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帰郷の旅路 その2 魔術的そげぶ(前)

 馬の輸送隊は川を離れて丘陵を超える道を進んだ。そして日が傾き始めたころに一つの村に辿りついた。


「テオ、村人に教会への道を聞いてきてくれ」


 グラハルトは馬を止めると俺に言った。


「はーい。今日はそこに泊まるんですね?」


「うむ、我らにとってもこの地の者にとってもそれが一番よいであろう」


「野宿は嫌ですもんねー」


 俺は元気よく馬を飛降り、遠くの方でこちらを眺めている二人の村人をめがけて走り出す。とはいっても、間には畑もあるので遠回りする事になる。うねに沿って走り、時に昼寝している家族をまたぐような慎重さをもって畝をまたぐ。村人もグラハルト達もただ立ち止まり、そんな俺を眺めている。


「ハァハァ……やっとついた。おっちゃん達ぃ、この村の教会ってどう行けばいいの?」


「なんだいアンタら、どこから来たんだ?」


「あ、そうでした。僕はシュラヴァルトのテオ。あっちに居るのはそこの領主に仕えている騎士のグラハルト様と仲間達。王様から徴集かかってキルヒシュベルグに来ちゃったんだけど、用が済んだから帰るとこです。そんで今日はこの村の教会とかにお世話になれないかなーと」


 俺が答えると、村人は村人同士で話し出した。


「シュラヴァルト?シュラヴァルトってどこだ?」


「アレだよ。ほら、空飛ぶウナギの」


「あぁ、そういやぁリーゼ婆さんの話しにそんなのあったな。だからウナギはしっかり掴めって」


 ちくしょう、こっちの質問にも答えろ。


「あのー、それで教会へはどう行けば……」


「あぁ、あの道をそのまま進めば見えてくるはずだよ」


「わかった、ありがとー」


「はは、ウナギの王様によろしくな」


「???」


 なんの話だか全く分からないので、適当に会釈してグラハルトの元に戻る。


「この道を進めば見えてくるそうです」


「ふむ、流石だな」


 道を聞いてきただけで流石といわれてもな。聞いた村人は遠くでこっちを見ながら笑ってるし、正直に答えて正解だったか分からない。


 そしてそのまま進むと、たしかにソレっぽい建物が見えてきた。俺はグラハルトにお伺いをたてる。


「また私が走って話をしてきましょうか」


「いや、大丈夫だ。私が話をする」


 教会に向かってゆっくり馬を進めると、外で豚の世話をしていた女性が慌てて中に入っていく。そして中から別の男を引っ張り出してきた。男は外に引っ張りだされてからセカセカと身なりを整えると、俺達がたどり着くのを待った。


「これはこれは騎士様、ようこそボーネンブランデへ。私はこの村で司祭を勤めさせて頂いているレヴァールと申します。本日はどの様なご用件で」


「わが名はグラハルト。現在はシュラヴァルトのゲヴィシュロス侯に仕えております。現在帰還の途にあり、今宵はこちらのお世話に成りたいのだがよろしいか」


「えぇえぇ、もちろんですとも。これも全能なる神のお導きでしょう」


「うむ、ではよろしく頼む」


 グラハルトは馬を下り、司祭と共に教会の中に入っていく。


「御付きの方はこちらへ」


 豚の世話をしていた女性が俺達従者を裏手に招く。俺達が馬を降りてそれについていくと、馬に牛、子豚に羊と区分けされながらも押し込まれた一つの小屋に案内された。


「こちらの厩舎をご利用ください。井戸はそちらに、干草は厩舎の二階にあります」


「おいおい、俺達はここで寝ろってか?」


 マルコ兄が待ってましたとばかりに噛み付く。


「あ、いえ、お休みは広間の方で……」


「兄ちゃん、言い方ぁ!お姉さんすみません。僕ら兄弟は騎士様について旅をするの初めてで良く分からなくて。えーと、あ、僕はテオ。こっちが兄ちゃんのマルコ。そんでそっちのが唯一まともな従者のジース。よろしくね!」


「私はリゼット。よろしくね、テオ君。」


「ケッ、いい子ぶりやがって」


 やれやれだよ。


 俺達は馬から荷物を下ろし、馬にエサと水を準備した。それから広間を見に行ってみると、ベッドが一つだけ用意され、リゼットがその上に藁の入った袋やシーツなどを積んでいた。


「わー僕も手伝うー」


「ありがとう。でも大丈夫よ、ひとまずコレで終わりだから」


「なんだよ、まだ一つしか出来てねーじゃねーか」


「残りはお休みの前にご用意くださいね。全て組み立ててしまっては、お食事をとる場所も椅子もなくなってしまいますから」


「チッ、そういう事かよ。椅子でもいいから俺はもう寝るぜ。テオ、飯になったら起こせ」


 マルコ兄は木の長椅子をくっつけて横になり、帽子で顔を隠して寝てしまった。やれやれだ。


「リゼットさん、グラハルト様は?」


「司祭様と一緒にマナーハウスへ行ったわ。領主様は不在ですが、一応は執事様に挨拶をするのでしょう。恐らくはお食事もあちらで取られと思うわ。だからテオ君も休んでいて大丈夫よ」


