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街で活動 その2 怪盗あらわる

 実の兄が犯罪組織の下っ端として働いていた。俺は何故かそれが気に入らない。なのでぶっ潰す宣言。なんてワガママなんだ。俺は少し自己嫌悪している。でも気に入らないのだから仕方がない。


 そんなモヤっとする気持ちを抱えながらも、俺は兵舎に戻り、クーと打ち合わせ。


「既にクーには案があるみたいだけれど、まずは条件の摺り合わせをしたい。いいかな」

「テオ、私もそれを望みます」


「最優先事項は、マルコ兄さんの安全。死んだり怪我をしたりはもちろん、捕まるのも無しだ」

「捕まった後に逃がすのも無しですか?手配されれば、マルコが村に帰る動機になります」


「なるほどね。んーでも、俺らって物理的拘束を解く力ないじゃない。縄くらいならナイフでなんとか出来るけど、木とか鉄の枷をはめられたり、檻に閉じ込められたりしたら詰む。リスクは避けよう」

「分かりました」


 やはり摺り合わせは大事。


「それと、殺しはなるべくしない方向でいきたい。黒狼団こくろうだん員を検索して片っ端から殺していく──なんてのはナシだ。捕まえて処刑するのは街の治安係にさせたい」

「暗殺が一番てっとり早くて確実なのですけどね。仕方がありません。テオの好みは理解しています」


「その上で、黒狼団の壊滅。一部が活動しつづけるのも阻止したい。俺からは以上だけど、クーは何かある?」

「テオ、テオ自身の安全が抜けています。当たり前の事でも、確認を怠ってはいけません。マルコの安全より、その条件を上位におくべきです」


「あぁそうだった」


 クーさんは条件について話すと、細かくて事務的でうるさい。それが時にウンザリ。でもまぁ、頼りになる所でもあるんだけど。


「テオ、私にはそれらの条件を満たす、企画の準備があります」

「企画?」


 クーが紙を一枚渡してきた。

~~~~

怪盗姉妹ケッツヘンアイ

 黒い服の泣き虫テオロッテ(姉)と、白い服の活発なクーデリンデ(妹)の爽快活劇。テオロッテは得意の魔術で追っ手を翻弄し、クーデリンデはスカートから色んな物を出して活躍するよ!二人は、悪の組織である黒狼団こくろうだんと戦いながらも、捕まえようとしてくる衛兵を手玉に取り、次々とお宝を手中に収めていく。人殺しは一切せず、一つ一つの仕草に愛くるしさを忘れない彼女達は、街のみんなの人気者。

~~~~


 説明文の下のほうには、コスチュームや武器、犯行予告カードのサンプルなどが描かれている。


 どうしよう。つっこみ所が多過ぎて何て言っていいか分からない。


「クーさん?これはどういう……」

「テオ、黒狼団を潰すための企画書です」


 確かに、黒狼団と戦うという一文も入っている。


「なんか俺らが盗みをする事になってるんだが」

「テオ、先ほどの摺り合わせでは、『私たちが犯罪をしない』という条件はありませんでした」


「あ、うん。確かに無かった。でも、する必要も無いのでは?」

「いいえテオ。黒狼団の様な中二病組織を潰すには、彼らの土俵で実力を見せ付けるのが一番です。そうして心を折ってから解散させれば、再発も防げます」


 あの犯罪組織は中二病の集まりだったのか。まぁワルに憧れている感じはしたし、名前もそんな感じだが。


「なるほど。趣旨は理解した。でもこれ、お前がやりたいだけでは?」

「テオ、だとしたら何か問題がありますか?目的さえ適えば、楽しい方が良いじゃないですか」


 やりたいのは否定しないのね。何か以前も、こんな事があったような気がする。


「テオ、これでも私は我慢しているのです。本当は、アヒムを巻き込んで三人姉妹にしたかったのですよ。怪盗姉妹といえば古来より三人が基本ですから」

「それは流石にむりだな」


「他にも、体のラインにピッタリ沿う露出の多い服とか──」


 クーがやりたいのはソッチ系なのか。年とか能力的には、魔女っ子系だと思うんだけどな。


「あーもー分かった。もうこれでいいよ。目的さえクリアできれば」

「テオ、それでは早速、犯行予告カードを作って下さい」


「え?俺が作るの?」

「私が創った物では、相手に届けたり現場に残したり出来ないではないですか」


 おうふ。なんだか非常に使われている感。企画にGOを出した事を、ものの数秒で俺は後悔した。


 俺は企画書に描かれたカードの図案──カードの左右に顔を半分ずつ出した白と黒の猫──を紙に写していく。黒猫は上目遣いで、白猫は見下している目。黒い方が俺らしいから、おれは上目遣い担当の様だ。設定が細かい。


