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街での活動 その30 クエスト受注(脅迫)

だらだら会話回。たぶん次回も

 俺は衛兵の隊長に認められ、一日四時間だけ、衛兵としても働く事になった。


 その四時間に、街についての情報を得る。その後、外部委託可能な単発の指令を、自分の隊に持ち帰る。

なるほど、この役なら俺が適任なのかもしれない。


 結構大人は語りたがりだ。それが余所者で新入り、そして子供となれば尚更だ。警戒もせずに何でもペラペラ話すだろう。他の誰が就くより、俺が就くのが一番情報が得れる。


 そして、俺ならちゃんと任務分析をして、必要な情報は聞いてこれる。そうアヒムは考えているのだろう。その信頼は少し嬉しい。でも……俺は、大人のドウデモイイ話を延々聞かされるのは、大嫌い!嫌な任務だ。やれやれ。


 でも、俺が就くことで生じる問題もあった。それが装備。


 衛兵の装備は基本的に支給だが、俺のサイズの物は無い。それでも、ある程度は工夫して対応できた。


 鉄の帽子は頭に布を巻くことで、なんとか合わせる事ができるし、チェインメイルは、心優しい先輩が、休憩時間に作り直してくれる事になった。脚も、チェインメイルが膝上くらいまで来ちゃうので、まぁヨシとなった。


 どうにもならないのがミトン。全方向にブカブカ。


 ただの革手袋でもよいのでは?と思ったが、鉄のミトンはここの衛兵の象徴の一つなので、必須らしい。素人相手には武器にも防具にもなる優れものとか。実際、殴る事を想定したナックルが仕込んである。やれやれ、物騒な話だ。市民を守るって話はどこにいったのやら。


***


 そんなわけで、帰ってアヒムに相談する事になった。


「フムなるほど、子供用の甲冑などあるわけ無いしな。任務で必要なら作っても良いぞ」


「良いんですか?特注になりますし、結構お高くなると思いますよー?」


「必要なのだろ?それに、お前に褒美をやると約束していたしな。それの一環として俺が払ってやる」


「わー、そんなもの貰ってもあまり嬉しくないけど嬉しー。アヒム様太っ腹ぁ」


「ただしだ。今は持ち合わせが無い。今はお前が立て替えておいてくれ」


「ふぇ?……?そんなお金……私が……立て替えられる訳……無いじゃないですか」


 突然変な事を言い出すアヒム。だが目が怖い。本気だ。


「立て替えておけ。出来るな?」


「はぁぃ……。」


 酷い。全然ご褒美になってない。


***


 今度はケッツヘンアイに着替えてデベルにご相談。


「デベルさーん、子供用の甲冑作る場合って、どこに頼みに行けば良いですか?」


「突然なんなんだ……そんなの知らん」


「えー、デベルさんって、どこで誰が何を売ってるか詳しいじゃないですか」


「チッ、お前は知らんのだろうが、商人と職人には、お互いの領域を荒らさないという暗黙の了解がある。俺が仲介はできん。金は渡すから、鍛冶師のギルドに行け」


「初めからそれを教えてくれれば良いんですよー。面倒くさい人ですねぇ」


「チッ、クソジャリが。タダで紹介して貰う気だったな?言っておくが、ギルドでは仲介料も取られるぞ。粗相はするなよ」


 デベルは、机の中から大小二つの箱を取り出し、小さい箱に金貨を数枚移した。そしてその小箱を俺の方に置いた。俺は中身を確認しながら、疑問をぶつける。


「それって、直接職人のところに行っちゃダメなんですか?多少は思い当たるところがあるのですが」


「直接は行くな。それがルールだ。それに、まともな職人なら直接来られても受けん」


「ふーん。大人って面倒くさいですね」


 俺が小箱をポシェットにしまって、外に出る準備をするが、デベルは話しを続けた。


「少し話が変わるが、お前らはキルヒシュベルガー家のお嬢様と交流があるな」


「あぁ、あの素敵に残念な地雷お嬢様ですね。そんなに何度も会っては居ませんが、よいお友達です」


「職人区に行ったら、会って様子を見てきて欲しい」


「え?デベルさんも気になってるの?」


「『俺も』とはどういう事だ」


「あ、いや……最近、問題を起こしそうな鍛冶屋があると、衛兵達が話をしているのを聞きまして……彼女が関わってるのではと心配していたところなので……」


「既に大きな問題が発生している」


 デベルは机に肘をつき、口の前で指を組んだ。どうやら話を続ける気まんまん。俺はさっさとギルドに行きたいのに。


「先日、ここから南の町に、小型のフライパンが三十個ほど持ち込まれた。技術的にもつたない簡易的な物で、普通の職人なら一時間もしないで作れるそうだ」


「それが問題なので?」


「さっき言ったな。職人と商人はお互いの領域を荒らさないと。まぁそれでも、職人ギルドはその商人に手は出さなかった。問題は商人ではなく、作った職人にある。どこぞのバカな見習いが、練習で作った物を、利益無視で捌きやがった。そう考えて、むしろ身内の恥と捉えた」


「大きな問題にならなくて良かったですね。それじゃ私達はこれで……」


「問題はそこからだ」


 逃亡失敗。


「その拙い品に、一部の食堂主達が目を付けてしまった。調理道具としてだけではなく、皿としても使える事に気付いたのだ。自分らが忙しいときにやるように、フライパンのまま食べてもらえばいい。そんな事を考え出した」


