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出兵 その9 帰隊の報告会

動きの無い、つじつまあわせの報告会なのです。めんどいなー、でも無いと変かなーみたいな。

 馬を失った俺は、まず近くの村まで歩き、食料を盗む。そして、近くに居た斥候狩りの敵兵を刺殺。馬をよじ登りながら刺し殺すので少し手間取ったが、なんなく帰りの馬を手に入れた。


「テオの行動が少し魔術師らしくなりましたね」


 クーにそんな事を指摘されたが、戦時下の異常な精神状態のせいだと思いたい。しかし実際、人を刺す事にあまり抵抗がなくなった。自分の体には魔力を感じる。殺す相手には感じない。自分と相手は違うものだと認識させられる。そして、自分は人間だと確信している。では相手は───?。急に他の人が同じ人間で無くなったように感じ、戸惑ってもいた。


 その後、豆水晶でアヒムの場所を探し、めでたく二日遅れで合流。めでたくムチ打ちの刑である。まぁもちろん、クーの幻影で騙して切り抜けたが。


 そして、騎士の天幕でご報告。


 俺は通った道筋を、ほとんど嘘偽りなく話した。アヒムに嘘をつける気がしない。でも、本当は暗殺に行った事とクーの事は話さない。嘘は無理でも隠し事ならなんとかなる。


「おぬし、そんな所まで行ったのか!敵兵は!?斥候狩りが行われていると聞いたぞ?」

「確かに、こことここ……この村にも居ましたね。子供だから見過ごされたんじゃないですかね」


 グラハルトは信じられない様子。そしてアヒムも疑っている。


「お前、乗って行った馬とは違う馬で帰ってきたな」

「行った先で、魔女に馬を殺されてしまったのです。仕方なく、帰り道で別の馬を調達しました」


「「魔女だと!?」」

「ええ、やはり居ました。天に届くんじゃないかって身の丈のハーピー…あ、ハーピーってのは鳥と人間の化け物なんですが、それに変化して……」


「待て待て待て、一つずつ聞く。魔女が居たのはどこだ?」


 グラハルトに止められた。


「ここですね。防衛拠点の少し手前です」

「まだ落ちて居なかったのか……伝令が戻らないので、落ちたものとされていたが……」


「そのままの認識でも良いのでは?今頃は落ちているでしょうし。魔女の破壊の力は、先日にグラハルト様やアヒム様が見た通りのものですし」

「おぬしはアレも見てきたのか」


「はい。確認したい事がありましたので。やはり、あの丘にも転移陣がありました。これっくらいの大きな石の円盤です」

「確かに、それらしき物は我も見た」


「敵はアレを使い、魔女や兵士を移動させているようです」

「現在の状況とは一致する話だが……にわかには信じられんな……」


「お前今、魔女や兵士を移動させていると言ったな。魔女が自分で動いている訳ではないのか?」


 突っ込みが厳しいアヒム。こわい。


「魔女とは別にもう一人、男の魔術師が居ました。魔女ほどは力を持っていない様ですが、転移陣は作れるようです。一番初めに潜入してきたのは、その人だと思います」

「ウーム……」


 険しい顔で地図を見ながらうなるグラハルト。アヒムはまだ俺を睨んでいる。


「お前はさっき、馬を調達したと言ったが、あれは敵の馬だ。お前なんかに盗めるものではない」

「そこは、子供と油断しているところをサッといってプスッと」


 俺は体で再現しながら説明した。大まかには嘘ではない。実際には何十倍もゆっくりなだけで。


 そしてその動作の通りに、俺の服には返り血が付いていた。俺の背で大人の首を刺すと、噴き出した血をもろに浴びるのだ。刺し殺した事よりも、血だらけの怪しい少年を油断した事、そちらに疑問を持たれそうなくらいべっとり付いている。しかし、転移陣での初めの殺しは話してないので、なんとか筋が通る。


 バレてない。バレてないけど、アヒムにはまだ睨まれている。グラハルトも地図から顔を上げて質問してきた。


「魔女の話を聞きたい。倒せると思うか?」

「化け物になる前なら、普通の女性ですので恐らく」


「化け物になってしまったら?」

「無理だと思います。お城より何倍も高さのある化け物なのです。それが自由に空を飛び、大木をも薙ぐ羽根を飛ばし、全てを吹き飛ばす竜巻を作るのです。戦うどころか、逃げることも叶いません」


「おぬしはよく生きて帰って来れたな」

「本当に運が良かったとしか……あの辺り一帯の木々は残らず薙ぎ倒されました。倒れた木の影に隠れてやり過ごそうとした所に、竜巻が迫ってきて……あの時は本当に本当に死ぬと思いました。あんな目にはもう……本当に本当にあいたくありません」


 アレを思い出すと、胸が苦しくなって心臓がバクバクする。俺は外向きの顔が作れなくなって表情が歪み、苦しそうにかがんでしまった。でも、演技ではなく本当にトラウマなのだ。


 苦しんでいたら、クーが顔にプニプニした玉を押し付けて慰めてくれた。悔しいが、それで少し楽になった。


「落ち着けよ。ここは安全だ」


 アヒムもようやく少し信じてくれたようだ。人を刺し殺した事を平然と話していた少年が、今は本気で怯えている。それにより、普通ならば一番信じられない話が、妙に信憑性を持ったようだ。そして、そんな事が本当なら、他もありえる話と。