「なるほどー。でも何もしていないのも嫌だし、僕はお馬さんの世話でもしてくる」


「ふふ、テオ君はいい子ね」


 まぁ本も出せずにじっとしていてもね。俺は外にでて少しだけ遠回りして周囲を確認しながら厩舎に向かった。近くには畑しか見えない。


「クー、近くに水のみ場になりそうな所ない?」


「ありませんね。水場は井戸だけのようです」


「マジかー」


 明日出発するまでに何回水を汲むハメになるのだろう。俺は軽く予定を立ててゲンナリした。


 とはいえ馬の世話は嫌いじゃない。ウチの隊の馬は俺に懐いているし、マッサージして欲しいとオネダリまでしてくる。相手が馬でも頼りにされるのは嬉しいものだ。そしてなにより可愛い。


 俺は一頭一頭を丹念に見て周り、減った水を補充する。そして一段落ついたところで、クーの隣に座り込む。クーはいつも通り近くで静かに本を読んでいたが、俺が隣に座ると本を閉じて話を聞く態勢をとった。


「テオ、お疲れ様です」


「うん。塩を買ってくれば良かったかも。顔までベロベロと舐められちゃったよ」


「デベルに頼んでみては?」


「えー、流石にそれは失礼じゃない?」


「帰り道の馬のためという理由があれば平気でしょう。本当の事ですし。今後のための既成事実の第一歩としてはもってこいです」


「まぁウソではないけどさー……」


 城の地下を復旧する際には色々と必要なものを頼むことになる。そのためにお願いできる状態にはしておきたいのは確かだ。あの街なら塩は簡単に手に入るだろうし、確かにデベルの反応を見るにはよいお題かもしれない。


 あまり気乗りはしなかったが、俺はたっぷりの言い訳を添えて、塩を送ってくれるようにデベルに手紙を書いた。


 そこからはしばしの読書タイム。異能バトル物を読んで無能力者が能力者を倒すヒントを探る。能力的に不利な状況を、トリックでひっくり返す展開はやはりスカっとする。でもこの勝ち方はグラハルトには似合わないな。さてどうしたものか……。やはり努力と根性だろうか。かのイルディゴルディも言っていた。努力すら楽しめる能力は魔法の力なんかよりずっと強いと。俺はあの話が結構すきだ。


 妄想と本の中をいったり来たりして至福の時間を過ごしていると、クーが本を開いたままで俺に警告を発した。


「テオ、少年少女の六人組がこちらに向かって来ます」


「んー?教会に用なんじゃない?」


「いえ、教会の周りを回った後に、この厩舎に向かって来ています」


「勝手に余所の家の厩舎に入って来たりはしないと思うけどなぁ……でも揉めたくないから、とりあえず姿を隠しておくか」


「そうしましょう」


 クーがそう言うと俺とクーの姿が半透明になった。そしてクーの言うとおり四人の少年と二人の少女が厩舎に入ってきた。


「ほらみろ馬はいる。やっぱりまだ教会に居るんだよ」


 先頭を切って入ってきた少年が大きめな声で言った。少年は木で作った剣と盾を装備している。


「居るのは分かったけどどーすんだよ」


「そうだよ。もう帰ろうよぅ」


 他の少年たちも同じ様に木の剣と盾をもっている。騎士に憧れて会いに来たのか?その気持ちは分からなくもなかったが、面倒くさそうな雰囲気を感じたので俺は息を潜めて立ち去るのを待つ。しかし、少年たちは立ち去らない。


「大丈夫だって。ここで待ってりゃいいんだよ。しばらく待ってりゃ馬の様子を見に来るって」


「いやそれいつだよ。俺はまだ水汲み残ってんだぞ」


「そうだよ、もう帰ろうよ」


 そうだそうだ帰れ帰れ。グラハルトはこんな所に来ないぞ。


 しかし少年達は言い合いをするだけで一向に立ち去ろうとしない。それどころか始めの少年がとんでもない事を言い始めた。


「それにしてもこれが騎士の馬か……ちょっと乗ってみようぜ」


「エレオそれは止めとけって。騎士様の馬だぞ」


「そうだよ止めとこうよ」


「大丈夫だって。バレやしねぇって。ディートは外を見張ってろ」


 エレオと呼ばれた少年が柵をくぐって中に入った。馬は警戒して距離を取ろうとするが、柵の中なので逃げられない。俺はたまらず飛び出し、柵を飛び越えながらエレオを蹴り飛ばす。


「コラ、勝手に入るな」


「な!?お前、どこから」


「うるさい。いいからさっさと出ろ」


 俺がエレオの服を掴んで引っ張ると、エレオはその手を振り払う。


「掴むなボケ!」


 悲しいかな、簡単に振りほどかれた。そしてエレオ少年は俺を指差して言った。


「やい騎士見習い!俺と勝負しろ!」


 は?

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