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街での活動 その42 安心残念開発会議

どうでもいいけど、他のを参考に読点へらしてみた。

 姉妹怪盗の姉(俺)は、それを捕まえようとする少年(俺)に恋をした。どうやらそういう事になっているらしい。もう訳が分からない。


 一方、そんな誤解を受ける原因を作ったクーは、ニヤニヤと嬉しそうな顔をしている。


「テオ、恨めしそうな顔をしてどうかしましたか?全て順調でしょう?」


 ああクソ!やはりコイツの企みか。怪盗とそれを捕らえる者の恋。コイツが好きそうなシチュエーションだと思ったんだ。


 だがしかし、俺にもまだ抵抗の余地がある。捕縛役の俺が恋になびかなければ良いだけだ。その気を見せなければ、そのうち飽きる……はず。


 ああ面倒くさい。女性たちの恋愛フィルターごしのマナザシにはホント困った。すぐに誰が誰を好きと想像して噂話にしたがる。女の人は別として、世の中の男はそこまで恋愛に興味なんて無いと思うんだけどな。恋人も大事かもしれないけれど、まずは自分の力で生きていけるように成りたい。そう思うもんだと思う。だって恋愛したって恋人作ったって結婚したって、男はそれじゃ食べていけないわけで。


 まぁそんな事をクーに言っても、罵られるだけなんだけど。ホント自分勝手。ヤダヤダ。


 そんな困った女性が多い中、唯一の癒しが残念地雷お嬢様。


 彼女は恋愛話に疎いので、今の俺でも安心して会いにいける。


「ううう、や、やはり人力か。人力に回帰してしまうのか。進め無限軌道ぉ!」


 お嬢様は机に向かい、銀筆でカリカリと何かを描いている。タイトルは『足踏み式均土機#2』。四人の大人が足踏み旋盤のような機構を踏み、機械を前に動かす構造のようだ。これ絶対に歩いたほうが早い。


 あぁ、相変わらずの残念っぷり。とても癒される。


「やれやれ、だいぶ迷走しているようですね」


「あ、師匠!」


 防具型アクセサリーの方は何とかなりそうだったので、俺はクーにヒントを出す許可を与えた。流石に独りで悩ませ続けるのは酷だと思ったからだ。


「しぃしょ~、全然ダメです。水車から離れてしまうと、馬どころか豚、いや、人にも勝てません!いったいどうしたら!」


「力が欲しいか」


「は?へ?」


「力が欲しのなら……くれてやる!!」


「し、師匠?え?え?」


 次の瞬間、クーから黒い霧が発せられてお嬢様に纏わりついた。そして物質を形成していった。


 俺はため息を付きながら、クーの脳天にチョップを叩き込む。それと同時に、お嬢様の周りに形成されかけていたパワードスーツが弾けとんで消滅した。


「ふざけ過ぎです」


「ぶー、お姉様、私はただナノマシンという夢の世界を見せようと──」


「そういう魔法みたいなのはいいから」


 クーがはしゃいでいるようだ。非常に分かり難いが、お預けされた犬に「よし」と許可を出した感じになってる。


「お姉様、とはいえですね、いざ説明しようとすると足りない概念が多過ぎて難しいのですよ。遊びながらじっくりやらせて下さい」


「や、やはり難しいのですか」


「そうですね。この街には温度を数値化するという概念すらありませんし。今のお料理感覚のやり方では、失敗する度に死人がでてしまいます」


 一応はクーなりに考えているのか。でも理屈ばかりで話されると、今度は俺がついていけない。


「とはいっても実例を見せた方が早いのではなくて。ねぇクーデリンデ、まずは貴方が私に始めに見せた機械兵器について説明してくれない?あれなら簡単なのではなくて?」


「アレもそれほど単純な機構ではないのですが。まあ良いでしょう」


 クーは前に見せた鉄柱を床の上に出した。その鉄柱はまたプシップシッっと変形し、またパシュパシュッっと俺を狙って弾を撃ってきた。俺はそれを慌てずスタイリッシュに避けた。


「解説のために、一部材質を透明アルミニウムに変更します」


 クーがそう言って指を鳴らすと、中身が透けて見えるようになった。


「これは空気圧を利用して弾を射出する装置です。ここに圧縮空気を溜めるエアタンク、空気を圧縮するコンプレッサーがあり、コンプレッサー及び制御回路の電源として、空気マグネシウム電池があります」


 うん、何を言っているのか分からない。でも、それを認めるのはマズイ。お嬢様の中での俺の地位が失墜してしまう。というか、クーの「ほら、理解できないでしょう?」と言わんばかりの目線がムカツク。ここはハッタリで乗り切ってやる。


