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街での活動 その23 衛兵になろう 中編

ふしぎふしぎ!3500文字くらい使ったのに全然進んでない!

 採用試験の申し込みを終えた帰り道、アヒムの持っている試験の情報を聞いた。


 採用試験は、修道士による面談から始まり、読み書きのテスト、戦闘能力のテスト、騎士による面接、そして最後に実地試験があり、最終的には現場責任者による判断となっているようだ。


 また、本来は難しい試験ではないそうだ。人格や資質に問題が無ければ採用される。市民からも採用可能にするため、個々に求められる戦闘能力も高くない。戦いは数。そういう思想で運営されている。


 それを聞くと、アヒムが言うように勝機はありそうに思える。でもたぶん、俺にとっては逆に難しい。


 これが特殊な潜入隊員の試験ならば、俺は実力を見せるだけで採用されただろう。能力で選別される狭き門ほど、その他──年齢や出身、思想信条については問われなくなるものだ。


 他から移り住んできた者は、その事を良く知っている。結果として、特殊な資格が必要となる職業が他領の人ばかりとなるのは、よくある事なのだ。


 でも、今回の衛兵の試験はその逆。まっとうな市民が志願すれば、ほとんど採用される広き門。だからこそ、常識外の年齢であり、他領の者で、さらに魔術師という俺には厳しい。


 やれやれ、どうしたものか。


 とりあえず、方々に臨時休業のお知らせをしてから、兵舎に帰ってクーと打ち合わせをする事にした。


***


「第一回、大人を言いくるめて試験に受かりゅ計画ぅ~。さてクー、なんか良い案ない?」


 俺はクーから大きな紙を貰い、兵舎の陰に貼り付け、タイトルを書き込んでから、会議の開催を宣言した。


「テオも、だいぶ作戦会議というものが分かってきましたね。嬉しいです」


「まぁな。分かってきたさ、お前の好みが」


 そう良いながら、俺は細長い木炭を軽く持ち、手首を振って、木炭がフニャフニャ曲がって見えるようにして遊んだ。こんなふざけた会議は、少し遊びながらでないとやってられない。


 難しい課題に当たったときは、二人で考えるほうが良い。でも、今回はクーにやる気が感じられない。なので、協力させるために、わざわざクーの好みに合わせて会議を開いた。正直、めんどうくさい。


「テオ、試験官を魅了チャームしましょう。そうすれば、どんな試験も微笑むだけで突破できます」


「それはダメ!却下!自分の姿でおっさんを魅了するなんて絶対にヤダ!そんな事をしたら、俺の中で大事な何かが壊れる!」


「フー、やれやれです。相変わらずテオは面倒くさいですね」


「お前に言われたくないよ!」


 こいつ、俺が却下するの分かってて言いやがったな。この投げやり感、やはりやる気が感じられない。


「俺の好き嫌いだけじゃなくてさ、アヒムが言ってただろ?俺を兵士と認めさせるためだって。あと、ウチの隊への批判を避けるためだって。それを考えると、傍から見て不正を疑われる様な方法は避けるべきだよ」


「真面目に考察するならそうでしょうね。アヒムがわざわざ話したのは、それも考慮しろという事でしょうし。ですがテオ、それであれば、真っ向から正面突破しかないのでは?」