「頭いいですねー。そういう考え方は大好きです」


「思いついた奴に話を聞くと、初めから皿に見えたそうだ。なにせ、寸分の狂いもなく同じ拙い形状で、在庫は皿の様に重ねられ、綺麗に積まれていたそうだからな」


 おうふ。鉄製品が印刷されてる。あれだけクギを差したのに。どうしてそうなった。


「あ、新しい需要が開拓できて良かったですね。その商人さん、大手柄です」


「そうだな。商人冥利に尽きるというとこだ。そいつは得意になって、また仕入れると宣伝した。そして町を出たところで、狼どもの餌になった」


「!?なんですかその急展開。だいたい、なんでデベルさんがそんな事を知っているんですか。ダメですよ?子供を怖がらせようと適当な事を言っても」


 デベルは沈黙で答えた。表情で、冗談などではないと示している。


「お姉様、デベルが黒狼団のような奴らを使って始末した。そういう事でしょう」


 クーの指摘で思い出した。デベルはそういう奴だった。


「どうしてそんな事に……」


「ギルドにとっちゃ、その町の需要は畑の作物と同じだ。黙って荒らされると思うか?」


「だからって、何も殺さなくても……」


 そう言いながらも、俺は頭の底の方でジワリと理解するのを感じた。農民でも、畑を荒らす部外者は無慈悲に殺す。放置すれば家族の生活が危ぶまれるし、逃せばまたやって来るのだ。それはもう、害虫や害獣と同じ扱いだ。


「確かに、職人達は普通の奴らだ。殺しの依頼なんてそうそうしない。今回の件も、詳細を知るのは一部の奴で、他は痛めつけただけだと信じている。事実を知る者も、結果を聞いてから罪の意識に苛まれてやがる。本当に、善良な普通の奴等だ」


 その点は農民の方が怖いかもしれない。農民にとって畑を荒らす者は、悪魔であり、敵でしかない。駆除してもなお、憎しみの対象だ。


「今回の件が殺しにまでなってしまったのは、職人どもが恐怖したせいでもある」


「恐怖?」


「あぁそうだ。拙い技術のフライパン。似たものは簡単に作れる。だがしかし、何枚も綺麗に重ねられる品を作るとなると、とたんに難しくなる。とても安値で請け負える物じゃない。始めはバカにていた職人達だったが、その事に気付いて恐怖した。そして、そんな不気味な品が、町の人に受け入れられ、望まれた。その事にさらに恐怖した」


「未知なるモノに対する恐怖ってやつですか」


「そうだな。そしてそんなモノが、自分の生活を脅かそうとしている恐怖だ。ガキのお前らには分からんかもしれんがな」


 ム、なぜそこで煽るのか。俺らのせいだとでも言いたげだな。


「デベル、それで?貴方も私達も、そんな旅商人が何人殺されようが知ったことではない。そうでしょう?」


 相変わらず血も涙もない事を言うクーさん。でもデベル相手には頼もしい。


「ウム、まぁそうだ。そいつが死のうが自業自得でしかない。だが、恐怖にかられた職人ギルドが領主に、町への持ち込み規制を求める陳情を出した。恐らく、この流れは今後あやゆる町でも起こり、また、別の品目でも起こるだろう。俺はそれが困る。そうなる前に手を打つ必要がある」


「うんでもそれって、デベルさんが困るだけですよね。私とクーデンリデは別に困りませんよー?私達に頼らず、勝手にすれば良いじゃないですか」


 俺はクーを真似て非情な事を言ってみた。


「俺は平和的解決を望んでいるだけだ。この町のギルドとも、お前らとも敵対するつもりはない」


「?なぜ私達とデベルさんが敵対する事に……」


「お姉様、デベルは、お嬢様の暗殺をほのめかしているのです」


「なっ!?」


「フン」


「デベル、私は貴方を評価しますよ。そんな事をしでかしたら、私たちは貴方を殺しています。いえ、口にしただけで、殺しているでしょう」


 珍しくクーが怒っている。


「フン、そんな事態にしたくないのは俺も同じだ。彼女に価値を見出しているのは、お前達だけじゃない。職人達も、商人も、そして俺もだ」


「デベル、貴方の打算的な見方と、私達がお嬢様を想う気持ちを一緒にしないで下さい。不快です」


「一緒になどしていない。だからこそお前らに相談している」


 この人、相談してるつもりだったのか。


「んーと、事情は大体分かりました。要するに、他の町の生産者にケンカを売る行為を止めさせろと」


「それだけじゃない。事を始める前にもっと人に相談しろと伝えろ。例えば彼女の父、キルヒシュベルガーの当主にだ。奴も変人だが、今の彼女には一番の師になるだろう」


「ふーん、やっぱデベルさんは色々詳しいですねぇ……。いっそ、まずデベルさんに相談してもらえばいい気がしてきました」


「バカな事を抜かすな。面倒ごとはお前らだけで十分だ」


「お姉様、こんな外道にお嬢様を任せようとしないでください!」


 軽口を叩き合ったところで、シッシと払われて、俺とクーはデベルのもとを後にした。


 うーん、そんなに悪い案じゃないと思うのだけどなぁ……。

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