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帰郷の旅路 その11 ジースとマルコ

勉強が嫌になって現実逃避してみる。夏だし

 グラハルトはその後、院長と一緒にどこかに篭った。俺はるんるん気分で客間に戻る。


「おや?何か良い事でもあったのかい?」


 従者のジースが声をかけてきた。


「へへー。グラハルト様はやはりかっこいいなって」


 俺は客間でくつろいでいたジースとマルコに、グラハルトのスピーチと、村人が現実に立ち戻った様子を話した。


「ケッ、お前が居たから格好つけただけだろ。いい歳してお前みたいなガキと張り合うとかマジ下らねぇ」


「もー、すぐそういう事を言うー。グラハルト様はそんな人じゃないよ。兄ちゃんこそ、いちいち張り合おうとするの止めなよ」


「なんだと?誰が張り合ってるって?」


 俺とマルコがいつも通り言い合っていると、ジースは俺たちを止めるように口を挟む。


「うーん、僕なりの見解を言わせてもらえば、グラハルト様がテオの目を気にして恰好つけようとしたのは本当だと思うよ」


「ほれみろ」


「えー?そんな事ないよー」


「グラハルト様はね、大人が子供の前で良い恰好をするのは、むしろ必要な事、義務だと考えているんだ。そして私もそう思ってる」


「ケッ、みっともねー大人たちだな」


 噛みつくマルコにジースは余裕たっぷりに煽り返す。


「やれやれ、マルコはまだ区別がついていないんだね」


「あ?何がだよ」


「自分自身を格好よく見せようとする事と、子供に大人というものを格好よく見せる事の違いだよ。前者は確かに下らない輩のよくする事さ。自分と目の前の相手しか見えていない。でも後者は、自分と相手を共同体の中の大人と子供ととらえ、かつ自分以外に気を回せて初めて出来る事なんだ。マルコにはまだ難しいかもしれない。でも、そろそろ違いくらいは分かるようになろうね」


 マルコは嫌な顔はするが反論はしない。ジースはそれを見てわざとらしくニヤついて煽る。


「チッ、あのオッサンがすげー奴だって事くらい、俺だって分かってるっての」


 マルコはイラだちを隠さずに吐き捨てるように言うと、部屋を出て行った。


「やれやれ、兄ちゃんには困ったもんだ。せっかく帰る気になってくれたのに先が思いやられるよ」


「はは、たぶん大丈夫だよ。私は昔の彼の事は知らない。でも変わろうとしているのは分かるよ」


「そうは思えないけどなぁ」


「ふふ、反抗期をこじらせた人にしか分からない事ってのもある。君が分からなくても無理はないさ」


「あ、なんかその言い方不愉快です。僕も今から反抗期始めます」


「プッ」


 俺がむくれてみたら、ジースは少し吹いた。それからマルコの出て行った扉を見ながら話す。


「今、彼は思考のクセと闘っているんだ。ダメだと分かっていても、勝手によくない思いが浮かんでくる。アレはそういう事に対するイラだちさ。大丈夫、彼は変わるよ」


「ふーん……」


 俺はジースの見ている何もない先を見ながら、ぼんやりと今のやりとりを反芻する。そして俺は目線をジースに戻して話しかける。


「でもジースさんもグラハルト様を悪く言われてちょっと怒ってた?」


「それは否定しないね」


「そっかー」


 俺が口角の上がった声で答えると、ジースは話す。


「真面目な話、社会に子供のヒーローは必要だと思うんだ。もし仮に、子供が尊敬できる大人を見つけられない社会だとしたら、子供はこの世界自体に絶望してしまうんじゃないかな。グラハルト様のように上に立つ方が子供の目線を気にしてくれる。それがどれだけ有難いことか……。今の彼に理解できないのは無理はないにしても、今の彼ごときに否定されるとやっぱり腹が立つよ」


 俺はもっと感情的な、動物的な意味で言ったのだが、違う答えが返ってきた。それが少し不満だったので、分かりやすく好意を示すために追撃をする。


「僕はそんなジースさんも尊敬してますよ。ジースさんもグラハルト様と同じく、子供の世界を絶望から救ってくれている大人の一人だと思います」


 ジースは一旦俺と目を合わせたが、俺の笑顔を見てからソッポを向き、俺の頭を小突いた。


「大人をからかうな」


「イデッ」


「やれやれ、こんなのが実の弟じゃマルコもそりゃ苦労するな」


えー

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