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街での活動 その47 都市防衛戦4

 遅れに遅れた俺は、余計な事を考えないように今度は真面目に壁の上を走る。すると、意外と早く味方に追いついた。敵に押されて後退させられていたのだ。


 実戦経験の差かもしれないが、こちらにとっては馴染んだ場所という地の利もある。もう少し善戦していると思ったのに。俺にとっては少し意外だった。


「クー、これから俺の姿を見えなくして貰うけど、すこしだけ面倒な注文がある。俺が敵を攻撃する一瞬だけ、俺の姿を皆に見せたい。敵と味方両方に」


「見せるならば敵味方の区別は出来ませんよ。そういう仕様ですから。ただ、攻撃する所を見せるとなると、相手には傷も痛み感じてもらわねばなりません。痛み苦しみ、テオを恨む声を聞くことになりますが、それでも良いですか?」


「かまわない。その方が味方の士気が上がる。それに──いや、それだけ。最後の声くらいは聞いてあげるつもりだよ」


 俺はもう一つの理由を言いかけて止めた。


 クーは、相手に死んだ事をも悟らせない方が良いと考えている。痛みも絶望も感じさせずに意識を断ち切る。それが慈悲深い良い殺し方だと思っているようなのだ。


 でも俺にはそれが慈悲深い行為とは到底思えなかった。絶望するにせよ後悔するにせよ、恨むにせよ呪うにせよ、死にゆく者にはその時間過ごす権利があると思うのだ。少なくとも俺はそれが欲しい。どんな不運な人生で、どんな酷い終わり方だとしても、最後に自分の人生を総決算して結論を出すヒマくらいは欲しい。


 その内にクーと議論してみたいテーマではある。でも今はその時ではない。


 俺は凸凹した城壁のヘリ(ツィンネ)に登り、味方の脇を抜けて前に出る。


「先輩方!新米のくせに遅れてすみません!」


「おい小僧!危ねぇ!」


 敵兵が俺に斬りかかってきた。


 俺はそれを避けながら、ヘリから敵兵の顔面を蹴って道に下りる。そして突刺し専用の短剣スティレットを取り出す。


「敵兵のみなさん!異国の地でむくろとなる覚悟は既にお済ですか?最後の瞬間に何を思うか決めましたか?後悔する時間くらいは残そうと努力しますが、そちらでも少しは準備しておいて下さいね!」


