街での活動 その17 転がされ回
また長くなった…なので分けた。物語って難しぃ
翌日、昼間の盗みをしようとカロリシテお嬢様のお店に行ったら、服が用意されていた。ご丁寧に、『黒猫用』『白猫用』とカードまで添えられている。
「これは、私達に着ろという事か。もしかして、私達を宣伝に利用する気かな?」
「しかも、売れない古着を押し付ける算段です。物は良いかもしれませんが、売れなければ市場的価値は元々ゼロ。彼女に損失はありません。やってくれます」
さすがに昨日の今日で服は作れない。しかも、用意された服は、普段着ではなく一品物のパーティドレス。クーの言うとおり、誰かのお古だろう。
まぁ末っ子の俺にとって、服のお下がりは当たり前。クーは気にしているようだけど、俺にとっては良い服が貰えた程度の認識。サイズ的にも、俺とクーは出るところが出ていない寸胴体型なので、細かいところは全く問題にならない。古着でも全然着れる。
でもでもそんな事より、女物である事が腹立たしい。せっかく貰えるのに、なぜ男物ではないのか。もちろんそれは、今の俺が少女だから。そんな事は分かっている。でも腹立たしい。
「くそー、こんなの聞いてない。抗議してやる」
そうして俺とクーは、お嬢様の所に乗り込んだ。
「ちょっとお嬢様!この服はどういうつもり!」
「あらお二人さん、いつの間に……本当に神出鬼没ねぇ」
「誤魔化さないで!こんな話は聞いていないですよ!」
「貴方達が帰った後に思いついた──いえ、思い出したのよ。そういえば、服が全然あっていなかったわと」
「今この人、思いついたって言った。ひどい、ずるい、うそつきー」
「でもねぇテオロッテちゃん?貴方くらいの歳なら、飾りが少ない服の方が美しく見えると思うの。今の服より、とても似合うと思うわ」
そりゃそうだ。今の俺の服は、クーが嫌がらせで着せた魔女服だ。包容力のある体でないと似合わない。具体的に言うと乳。
「あと、同じ素材で作られたポシェットも付いてるわ。物を取り出すために、服の中に手を入れるのは本当にダメよ。レディとしてありえないわ」
「うぐぅ……」
それについては、自分でも酷いなと思っていたので、何も言い返せない。
「クーデリンデちゃんは、逆にもっと飾りが多い方が良いと思うの。テオロッテちゃんと並ぶと、どうしても体が幼く見えちゃうもの。ボディラインは隠して、服で可愛らしさを出した方が良いわ」
「クーデリンデは本当にペッタンコですからねぇ」
ドスッ!
頭突きが飛んできた。でも、分かっていたのでそんな痛くない。
「お嬢様、今の服は私のために作られたものです。他の誰かのために作られた古着と、比べないで下さい!」
「ごめんなさい、大切な人からの贈り物だったのね。では、飾りの部分だけでも貰って頂けないかしら。そこは、私が貴方のためにと、後から付けさせたものだから」
「ンフー、それくらいなら貰ってあげても良いです」
機嫌を損ねて面倒くさくなったクーに要望を呑ませるとは……やるなぁ。俺もその手口を覚えたい。
「それと、これは二人へのプレゼント。大した物じゃないけれど……」
お嬢様は、俺とクーの後ろに回り、布製のチョーカーを首に巻いた。その真ん中には、一つだけ小さな飾りが付いている。
その飾りは、シンプルな銀のオーバーレイ──形の違う二枚の銀の板を貼ることで、段差で模様を作り、凹みに燻した黒を残したもの。燻し銀の黒猫の顔の上に、キラリと光る銀の猫の顔が乗っている。私達二人を表した物だ。
「お嬢様、これは?」
「特急で作らせたの。首輪を巻いていた方が、猫っぽいかなって思ってね。まぁ本当に大した物じゃないわ」
確かに、俺とクーが返却して回っている品に比べたら、金銭的価値はゼロに等しい。金で出来た小さなパーツ一つより劣るだろう。
それでも、自分用に作られたというだけで、最も価値のあるものに感じた。そしてふと思う。
あれ?俺達が盗ってきたものも、誰かの大事なものなのでは……。ちゃんと全部返しに行こうっと。
「お嬢様、やれやれです。本当に全然大した物じゃないですね。でもこのデザインでは、私達以外には付けれないではないですか。仕方ないので、これも貰ってあげます」
クーも、自分のために特別に作られたものには弱いようだ。まぁ実際には、お嬢様が手を離した瞬間に、クーのチョーカーは床に落ちた。そして俺の手で回収されている。なのでムード的には微妙。それでも、気持ちは伝わっていた。
そうして俺とクーは、抗議に行ったはずが、すっかり丸め込まれて上機嫌で帰ってきた。
しかし、後でそちらも宣伝用だと気付づく。
お嬢様の店は、アクセサリーの委託販売もやっていた。服に合わせてアクセサリーを勧めたり、逆に、アクサリーが映える服を勧めたりして売りつける。そういう店なのだ。
悔しい。でも一度貰ってしまうと、勿体無くてたたき返す気になれない。そして、それすら見越されていると思うと、さらに悔しい。
くそー、悔しい悔しい悔しい。でも悔しいのに嬉しい。くそー。
俺はバタバタ悶えた。
***
腹立たしい事はあったが、何はともあれコスチュームが新しくなった。
俺は黒のベルベット地のシンプルなドレス。背中はちょっぴり開けられている。スカート丈が短く、長靴下との間に絶対領域が発生。さらに、ベルベットは柔らかい光沢があるため、微妙な膨らみが濃淡となって出た。こっ恥ずかしいが、チャーム能力は上がった気がする。
付いてきたポシェットも良い感じだ。服がシンプルなので、アクセントに丁度良い。そして、たすき掛けにすると紐が胸の間を通り、小さな膨らみを強調する。たぶん、それもお嬢様の計算どおり。計算高すぎてちょっと怖くなった。
クーはいつもの服に大きなリボンを移植。お嬢様の意見を取り入れたのか、肩は隠し、所々にフリフリを追加。もともと上品な顔立ちなので、小さなお姫様風になった。でも相変わらず裸足。
そして、キメポーズをとると、首についた銀の猫がキラリと光る。なんだかんだ言っても、かなりのお気に入り。
あと、その日の夜から場所も変えた。受け渡し場所に、街の広場を指定する事にしたのだ。
その提案はクーから出た。曰く、「やはり屋内はダメです。高い所に登れません」との事。なんともバカっぽい理由。
でもまぁ、宣伝したのに屋敷の中に通されてしまったら、一般の人は見ることが出来ない。それに、屋敷の中でお菓子を食べて、テーブルの上で品物とお金の受け渡しなんて、怪盗じゃない。そうは思う。怪盗なら、大勢の観衆が見守る中、警備をかいくぐって爽快アクションを決めるべきだ。
広場を指定することで、黒狼団も呼びやすくなるし、空に逃げる事も出来る。良い事尽くめ。なので俺も合意した。
デメリットは、お菓子は出てこなくなる事。それについては、昼間にカロリシテお嬢様に頂くお菓子で満足しておこう。




