表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

128/143

街での活動 その100 微笑みデベル

生存確認!じぶんの

 ちょっぴりカロエが心配なので、デベルの元に様子を探りに行ってみた。


「何のために転位ボックスを渡したと思ってるんだ?用事があるなら手紙でよこせ」


 のっけからつれない返事。だがもう慣れた。俺は必要以上に馴れ馴れしく近付いて言い返す。


「まぁそんな邪険にしないでくださいよ。手紙じゃ伝わらない事ってあるじゃないですか。どうせデベルさんって気持ちを伝える事も大切さを分かってないでしょう?きっと必要な事しか書かないタイプ」


「フンッ。それの何が問題だ」


 不機嫌そうなデベルに対して俺はヤレヤレと仕草で示す。そして真面目な顔に切り替えてから単刀直入に問う。


「カロエ姉さんが街の商人の代表としてこの地の人達と折衝するのって、デベルさんの差し金だと思うんですがー、どういうつもりなんですかー?」


「どうもこうもない。適任だと判断したまでだ」


 やれやれ、それだけで納得するわけがないだろう。やっぱ直接聞きに来て正解だよ。


「カロエ姉さんがコローナお嬢様にツテがあるとしたって、お嬢様は領主一族として責任を果たそうとしている。それなら相手がカロエ姉さんじゃなくったって成り立つでしょう?商人内の序列を無視して和を乱すのはデベルさんらしくなくない?」


「そこも含めて合意は取れている。目先の事だけを見ている訳ではないというだけだ。俺も、大店の連中もな」


「裏の思惑があるの?」


「裏のという程のものじゃない。商人の同盟がカンテンブルンナー家潰しを黙認していたのには、はなりふり構わぬ兄弟ゲンカに迷惑していたのともう一つ、あの娘が危険視されていた事もある。社会のルールとはゲームのルールとは違う。共存を願う者達のルールであって潰し合う者達の為に整備されたものではない。だが争い合う父を見て育ったあの娘はそれを理解していなかった。そんな者が将来的に伸して来られたら将来的に同盟は崩壊しかねない。だから弟の方に加担して、一緒に災厄の芽を摘む方向で合意が取れていたのだ」


 デベルも空気は読んでいるらしい。


「だが、いつの間にか娘の方は変わっていた。その事に周囲が気付き始めたのはデザイナーギルド設立辺りからだな。新組織の利権を自らの物にすると思いきや、元使用人に受け渡している。まぁ流石に完全に切れては居ないがな。だが周囲に分かるように宣言していた。自分の商会を潰す場合もそちらは残して欲しいと」


「へぇ、利に目ざといカロエ姉さんが?ちょっと意外」


「お前から見ても意外か。まぁそうなのだろうな。ほんの少しの変化だ。だが同盟の重鎮達にその変化に興味を持つ者が出てきた。それで潮目が変わってきやがったんだ。『商売とは単純な金儲け活動ではない。もっと色々な価値を持った複雑な文化的活動だ。あの娘がその価値に気付いたのであれば、同盟としては貴重な人材になるやもしれん』とな。まぁ絶望的な状況に置かれたからこそ見えるようになったものもあるのだろう」


「それで今回の件を試金石にしようってのね」


「そういう事だ。納得したか」


「半分だけね。だってそれは商人の同盟が納得した理由であって、デベルさんがお膳立てした理由ではないもの」


 俺は単純に疑問を解消したいだけ。そうした気持ちを目線に乗せて静かに回答を待つ。デベルはため息つき、目線をそらせながら答える。


「それはさっき言った通り、適任と判断しただけだ。キルヒシュベルガーの娘の話を理解できそうな商人がアレしか居なかっただけだ」


「つまりはデベルさん的にはカロエ姉さんはどうでも良くて、計画の方に興味があると……」


「当然だ。一人の商人の事などどうでも良い。だがキルヒシュベルガーの娘のバカ話に少し面白くてな……」


「ほう?それはどんな話で」


 デベルは手で空を払い、クククと笑いながら語る。


「本来なら真面目に聞くのがような話しではない。『活動していると死んでしまうなら、環境が改善されるまでコールドスリープすれば良いではないですか。物語では良くある事です』。これがカンテンブルンナー嬢の吐露した悩みに対するキルヒシュベルガー嬢の回答だ。突飛とっぴ過ぎて笑ってしまうだろう?」


