質を疑うものでも、名誉を傷つけるものでもない。この世に働くシステムのためだ」


「システム?」


「さよう。これはとある国の話しだ。その国では少年兵が様々な所で使用され続けている。コストが安く、使い捨てに出来る消耗品としてな」


「閣下、少年兵なんて多用されるほど良いものじゃありませんよ?背も力も大人に敵いませんし、殆どの武器や防具が使えません。私はそれを身をもって知っています」


「だろうな。でもそれは大人と同じ戦い方をするからだ。三人で一人を囲み、一人二人が死ぬ前程で一斉にかかれば大人だろうと倒せる。強い弓が使えずとも、多くが犬死にする前程で大人数で突撃すれば、幾人かは敵に矢を届かせる」


「えっ!?そんなの人の戦い方じゃあありませんよ。虫みたいじゃないですか!」


「お前の憤りは分かる。しかしそこで感情的になってはいかん。感情を沸騰させて満足するのは、推理力に弱みのある者に任せよう。我々はなぜそうなるのかを考えなくてはならん」


「そんなものの理由なんて、指揮官がクズだからで、それを止められない大人達が無能だからで、世の中がクソだからですよ」


「ハッハッハ、それには同意する。しかし我々は、そうなるシステム上の理由をも考えねばならん。クソったれな世界で生きる者としてな」


「またシステムですか」


「さよう。先の例で言えば、指揮官がその戦術が取るのは戦果が上げられるからであり、損耗率が高くとも部隊を維持できるからだ。指揮官の立場で言えば、合理的選択になっている。戦果を最大化するためのユニットとして指揮官を考えれば、おかしな行動ではないだろう?」


「人としての心はないのですか」


「そんなモノに期待するな。倫理観など小さな摩擦に過ぎない。どういった力が働き、どういう仕組みで動いているかだけを考えろ」


 そういう考え方は、クーとの会話で鍛えられているつもり。


「損耗率が高くとも成り立つのは、すぐに調達できるから。子供は大人より生産サイクルが短く、コストが安いから。そういう考え方をしろと?」


「そうだな。それに加えて買うのも略奪も容易い。さらに言うなら親を殺せば子供は手に入る。何度も使えない手ではあるがな」


「そうやって入手した兵を力に、さらに調達が容易になるわけですね。確かに上手く回せそうです」


「理解が早いな。しかしそれだけでもない。時が経つと社会も組織も変質していき、使い捨てサイクルをさらに強化する別のサイクルが生まれる。社会が荒廃すれば調達が容易になる。なので使い捨て組織は、社会を荒廃させるよう行動しだす。これが社会を巻き込んだ強化サイクルだ。また、指揮官は使い捨ての戦術しか立てれなくなるし、組織からは兵を鍛える人材もノウハウも意識すら消えていく。人のコストが安いため設備や装備に金はかけず、技術開発も行われない。そうして人的、技術的に他より劣りだすと、さらに過酷な使い捨てに頼らざるを得なくなる。これらが組織の変質による強化サイクルだな」


「上手くできた悪循環ですねぇ。陥り易く抜け難いのは理解しました。しかしそれでもやはり、その悪循環を看過している大人達には呆れてしまいます。被害者になりうる子供として、憤りしか覚えません」


「まぁそうだな。しかし大人達も好きで看過している訳ではないのだよ。分かっていてもなかなか抜け出せないんだ。もう一つ言えば、そうした組織の人間だって、始めは高い志があったかもしれないんだよ。兵士不足から少年兵に手を出しただけかもしれない。今の状態からは想像も出来ないけれどな」


「閣下は随分とダメダメな国の肩を持ちますね」


「ワシもとある領地を経営する立場でな。他国の失敗に哀れみは感じるが、憤りや憎しみは感じない。社会のシステムというのは少し意図しない方向に転がり出すだけで、容易に泥沼にはまる。全くの他人事ではないのだよ。馬鹿にしたりなど出来るわけもない。この国でも同じ類のサイクルに嵌っている例があるくらいなんだよ」


「そうなのですか?閣下の反応、いや、これまで受けてきた私の扱われ方から言えば、この国で少年兵は稀なケースと思われますが」


「先のサイクルは少年兵に限った話ではないのだよ。例えばだが、領地経営者が安い労働者を求めた場合にも、似たような状況に陥る。安いから使い捨てにしやすくなり、そのうち使い捨ての戦術しかとれなくなる。そして人材育成はされなくなり、技術的には衰退の一途を辿る。そうなればもう後戻りは出来ない。後はもう、さらに社会が貧しくなるようにと働きかけ、安い労働力を調達しやすくするようにするしかなくなる」


「うーん。これまた見事な悪循環ですね。少し面白くなってきました」


「子供が被害者でなくなったとたんにソレか。ヤレヤレだな。しかしまぁ、お前の主がお前を送り出したのは、世界を見させる目的のためだろう。つい長話をしてしまったが、ワシの話がお前の役になればと思う。組織や社会をモデル化してシステムとして捉える例としてな」


「あ……貴重なお話をお聞かせ頂き、感謝いたします」


 知らず知らずのうちに教育されていたようだ。ウチの領主の事を誤解しているが。


 俺は話しの内容から意識が戻り我に返った。そして本来の目的を思い出した。話が打ち切られる前に、聞ける事は聞いておこう。


「閣下、もしよければ後学のために、ここに建てるものについても教えて頂けませんか?」


「ほう……聞きたいか」


 ヒゲダンディは、ヒゲごしでも分かる不適な笑みを浮かべた。


 俺はどうやらヒゲダンディの変なボタンを押してしまったようだ。


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