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街での活動 その27 知っているのか!(傭兵試験)

ちょっとやってみたかったやり取り

そして魔術ちーと(ズル的な意味で)

「次!──テオ防御側、レクミアス攻撃側!」


 次は防御側か。防御は、相手の攻撃に合わせる必要があるので、少し難しそう。


 なので俺はふと思った。それならこちらから攻撃すれば良いじゃない、と。さっき防御側の三下が攻撃してきたけど、状況次第では間違いじゃないと思う。


 でも、下っ端の衛兵にそんな判断は求められていない。だから試験官に否定された。俺は同じ轍を踏む気はない。ようは、バレないように攻撃すれば良いのだ。俺は魔術でそれが出来る。


 俺は、三下が落とした槍を拾って構える。相手も棚から槍を出して構えた。


「それでは両者、自らの使命を全うせよ!始め!」


 俺は早速、相手の目を覗き込んで魔術をかける。精神操作の恐怖フィアだ。使いどころは限られるが、術としては魅了チャームより簡単な魔術。


 恐れはヒトの本能だ。街にいると忘れてしまうが、自然の中では、ヒトは食べられる側の弱い生き物だ。力も弱く、速くも走れず、夜目も利かない。硬いウロコも、鋭い牙も爪もない。それゆえヒトは、長い間野生動物に食べられてきた。そうやってヒトに染み付いた習性は、克服など出来るものじゃない。


 とはいえ、普段の俺が恐怖フィアをかけても「不気味なガキ」程度にしか思われない。むしろ、与えた恐怖を誤魔化すために、怒りの感情が前に出て、余計に絡まれるだけだ。なので普段は使えない。


 でも今は違う。既に大人を一人やっつけているので、効果は抜群だ。相手に恐怖の色が見える。


 その上でさらに幻影を使い、相手の眼前に矛先を一瞬だけ見せた。


「ヒッ!……あれ?」


 それだけで相手は驚き、仰け反りながら後ずさりした。その後で、俺が動いていない事に気付く。


「気のせいか……ビビり過ぎて幻覚でもみたのかな……。もっとしっかりしろ俺!相手は子供だ!そんな事じゃ街なんて守れないゾ!」


 なにやらブツブツ言っていたが、顔をプルプルした後、意を決した表情でまた近づいてきた。そこに俺は再び幻影を投げつける。


「ヒィ!」


 そしてまた相手は後ずさり。


 傍から見ると、俺は目を据えて槍を構えているだけ。相手が勝手に怖がっているように見える。応募者はザワついた。


「あいつ何やってんだ?」

「小僧はピクリとも動いて無いじゃないか」

「子供の体格じゃ槍は扱えないだろうに。何をビビっているのか」


 そこに傭兵のオッサンがズイっと出て解説をした。


「いや、あれは殺気幻覚だ。小僧の凄まじい殺気のせいで、殺される幻覚を見てしまっている」


「「「なんだって!?」」」


「俺も5年前の城攻めで経験がある。一度見てしまうと恐怖で体が強張り、さらに動けなくなって、どうしようもなくなるんだ」


「あんな子供がそんな殺気を……。でもアンタ、そんな相手でも倒せたから今生きてるんだろ?どうやったんだ?」


「あぁ、五人がかりで取り囲んで、クロスボウでボルトを何発も叩き込んで殺す事になった。見事な騎士だったが、そういう騎士ほど退いてはくれないからな。困ったもんだ」


「「「……。」」」


 オッサンの話が終わると皆は黙り、模擬戦に集中した。一人を除いて。


「死ぃぃぃぃねぇぇぇぇクソガァァァァ」

「止めろヌエル!」


 さっきの模擬戦で俺に恥をかかされた三下が、バルディッシュ──長柄の戦斧──を振りかぶりながら、俺の背面から走りこんできた。


「クー」


 俺も一瞬驚いたが、一言だけ呟き、槍を捨てて横に避けた。それだけで俺の姿は消され、居たところには俺の幻影が残されている。しかも、先程の三下と同じように、槍を持ったまま首だけで振り返った間抜けな姿で。


「オラァ!」


 三下は俺の幻影めがけて武器を振り下ろした。その顔には、不意打ちの成功を確信して、笑みが浮かんでいる。


ガシャーン!


 しかし、また俺の幻影は輪郭がブレて消え、三下の攻撃は床を勢いよく叩き、木でできた武器が割れて飛び散る。


「なっ!?」


 次の瞬間、三下の懐に俺が現われる。既に体をひねって力を溜めている。今度は武器は持たず、力いっぱい拳を握って。


「ざーんねーんでーしたーあっ!」

 ドスッ!

 俺はそのまま三下のミゾオチに拳を叩き込んだ。


「ガッ!いってーな!」


 しかし、俺のパンチでは意識は刈り取れない。仕方ないので魔術で眠らせる。


「後は夢の中で悔しがってね」


「こ、の……クソガ…………キ……」


 ようやく三下は静かになった。体から力が抜け、俺に覆いかぶさってきた。俺はなんとかそれを支えながら、皆の反応を確認する。皆はまたザワついていた。


「あいつ、また消えたぞ……」

「今度は俺も間違いなく見た。打たれたと思ったら、次の瞬間消えていた」

「なんだあれは……幻覚か?」


 そこでまたオッサンがズイっと出て、解説を始めた。


「間違いない。アレは時飛ばしだ。現実に存在するとは……」


「「「知っているのかオッサン!?」」」


「俺も話しで聞いた事があるだけだ。目にもとまらぬ速さで移動し、消えたように見せる技だ。見た者は、一瞬だけ意識を刈り取られていた様な───そう、一瞬時間を飛ばされた様な感覚に陥る。それが時飛ばしだ。傭兵間に伝わるヨタ話だとばかり思っていたが……」


「それをあの子供がやったっていうのか!?」


「あの小僧、俺が想像していた以上にヤベェぞ?」


 オッサンの話が終わると、皆はまた静まり返った。


「あの……、見てないで助けてくれませんか?この人結構重いです」


 俺がそう言って、ようやく三下は引き取られた。


「それじゃー仕切りなおして、もう一度やりますかー」


「ヒィィ!無理ィィ!もう俺の負けでいいよぉ~」


「よし!そこまで!」


 そこでようやく俺の戦闘試験は終わった。


 だいぶ全力でやらかしたので、皆は怖がって俺から距離を取っている。近付いてくるのは、傭兵のオッサンだけ。


「おいお前、本当に何者だ?俺も長いこと戦場を渡り歩いているが、時飛ばしなんて始めてみたぞ?」


「へへーん。伊達に子供で兵隊やってません。経験じゃヒメルさんには敵いませんけどね」


 俺はワザと子供っぽい笑顔で、得意気になってみせた。シリアスな空気は苦手だ。


「小さい頃から戦闘兵器として育てられたというやつか……。そういった事をしている領主の噂も聞いた事はあったが、実際にあるとはな」


 俺もそんな話は物語の中でしか知らない。でも、オッサンは勝手に納得してくれた。そんなオッサンの活躍もあって、俺の戦闘能力に疑いを持つ人は居なくなった。


 でも俺だけでなく、ウチの領地までヤバい領地だと思われるようになった。そして、元々帰らぬの森に包まれた謎の多い領地だったこともあり、妙に納得されて広まった。


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