「あーたしかにSFでは良くある事ですねぇ。核の冬を乗り切ってみたり……でもそれは物語だけの話で……」


 俺も突飛すぎて反応に困って苦笑してしまった。そこでクーが突っ込む。


「ですがデベルはそのお嬢様の案を試してみたくなったのでしょう?少しはお嬢様の才能について理解できましたか?」


「ハッ、少しな。真面目に考えた結果、馬鹿みたいな案をひねり出してくる変な女だ。ま、どうせここは実験場みたいな街だしな。面白そうだからまかせてみる事にしたまでだ。だからそっちも心配しなくていいぞ。アレはバカバカしくも面白い駒だ」


 デベルは若干楽しそうに話した。


「お嬢様を駒扱いしているのは不愉快ですが、害するつもりはないと理解はしましょう」


「アレはそこいらの平民の娘とは違う。お前らを脅すネタには使ったが元々危害を加えるつもりはない。それにアレ自身も俺をわずらわせないために考えてはいるようだ。『悪のマッドサイエンティストとして討伐されないための、企画段階からのDRBFMの応用について』とかってな、ふざけたレポート出してきやがった。さらに俺の目線でのリスク評価をして欲しいとな。逆に面倒が増えやがった。やれやれだ」


「ヤレヤレの割には珍しく怒ってないんですねぇ」


未必みひつの故意による外部不経済ってのは、真面目に統治しようとする者にとっては大きな課題なんだ。酩酊状態での事故から戦場における若さゆえの過ち、市場を崩壊させかねない取引やら、さらには人類を滅ぼしかねない研究開発まで、その構造はほぼ同じ。便益を得る者とリスクのみ追わされる者の間の不均衡によって発生している。全体で見れば多大な損失になっていても、賭けに出る奴の中では合理的な賭けになっているので踏み切ってしまうわけだ。歴史上の大事件の陰にはこの構造が散見される。既存の法で規制されているかは関係ない。俺の感覚で言えば、他人の魂を勝手に賭けて利益を得るような行為は悪だ。いつかは包括的なルールを整備しなくてはならないと考えていた。だがそんな所にだ、やらかしかねない張本人から『自信がないので見ていてください』とのご相談だ。これには力も抜ける。まぁ守ろうとしているものも危険性も共有できているようなので面倒だが付き合ってやる事にしたがな。本当にヤレヤレだ」


 聞いてもいないのに手を動かしながら楽しそうに話すデベル。俺とクーは少し呆れながらお互いを見合わせる。そして俺はデベルに告げる。


「ふーんそうなんだ。よく分からないけれど、知りたかった事は理解できたわ。次からはご要望どおり手紙にするね」


「チッ、だったら初めから手紙で───いや、そうだな少し待て。一つ手紙を書くから持って行け」


「なにそれ、話があるのなら今話せばいいじゃない」


「お前らにじゃない。いいから待ってろ」


 デベルは机の中から数ある便箋の中から一枚を選び出すと、滑らかにリズムよく文字を綴っていく。そして下まで書ききると砂を払ってから丸め、封もせず俺に渡してきた。


「これを南門のところに居る衛兵隊の隊長に渡せ」


 俺はそのそぶりから見ても良いと判断して、その場で中身を検める。


~~~~~~

To ブレヒェル・ヴァンヴェルカー殿


 私は貴殿の働きに感謝している者である。その感謝の印として、この者らにこの手紙を届けさせる事にした。貴殿もこの者らには色々と言いたい事があるだろう。この機会に存分に伝えられたし。時には、少しばかり離れて見ている者からの言葉の方が効果的であろう。


追伸

 貴殿の息子、トラウルト・ヴァンヴェルカーの働きにも、私をはじめ多くの者達が感謝している。貴殿らの様な民はわが国の誇りである。貴殿にも息子の事を十分に誇ってもらいたい。


From 面倒事に巻き込まれた同士より

~~~~~~


「えー?デベルさんバカなの?私達がわざわざ捕まえられに行くわけないじゃん」


「捕縛命令はもう解除されている。捕まる心配はない。お前らも出て行く前に迷惑をかけた人に侘びの一つでもしていったらどうだ?クックック、気持ちは手紙じゃなかなか伝えられんのだろう?」


「う、グ……」


 手紙を使わずに直接乗り込んだ手前、俺は言葉に詰まる。それに乗じてデベルは意地悪そうに口を歪ませながら俺を睨み上げた。


「わ、分かったわよ。でも覚えてらっしゃい!いつか仕返ししてやる」


 不適な笑みをたたえるデベルにシッシと追い払われながら、俺とクーは少女姿のまま衛兵の詰め所に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