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街での活動 その26 子供は浅知恵(衛兵試験)

いろいろ速さが足りない。そしてさらにモニョり展開。うーん……。

 読み書きのテストの次は戦闘能力のテスト。防御側と攻撃側を決め、一対一で模擬戦を行う。どちらの役も一人一回行う。なので一人二戦。


 相手を倒す事よりも、命令どおり防御や攻撃ができるかが大事。そういう説明がなされた。


 自分の番を待っている間、俺は傭兵のオッサンとお喋り。


「ヒメルさんは、こういうの得意そうですよね」


「まぁな、そこらでイキってるガキどもに負ける気はしないな。でもお前だってそうだろう?」


「いえ、なんというか、ただ無力化するのなら簡単なのですが、模擬戦となるとどうしていいやら」


「なるほどな。お前の歳で、誰かに稽古つけてやったり、胸を貸してやったりは無いだろうしな。加減が分からねーか」


「そうなんですよ。全力でかかって相手の見せ場をなくしちゃったら、恨まれそうですし。それに、また試験官に嫌われそうで……」


「ハッハッハ!相手や試験官の心配までしやがるとは、可愛げのない子供だな。でもまぁ、そうだな。始めの1分は全力で避けろ。その後に全力で倒せ。それなら出来るだろ」


「まぁそれなら……でもそれも嫌われそうですね」


「なぁに、実力差を読み取って、それで戦い方を変えられれば、十分見せ所になる。試験にはなるさ」


「そんなもんですかね」


 このオッサンの目は、常に周囲を観察している。話している時でも、笑っている時でも、周囲をくまなく捉えている。そういう観察のプロが言うのだから、間違いないのだろう。


「次!──ベルトゥス防御側、ヒメル攻撃側!」


「おっと俺の番だ。行って来る」


「がんばって」


 オッサンは用意された武器の中から、木でできたショートソードを抜き出すと、それで肩をトントンしながら、ノッソノッソと相手の前に出た。


 相手は、槍を模した木の棒を突き出して構えている。ぱっと見、正規兵と山賊。


「それでは両者、自らの使命を全うせよ!始め!」


 カンッ!


 オッサンは、剣で相手の槍を軽く弾いた。そして言う。


「ん、なるほどな。んじゃ、よろしくな」


 オッサンは、今度はゆっくりとした剣で槍を逸らし、同時にズイっと距離をつめた。


「クッ」


 相手は槍を引いて突き直そうとする。が、槍を前に出そうをするそばから、グイッと逸らされた。何度も突き直そうとするが、その度に逸らされる。


 相手の槍を逸らすオッサンの剣は、槍にピッタリ付いて離れない。槍に剣を這わせ続け、槍の動きをコントロールしている。なんとも不思議な光景。


 まるで、穀竿───竿の先に短い棒をぶら下げた脱穀用の農具───の端を、二人で掴んで取り合いっこしている様に見える。


 オッサンはそのままゆっくりと、半歩、また半歩と前に出た。相手が、それに押されて下がる。


「く、来るな!離れろ!」


 相手は、大きく下がって距離を取る。そして槍から剣を外し、渾身の力をこめて突き直す。


「これでも食らえ!」


 しかし、その一撃すらもオッサンは軽々と逸らし、さらに空いている片手で槍の柄を掴み、引き寄せた。そして、流れるような動きで、相手の腕を剣で叩く。


「ッツ!」


「そこまで!」


「すまんな、こちらも働けるところを見せなきゃならんのでな」


 圧倒的な実力の差、そして経験の差だった。


「次!──ヒメル防御側、ルベルナ攻撃側!」


「そんじゃこの槍は貰うぞ」


 オッサンは剣を腰ベルトに差すと、相手の持っていた槍を取った。


 今度の相手は、オッサンの真似をしてショートソードを選択。まぁ、あんなのを見せられると、やって見たくなる気は分かる。


「それでは両者、自らの使命を全うせよ!始め!」


 スカッ!


