街での活動 その3 みんなの理解
俺とクーは、黒狼団の心が折れるまで絡みまくるつもり。その為に、黒狼団の予定をさぐる。
黒狼団の活動は基本的に夜なので、おれは夕飯後に兵舎を抜け出して黒狼団を探す。今晩は酒場の奥の個室に居た。
「クソ!なんなんだあのガキどもは!」
「ケッツヘンアイと名乗ってました」
「名前なんか知るか!今度あったら絶対にぶっ殺す」
ボスっぽい人が吠えている。酔っ払っているのか同じ話をくり返し、最後に「ぶっ殺す」で締める事を繰り返す。しらふでも悪そうな頭が、お酒が入ってもっとダメになっている。なんでそんな事をするのか。大人のやる事はよく分からない。
特に有益な話はなさそうだと思い、俺が帰ろうとしたところで、部屋に別の男が入ってきた。マントのフードを深く被り、顔を見られないようにしている。俺は気になったので、近付いて覗き込む。知らない顔だ。
男は黒狼団のボスに近寄り話し始める。
「誰かに金を横取りされたそうだな」
「ケッ!もう知ってやがるのか。クソ情報屋め」
「奪った誰かというのが、まだ子供だった事もな。お前は、そいつ等の事を何か知らないのか?相手は、お前らに用があったらしいが」
「あんなガキは知らねえよ。向こうはこちらに恨みがあるのかも知れねーがな」
「恨み?」
「俺らは強者で奪う側だからな。ケッケッケッケ」
「復讐にしては、やり方が回りくどい。他にも何かあるだろう」
「弱い奴の考えなんて俺にも分からねーよ。どうでもいいだろあんなガキ。今度あったら俺が首をへし折ってやっからよ。それで終わりだ」
「ハァ……お前から情報は得れそうに無いな。予想はしていたが」
「何も知らねーって始めから言ってるだろうが!お前にこれをくれてやる。だからさっさと消えろ。次はいい話をもってこい!」
黒狼団のボスは、クシャっと丸められた紙屑を情報屋に渡した。情報屋が広げてみたので、犯行予告カードだった事が分かる。俺がせっかく書いた物をその様に扱うとは……。コイツには今度お仕置きをしてやろう。
「これが例の犯行予告か。ふむ、今日の所は引き上げるとしよう」
「おう、さっさと帰れ!お前が居ると酒がまずくならぁ」
情報屋が帰るようなので、俺らはそれに付いて行く事にした。酔っ払って、さらにダメ人間になっている黒狼団を見ていても仕方がない。
情報屋は路地を縫うように抜け、とある建物の裏口まで移動した。四階建てのその建物は、住居でもないしお店でもない。何の特徴のないレンガ積みの建物だ。回りも似たような建物ばかりだが、他より1階だけ高い。それが若干の自己主張になっている。
情報屋が裏戸をノックすると、扉についている小窓があいた。そして情報屋の顔が確認されると扉が開けられた。そういうシステムか。これは後から侵入するのは面倒くさそう。俺とクーは、情報屋と一緒に建物の中に入った。
「クシミール様は部屋に?」
「はい」
情報屋はフードから顔を出し、扉の番をしている男と言葉を交わすと、細い階段を登っていった。人がギリギリすれ違える程度の幅しかない。
男は三階まで登ると、一つの扉をノックして言った。
「デベルです。戻りました」
「入れ」
俺とクーは、この扉もササッと入る。
「なぁクー、情報屋ってこんなんだっけ?俺のイメージだと、一人で活動してて、誰かに報告とかしない感じなんだけど」
「ただの情報屋ではないようですね。この男は、昨晩あの墓地にもいて、観察していました。隠密の類かもしれません」
なにそれ初耳。というか、クーさん死角なさすぎ。たまにポンコツ過ぎて忘れるけれど、基本有能なんだよなコイツ。
情報屋は主人と思わしき人に、シワだらけになった犯行予行カードを渡し、報告を始めた。
「黒狼団より得れた情報は、その犯行予告の紙のみでした。奴らに心当たりはないようです」
「襲う相手に、襲うことを前もって伝える。それが犯行予告か。言葉の意味は分かったが、なぜその様な事をするのか理解できんな。お前はどう見る?」
