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街での活動 その11 +1の作戦会議

 机の上には、街の地図が広げられている。地図には、いくつも印が付けられており、番号が振ってある。また、地図の上には紙が一枚置かれ、番号と家名、石とアクセサリーの種類、それと数桁の数字が並んでいる。


 地図と紙ペラは同じ数だけ番号がふってあり、情報が番号で結びついている事がわかる。


 デベルは、ドヤ顔で俺とクーの顔を交互に見て、反応を観察している。


「えっと、なんだっけ。『クソジャリにケツの拭き方を学ばせよう大作戦』……だっけ?クーデリンデ、どう思う?」

「最悪のセンスですね。しかし、作戦名を忘れなかった所は、評価してあげます」


「いや、お前らもっと作戦の中身に興味を持てよ」


 作戦名だけで、内容は言っちゃってるようなモノだと思うが。


「デベル、では一応説明を」

「チッ、偉そうに……。まぁいい。既に察しているだろうが、お前らが盗ったものを、お前らの手で返してもらう」


 やっぱり。


「デベル、それで?」

「ここに盗品と盗まれた家のリストがある。地図が示すのは家の場所だ」


「デベル、そうではないでしょう?その作戦で、貴方が面倒事を回避できるのは分かりました。それでは、私達には何のメリットがあるのですか?それを説明してください。ここに品物を放置する以上のメリットがなければ、私達がやる理由はないではないですか」


 クーが不満げに言うと、デベルは一度机から視線をクーに上げる。そして再び机の資料を指差し、説明を続けた。


「ここの数値は、それぞれの盗品の価値を、金貨の数で表したものだ。まぁ、被害者の思い入れなどは含まず、俺が買い取るならという額だがな。それを元に、金貨と引き換えとして、盗んだ品を返す。お前らは成功すれば、金貨を得れる。被害者は、裏市場を通して買い戻すよりは安くなるし、お前らを捕まえれば損失なしだ。そして俺は、我関せずを貫ける。悪い話ではないだろう?」


 身代金誘拐のアクセサリー版か。


 俺達は、どこの家の物かは分からないし、かといって他に売り込むあてもない。情報を提供して貰えるだけでも、ありがたい話───そうデベルは考えたのだろう。


 でも、ケッツヘンアイは黒狼団を潰すための活動なんだよね。なのでズレている。仕方がない事なんだけど。


「あーデベルさん?提案してもらって申し訳ないのだけれど、私達は、そこまでして換金したい訳ではないのです」

「なんだと?」


「私達は、黒狼団の心を折って解散させるために、怪盗を始めたのです。盗品をここに持ち込んだのは、換金するためではなく、ただ持っていたくないからです」


 デベルは机から手を離し、腕組みをして立ち、俺を目を覗き込むように見た。そして、低い声で静かに言う。


「なぜ黒狼団を潰したい?」

「なぜって……気に入らないから?」


 デベルの真剣な目線に、俺はつい、上目遣いで伺うように疑問形で答える。


「ならなぜ殺さない。お前らなら容易たやすい事だろう」

「うーん、そこまでする程でもないというか……。捕まって裁かれて死ぬなら別ですけど、私達が勝手に殺すのは違うかなと……」


 デベルはしばらく俺を見つめていた。しかし少しの後、目を閉じ、眉間を押さえながら下を向き、大きくため息を付いた。


「つまり、恨みでもなく、ただ気に入らない。でも殺すほどでもないから、自主的に解散して欲しい。そういう訳か」

「そうそう、そんな感じ」


 デベルは、眉間を押さえながら目を瞑ったまま、少し考えていた。そして、また大きなため息をつくと、腕組みをして、また俺の目を覗き込みながら、話を始めた。


「断言しておくが、奴らは更生などしない。奴らにとって、悪事は生活の糧であると同時に、心の支えにもなっている。今更、真っ当な人間になど戻れやしないのだ」

「心の支え……ですか?悪に憧れる、中二病みたいなものでなく?」


 黒狼団が中二病集団というのは、クーが言った事だ。聞いた瞬間は変に感じたが、大人と考えなければ腑に落ちたため、俺はなんとなく受け入れていた。


「自分は特別な存在で、他の人とは違う。そう思いたい衝動は同じだな。しかし、奴らのはもっと根が深い。奴らは、普通の人が普通に出来る事を出来なかった。そのため、特別な何かは、絶対になければダメなんだ。それが無ければ、ただの劣った存在でしかない。そんな惨めな現実、心は受け止められない。受け入れた瞬間、心が壊れてしまう。そのため奴らは、他の人が出来ない、自分だけに出来る事を欲した。そして見つけ、止められなくなった」


「それが悪事だと……?それ、おかしくないですか?能力的に出来る出来ないの話が、道徳的に出来る出来ないの話しにすり換わっていますよ。普通の人は、能力的に出来ても、自分の意思で、悪い事をあえて行わないだけです」


「そんな事は俺も分かっている。奴らは、普通の人が普通に出来る、道徳的な振る舞いすら、()()()()()()()()()だけで、ただの倒錯でしかないのだがな。ともかく、奴らにとって悪事は、誇らしい事であり、自己を肯定するより所なのだ」


「悪事が誇りねぇ……」


 俺は、話を咀嚼そしゃくしながら、チラリとクーの方を見た。クーの意見はどうなのだろう。


 クーは、壁に大きな紙を貼り、一番上に、木炭で大きく計画名を書き入れていた。


「って、おま……クーデリンデ!何をしているの!」

「お姉様、見て分かる通り、会議の準備です。折角デベルが雰囲気を出してくれたのです。私もそれに応えます」


「いや、今回の作戦以前に、企画の根幹に関わる、大事な話をしていたんだけど……」


「お姉様、私も聞いていました。しかし、方針を変える必要はありません。大人になっても治らない、病的に深刻な中二病と考えれば良いだけです。この場合、特別なものとして扱わない方が、よりダメージを与えられます」