「えっと、文章はどうするの」

「始めてですし、ストレートに『今夜、あなた方の商品をいただきに参ります』にしましょう」


「え?あの人質を盗むの?重くて運べないと思うんだけど」

「そこは自分で動いて貰いましょう。いざとなれば、殺してしまっても奪った事になります」


 クーさんの発想は時々怖い。


 俺は言われたとおりに犯行予告を書き、最後に怪盗ケッツヘンアイの署名を添える。


 書き終ったところで、カードを届けに行くのも俺だ。俺、今回とても使われている。


 今回はテオ姿のまま、クーに姿を消してもらって潜入した。さっきは、マルコ兄さんと話してみたかったから姿を出していったが、今度はその必要は無いのだ。他のメンバーも帰ってきている中、堂々と人質の頭の上にカードを置いた。


「ん?なんだこの紙。誰が置いたんだ?」


 黒狼団の一人が犯行予告カードに気付き、他のメンバーに問いかける。しかし、誰も反応しない。仕方なく、カードを見て読み上げる。


「『今夜、あなた方の商品をいただきに参ります』?なんだこりゃ。おいお前ら!イタズラなんかして遊んでんじゃねーぞ?誰の仕業だ!」


 おっと、信じてもらえてない様子。初回の犯行予告としては神出鬼没すぎたか。仕方なく、クーが姿を見せずに声だけ聞かせる。


「やれやれですね。それは貴方たちに対する宣戦布告です。仲間割れなどしていないで、力を合わせて歯向かってください」

「誰だ貴様!」


「本当にやれやれですね。察しが悪すぎます。貴方がたを叩き潰すケッツヘンアイですよ。なんでそこまで説明させるんですか!ワクワクしながら、カードで犯行予告した私の立場はどうなるんですか!このお礼は、今夜キッチリ戴きますからね!」


 勝手に犯行予告を出して、理不尽なキレ方をする怪盗姉妹ケッツヘンアイ。関わりたくない人種だ。でも俺はその片割れ。


 微妙な犯行予告を済ませた俺達は、兵舎に戻った。


***


 ちゃんと皆と晩御飯を食べ、片付けもすませた。そしてそこから犯行準備。まずは、クーがデザインした衣装に着替ええる。


 クーは、いつものワンピースの袖を取り、肩まで出した服。顔は目の周りだけを隠すマスク。基調は白。そしてやはり裸足。


 俺は、胸がないと残念になる例の魔女の服。基調は黒。こちらも袖が取られて、肩が出ている。マスクはクーと同じく目の周りだけを隠すもの。足は長靴下。裸足はなんとか免れた。


でも、この服のチョイスには悪意を感じる。成長し始めたばかりのテオロッテの胸でも、背伸びし過ぎ感が凄い。まだペッタンコイジリしたのを根に持っているのか。


 着替えた後、名乗り口上とポーズの練習を少しする。これも、実力の違いを見せ付けるのに、必要な事らしい。


 そしてようやく行動開始。豆水晶で調べてみると、人質は移送された様だ。マルコ兄さんもそっち。でも残念な見張りのトラウさんは元の場所。


 俺達は当然人質の方に向かう。そこは街外れ墓地だった。そして、すでに人質とお金の交換が行われようとしていた。


「お父様!助けて!」

「アグネリア!今助けてやる!黒狼団!要求の金は用意した!娘を放せ!」


「おっと待ちな。金が先だ。金をこっちに放り投げな」

「お前らの事など信用できるか、先に娘を放せ!」


 少し揉めてる。でもこれ、引渡しが成立しちゃったら、俺らは黒狼団にしてやられた事になる気がする。


「クー、やばいねこれ」

「お姉さま、クーデリンデです!とりあえず介入して場を止めますね!」


 そう言うと、クーは墓地の中にあるお堂の屋根に、トントントーンと跳んで登った。相変わらず身軽だ。


「その取引、ちょっと待ってください!」


 その声で皆が振り向く。そこには白い服の謎の少女が仁王立ちしている。彼女はどこからかライトアップされ、風もないのに髪がなびいている。何が起こったのか理解できずに皆が固まった。


