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街での活動 その10 また聞き設定 確認回

おかしいな……街の話は三回くらいで終わらせるはずだったのに……。

 デベルのところに盗品を持ち込んだその夜、俺は一人で「グッ」だの「アガッ」だの、奇声を発しながら悶えていた。変なところが筋肉痛になっていて、予期せぬ瞬間に痛みが走る。これが地味にキツい。


 そんな訳で、夕飯を片付けた後、早々に寝床に引き上げた。そして、頭から毛布を被って、中でクーと情報共有をする事にした。どうせ黒狼団も、ヤケ酒を煽ってダメになっているだろうし。


「というわけで、クー。ケイツハルトさんから伝えられた話を、俺も聞きたいんだけど良いかな」

「勿論ですよ。何からお話しましょう」


「まずは、魔術師についてかな。ケイツハルトさんも、魔術具の幻影なんだよね?あと転位装置も。なら、魔力が必要で、魔術師がどこかにいるんだよね?」

「テオ、順番に説明させて下さい。ケイツハルトの幻影も、勿論魔術具によるものです。あの部屋そのものが魔術具ですね。そして、それを作ったのも、魔力を供給しているのも、ケイツハルト本人です」


「え?ケイツハルトって、クーが昔生きていた時代の人だよね?まだ生きてるの?」

「生きていると言って良いのか、分からない状態ですね。私も直接走査できた訳ではないのですが、魂を魔術で肉体に縛りつけ、肉体は魔術で自動再生し続けています。しかし、意識はありません」


「その肉体から魔力供給を受けて、あの部屋が動いている訳か……本当に亡霊みたいだね」

「言い伝えでは、勇者に倒された事になっていますしね」


「え?ケイツハルトってもしかして……」

「テオに以前見せた、大きな羽の生えた蛇になっていた人ですね。瀕死になった時に、あの場所に自動転位し、自動再生する様にしていました。ですが、頭を斬られて、意識が上手く戻らなかったようです。それが、情報の摺り合わせをして、辿りついた結論です」


「なるほどねぇ……。治せたり……しないのかな」

「結界が張られていて、本人が解除しないと、誰も入れない状態です。ですので、難しいでしょうね。あの場所は、今後もずっと、あのままだと思います」


「二度と還らない本人のために、働き続ける魔術具か……切ないねぇ。幻影のケイツハルトさんからは、そんな感じ受けなかったけど……。そういえば、ケイツハルトが、転位をお金と書類に制限してるってのは、本当だったの?」


「そうですね。もともとあの場は、ケイツハルト本人が結界に篭りながら、必要な物資を調達するために作られました。そのため、指示された物資以外は送らせない様に、幻影を設定しています。お金と書類は、組織の活動そのものに必要なため、例外的に許可されています」


「組織!デベルさん達のがそれ?」

「そうですね。昔は情報収集と、有事の際に活動してもらう組織でした。今は生業としている商会としてしか、意味をなしていません」


「それなら、もう制限を解除すれば良いのに。商会としてなら、何でも送れたほうが便利だろうに」

「安全面を考えての措置なので、今でも意味はあります。本人ではなく、幻影に管理させているのも、危険な品が紛れ込むのを警戒しての事です。以前にもお話しましたが、転位装置の運用には、リスクが伴うのです。あとは、ケイツハルト本人が、物の流通に関し否定的だった事が影響し、あえてリスクを取ろうとはしていません」


「まぁあの、閉鎖的な村の領主だからなぁ……」

「テオ、それについては村に戻った後に、現場を交えながら詳しく教えます」


「引き篭もり領主の教えか。興味はあるな。実に俺向きだ。そういえばクーって、その領主のお母さんだったんだっけ。そんで、結構お年を召した方なん……あ、いや、別にどうでもいいんだよ?」


 調子に乗ってつい口を滑らせた。反射的に、攻撃を警戒して手でガードする。が、パンチは来なかった。


「テオ、私の姿が、チャルチの若い頃の姿なのは事実です。しかし、私と彼女は全く別の存在です。前の所有者──彼女の夫ですが、彼が彼女を懐かしんで、私の姿を設定した。それだけです。ですので、私をケイツハイトの母とするのは間違いです」


 まぁそうだよね。あの場でケイツハイトが、クーの事を自分の母と言ったのは、自らも本人ではない事を、デベルに伏せているからかな?しかし事実ではないとはいえ、こちらもその設定に乗っておいた方が、デベルに対してはプラスな気がする。


「それにしても、わざわざ若い時の姿にしたんだろ?本人が知ったら怒るだろうね」

「そうですね。私がテオが同じ事をされたら、間違いなく顔面にパンチを放ちます。……ですが、この姿に設定された時は、私はその様には思いませんでしたね。大変(いつく)しんでくださったので、むしろ悲しくなりました」


