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街での活動 その40 中二拳闘士覚醒

長くなっちゃったけど、一回にまとめたった

 クーは、少年姿の俺を使って、防具風アクセサリーを宣伝するプランを立てた。


 俺が新たに少年役として登場し、怪盗姉妹に戦いを挑む。俺の扮していた姉は、クーが引き継ぐ。


 最近は内容がマンネリ化してきていたし、新キャラ乱入は悪くない選択だ。まぁ、新キャラと言っても俺なんだけど。


 それにしても、戦うってどうするんだ?衛兵試験でやったみたいに、近付いてミゾオチに一発入れるのか?クー相手に?


 そんな疑問を、兵舎の裏でクーにぶつけてみた。


「最悪の発想です。テオの頭にゴキブリが湧いているのは知っていましたが、ついに精神を乗っ取られましたか?それで人の心を掴めるわけないでしょう」


 案の定、罵られた。


「うんまぁ、絵的に最悪なのは認める。でも、この装備って、拳闘士のものだよね。戦うっていったら、殴る蹴る、あとは関節技くらいじゃない」


「私はいたいけな少女ですよ?直接戦うわけが無いじゃないですか。テオが戦うのは、機械兵器です。それを乗り越えて、私を捕まえたら勝ちとします。機械兵器のサンプルはこの様なものです」


 クーはそう言って指をパチンと鳴らす。すると、空から人間大の鉄の柱が落ちてきた。


 ズーン!!


「うわっと、あぶねぇ」


 ブンッ……


 不穏な音を立てて、柱に光の模様が浮かび上がった。そして、プシュっと下側が開き、バシュバシュっと地面に杭が打ちつけられる。次に、柱がお辞儀をするように中央で90度曲がり、お辞儀した部分が少し後退。そして、ガチャリと固定された。


 キュイッ、キュイッ、フィィィィンッ


 お辞儀した頭がこちらを向いた。先端には穴がいくつか開いていて、まるでこちらを見ているようだ。


 そして、先端の少し後ろが回りだしたかと思うと、目の前が一瞬赤く光り、機械の穴から一筋の赤い線が伸びた。


「うぉぃ!」


 パシュッ!ギーン


 俺が逃げると同時に何かが射出され、石壁に当たって火花を散らした。


 そして、機械はすぐに頭の向きを変え、新たに赤い線をだす。


「えっ?」


 パシュッ!パシュッ!パシュッ!


 俺はドタバタ転げまわりながらそれを避けた。


「ちょっとクー、いきなり攻撃しないでよ」


「やれやれですね。そんなかっこの悪い避け方では、人を惹きつける事はできませんよ。少し手本を見せます」


 クーは、フィンガーレスガントレットを装着しながら、俺の隣に来た。俺は危険を察知して、逆にそこから退避する。


 パシュッ!パシュッ!パシュッ!


 クーはクルっと回りながら一発目を避け、次に逆向きに女側転、そのままの勢いで体を横にして跳びながら、足を開いてバババッと回る。着地後に低い姿勢でシュンッと近付き、地上で背中を向けてからバク宙、体が水平になったところで1回捻り、機械の上にトンッと立つ。


 なるほど、スタイリッシュだ。こいつの無駄な動きは天下一品だな。


 クーは機械の上で大きく跳躍して、バク宙しながら機械から飛びのく。そして落ちながら両手を頭の上で組み、叫びながら両腕を機械に突き出すように振り下ろす。


「オーロラライトエクスキューション!!!」


「はぁ?」


 クーが組んだ拳から何かを放った。クーの拳と機械の間の空気が凍結して煌く。


 機械は動きも光も止まり、一瞬で霜がついて白くなった。


 クーは、キラキラと輝きながら消えていく光を浴びながら、着地と同時に後ろを向き、ケープを少し払ってみせた。


「ちょっと待った!今の何だよ!」


「オーロラライトエクスキューション。絶対零度に近い冷気を当てる必殺技ですが何か」


「格闘術で戦うと見せかけて、いきなり魔法を使うのかよ!」


「テオ、魔法ではありません。あくまで、拳による必殺技です」


「いやいやいやいや……えー……」


 拳を振り下ろすと相手が凍る。エターナルフォースブリザードみたいな事をしながら、魔法ですらないとは。無茶苦茶だな。


「テオ、人の心を掴むには、理屈を超えた必殺技が必須なのです。テオも設定してください」


「えええー……。あ、うん。そういうのが宣伝に必要なのは少し分かる。でも設定?どうやって?」


「簡単ですよ。使いたい必殺技の内容を、私に教えてください。出来れば絵つきで。後は私が再現します」


 あーそういう事か。でもそれ、なんか凄い恥ずかしい事のような気が……。


 俺の頭の中で、羞恥心とワクワクが戦った。そしてワクワクが羞恥心を押さえ込んだ。


「分かった。任せろ」


 クーはヘンテコな趣味を俺に隠さない。そんなクーに、俺が自分の趣味を恥ずかしがるのも変な話だ。それはさておき……


「必殺技はそれでいいけど、それ以外の体さばき、俺にも教えてくれない?」


「テオ、どうしたんですか?珍しくやる気ですね。私が期待していたのは『そんなの出来るか!』というツッコミだったのですが」


「お前はいつから芸人になったんだ?……いやまぁ、必殺技と同じく、出来たほうが良いと思っただけだよ」


「へぇ、その必要性が分かるなんて、テオも成長しましたね」


 もちろんそれは本音じゃない。単純にクーの動きをみてカッコイイと思い、俺もそんな動きが出来る様になりたいと思っただけだ。でも、そんな事をクーに悟られるのはシャクだし恥ずかしいし、なんかムカつく。


