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街での活動 その7 悲しい役目

 次の日、俺とクーは買出しの前にデベルの元に向かった。


 こんな盗品を兵舎に置いたまま出かけられないし、こんな重量のものを持ち歩けもしない。正直、手元にあっても困るのだ。勝手な話だが、さっさと処分したい。


 幸い、先の話ではデベルが、首飾りを買い取ってくれそうだった。なので、ついでに他の戦利品もお願いしてみる事にする。他にツテなんてないしね。


 という訳で、豆水晶でデベルを探し、押しかけてみたのだが……デベルはご機嫌斜めの様子。


「あのー、デベルさんたちが、首飾りとかを買い取ってくれると、聞いて来たんですがー……」

「それは誰から聞いた」


「えっとそれは、ほら、あの人。クーデリンデ、誰でしたっけ?」

「嫌ですわお姉様、黒狼団のトラウさんですよ」


「あぁそう、その人。その人から聞きました」


 デベルが少し顔を上げて俺達を睨む。


「お前らやり過ぎだ。こんな物は、ウチでも無理だ」

「えー?そんなー。引き取って下さいよー。お安くしておきますから」


「お前らがやった事は、反逆であり宣戦布告だ。この街の貴族に対するな」

「そ、そんな大げさな」


「事実だ。そんなお前らが盗ってきた物を扱ったら、俺まで同罪になる」

「えー、じゃぁコレどうするんですかー」


「知るか!お前らで何とかしろ!」


 デベルは、ふんぞり返って、面倒くさそうに手を振る。


 ここまで無下に断られるのは想定外だ。俺はクーの方を見る。クーは、未だにドヤ顔で仁王立ちをしている。そして余裕たっぷりに言った。


「デベルさん?いいんですか?」

「何がだ」


「私達をこのまま帰してしまって。私達は出て行きますよ。この建物の正面から、白昼堂々と、人目をはばからずに」

「!!!」


 デベルの顔が引きつる。


「お前らこの場で死にたいのか?」

「それが出来るなら、既にやっている───違いませんか?」


 余裕の表情のクーと、厳しい表情のデベルが睨み合う。俺はちょっと空気。もうちょっと俺も混ざりたい。クーに近寄ってヒソヒソ声で話しかける。


「(ねぇクーデリンデ、私達って、関係を疑われるのも嫌がられる存在なの?)」

「(そうですね。デベルも叩けばホコリが出る体──という事もありますが)」


「フンッ」


 デベルはイラつきを隠さない。


 それにしてもおかしい。企画書では「まちのミンナの人気者」だったはずだ。どうしてこうなった。


「ま、まぁ喧嘩せずに、みんなで力を合わせて何とかしましょ。ね?やっちゃったのは私達ですけど、元はと言えば、デベルさん達の強奪計画ですし」

「俺はお前らに、声をかけた覚えはない。完全なトバッチリだ」


「えー、それはズルいですよぅ……私達も出てくるーって、分かってて黒狼団を動かしたクセに……」

「お姉様、この男は昨日の夜、私達にハメられた事を根に持って、スネているのですよ」


「そうなの?惚れぼれする様な、見事なエスコートぶりだったのに?」

「お姉様は見ていませんが、ダンスも素敵でしたよ」


「そういえば、あのお嬢様は、無事に帰れたのかしら」

「またお姉様は人の心配ばかりして。いい加減にして下さい」


「だってー……」


 デベルが眉間にシワを寄せ、目を細めて、うんざりしたように言う。


「いい加減にして欲しいのは俺の方だ。大人顔負けの犯行をしながら、今はガキそのもの。本当に……本当に何なんだ、お前らは……」


「私達ですか、私達は───」

「「怪盗姉妹、ケッツヘンアイ!」」


 息が合い、会心のキメポーズが決まった。

 デベルは力なくうなだれる。キメポーズの破壊力は抜群だ。


「頼む……頼むから、まともに話せる大人を連れてきてくれ……」


「そんな人が居たら、朝からこんな所に来ないですよ。私達は、大人達、特にアヒ──じゃなかった。えと、お兄様に見つかる前に、何とかしたくて来てるんです」


「お姉様、先日既に金貨の音を聞かれています。私達が何かしている事を、お兄様は既に感づいていると思います」


「キャー!聞きたくない!聞きたくない!聞きたくない!今はその事を言わないで!」


 そう。兵舎でなんの気なしに金貨の入った袋を置いたら、ジャリっと音がしてしまった。ヤバいと感じた時には遅かった。書き物をしていたアヒムの手が──いや、全身が不自然に数秒停止した。それを視界の端で見てしまった俺も動けなくなり、心臓の鼓動だけが鳴り響く、永遠とも思える数秒間を味わった。