「悲しく?」

「そうですね。説明が難しいのですが、順を追って説明します。始めに作られたのは、年老いた姿──彼女が亡くなる少し前の姿でした。その時彼は、優しく、しかし悲しい目で私を眺めていました」


 なんだ、いきなり若い姿を作り出した訳ではないのか。


「次に、もっと若い頃──翡翠の貴婦人と謳われていた頃の姿で作られました。その時彼は、懐かしそうでもあり、誇らしそうでもあり、しかしやはり寂しげな目で、私を見つめました」


 ほう、そのバージョンは俺もぜひ見たい。パンチされそうなので口にはしないが。


「最後に、初恋の君の姿として作られました。その時彼は、少年の様な笑顔で、涙を流しました。そして、沢山沢山、本を読み聞かせて下さいました」


「クーなら、読んであげなくとも走査で読み取れるのに」

「テオ、その行為は、本の内容を伝えるためではありません。本も、私が出した幻影です。当然内容は知っています。それは、二人の時間の再現でした」


クーの目線が下がり、少し寂しそうな顔になった。


「私はその時を体感し、チャルチを──いや、二人をですかね、羨ましく思いました。しかし、同時にとても悲しくなりました」


クーは、顔まで下を向いてしまった。


「私は、彼女の姿をしながら、彼女ではない。彼が想いながら作った姿でありながら、彼の想う人ではないのです。彼が私を見る時、その目は、私ではなくチャルチに向けられたものでした。それを認識すればするほど、思いました。なぜ私は彼女ではないのだろう──と」


「…………。」

「そうですね。テオは、この様な話は好みではありませんでしたね……」


「えっと、いや待って、今考えるから」


 確かに、こういった話も空気も苦手だ。でも、何か言わなければならない気がする。


「えっとえっと、要するに、クーは前の持ち主の事が、結構好きだったんだね」

「それも間違ってはいません……ですがズレています。やれやれですね。やはりテオには、色々な恋愛物語を読ませるべきですね。そう確信しました」


 間違ってはいないが不正解とな。なんか理不尽。しかし、寂しそうな顔よりは、呆れ顔の方がマシだ。俺の中では及第点としよう。


「まぁ、お前とチャルチさんが別人なのは理解した。チャルチさんとして見られると、よい気がしないのも。でも……その上で相談したい。デベルに対しては、チャルチさん本人という事にしたいんだ。たぶんその方が、デベルは俺達のために動いてくれると思う」

「問題ありません。ケイツハルトの幻影とも、その様に合意しています。私は、テオさえ認識してくれていれば平気です」


 なんだよオイ。気を使って損した。


「色々と幻影同士で話し合ってるんだな。他には何か、俺が知っておくべきことはない?俺が質問していくより、お前が説明した方がよい気がする」


「直近で必要そうな知識としては、デベルの商会についてでしょうか。商会を実質的に運営しているのは、デベルとその組織です。しかし、貴族の名が必要だったため、今はエレギーゲル家の商会となっています」


「あぁ、以前にデベルが報告しに行ってた所か」

「そうですね。報告を受けていたクシミールが、現在のエレギーゲル家の当主です」


「ふーん。その人って、転位装置の事しってるの?」

「いえ、知らされていません。転位装置の事は、デベルの組織でも、ごく一部の者しか知りません。また、エレギーゲル商会が、デベルの組織の全てでもありません。交換転位先は他国にも及び、その一部は別の商会として活動しています」


「表のエレギーゲル商会よりも、デベルの裏組織の方が大きいって事か」

「そうですね。お飾りとまでは言いません。しかし、持っている情報や実行力は、クシミールよりもデベルの方が上でしょうね」


「なんか怖いなぁ。デベルとは争わない方が得策かねぇ」


 既に、だいぶケンカを売っちゃってるけどね……


 とりあえずで必要な知識を仕入れ、体を休めるためにその日は早めに寝た。


***


 そして次の日、俺とクーは、再びデベルの事務所に乗り込んだ。


 そしてクーは、また余裕の笑みでの仁王立ち。地下にいる亡霊の母君という事になっているので、偉そうな態度も、昨日よりはすこし違和感が薄れている。


「来たな、クソジャリども」

「それでデベルさん、何か良い案は浮かびました?」


「ああ、お前らにピッタリの計画を用意してやったぞ」


 デベルは、口だけでニヤリとした。目ではこちらを睨んでいる。クーは、それに余裕の笑みのまま言葉を返す。


「ピッタリと言うからには、私好みの計画なんでしょうね」

「それはお前達次第だ。俺がピッタリと言ったのは別の意味だ。題して──」


 デベルはそう言いながら、街の地図を机に広げ、何かのリストを、その上にバンと叩き付けた。


「その名も、『クソジャリはケツの拭き方を学べ大作戦』だ!」


 意外にも、デベルはノリノリだった。

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