「やっぱそうかなぁ……。でも、読み書きと戦闘組み手は良いとして、修道士と騎士の面接については、無策は避けたいんだよな。常識的な判断をされたら落とされるし」


「テオ、修道士が行うのは面接ではなく面談です。実質は似たようなふるいかも知れませんが、違う言葉である点に留意してください」


「んー?じゃぁ、修道士さんに相談しちゃえばいいのか。子供の俺が衛兵になるには、どうすればいいか」


「テオ、その答えは私でも分かります。大人になるまで少し待ちなさい──です」


「だよねー。あーはー」


 非常識なクーでも簡単に出てくる常識的な回答。やっぱダメかもしんない。


 そんなこんなで、大した対策も立てられず、戦闘組み手について軽く打ち合わせをして寝た。


***

 次の日の朝、アヒムに連れられて、再び南門に向かった。しかし途中でアヒムを呼び止め、一人で向かうことにした。


「一人で大丈夫か?」


「アヒム様が付いてきたら、それこそお子様じゃないですか。やるだけの事はしますので、邪魔しないで下さい」


「フン!相変わらず生意気なヤツだな。まぁいい、行ってこい!」


「はーい」


 自分で命令しておきながら心配するのか。俺は小さく笑うと、前に歩き出した。しかし、ふと思い出して立ち止まり、振り返る。アヒムはまだこちらを見ていた。


「アヒム様、もし受かったら、なにかご褒美下さいね」


「なっ!?」


「子供のやる気を引き出すのには、アメが有効なのです」


「あぁ、分かった分かった。ただし、失敗した時のムチも覚悟しておけよ」


「ゲェ。やっぱ今の話はナシで」


「もう遅い」


 俺とアヒムは不適に笑い合い、お互い同時に振り返って別れた。


「さーて、ご褒美目指して頑張りますか」


「不思議です。テオとアヒムは、いつの間にかずいぶんと仲良くなりました。大して会話はしていないのに」


「当たり前じゃん。一緒に戦ったんだもん。そういうものじゃん?」


「不思議です」


 恋愛脳では、男同士の友情とか信頼は理解出来ないのか。俺はクーの事も同じように、いや、それ以上に信頼しているんだけどなぁ。分かって貰えなさそうで少し寂しい。


***


 衛兵の詰め所の前に行くと、試験に応募してきたらしき人達が集まっていた。傭兵の様な者もいれば、モブ市民Aというような、戦いとは無縁そうな者も居る。でも、やはり子供は居ない。転属でなければ年齢制限があるらしいので、当たり前なんだけど。


 俺は、応募者の一人ひとりを見上げ、観察しながら前に出て行く。すると、一人の応募者が話しかけてきた。


「誰かお探しかい?」


「あ、いえ、どんな人達と一緒にやるのかなーと、気になって見ちゃいました。気にされたのでしたら御免なさい」


「一緒に?」


「シュラヴァルトから来たテオと言います。皆さんと一緒に、衛兵の採用試験を受けに来ました。よろしくです」


「「「なに?」」」


 俺の言葉で皆が振り向く。


「一緒に受けると言ったって、衛兵の試験は15歳以下は受けれないよ。君はどうみてもそれ以下じゃないか」


「私も詳しくは知らないのですが、兵士が転属して衛兵になる場合は、年齢に関する規定がないらしいです。私の場合は転属じゃなくて──」


「おいガキ!笑わせるな!お前の様なガキが兵士だって言うのか」


 別の少しゴツイ若者が俺の前に出てきた。初対面で人の話にかぶせてくるか。やな感じ。


「はい、その様に命を受けております。ごめんなさい」


 でも、なんか怒ってる様なので、雰囲気的に謝った。たぶん俺の存在が、みんなの意気込みに水を差す事になったのだろう。ちょっと悪い事をしたかも。


「ハッ!お前が兵士だってのなら、俺を倒してみろよ!一般市民相手に負けやしねぇよなぁ~兵士ならよお!」


 うわー、なにこの人、面倒くさい。誤って損した。この手の人は、テオロッテ姿でも魅了チャーム

たくないや。あーあ、こんな事なら、もっと時間ギリギリに会場入りすれば良かった。


「えーと、止めましょう?こんな所で……」


「なにスカしてんだこのガキ!かかってこねぇなら、こっちから……」


「そいつに手を出すのはヤメておけ」


「あぁん?あんた、このガキのツレか?」


「いや。だが、街の中でイキってきただけの、三下の手に負える相手ではない」


 ウザイ若者を、強面こわもてのおっさんが止めた。何十年も傭兵で食ってきた。そう、顔が語っている。この人も、ある意味この場に似つかわしくない。なぜ今更衛兵なんかに……。そんな場違いオーラを発していた。


「ふむ、染め直してはいるが、その頭巾は一度血で染まっているな。小僧、お前は今まで何人殺した?」


「えーと……」


 俺は指を折って数えようとする。精神を壊してしまった人は、数に入れたほうが良いのだろうか。そこに迷っていると、皆のヒキ気味の目線に気付いた。


「あ……それ、答えなきゃダメですか?」


「いや、もういい」


 傭兵っぽいオッサンは、俺の頭をガシっとつかんで押さえつけた。それによって、俺は皆の視線から解放された。そしてオッサンは皆に言う。


「分かったかお前ら!この子は既に立派な戦士だ!子供だからとナメてケンカを売ると死ぬぞ!」


 辺りが少しザワついた。


「あんな気弱そうなガキが?」

「信じらんねーな」

「ハッタリじゃねーのか?」


 まだまだ納得いかない人は多いが、なんとか場は収まったようだ。よかった。助かった。


「おじさん、助けてくれてありがとう」


「いいって事よ。ただの点数稼ぎだからな」


「え?」


「気付かれないように門の上を見てみろ。武器も持たずに、こちらをただ見ている兵士が居るだろう?恐らく、アレがこの試験の責任者だ」


「うわぁ、やっぱもう見られてた!」


 物語では良くある展開なので、俺も予想はしていた。でも本当に見られていたとは。


「ハッハッハ!俺はヒメルだ。よろしくな」


 なにやらオッサンに気に入られてバシバシ叩かれた。


 こうして試験は始まった。


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