 アヒムはその後、何事も無かったように書き物を再開したが……やっぱバレてるよな……。何も言って来ないのが、逆に超怖い。でも、今はその事を考えたくない。


「おい、ちょっとそのお兄様とやらに会わせろ」

「あなたバカなの?私の話の何を聞いていたの?」


「ハァ……言ってみただけだ。だがな、コレはウチでは捌けない。粘るだけ時間の無駄だ」


 デベルはため息混じりに言った。相手をするのに疲れた。そう言わんばかりで、こちらが諦めるのを待っているようだった。


 これは本当にダメなのかもしれない。俺はそう思ったが、クーは依然として、余裕の笑みで仁王立ちしている。はたから見ると、ただの空気を読めない子供。だが、クーに限ってはそうではない。いや、確かにあまり空気は読まないか。でも、子供ではない。


「クーデリンデ、さっきから余裕たっぷりだけど、なにか考えでもあるの?」

「お姉様、考えという程のものではありません。事実を突きつけるだけでよいのです」


「そうなの?」

「お姉様、初めから実力を見せ付けて勝つのは、素人のやる事だと思うのです」


 突然、クーが変な事を言い出した。俺とデベルは、意表を突かれて「は?」という顔になった。


「今、この男の考えはきっとこうです。美味い話ではあるが、真っ先に、全てを持ち込まれるのだけは避けなくてはならない。もともと例の首飾りの回収のために、持ち込まれそうな所には網を張っている。そちらを通して買い受けたほうが、利益は減るが安全だ。それならば、第三者として、元の持ち主に売り込む事も可能かもしれない。そうだそうしよう。でもそのために、とりあえずこの場は、なんとしてでも帰ってもらわなければ──と」


 俺とデベルは、クーが何を言い出したのか、まだ理解がおいついていない。クーは、その空気を読まずに続ける。


「そうして、この男は手馴れた演技で、私達を追い返そうとしていました。お姉様がそれに乗りかけて、この男は内心でほくそ笑みました。さすがお姉様です。いい仕事をしました。私は、そうなるまで待っていたのです」


「な、なにを言っているの、クーデリンデ」

「相手に勝ち目を見せてから叩き潰す。その方が楽しい。そういう事です」


「本当になにを言っているんだ?このお嬢ちゃんは」


 目をパチクリするデベル。


「いいですかお姉様、その男の顔に騙されてはなりません。ここの商会は、他の街や、他の国にも支店があります。この街の中だけで捌く必要はなく、その男が、その商品を売り抜けるのは十分可能なのです」


「そうなのですか?」

「無理だ。簡単に言ってくれるが、お前らのせいで、積荷の取調べが厳しくなる。それで一つでも見つかれば破滅だ。そんなリスクは犯せない」


 デベルが真剣に反論してくる。でも、支店が沢山あって、持ち出せれば売れる事は否定しない。


「普通ならそうでしょうね。でも、実はそれも問題ではありません。理由は二つあります。一つは、私達がお金をすぐに回収したい、という訳ではないからです。使う予定もないため、むしろ、お金も持ち帰りたくありません。なので、この商会に口座を作っていただき、預けておきたいのです。帳簿上で"貸し”という事になっていれば良く、商品を急いで売る必要はありません」


「あぁ、確かにそれは昨日話し合ったわね。預けておく事はできないかな──って」


「そういう問題じゃない。これを手元に置いておいて、なにかの拍子に見つかったら破滅なんだぞ?時間的余裕ができるというが、その時間もリスクになる。冗談じゃない」


 デベルはちょっと怒り気味に反論してきた。俺は二人の顔を交互に見るしか出来ない。またも俺は空気になりつつある。


「でも、これくらいの荷物なら、一瞬で他の国に転位できますよね。それが二つ目の理由です」


 クーがまた変な事を言い出した。デベルからは魔力を全く感じない。転位なんて出来るわけないじゃん。俺だって出来ないのに。


「クーデリンデ、魔術師じゃないデベルさんにそんな事を言っても、子供が変な事を言っていると思われるだけですよ」


 やれやれ。

 しかし、チラりとデベルの方に目をやると、寸前まで怒っていた顔が、驚きの表情になって固まっている。


「え?ウソ、出来るの?」

「地下にスワップ式の転位装置を発見しました。この商会が大きくなった原動力だと思います」


「転位装置?な、なんだそれは。俺はそんな物は知らん」


「とぼけるつもりですか?では、今度は私が言う番ですね。粘るだけ時間の無駄だと。私達は、全てを知った上で、ソレをここに持ち込んだのですよ」


「ぐ…………。」


 クーは、部屋にはいって、戦利品をドチャっとおいた所から、ほぼ同じポーズで余裕の笑みを絶やしていない。キメポーズの後も、終わったらスッと仁王立ちに戻ったくらいだ。


 一方、デベルは最後にポーカーフェイスが剥がれた。それだけで、この場の勝敗は決した事が分かった。


 俺は、デベルの演技に翻弄され、オロオロしていただけ。でも、クーは言っていた「いい仕事をした」と。クーの勝ちは俺のおかげ。クーが勝ったなら俺も勝ち。そういう事にしておこう。真面目に考えると、泣きたくなるし。

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