 相手は、先ほどのヒメルを真似て、剣を槍に当てようとした。しかし、ヒメルに避けられた。


「ッチ───」


 相手はムキになって剣を当てようとする。しかし、槍がスッスッっと避けてスカされる。


 避けた後はピタッと停止するが、叩こうとすると即座に察知して外される。まるでハチやトンボの様だ。


 そして、相手が必死になって一歩踏み出すと、目の前に矛先が突きつけられ、2歩3歩下がらせられる。


 それが二度三度続くと、相手は息を整えるために静止した。オッサンはその隙を逃さず一歩前に出ると、今度は自分から槍を剣にあて、くるりと絡めとって宙に放った。


「そこまで!」


 オッサンは、またもや力の差を見せ付けた。そして、悠々と武器を棚に戻し、俺の近くに戻ってきた。


「お疲れ様です。流石ですね」


「まぁな、こちとらこれで食ってきた訳だしな」


「アレってどうやったんです?始めの槍に剣を添え続けるヤツ」


「アレか?ただ矛先の動きをなぞってただけだ。剣の感触でも兆しが追えるから、目だけで捌くより簡単だぞ」


「なぞっただけですか……」


 単純だけど、いざやると難しそう。


「次!──ヌエル防御側、テオ攻撃側!」


 おっと俺の番か。


「それじゃ行ってきまーす」


 俺は武器の棚に行き、オッサンの真似をしてショートソードを引き抜く。


「ねぇクー、オッサンのアレ、俺もやってみたい。打ち合わせと違っちゃうけど……」


「やれやれ、男子には困ったものですね。まぁテオの試験です。好きにしたら良いです。こちらは適当に合わせます」


 小声でも話せるように、クーは小さくなって俺の胸元に納まって付いてきている。でも、基本的には興味なさげ。


「頼りにしてます」


「はいはい」


「何をブツクサ言ってやがんだコラ。今から俺が、ここは子供の来る所じゃねーって事を教えてやるよ」


 おっと、朝、俺に突っかかってきた三下さんが相手か。手加減などされても困るし丁度良い。


「はい、よろしくお願いします」


「あぁ?なにスカしてんだ!ムカつくガキだな!お前は今から俺に……」


「お前達!私語は慎め!」


「チッ」「はーい」


 俺までとばっちりで怒られた。くそう。


「それでは両者、自らの使命を全うせよ!始め!」


 さて、それじゃオッサンを真似て──って、おわっ!槍が向かってきやがった!


「死ねクソガキ!」


 カン!


「わっとっと」


 何とか初撃を払って回避する俺。しかし、相手の攻撃は止まらない。俺は距離をとりながら、槍を捌く。


「わっ!ちょっ!そっちは防御側のはずですよ!?」


「うるせぇ!」


「わっ!わっ!わっ!」


 一応はクーが確定した軌道を出してくれるので、なんとか避ける事は出来ている。でも、余裕が無さ過ぎて、オッサンの技の練習はできない。やりたい事が出来なくて、俺はちょっとカチンときた。


「ヌエル!与えられた使命を忘れるな!」


 試験官からも注意が飛んだ。しかし止まらない。


「命令は防衛だが!別に倒しても構わないだろ!」


 俺はさらにイラついた。ずいぶんと生意気な事を言うじゃないか。それは!お前なんかが!吐いて良いセリフじゃない!


「ヌエル!」


 試験官も吠えた。


 俺はこの時ピンときた。今、俺と試験官は、共にコイツに困ってイラついている。これは、試験官に取り入るチャンスだ!


 ここで俺は槍を一度大きく弾き、同時に距離を取って体勢を整える。そして、剣を肩に担ぎ、余裕を見せて言った。


「試験官殿!こやつへの指導は、私めにお任せください!」


「指導だぁ?このクソガキ!なめた口きいてんじゃねぇぞ!」


「貴方には命令違反のお仕置きをしてあげます。先輩兵士として、ね!」


「あんだと!このガキ!出来るものならやってみろ!」


 興奮ぎみの三下は、再び俺に突撃してきた。


「クー」


「はいはい」


 ここで俺はクーの作った幻影と入れ替わり、姿を消す。そして、遠巻きに避けながら、相手の背後に移動する。


 クーの作った俺の幻影は、三下の攻撃をその場でヒョイヒョイ避ける。そして、避けながらも淡々と話す。


「ちなみに、先ほどの貴方の発言は、見事な負けフラグです」


「こんの!チョコまかと!」


 三下が大振りの攻撃をした。俺の幻影はそれを屈んで避ける。


 そして、相手の目を見上げながらニヤリと笑うと、一瞬輪郭がブレて見え、次の瞬間にはパッと消えた。


「な!消え!」


「どこを見ている!こっちだ!」


 俺は背後から声をかけた。三下はその声にすぐ反応した。しかし槍を構えているため体は回せず、顔だけで声の方に振り返った。


 そこには、体を大きくひねり、両手で剣を振りかぶっている俺が居る。


「指導ぉぉぉ!」


 バチーン!

 俺は三下の尻を、剣の腹で力いっぱい打ち据えた。


「アッ!ガッ!」


 三下は尻を押さえながらピョンピョン跳ねていった。情けなくコミカルな姿。


「上官の命令には従え!このドサンピンが!」


 よし!決まった!

 試験官殿!私はやりましたぜ!

 今度こそ、試験官の顔を立てる事が出来た!

 これで合格間違いなし!やったぜ!


 俺は得意げに、満面の笑顔で試験官の方を見る。しかし、試験官は事態が掴めず固まっていた。


「試験官殿?あの……えと……勝負は付きましたよ?」


「あ、そうだな。そこまで!」


 試験官は、俺に対して笑顔を返さなかった。むしろドン引きといった感じで、警戒しているようだ。


 そして周りの応募者もザワついた。


「今、あいつ一瞬消えなかったか?」

「ただの見間違いだろ。ちょっと目を逸らした隙に動いたんだよ」

「いや、でもあり得ないスピードだったぞ……」


 この反応は想定どおり。決して、想定外の俺やっちゃいました?ではない。


 俺は、この戦闘能力の試験だけは全力───といっても、幻影を使ったズルだが───で行くと決めていた。もし仮に採用試験に落ちても、戦闘能力だけ見せ付けておけば、兵士として認めさせる道は探れると思ったのだ。


 でも、試験官にここまでドン引かれるとは……。さっきまで一瞬、試験官と心を通わせて、好印象を与えられると思ってたのに。


 俺のふとした思い付きは、自らの作戦によって、なかった事になった。

 ぐぬぅ……。

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