 俺はそのスキに、えっこらせっとお堂の屋根によじ登る。それだけで疲れて若干息が切れた。クーに手で「ちょっと待って」と合図をしながら、息を整える。


「コラガキィ!ここはお前らが来て良いところじゃねぇ!大人の邪魔すんな!」

「ガキではありません、怪盗姉妹ケッツヘンアイです!予告どおり、商品をいただきに参りました!」


「あのイタズラはお前らか!なめた真似しやがって!」

「イタズラじゃありません!犯行予告です!貰ったら、ちゃんとオロオロしてください!」


 恐らく黒狼団の人は、怪盗という言葉すら知らない。犯行予告なんて、もっと意味不明だろう。


「あのー、お嬢ちゃん?私たちは、早く娘を返してもらいたいんだ。邪魔しないでくれるかな」


 当然、人質の親にも理解不能なようだ。


「もう!どうしてミンナ分かってくれないんですか!こうなれば実力行使です!」


 結局、理不尽にキレる。


 クーは、ワンピースのスカート部を少し摘まんで振った。すると、スカートの下から鶏卵サイズの硬い玉がポロポロ出てきて、お堂の屋根をコンコン跳ねながら皆の足元まで落ちていく。そして、プシューっと煙が噴き出した。


「うわっなんだこの煙は!」「キャーお父様ぁ!」「アグネリア!大丈夫か!」

「お姉さま!今です!あの娘をさらって下さい!」


 もう降りるのか。せっかくよじ登ったのに。


「クーデリンデ、連れ去るのは難しそうだから、私の手で父親のとこに返すだけでいい?」

「仕方がありませんね。お姉さま、それで完遂した事にしましょう。でも、御代は忘れずに頂いてください」


 俺はお堂を降りて、黒狼団の元に向かう。黒狼団は、煙に巻かれてワタワタしていたが、ジリジリと娘を連れて引き上げようとしていた。煙の幻影は、皆には視界を遮るくらい濃く見えているようだが、俺には薄くしか見えていない。俺は落ち着いて娘を捕まえている人を眠らせ、娘を奪った。


「アグネリアさん。妹のワガママに巻き込んでごめんなさい。これからお父様の下に案内いたしますから、落ち着いて歩いて下さいますか」


 娘は泣きながら頷く。彼女はいつの間にか猿ぐつわをされていた。


 娘の父親は、娘の名前を呼びながらワタワタしている。俺は娘を後ろから押し、父親の胸に押し付けた。


「アグネリアか!」

「ウーッ!ウー!」


「おお!アグネリア!よかった!」


 父親が娘を抱いた瞬間、手から皮袋が落ちてジャリンと鳴った。俺はそれを拾って言う。


「こちらにも事情がありまして……申し訳ないのですが、怪盗姉妹ケッツヘンアイが、御代をいただきますね」

「娘が帰ってくれば金などくれてやる。悪党め!さっさと失せろ!」


「すみません……」


 俺は、お金を持ってクーの元に帰る。クーはずっと仁王立ち。これではどちらが姉だか分からない。


 俺が再びお堂の屋根に上ると、煙が消されてクーが勝利宣言をする。


「黒狼団さん!確かに商品はいただきました!今回は私たちケッツヘンアイの勝利ですね!次回は、犯行予告を受け取ったらちゃんとオロオロしてください!それではみさなん御機嫌よう!」


 クーのスカートが振られ、また玉が落ちてお堂が煙に包まれた。黒狼団は未だに状況が掴めていないようで呆けている。被害者親子の姿は既に無い。


「ではお姉さま、帰りましょう。完全勝利です」


 完全勝利なのかなぁ。結局今回は、クーのやりたい事は、だれにも伝わらなった気がするんだが。


 何はともあれ、俺達は犯罪者デビューした。変な意味で自分勝手で理不尽な怪盗として。

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