「相手を警戒させ、仕事がしにくくなるだけ。普通に考えれば、ありえない行動です。ですが、我々に対するアピールと考えれば理解できます」
「というと?」
「あの猫は、狼にとって代わりたいのではないでしょうか。犯行予告により、我々を見に来させ、そこで実力を認識させる。そういう算段だったのでしょう」
「ふむ。その可能性はあるな」
「しかし、狼は餌で操られているだけで、飼い犬ではない。予告をしても、我々には伝わらない。それを猫は知らなかった──そう考えれば、一応のつじつまは合います」
「うーむ……」
情報屋の主人は腕組みをして黙った。思考をめぐらしているようだ。どうしよう。だいぶ勘違いして理解されている。
「それにしても少女の二人組みとはな……。常識から外れすぎていて扱いに困る。どこの組織か知らないが、もう少しマトモな人選をして欲しいものだ」
「それも見方次第だと思われます。あの少女達は、身のこなし、気配の断ち方など、ただ者ではありませんでした。もし彼女達に与えられた指令が殲滅であれば、狼達はあの場で皆殺しにされていたでしょう。そして、その少女達を幼少のころより訓練してきた組織が裏にある。私は非常に脅威に感じました」
「お前がそこまで言うのであれば、注意した方が良いだろうな。我らとしては、黒狼団だろうがケッツヘンアイだろうが、役割をこなしてくれれば問題はない。しかし、後々我らに脅威となる組織が裏にあるとなれば、話は別だ。対策を講じる必要がある」
「私もそう思います。今のところ、向こうからは明確な交渉を持ちかけられてはいません。結論を出す事は避け、ひとまず狼を使い続けながら接触を待ち、情報をあつめ、対策を練る。それが最善かと思われます」
「場合によっては黒狼団も含めて痕跡を消す。その準備もしておけ」
「それは以前より出来ております。今一度確認はしておきますが」
黒狼団は意外と危ういポジションに居るようだ。俺らがやりすぎると、マルコ兄さんごと抹消されかねない。少し気をつけた方が良いな。
「では、次の計画はどうするつもりだ」
「ビーネ商会の信頼を落とす件ですね。当初の予定通り進めようと考えています。先の誘拐より、強盗の方が狼には適しています。また、仮に猫に横取りされても、商会の信頼を落とす目的は果たされます」
「元の計画では、盗む予定の品を商会に持ち込むのは、こちらの役目だ。商会の信頼は落とせても、猫に奪われれば損失だぞ。商会に賠償金を要求しつつ、品は手元に返ってくる。そういう計画だったはずだ」
「猫もどこかで換金を試みるはずです。街中に情報網を張り、その際に接触を試みます。狼から買い上げる予定の金額で、猫より買うのであれば損失はありません」
「その上で、猫の情報も得れるという事か。分かった。そのまま進めてくれ」
「了解しました。それでは日程と獲物の準備についてですが───」
そこで、次の犯罪計画について知ることが出来た。
次の黒狼団のターゲットは、預かり物の商品を舞踏会に付けていってしまう、困った商家の御令嬢。豪華なプリンセスタイプのネックレスを、舞踏会の日程に合わせて預け、持ち出させる。それを、舞踏会に向かう途中で黒狼団に奪わせる計画。
黒狼団には美味しい話として、ネックレスの換金額、それと日時と馬車の目印、人数が伝えられるのみ。黒狼団は裏にある事は詮索せず、それだけで勝手に動いてくれる。だいぶ便利に使われているようだ。
俺とクーは、それらの情報を得て、満足して帰路についた。
「ここまで情報があれば、次も横取りは容易いね」
「テオ、横取りだけではダメです。令嬢には、無事に舞踏会にたどり着いてもらいます」
「え、なんで?行く途中に襲う方が、時間も読みやすいし簡単じゃない。だから黒狼団もそうするんだろ?」
「テオ、舞踏会ですよ舞踏会!怪盗ならば、皆の目のある舞踏会の最中に奪わなくてどうするのですか!誰も見ていない夜道で襲って盗むなんて、怪盗の名折れですよ」
おうふ。怪盗への拘りだけで、ハードルを上げやがった。でも、クーが拘れば拘るだけ、周りからは勘違いされるんだが……




