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徴集されて その3 魔術具作成

 徴集前日の休みの日の午後、ヤンとエルザとイーナが遊びに来た。親父さんから俺が徴集される事を聞いて驚いたそうだ。ヤンには先週言ったはずなのだが……。


 エルザ姉さんから理不尽にも連絡不足を怒られ、イーナが泣いてくっ付いて離れなくなった。ヤンが平常運転だったのが唯一の救い。


 特訓の成果を確かめるため、ヤンとは戦闘訓練をした。ヤンならクーの事も知っているので、何をやっても平気だ。だがヤンには敵わなかった。見えていないハズなのに、かなり的確に攻撃してくるし、投擲されるフォークは避けたつもりでも軌道が曲がってきて当たる。


 さらに、いつの間にかフォークの数が増えている。というか、ポケットから無尽蔵に出てくる。両手にフォークを大量に握ってから同時に広範囲に投げ、それらを空中で操って俺を狙いつつ、直接攻撃もしかけてくる。そしてその一つにでも当たれば、体が痙攣して動けなくなるのだ。勝てる気がしない。魔力は無いはずなのに、俺よりよっぽど魔術師ぽい。やはりヤンはおかしい。


 しかし、学ぶところもあった。姿消すだけではなく、デコイを作った方が効果がある事に気付いた。それにはヤンも引っかかっていた。自分の姿だけでなく、障害物や地形、他人のデコイを織り交ぜると、さらに効果的だと知った。


 ひとしきりヤンと遊んだ後、「またやろうぜ」とお互いにこぶしで胸を叩き合う。最後の方は俺がウサギ役になっていた気もするが気にしない。逃げ切れば勝ちなのは戦場でも同じだ。


 その、あまりにいつも通りのやり取りを見せられて、イーナも少し落ち着いたようだ。まだ若干顔がクシャっとしているが、なんとか皆と一緒に帰れそうだ。


「イーナはテオ兄ちゃんのおヨメさんにしてもらうんだからね!テオ兄ちゃんは居なくなっちゃダメなんだからね!」

「ハハハッ、大丈夫だよ。俺が死ぬわけないだろ?」


 俺はそう胸を張って答え、しがみついてきたイーナの頭をグシャグシャっとする。視界の端で、クーが両手で若干隠すように小旗をペキっと折っていた。どういう意味があるのか問いただしたい。人並みに嫉妬でもしてるのか。


 一通り感情を出し終えたところで、三人は帰っていった。あの三人は家族みたいで良いよなと思う。


 まぁ俺にとっては、事務的なうちの家族も甲乙付けがたく居心地よいのだけども。ただ、今は冷静な男連中と対照的に、母ちゃんだけイライラしている状態なのて、実家は近寄りがたい空気。最終日の今日くらいは帰るべきだが……。正直なところ気が重い。


 俺は、しばらく空ける事になる水車小屋を丁寧に掃除し、その間に気持ちを整理した。入り口の戸を閉めて錠を下ろすと、急に帰ってこれるか不安になって心臓がバクバクした。そのまま戸口で少し固まっていたが、落ち着いてきたところでクーが声をかけてくる。


「そろそろ行きますか」


 俺は軽く頷くと、実家に向かった。


 実家では、母さんと義姉によって、いつもより量も種類も多い夕飯が作られていた。俺は食事の中身に無頓着な方なので、細かい事はわからない。見た目で肉が多い事がわかるくらいだ。でも、出来る限りの事をしてくれた事は分かる。


 そして父さんと兄さんから、豚革と布で出来た上着と頭巾、手袋を貰った。サイズは微妙にあっていないが、軽くて柔らかく、俺向きだ。何も準備できるものは無いと言っていたのに用意してくれる所が偉い。メンタルケアは苦手な父と兄だが、実質的なところは出来る大人なのだ。もらって感謝というより、つい尊敬したり誇らしく思ってしまう。


 しかし、ウチの家族は本音の会話が得意でない。当たり障りの無い話題で時間を繋ぎ、特別なイベントも発生せず、静かに実家の床に付く。こんな家庭だが、これはこれで俺は好きだったりする。


 次の日の朝も、予定通りに家族みんなに見送られ、俺は父さんと城に向かった。


 城に行くと、俺は徴集兵では一番乗りだった。大人がバタバタと働く中、俺は場違いすぎて逃げ出したくなった。しばらくすると、他の徴集兵も集まったが、やはり少年は俺一人だ。やはり辛い。


 今回この領地から派兵されるのは、領主の息子、マッチョ騎士、見習い騎士、兵士4人、徴集兵10人、使用人3人の合わせて20人。俺は徴集兵というより徴集使用人に近いポジションだけど。


 徴集兵組は、あまり裕福ではない農家の次男三男が多いようだ。なんとなく、革装備を与えられたお坊ちゃんである俺には、良い感情を持っていなさそうだった。


 しかし使用人さん達は、少年のうちに徴集されてしまった俺に対して同情的で優しかった。俺は使用人ポジションなので丁度良い。


 集まったその日は、登録やら支給品合わせやら、規則の説明が行われ、少し訓練が行われた。


 俺は、言われた通りに行動するのは苦ではなかったし、当然難なく出来た。しかし、同じ収集兵にはそれが難しい人が何人も居た。その場に待機し続けたり、指揮者に付いていくだけで脱落する人が出る。そんな調子なので、数日は城に泊り込みで訓練させられるようだ。それは想定外ではなく予定通りの事らしい。


