街での活動 その38 デベル2
「そそそそんなことより、こちらの図形についても教えてください」
お嬢様は、俺とクーを押しのけて、デベルの前に出た。うーん、面白くない。
「これは、性格分類ツールの一つだ。その様なものは幾つもあるが、こと人と職業に関してはコイツが理解しやすい」
「デベル、なるほど、ホランドの六角形ですか」
「名前など知らん」
なにその知っているアピール。自分だけ上からポジション確保とかズルい。
クーの突然の裏切りにショックを受ける俺を余所に、デベルは説明を続けた。
「先程俺は、糸紡ぎは誰にでも出来ると言った。だがそれは、『ひとまず出来る』という意味でしかない。だが、続けるには性格の適正がいる。決められた作業を、正確に根気よく行えるという性格がな。断言してやるが、お前らの様な輩では、三日ともたん」
俺は、かつての自分を思い出して苦笑した。
粉挽きを教えてもらった俺は、早々にその作業には飽き、楽をしようと水車小屋を改造しはじめた。そして、そちらの方が楽しくてのめり込んでいったのだった。自由に出来たから良かったが、ギルドに管理されてやり方を強制させられたら、すぐに投げ出していただろう。
「フ、思い当たるフシがあるようだな。それを視覚的に見るのがこの六角形だ」
デベルは、六角形の頂点に文字を書き入れていった。時計回りに、R、I、A、S、E、Cとなっている。
「俺の見立てでは、お前のメインタイプはI。調査・探求型(Investigative)だ。俺の話しへの反応の仕方を見るとな。あとはSの|社交型(Social)も少し入っているかな。三人の中では、一番人を見ている」
その見立てには少し疑問がある。でも、空気を呼んで頷きながらデベルの話を聞く。
「お嬢様はIの調査・探求型に、Rの現実型(Realistic)を加えた形だろう。そこでドヤってる白いのは、Eの企画型(Enterprising)と若干のA。芸術型(Artistic)といった所か。お前ら三人からは、Cの習慣型(Conventional)への適正を感じない」
「糸紡ぎには、習慣型の適正が必要という事ですか?」
「現実型と習慣型だな。紡績ギルドに限らず、職人として馴染むには、それらがあった方が良い」
デベルは、RとCの二つの文字を円で囲った。
「そしてココからが本題だ。お前らが必要としている開発者や研究者という職には、調査・探求型の要素が必須となろう。だがそれは、職人ならば誰しもが持っているという資質ではない。技術追求を好まず、同じ物を作り続けたい職人もいるのだ。そういった意味でも、一部の者しか使えないという事になる」
デベルは、Iの文字をグルグルとマルで囲った。
「そ、そこは、ききき教育でなんとか成りませんか?探求の楽しさを知ってもらえれば、そういった資質が芽生えるかもしれません」
前向きなお嬢様がデベルに問う。しかし、デベルはお嬢様の目を見て、逆に問いかけた。
「お嬢さんよ、アンタは貴族の家に生まれ、小さい頃から社交界での生き方を教育され続けて来たはずだ。だがそれでどうだ?そんな資質──社交性に目覚めたか?ただただ苦痛で惨めな思いをしてきただけでは無かったか?」
デベルは、Sの文字をトントン叩きながら言う。
お嬢様を探求型(I)と現実型(R)をするならば、社交型(S)は図形の反対側に書かれている。その為、職人(RC)が隣にある探求型(I)に目覚めるより、さらに難しく見える。なるほど、この図形は分かりやすい。でも、それはお嬢様に厳しい現実を突きつける事となった。
「あ……あ……あ……」
お嬢様は俯いてしまった。そして小刻みに震えている。そして、床に涙が滴り落ちた。
「デベル!何お嬢様を泣かせてるのですか!男として最低です!」
「フン、俺は本当の事を言ったまでだ」
クーがデベルと睨み合っているので、仕方なく俺がお嬢様を慰める。
といっても、俺は女性の扱いなど知らないので動物扱い。おでこをくっつけて体を摩るだけ。こうすると、向こうの感情が流れてきてこちらまで悲しくなるが、その分相手は楽になる。そして絆が強くなって、立ち上がる力がわくのだ。馬やロバで実践済み。きっと小動物っぽいこのお嬢様にも効く。
そうすると、お嬢様は俯きながらも口を開いた。
「だ、大丈夫です……。デベル様にはむしろ感謝しています……。貴族社会に馴染めず、これまで苦しかった理由がこれなのかと思うと……な、涙が……あ、また……」
「フン、当然だ。伊達に組織を預かってはいない。人を見る目は有るつもりだ」
デベルがクーと睨みあいながらドヤる。
うん、そうなのだ。いま、この場にはデベルの土俵が展開されている。このままでは勝ち目が無い。俺達の企画はポシャられて終わりだ。この状況を打開するには、こちらの理屈が効くのフィールドを展開し、デベルを引き込む必要がある。