「ムゥ……この様な奇想天外な話、なんと報告してよいか分からぬな」

「ある程度は加工するしかないでしょうね。近隣の村で聴取できた話として。私がやります。テオにはもう少し詳細を聞いてみます」


 アヒムはまだ逃してくれないようだ。おうふ。アヒムに天幕裏に連れて行かれた。そしてまた睨まれた。


「お前は何を隠している?」

「見てきた事は正直に話しましたよ?」


「お前は出て行く時に、帰ってこられると確信していた。そこが腑に落ちない。本来、斥候はかなりの危険を伴う任務だ。そして実際に斥候狩りに会っている。上手く回避できたのは結果論でしかない。それなのにお前は、帰ってこれると確信していた。またお前はそれを、当然の結果と言わんばかりにそれを話す。それはなぜだ?常識的に判断すれば、それはお前が敵軍の間者だからだ。しかし、それも俺はに何か納得できない。本当の事を説明しろ」


 やはりアヒム怖い。しかし、そこまで話すのはある程度は信頼されているからだろう。能力的な事も含めて。


「ここだけの話にして下さいますか?」

「内容による。しかし、俺は今のお前を信用できない。危険だとすら思っている。間者の可能性も捨てていない。話さなければ斬るぞ」


 俺は、今アヒムを殺した場合について、考えを巡らせた。俺が騎士達に事情聴取を受けていることは皆が知っている。隠蔽するなら隊全員を殺す必要があるだろう。その場合どうなる?俺は村に帰れるのか?あの日常にどう戻る?


 結論として、今は殺すべきではないと判断した。もう少し危機的状況になるまで、保留できるならした方がいい。そもそも殺しはしたくない。限定的に秘密をばらして、なんとか納得してもらいたい。


「私は、一時的にですが、人の目を欺く事ができます」


 俺は服を脱いで綺麗なままの背中を見せた。本来ならば、ムチで打たれて腫れ上がり、血が滲んでいるはずの背中だ。ムチを振るった本人であるアヒムは一瞬目をむいた。しかし慌てない。


「なるほどな。幻覚の類か。しかし魔女には通じず、それが想定外で殺されかけたという訳か」


 アヒムは理解が早くて助かるな。俺は黙って頷く。


「それで、俺はお前の事をどうやって信用すればいい?お前の能力は隊に役に立つものだが、危険過ぎるものでもある。既に俺はお前に騙されているからな」


 アヒムは俺に思考回路が近いようだ。信じたいけど信じられる理由が欲しくなるタイプ。


「私は自分の秘密をアヒム様にお話ししました。それではダメですか?」

「ダメだな。むしろ俺は今、お前に首根っこを掴まれている気分だ。お前は俺をいつでも殺せる。そうだろう?」


 あ、やっぱ理解が早過ぎるの困る。もう欲望のシッポをフリフリして、敵意がない事を示すか。面倒くさいが。


「アヒム様。私の望みは、早く村に帰って、水車小屋でのんびり本を読んで過ごす事です。正直、戦争の行方はどうでもいいです。あの領地は、みんなに嫌われて見捨てられていますから、誰も攻めには来ないでしょうし。」


「お前は何を言っている?」

「私の本心ですよ。本当は、全てを投げ出して、今すぐにでも村に帰りたいです。私にはそれが出来ます。しかしそうしてしまうと、村での立場が無くなります。それに、後でミンナが戦死したと聞かされたら、夢見が悪くなってしまいます。それらを避けるために、私は今、頑張っているのですよ」


「俺やグラハルト様、ルドルフ様が戦死しても、お前は帰れるだろ」

「そうかも知れませんが、そうなったら私の敗北です。夢身が悪くなるのですから。私の勝利条件は、ミンナで一緒に帰ることです」


「無茶苦茶な話だな。しかし、問い詰めた俺を殺さずに、秘密を打ち明けた理由は、少し納得できた」

「もう少し信用して欲しいものです。私はその為に命がけで魔女を暗殺しに行ったのです。失敗しましたが」


「クッ、本当に無茶苦茶だな。お前は俺に信用して欲しかったら、お前も俺を信用しろ!勝手に事を起こさずに俺に相談しろ!いいな!」

「あ、はーい」


「ったく、余計な仕事を増やしやがって……」


 アヒムは気が済んだようで、天幕に戻っていった。


 グラハルトの時もそうだったが、アヒムは頼られないと不安になるようだ。操縦方法が少し分かった気がする。流れで色々話してしまったけど、アヒムは無駄にカードを切る人ではない。その辺りは信頼できるから、まぁ大丈夫だろう。


***


「こうして、テオはアヒムに押し切られ、関係を持つことになった。アヒムを軸とした正妻戦争は、今後どう発展をみせるのか。天然年上マッチョ受けのグラハルトと、知的で高度な誘い受けを操るテオ、その熱き戦いの火蓋が今、切って落とされた……と」

「ちょっとそこー!変な報告書を書かないで!」


 俺は隊にちゃんと帰ってきた。これで一応元通り。クーの変な妄想も含めて。


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