「ふむふむ、なるほどなるほど」


「あ、姉弟子には分かるのですか!」


 え?いつから俺は姉弟子になったの?というか、俺はクーの弟子じゃない。うーん面白くない。が、とりあえず今はお嬢様に先輩風を吹かせるとしよう。


「お嬢様、こういった未知の機械に遭遇した時は、ある四つの視点で認識すると良いのです。それは、目的、系統、製造又は技術的要因、そしてメカニズムです」


 お嬢様が俺の方を見て、俺の言葉をメモしていく。なにこれ気持ちいい。クーがお嬢様に色々教えてしまうのも分かる。


「まずは目的ですね。この機械は弾を撃つ機械ですが、おおゆみではなく、圧縮空気で撃ち出しています。これは恐らく、連続して射出するためと思われます。また、コンプレッサーは使った空気圧を補填するため、電池はコンプレッサーを動かすため。この様に目的という目線で構造を把握する事ができます」


 俺はクーをチラリと見る。よし、黙って見てる。


「二つ目は系統です。機械の構造というものは、何も無いところから突然編み出される事は稀です。普通は既存技術の流用。新しいものでも、似た様な機械から小さなイノベーションを積み重ねて生み出されます。この機械に使われている圧縮空気を使った機構も、例外ではありません。きっと以前に検討した油圧鍛造機の派生です。また、変形や脚のパイル撃ちにも圧縮空気が使われています。圧縮空気で機械を動かすのは良くある事なのでしょう。また、コンプレッサーと電池が付随するのも、良くある組み合わせなのかも知れません。そういった背景があって、この機械は生まれて来た事が分かります」


 お嬢様が真剣に俺の言葉をメモる。俺はそれが一段落するのを待ってから話を続けた。


「次に製造や技術的要因ですが、そうですね……きっとコンプレッサーがある理由は、タンクには圧力制限があるからでしょう。弾の装填数に対して十分な空気を圧縮して溜められるのであれば、コンプレッサーは不要になるはずです。そうすれば電池も不要になったかもしれません。でも出来なかった。そういう事が分かります」


「あ、あ、そうですね。エアタンクもゼンマイの様に使えますね」


 あ、そうかも。


「最後にメカニズムです。圧縮空気が弾を打ち出すのは、圧力で弾を押すからですね。コンプレッサーが空気を圧縮するのは、この往復する部分と弁の組み合わせによるものでしょう。これが動くメカニズムは……さ、クーデリンデ、説明してあげて!」


「やれやれですね。『ティンバーゲンの四つのナゼ』をリバースエンジニアリングに流用したまでは感心しましたが、やはりその辺りまでですね。そこから先は前提とする知識が多くなるので、今のお二人が理解するのは無理です」


 クーは元ネタをバラして、俺のガンバリを全て持っていった。クソ、やはりバレていたか。


「ティ、ティンバーゲンの四つのナゼとは何でしょうか」


「生物学上の概念ですよ。生物の機能や行動の理由は、四つに分類できるという。お姉様の読書は無節操ですからね。意外な事を知っていたりします」


 いやそれブーメランだから!お前の蔵書が無節操って事だから!


「あ、後で私も調べてみます。で、ですが師匠、私はコンプレッサーと電池の部分がどうしても知りたいです。それが私の機械に足りないものだと思うのです」


「お嬢様、電池に拘る必要はないのですよ。要はエネルギーを常温常圧で、安定的に長期間保存でき、かつ既存の輸送インフラに乗せられる方法という事です。それが何かは技術レベルで変わります。今のお嬢様の技術にあった物を探して下さい。ただし、これを制するものが世界経済を制します。経済的には動力機械やエネルギー発生炉よりも重要ですから、国の役人とも話し合ってください」


「えええ、えーと……エネルギーとは何でしょうか……」


「そうですよね、すみません。では、エネルギーという概念から説明していきますね」


 そこからは俺が出しゃばるスキがなく、クーの講義が延々と続いた。俺はお嬢様と席を並べて勉強する事しか出来なかった。悔しいけど知識ではコイツに勝てない。


***


 勉強の後に三人で話し合った結果、動力水道網ハイドロウリックパワーネットワークの整備と、小型の煙管汽缶(ボイラ)の開発をする事にした。


 蒸気機関は何とか作れそうだが、破裂して建物ごと吹き飛んだり、蒸気が漏れて人が丸ごと蒸し焼きになるのを見せられると、大型の物は怖くて手が出せなかった。


 そして、そもそも据え置きの動力なら動力水道網で良いのでは?となったのだ。


 研究室の建物はまだ計画段階なので、今なら十分織り込める。


 しかし、将来的には動き回る機械も作りたいので、小型の煙管汽缶の開発も進める。


 それと平行して、お嬢様の実家の力で古代文献にある液火を探す。エネルギーの保存形態として有望そうだった。そして、それが再現できたところで焼玉機関も視野に入れていくとした。


 書き出したロードマップを前にして、お嬢様は中空を眺めながらボーっとしている。何やら恋する乙女の目。


 そう、この日お嬢様は恋をした。


「た、タービンエンジン……なんてかっこいいのでしょう……でもあんなものどうすれば……」


相手はクーの見せたとてもとても大きな音のエンジン。

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