 クーはこちらに向き直り、腰にて手を当てて胸を張った。その後ろには、計画名が書かれた大きな紙がある。もはや、クーの考えた作戦みたいに見える。


「お姉様、考えてみてください。彼らが、自分だけが出来ると思って誇っている事を、私達の様な子供が、遊びとして、もっと上手くやってしまうのですよ?それだけでも、彼らの誇りが傷つくのは分かるでしょう?しかも、それだけではありません。彼らが無意識に行っている、認知的不協和の解消を、妨げる事も視野に入れています」


「なにそれ」


 俺とデベルは腕組みをして、話をするクーを見る。


「彼らは、自らの選択で、人に嫌われていると思っています。悪事もそうですが、汚らしい格好や下品な態度、その全てを自分の意思で行い、その結果として、自ら嫌われている事にしています。その方が、嫌われたくないのに嫌われていると自覚するより、心の負荷が少ないですから。これが、認知的不協和の解消というものの一種です」


「あぁ、寓話の『すっぱい葡萄』みたいな話し?」

「正解です。さすがはお姉様です」


 珍しく、嬉しくなるように褒められた。


「それでです。もし、彼らと同じく悪事をする者が居て、それとの対比で嫌悪されるとしたら、どうですか?」

「それは確かに心が痛くなるね」


「ウーム……馬鹿げた行為だが、考えられては居るのだな……」


 デベルが真面目な顔をして唸る。クーは、それを見て、胸を張ってドヤ顔で鼻を鳴らす。


「だが、決定打が足りないだろう」

「デベル、そこも考察済です。私の予想ならば、決定打は自動的に発生します」


「ウーム……」


 いつの間にか、デベルがクーと同調している。おかしいな、若干敵対している気がしたのに。


「あ、あの、デベルさん的には、黒狼団を潰されるのは、嫌じゃないのですか?」

「ん?確かに駒の一つだからな。潰されるのは好ましい事ではない。だが、お前らの行為の結末に興味がある」


「デベルは素直じゃないですね。私達と遊ぶ方が楽しそう。ちゃんとそう認めなさい」

「フン!黒狼団のような者達は、放っておいても勝手に出てくるんだ。男子が二十人居れば、その内一人や二人は、落ちこぼれて反社会的に成長するからな。煽って情報で誘導すれば、再構築は難しくない。そんな奴らよりは、お前らの方が稀少だ。それは認めてやろう」


 さらっと、黒狼団が潰されても再生させると言うデベル。しかし、俺としても、マルコ兄さんの居る今の黒狼団が解散すれば良いので、特に気にしない事にした。


「まぁ、デベルさんが協力してくれないと、例の盗品が、全てここに放置される事になりますしね」

「クッ、このクソジャリが……」


 俺が笑いながら言うと、デベルは俺を睨んだ。しかし、デベルの口は少しニヤけていた。


***


 その後、盗品を返していく計画の詳細を話し合った。


 まず、返していく順番を話し合って決めた。


 始めは、安物だが思い入れのある品にし、後半になるにつれ、高額な品になる様にした。始めに取引を成立させて流れを作り、情報が広がって対策が取られる様になってから、話題性のある大物を取引する。その順番は関係する家に事前に伝え、予定通りに犯行が行われる事を知らしめ、より対策を取り易くする。そして、クライマックスに用意されるのは、伯爵家の品である。きっと、街中の衛兵がかき集められる程の、大舞台になるだろう。


 黒狼団については、こちらの情報をデベルを通して流し、スキがある様に見せて呼ぶ事にした。彼らは単純なので、復讐する機会を見せれば突いて来るだろうとの事。


 その他、偽物のガラス玉などの小道具の手配や、衛兵や街の反応の情報集めを、デベルに頼んだ。


「うん、こんな所でしょう。お姉様、デベル、付け足す事はありますか」


 クーは、会議記録を眺めながら言った。


「私はないわ」

「俺から良いか?」


「デベル、どうぞ」

「作戦の後の話だ。手に入れた金は、うちの商会で預かる事になる訳だが、それはどうするつもりだ?結構な財だぞ?」


「お金は、村に帰ったら使う機会ないんだよね。デベルさん使います?」

「馬鹿を言うな。その金を俺の物にしたら、全ての犯行が俺のせいになるだろ」


「今でも大して変わらない気が……」


 お金の処分に困る、変な犯罪組織、ケッツヘンアイ+1。


「デベル、それについてはお願いがあります。地下の装置には、村の城と繋がっている物もあります。村に戻ったら、城側の装置を回収しますので、毎日装置を起動してください。必要な物があれば紙で知らせますので、預けたお金で調達し、送り返してください」


「ちょっとやそっとで、使いきれる額では無いんだがな。使う気があるなら、まぁ良しとしよう。お前らの依頼なら、地下の亡霊も拒否しないだろうしな」


 なるほど、そういう使い方があるか。転位装置って便利だな。


「デベル、使い切れないかは分かりませんよ?お姉様は魔術師です。人の心臓や、生きた赤子などを依頼する可能性もあるのですから。それが、本来のあの装置の使い方です」


 また、さらりと怖い事を言うクー。俺とデベルは、引きつらせた笑顔をして凍りついた。


 クーのもつ魔術師の常識にあてられると、俺とデベルはまだまだ普通の人。それを感じて、ちょっとデベルに親近感を覚えた。

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