 俺は、城の地下に侵入して魔術具を作りたい。なのでそれは好都合だ。さっそくその日の夜から、城内の調査を始めた。もちろん、徴集兵は専用の兵舎から出る事すら許可されていない。しかし、俺とクーは幻影によって人の目から逃れ、スキャンによって鍵の内部を透視しながらピッキングできる。侵入すると決心したら、行うのは容易い。


 それに魔術師時代の地下設備は、存在を知られていないのか、今は訪れる者が居ないようだ。堆積したホコリが、長い間使われていない事を示していた。地下設備の一部は、魔力供給が停止されると扉が閉ざされる仕様だったので俺には入れなかったが、俺が作りたい水晶玉は魔術師にとって入門書レベルの品なので、その材料も道具も簡単に手に入ってすぐ作れた。


 一方、自動的に魔力を吸い取るユニットは、高度な技術が必要なので俺には作れない。さらに、術者の意思とは関係なく魔力を吸う術は、本の中では禁忌とされていた。


 しかし、この城の地下にはいたる所に埋め込まれている。たんに灯りの起動装置や、扉の起動装置として使われているのだ。その部屋に入れば、自動的に魔力を吸い取って灯りがともるよう設計されている。もちろん俺の魔力では明るくならないけれど。俺が部屋に入っても、一瞬だけピンッと点いてその後はチカチカ点滅して消える。行く所行く所で、想定外の魔力の低さだと言われている様でとても悲しい。


 この城やクーの設計思想からいって、この地の魔術師は、楽をするためなら努力や禁忌も厭わないタイプのダメ人間だったのだと思う。そして、それにシンパシーを感じてしまう俺は、たぶんその末裔。魔力は相当低いけど。


 そんな事を考えながら、比較的外しても問題なさそうな箇所の魔力吸収ユニットを取り外す。後は魔力を通すニカワみたいなので水晶玉と吸収ユニットを接着すれば完成だ。


「ねんがんの俺専用の魔術具を手に入れたぞ!」


 俺は高らかに掲げてクーにドヤ顔をしてみせる。本当にとてもとても嬉しい。もともとモノを作るのが好きなのだが、今回は魔術具である。自分にとって未知の領域、さらにとてもとても奥が深くて希望あふれる領域に、俺は足を踏み入れたのだ。感無量。わが生涯に一片の悔いなしと言いたいくらいの快感。


「テオ、おめでとうございます。ですがアレですね……」


 クーが俺の魔術具を見上げながら何か言いたげだ。俺は少し不安になって魔術具を持つ手を下ろし、まじまじと見た。確かに、何も発動していないように見える。「失敗か!?」と思い不安に押し潰されそうになってクーの目を見る。


「俺、なにか間違った?」


もう泣きそう。


「テオは間違っていませんし、恐らくその魔術具は狙い通り動いています。大丈夫です。ただ……」

「ただ何だよ!はっきり言えよ!」


「魔力感知の魔術具なのに、テオの魔力はゼロ距離でも反応しないという驚愕の事実が判明したのです。私の予定では、テオの魔力に反応してほんのり光る水晶玉を、二人で見つめて感動を分かち合うつもりでした。しかしテオの魔力が想定異常にダメダメ過ぎて予定が狂い、感動のタイミングを逃しました。酷いです」

「え?酷いってそれ俺のせい?っていうか、俺は自分の魔術具にも魔力を否定されたって事?いや、もしかして俺の魔力の問題じゃなくて魔術具が壊れてるって事もあるでしょ?」


 自分で言っていてなんだけど、どちらの結果でも確定したら悲しくて泣きたくなる。もーやだぁ。


「そうですね。テオ、もう一つの水晶玉も使ってみましょう。探し物の水晶玉をさすりながら、対象物の名を唱えてください」

「とりあえず確実に今あるもので動作確認だな。えっと……クーの石、クーの石、クーの石を指し示せー」


 探し物用の水晶玉内に、一筋の黄色い光が浮かんだ。小さくて見づらいけど、ペンダントとして胸にぶら下げているクーの石をちゃんと示している。


「やった!今度は成功だ!」

「テオ、今度こそおめでとうございます」


「でも、これで魔力感知も壊れていない可能性がグッと上がった気がする」

「良いことじゃないですか。テオの魔力が低いのは今更落ち込む事ではないでしょう」

「そうなんだけどさー……」


でもやっぱり気分は晴れない。どちらかというとゼロではなくマイナス側の気分だ。


「それよりテオ。その玉で図書室以外にある本を探してみませんか?」

「お、いいねぇ。図書室以外の本~図書室以外の本~図書室以外の本~」


俺は水晶玉を指でこすりながら本を探す。すると、黄色い光はどこか上の方を指し示した。

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