「それじゃぁ手始めに、さきほど私がやったフルツイストを覚えましょう。高めにバク宙をして、高くなったところで体をひねるだけです」


 クーは少し屈んだと思うと、見上げるほど高く飛び、後ろに回転しながら四回ひねって着地した。


「ね、簡単でしょう?さ、テオもやってみてください」


「……そんなの出来るかー!」


 俺は結局ツッコミを入れる羽目になった。


***


 一度ツッコミを入れたら満足したようで、その後は俺が出来そうなものから教えてくれた。


 ダンスと同じく、文字通り手取り足取り。跳んだ後に空中で動きを修正してくるので結構怖い。怖くなって手足をつこうとしたり、体が縮こまるのを、無理やり我慢させられた。


 そんな日々を、筋肉痛で悶える日々と交互に続け、助走をつけた宙返りなら、一回ひねるのも出来るようになった。一人でやっていたら、一生出来なかったろう。


 そう思うと、素直に『教えて』と言って良かったと思った。


***


 数日後の夜、俺はデビューする事になった。


 その日はいつも通り、クーとその姉が衛兵さん達とワチャワチャとじゃれる。


 そこで突然、少しはなれたところが円形に照らされ、目元を隠し、防具型アクセサリーを着けた俺が登場。


「姉妹怪盗ケッツヘンアイ!俺と勝負しろ!」


 広場の目が俺に集まった。でも、それにはもう慣れた。俺は動じない。


「あら?新顔さんね。お名前は?」


 クーではなくて、偽の俺が対応した。衛兵の肩からストンと降り、俺の方に歩いてくる。


「我が名はテオドリクス!ドラッヘンフェルスの修行より今戻った!大人の皆は騙せても、この俺は騙せないぞ!お前らの命運もここまでだ!」


「元気いいわね。嫌いじゃないわ」


 偽の俺は、無防備に近付いてくる。もう射程内だ。


 こいつなら同い年だし、男女平等パンチもありか。そもそも俺だし。そのナメ腐った余裕をぶち壊してやる!


「なめるな!」


 俺は一歩跳んで、腹を突き上げるように殴りにかかる。しかし───


 ブンッ!


 盛大に空振り。


「きゃっ」


 偽の俺はよろけて後ずさり、衛兵達に支えられた。そして、意味深な笑みを湛えた。


 こ、こいつ……俺が動き出す直前から、もう避け始めていただと?動きは決して早くないのに、当たらなかった。


 まともに見た事は無かったが、偽の俺の顔は、少し成長したクーの顔になっている。見た目で姉妹と分かる顔だ。


 本気の一撃を余裕で避けられ、クーに似た顔でニヤリとされた。それだけで俺はゾクリとした。


 クーめ、初めから俺の心を折りにきてやがる。くそ、負けてられるか。


「お前の怪しい技は俺には効かない!捕まえてやるから覚悟しろ!」


「ふふふ、そうみたいね。クーデリンデ!この男性(ヒト)と遊んであげて!」


「お姉様に殴りかかるなんて許せませんね。私が調教してあげます!」


 ようやくクーが出てきた。そして、ケープの中に一度両手を隠し、キラキラ光る大量のフォークを取り出した。


 ヤンのフォーク!!!俺の体は、その痛みを思い出して少し硬直した。こいつ、本気で俺を調教しにかかる気だ。


 次の瞬間、クーが片手をふって、一度に四本のフォークを投げた。


 俺はそれをバク転して避ける。


 フォークは石畳に刺さり、パリパリと青白い光りが小さく弾けた。


「と、飛び道具とは卑怯だぞ!正々堂々とコブシで戦え!」


「なら、貴方も使えばいいじゃない、の!」


 クーは、もう一方の手のフォークも投げてきた。


「シュタインダードラッヘントルナードアッパー!」


 俺は必殺技を繰り出した。竜が竜巻を纏いながら天に昇る、必殺のアッパーカットだ。それでフォークを相殺。さらに、竜巻はクーも巻き込んだ。この一撃は、防御しながら攻撃になっているのだ!


