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ヤンとの狩り その2

 家の畑が近付いてきたところで、ヤンは立ち止まって言った。


「荒らされていた畑はもっと向こう。でもこのまま進んで家に近付くと、姉さんに見かるかもしれないし、ちょっと迂回して森に入ろう」

「やっぱエルザ姉さんには何も言ってないのかよ」

「当たり前だろ!でも大丈夫!食材を持って帰れば、姉さんはそちらに手一杯になる!だからあまり怒られずに済む!」


 ヤンは勝ち誇ったように言った。怒られるのは確定事項のようだ。

またしばらく歩くと森が近付いて来た。そこでクーが何かに気付いたようだ。


「テオ、先客が居るようです」

「先客って?」

「馬に乗った人物が二人、徒歩が三人。領主様の息子とお供の騎士、後はお付の人たちですね」


 クーは周囲を走査して、物質を認識する事ができる。本来は、周囲に溶け込んだ幽霊を創り出すための機能らしい。その範囲も、そこそこ違和感のない空を作るのに必要な最低のスペックという事で、半径300メートルほどになっている。最低スペックなので、空の幽霊は苦手らしい。だがしかし、狩りの際にはそれでも十分すぎる威力を発揮する。


「ヤン、どうやら領主の息子に先をこされたらしいぞ」

「えぇぇぇ、テオのせいだぞ!テオがさっさと起きてこないからぁぁぁ」


 肉の味を想像し満面の笑みを浮かべていたヤンの顔が、一気に絶望へと転落する。身内が誰か死んだんじゃないかってくらい悲痛な顔をしやがる。


「いや、きっとお前の親父が情報を投げたんだろ。お前の親父のせいだよ」

「テオ、一応つたえておきます。まだ狩りはこれからのようです」

「いや、狩りはこれからって言ったって、先に獲るなんて無理だぞ?そんな事をしたら、どんな罰をくらうか。手足を切り落とされるかもしれない。むしろ俺らが後に着いて良かったくらいだ」

「何?まだ狩られてないのか?」


 ヤンの目に少し希望の光が戻った。


「いやいやいや、そればかりは絶対ダメ!お前が何を言っても全力で止めるからな!」

「ぐ……どうするどうする、考えろー考えろー」


 バカでも領主の獲物を横取りするのがマズイのは、一応理解しているらしい。


「もう諦めて帰るしかないだろ。森に入って狩りの邪魔になるだけでもヤバいんだから」

「ちょっと待て!何か出来る事があるはずだ!考えろー考えろー」

「ヤンは諦めが悪いですね」


 クーは既に体が帰る方に向いている。


「横取り……は無理でも、一緒に狩る事は出来るんじゃないかな」

「はぁ?一緒に?訳わかんねぇよ」

「イノシシを探したり、追い立てるのには俺等でも役に立てるだろ?」

「そうかも知れないけど、獲物の分け前なんて絶対に貰えないぞ?」

「いや、そこはまだ絶対じゃない!やってみなければ分からない!」

「えー?無理だってぇ……それに、騎馬が走り回る森に入るって、それだけで危険なんだぞ」


 俺が別の理由を挙げだしたら、もう押し負ける雰囲気になる。分かっているけど、そうなってしまう。


「大丈夫!いけるって!」

「お前はホントそればっかだな」


 俺はしぶしぶ承諾してクーに場所を尋ねる。クーが指し示した方向に走っていくと、領主息子の一行は居た。


「げ!親父!」


 徒歩の三人のうちの一人は、ヤンの親父だった。案内役として、このあたりの地形を説明していた様だ。


「ん?なんだ?ヤンとテオか。お前らなんでこんな所に居るんだ。今日はここで狩りをするから他へ行って遊べ」

「なぁ親父、その狩りって俺らも手伝えないかな?」

「何をバカを言ってるんだ!」


 ですよねー。俺は苦笑しつつ、俺は反対したんですよー感をかもし出す。でもヤンはめげない。


「でもほら、これから例のイノシシを探すんだろ?それなら人が多い方が良いじゃないか」

「バカ言ってないでさっさと帰れ!」


 ヤンの親父はすごい剣幕で怒っている。しかしヤンは動じない。怒られなれてるってすごい。


「待て待て。その者はおぬしの子供なのだろう?ならば、この森で獲物を探すのに役立つはず。俺がその者の同行を許可しよう」


 領主の息子が馬上から許可を出した。そうなると農民ではもう異議をとなえる事などできない。ヤンの親父は怒りと悲しみと苦痛を混ぜたような顔をして、ヤンを睨みつけている。


「ルドルフ様、この者らはまだ少年です。狩猟のお供にするにはまだ早く、危険では」


 同じく馬にのったマッチョなオッサンが、領主に異議を申し立てた。


「それならオヌシが護ってやれ!」

「はっ!」

「やったー!ルドルフ様!獲れたら俺にも一口食わしてくれな!」

一人はしゃぐバカヤン。反対しているのは、みんなお前の事を心配している人なんだが。


「ヤン!調子に乗るな!」


 当然怒る親父。


「ハッハッハ!猟犬としての働きが出来たなら、猟犬としての褒美はとらそうぞ!」


 犬としてだが、ちゃっかり報酬も了承させた。俺には絶対無理。可能性はゼロだったろう。それをヤンはやってのけてしまう。これがあるから俺はヤンの言葉を完全否定できないんだ。


 しかしまぁ、やれやれだ。こうなったらもうやるしかない。

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