俺はお嬢様の頭をイイコイイコしながら、頭をフル回転させた。
「それじゃぁ、デベルさんの話も私達の企画に織り込もうよ」
「お姉様、どういう事ですか?」
クーが振り向いて反応した。
「人をちゃんとデベルさんの基準で調べるの。その上で、開発に向く人には開発を、向かない人には、別の仕事を紹介すれば良いじゃない」
「別の仕事を紹介するだと?そんなの無理に決まってるだろ」
デベルがすぐさま反応した。
「いいえ出来ます。まず、紡績機が出来上がると、今度はその材料が足りなくなります。亜麻を作る人はもっと必要になるはずです。そして、先ほどの話を聞く限り、農業は恐らく習慣型に適した仕事です」
「だが、この街で農業が衰退したのには訳がある。商業に徹して他の村から買った方が合理的だからだ。需要が増したとて、そう簡単に農家になる奴は増えはしまい」
「そこを何とかするのが、私達の作る組織です。農業だって、まだ研究開発の余地はあるはず。それならば農業も研究対象に加えれば良いのです」
「だがしかし──」
デベルが出来ない理由を考えそうだったので、勢いで潰す。言い訳を考えだしたら負けの兆候だ。押し切れる。
「次にですが、現在適した職についていない人にそれを指摘する事で、全体的に転職をしやすくします。そうして流動化が起これば、古い仕事が無くなって、新しい仕事ができても、人々が対応してくれると思います。それに──」
俺は、お嬢様の両肩に手を添えて、お嬢様を少し離した。そして言葉を続ける。
「デベルさんの話は、もっと広めて皆も知るべきです。かつてのお嬢様の様に、訳も分からず苦しい思いをしている人を救うためにも!」
お嬢様が顔を上げてそれに応える。
「わ、私もそう思います!ほ、他の苦しんでいる人も解放したいです!」
ようやくいつもの前向きなお嬢様に戻った。やれやれ、良かった。
***
そこからは、四人で計画を練り直した。
意外にも、デベルは農業分野の研究に興味を示し、協力的になった。
具体案の検討は農業に詳しい人物を加えてからになるが、例の水硬性の壁材料を水路に応用するだけでも、発展が望めそうだった。
しかし、そこは女三人(俺は男だが)、話はしょっちゅう暴走した。
「それにしてもさー、これってどこかで似た様なものを聞いた気がしない?」
「お姉様、これとは何ですか?」
「なんというか、アレ。『わぁすごい!貴方はRとかIがとても高いですね!技術開発に向いてます』というやり取りを、始めに受ける感じ」
「あ、あ、そ、それは私も思い当たるフシがあります。謎の古代魔法技術で、魔力や知力が測られて、受付嬢に驚かれるアレですね」
「なるほど、アレですか。というと、アレも作りたくなりますね」
「そうだね、欲しいね」「い、いいですね。ぜひ作りましょう」
「おいお前ら、さっきからアレ、アレって何を話している。俺にも分かるように話せ」
「あら、デベルさんはご存知ないのですか?やれやれですね。アレですよアレ、そう───」
「「「ギルドカードシステム!」」」
「はぁ?」
デベルはまだ理解できないようだったが、俺達は勝手に盛り上がる。
「さてどうやって作ろう。謎の技術っぽさは外せないよね」
「て、手回し計算機を応用する形でしょうか」
「お嬢様の近しい技術だと、それが現実的かもしれませんね。偽造防止にハッシュ関数も組み込みましょう」
「アンケート一問ごとに、古めかしい鍵の選択肢が出てきて、それでガチャガチャ回す感じ?ワクワクするね。カードへの記述はどうしよう。人が書き写すんじゃなんか興醒めする」
「普通であれば、活字による印刷でしょうが、何か物足りませんね」
「き、筋力測定もかねて、蹴飛ばしプレスで金属プレートに打刻するのはどうでしょう」
お嬢様がササッとイメージをスケッチした。
「アハハハハ、なーにそれー、すっごい物理なんですけどー……あ、───デベルさんが怒ってるよ!ダメだよ真面目に考えなきゃ!」
そんなこんなでキャーキャー言いながら企画書を作り、デベルに託した。
デベル曰く、『一つの商会でやる内容ではない。しかるべき所に持っていく』との事。まぁ言われて見ればそんな気もする。
***
数日後、デベルは俺とクーに書簡を渡し、お嬢様と一緒に読むように言った。
俺らはそれに従い、三人集まってから封を開ける。
そこには、飾り文字で仰々しくタイトルが書かれた文書が入っていた。
*** 王立職業安定所 設立計画 ***
どうしてこうなった……。
さんこうぶんけん
『テストと測定 (1966年) (現代心理学入門〈2〉)』著)タイラー,ウォルシュ,高田洋一郎訳
また、ホランドの理論に基づく職業興味調査が実際にやられてたりする現実世界のハローワークを参考にした。