「フン!ドラッヘンフェルスで修行してきたと言ったろう!そんな攻撃は俺には効かない!」


 俺はクーを指差しながら、格好をつけて言った。


 が、クーはスカートを押さえながら顔を赤くして怒っていた。意味が分からない。


 高いところが好きだったり、人の頭の上を飛び回ったり、跳び上がってクルクル回ったりと、普段からスカートの中が見えそうな事を自分からやっているくせに。俺がメクると怒るのか。


「もう許しません」


 クーが後ろに飛びのく。それと同時に、クーの居た近辺に三本の雷が落ちて、土煙が上がった。


 ゴン、ゴン、ゴッゴッゴゴゴ……


 鈍い金属音が響き、土煙の中から鉄の塊が現われ、動き出した。


 やっとお出ましか。こいつらを必殺技でぶち壊せば、俺の勝利だな。


 俺はさっそく壊しにかかった。こういうのは、動き出す前に壊してしまうに限る。


「ストリングシュレッダー!」


 指の先から細い糸を出して切り裂く必殺技だ!金属だって斬れる!


「ルックサイトファウストシュラーク!」


 ただの裏拳!ただし旋回しながら!当たったところで、震脚しながらビタっと止める!切り刻まれていた相手は、炸裂しながら吹き飛ぶ!


 一体目を倒したところで、二体目はすでに動き出していた。何本もの腕を持ち、盾を構えながらクロスボウを撃って来た。


 俺はそれを側宙で交わし、逆さになりながら空中で必殺技を繰り出す。


「パンツァーピアッサー!」


 人差し指と中指を伸ばして両手を組み、指先からどんな盾や鎧も貫通する弾を撃ち出す必殺技だ!威力が高い分、ちゃんと反動もある!


 俺は着地後にバタフライツイスト(アクロバット技)をしながら跳んで近付き、強く一歩踏んで飛び掛る。


双!竜!脚!ドラッヘンキックドッペルト


 空中で体をひねって二回蹴る必殺技!


 急所を貫かれていた相手は、ガッシャーンと大きな音を立てて分解した。


 うん、とてもとても気持ちがいい。


 クーの考える魔法みたいな必殺技と比べると地味だけど、俺はやっぱ拳や脚を直接ぶつける技の方が好きだ。


 でも、三体目はそうも行かないようだ。


 周りに、うっすら光る透明なウロコの壁があって近づけない。


「パンツァーピアッサー!」


 ギィーン!


 弾かれた!だめか!


 キュ、キュ、キュ、キュィィィイイイ……キチキチキチ


 三体目は、謎のエネルギーをため始めた。


 うわこいつズルい!溜め終わった所でバリアを解除して撃つつもりだ!


 くそう!こちらも溜め技で対抗するしかない!


 俺は無駄にバク転しながら距離を取り、短剣を抜いて逆手に持った。そして体を開いて腰を落とし、短剣を後ろに構え力を溜める。すると、短剣が徐々に光りを放ち始める。


「ハァァァァァァ!」


 俺と機械は、距離をとったまま力を溜め続ける。あの光る壁が消えた時が勝負の時。誰の目にもそれが分かった。


 そして壁がパーッと消えていく!今だ!


「アヴァントストリーッヒ!!」


 短剣の短さを補う必殺技だ!溜めた力が前方に伸びて相手を倒す!


 同時に、機械も溜めたエネルギーを撃ちだして来た。


そして、力と力がぶつかり、中間で光を放ちながら大爆発をおこした。俺はそれに巻き込まれて吹き飛ばされてしまった。


「う、ぐ……」


 俺がその衝撃で立ち上がれないでいると、俺の手をとって起こそうとする者が居た。偽の俺のテオロッテだ。


「うふふ、上出来ですよ」


 偽の俺は、俺を起こすと、俺の胸板に手を当てながら耳元でささやき、頬にチュっとして逃げていった。


 触られた感触が変だと思ったら、俺の上半身の衣服が破れ、胸当ても一部無くなっている。ズボンも所々破けている。でも、傷らしい傷はない。特殊趣味の餌食にされたようだ。


「ま、待てこのやろう……」


「うふふ、今日の所はこれくらいで、また今度ね。楽しみにしてますわ」


 偽の俺は、金貨の箱を受け取ると(もちろん地面に落ちる)、クーと一緒に気球で飛び去って行った。


 皆の目がそれに集まっている隙に、俺はヨタヨタと暗闇に姿を消した。これで今日はお開きだ。


 俺が疲れて隅っこでへたり込んでいると、クーが戻ってきて、隣にしゃがみこんだ。


「テオ、特訓のかいがあって、素晴らしい動きでしたよ」


「お前……本気でやりすぎだろ……」


「あれくらいやらないと、シラケてしまいますよ。本気でやるから人を魅了できるのです」


「スカート捲くられて怒っていただけに見えたけど……」


 俺はクーのスカートを詰まみ、すこし持ち上げようとした。それをクーがピシャリと叩く。


「次も痛い目を見たいようですね」


「はん、望むところだ」


 俺とクーはニヤリと笑い合ってから立ち上がる。


 今回やって分かったが、こういうのは本気でやった方が楽しい。次も全力であたらせてもらおうと思った。


***


 次の日、防具型アクセサリーに、さっそく十数セットの注文が入った。あんな物を本当に買おうとする人が居るとは、世の中不思議なものだ。


 また、ちょっとして、俺とクーの戦いを描いた銅版画の薄い絵本が数種類刊行された。


 どうやら、俺の知らないところで、特殊趣味の人たちが暗躍しているようだった……。

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