「ふざけるな!」


 敵が再び斬りかかってきた。俺がそれをかなり前もって避けると、幻影が残されて敵兵はそれを斬った。


「なっ!消え……どこへいった!」


 俺は悠々と敵の後ろに回りこみ、脇の下から突き上げるようにスティレットを突き刺した。


「ガ!なに!?」


 致命傷ではないが、体制が低くなった。俺はここぞとばかりに、兜の目出し用スリットにスティレットを添え、ガントレットをハンマーにして杭を打つように叩き込む。


 鉄の杭を打ちこまれた敵兵は、バランスを崩した人形のように重力に逆らう力を失い、勢いよく石の床に倒れた。その様子に、敵も味方も固まった。


「今のは後悔する時間なんてありませんでしたね。ごめんなさい」


 俺は敵兵の兜を踏みながらスティレットを引き抜く。


「先輩方、それでは西門に急ぎましょうか」


***


 そこからもはや作業だった。唯一の救いは、一人じゃなかった事。


 俺が先行して敵を刺すと、戦闘不能になった後は先輩がトドメを刺してくれた。


 壁の上を南に進んできたのは二十名程で、最後の三名は逃げ出した。


 走る相手の鎧の隙間を狙うのは難しいので、俺は相手が止まるまで一緒に走って付いていく。


 逃げ出した敵は城門塔に入ると足を止め、内側から戸を閉めようとした。


 俺はその敵兵を、また脇の下からブスリと刺して閉扉へいひを阻止。残りの二名はそれを見て階下に逃亡。刺された兵も、恐怖の声をあげながら階段を下っていった。


 俺は戸をあけて、仲間にOKの合図を送る。


 そして小声でクーに相談。


「全員下に逃げて行ったね。どういう事だろう?北門に向かった部隊が居るなら、一人はそちらに挟撃の危険を知らせに行くべきだと思うんだけどな」


「来た方向に逃げただけではないですか?人間は死の危険が迫ると冷静な判断が出来なくなりますし」


「気にし過ぎか。この周囲の状況を教えて」


「息のある敵兵はこの塔の上に三名、下階に八名、地上に六十五ですね。既に地上では軍が応戦しています」


「やれやれ多いな。転位陣はどこ?」


「門前広場の入り口に止まっています。門からだと三十メートルですね」


「投石は無理か。この辺には池もないしな」


 とはいえ俺は西門の事を任された。期待には応えたい。


「水がダメなら火かね。近付いて馬車を燃やしたらどうなる?」


「敵兵は混乱はするでしょうが転位陣は止まりません。周囲の環境を読み取るアタッチメントは別売りです」


「チェッ、標準装備にしておいて欲しかったな」


 先輩方が恐る恐る城門塔に入ってきた。とりあえず今は皆を動かした方がいいだろう。


 俺は上と階下に居る敵を指で示し、下り階段を見張らせながら上に向かおうとした。


 その時───


「テオ、魔女が転位して来ました。警戒してください」


「え!?ここに?」


 思いがけない警告に、俺は人目を気に出来ずに慌てふためく。


「いえ、私の感知範囲には居ません。テオの魔力感知玉が反応しています」


 俺は魔力感知の豆水晶を確認する。豆水晶は直視できない程に輝いていた。


「ここじゃないとしたらどこ?北門か!?」


 俺は味方の事など忘れて登り階段を駆け上がり、屋上に出る。そして敵兵の事も無視して、塔のヘリにしがみついて北門の方を見た。


「北門は魔女に壊させる気か!」


 俺は魔女の存在をすっかり忘れていた。転位陣に振り回されて、そちらをどうするかだけ考えていた。だが相手の最大戦力は魔女。俺は完全に読み間違えていた。


「アレはダメだ。人間がどうこう出来る相手じゃない。どうする?どこに逃げる?どうやって逃げる?他の皆はどこにいる?」


「テオ、落ち着いてください。北門に行かなければ安全です」


「そ、そうか?ま、まぁここにはアチラの味方も居るからな……」


 俺は回りに居る敵兵を横目で見ながら、冷静さを取り戻す。


 そうだ、魔女に襲わせるつもりなら、わざわざ転位陣を送り込んで攻めてこない。街は壊さずに占領したいから歩兵で制圧しようとしているのだ。


「皆は?ウチの隊の皆はどこにいる?北門じゃないよね」


 占いの豆水晶で皆の方向を確認すると東を指した。よし、北門には居ない。


 俺は階下に降り、衛兵の皆に状況を説明する。


「上手く説明できませんが、今は中に留まるのが一番安全です。上下の敵兵に注意しながら待機しましょう」


「せめて上の敵だけでもやっつけないか?片側だけに集中した方が安全じゃろう」


 一人の先輩が俺の案に異を唱えた。普通に考えればもっともな意見だ。他の先輩も頷いている。でもダメだ。門を制圧しているとバレたら、魔女に門ごと吹き飛ばされるかもしれない。


「ダメです。今は私の指示に従ってください」


 俺は困った顔をしつつ、短剣を力いっぱい握り締めてお願いをする。先輩達は気圧されて少し下がった。


「ごめんなさい。今は本当に余裕が無いんです」


 俺は心苦しくなって皆から目を背け、北門に続く扉から北門を確認する。


 門の向こうには、俺トラウマを植え付けた化け物の頭と背中が見えた。こちらに後ろを向け、まだうずくまっている。でも俺はそれを見ただけで心臓が高鳴り、息が苦しくなった。


「ついにきた……魔女だ……」


「おい小僧!どうした!何が来たって?───なんじゃありゃあ!」


「何!?」「外に何があるんだ!」


 異変に気付き、先輩達も扉に集まった。そして言葉を失った。


 化け物は大き過ぎた。頭を上げて立ち上がると、巨大な城門塔ごしにも、大きなお尻が見える。それくらい巨大な化け物だった。だがしかし巨人ではない。大きい事が特徴な化け物ではないのだ。


 頭と胴体のみが人の鳥型の化け物。ハーピーという奴だった。


 こうして俺のトラウマは、再び俺の前に姿を現した。

よし!少し進んだ!

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