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街での活動 その99 正々堂々へそ曲がり

ひゃっはー休みだー

 俺は次にカロエの元に向かった。


「カロエ姉さん、私達そろそろ故郷に帰らなきゃいけないの。しばしのお別れを言いに来たわ」


「コローナから少し聞いてるわ。寂しくなるわね。どれくらいでまた会えるの?」


「1年か2年か3年か……まだ良く分からないの。でも手紙は必ず出すわ」


「そう……きっとよ」


 俺はカロエとハグして名残惜しさを示す。でもクーは無反応。やれやれだ。


 一応、故郷の城の地下にも棺おけサイズの交換型転位陣がある事が分かっており、それを使えば簡単に戻って来れる。でも、どうやら城の機能が失われており、地下は広範囲に水没しているっぽい。利用するためには道を掘り起こしつつ城の機能を回復させる必要があるのだが、どれくらいかかるかは検討もつかない。それについてはクーの見解も同じ。


 クーだってしばらく会いにこれない事は分かっているはずなのに。やっぱりクーはカロエに少し冷たい。


 そんな事を思いながらも俺は自分の課題にとりかかる。


「私、姉さんに言っておかなきゃならない事があるの」


「なーに?改まって」


「私達がカロエのパパが殺される現場に居たのは偶然じゃないの。私達はずっと黒狼団にちょっかい出してたの。あの人達が仕事できないように、付回してずっと邪魔してた。だからあそこに居たの。でもそれはあの人達を煽り立てる事になっていた。鬱憤をためさせていた。その結果、カロエのパパに酷いことをするハメに……」


「その辺りの経緯いきさつは知っているわ……。でも勘違いしないで?アレは私とお父さんの戦いの結末なの。私もお父さんも、どんなに追い込まれても戦う事を止めなかった。遅かれ早かれ同じ結末になっていたのよ。貴方のせいではないわ」


「でも……」


「貴方達が居なかったら、私はきっと一人になっても戦い続けたと思う。でも貴方達が居たから私だけはそんな道から抜けることが出来た。貴方は私を救ってくれたのよ。自分を責めたりしないで」


「うん……姉さんがそう言うなら考えないようにするわ」


 カロエの心の中ではもう整理がついているようだ。俺の中ではまだ引っかかりがあるが、もう蒸し返してはならない気がする。俺は話せただけで満足することにして口をつぐんだ。


「そんな事よりよ?街が移動されてしまった事の方が、どちらかというと大問題なのだけれど?」


「え?」


 カロエは優しげな口調をトゲトゲしいものに変えながら話題も変えてきた。


「商人の活動は街の中だけで完結している訳じゃないのよ?よそから仕入れたり、逆に卸したりもしているの。そのために長い時間をかけて行商人のツテや販路を築いてきたというのに、街ごと動かされちゃったら全部やり直しじゃない!まったく貴方達ときたら!」


「あ……えー……でもそれは私達が決めた事じゃないので……」


「分かっているわ!王様との契約なんでしょう?それにしてもあんまりよ!」


「ああでも!コローナお嬢様に相談すれば大丈夫だよ!お嬢様はこの地ではすごいんだよ!口利きしてもらえれば、きっとどんなツテでも作れるよ!」


「勿論相談はするわ、友達だもの。でも困っているのは私だけじゃない。商人同盟の皆、いや、同盟に属していない者も含めた全ての商人に起きた問題なのよね。そして当然、私とコローナの繋がりは皆も知っている。そんな簡単な問題じゃないのよね」


「あぁ、妬みを買うかもしれませんねぇ」


「妬みだけなら良いのだけれどねぇ……。他人の成功を妬む様な商人なんて誰も相手にしない。私だってそうよ。でも頭を下げてお願いされてしまったわ。皆のために話を付けてくれって、同盟の重鎮達からね。今の私の立場でそれは断れない。ヤレヤレよ」


 カロエは苦々しく笑う。


「ははは、先手を打たれたんだ。でもその割にはまんざらでもなさそう」


「まーねぇ……。頭を下げられたといっても実質強制。そう考えちゃうと面白くはないわね。でも彼らも伊達に長く商売をしていない。彼らは彼らのコネでも何とかできるのよ。それなりに手間はかかるだろうけれどね。今回のお願いは、そこをあえて私に名誉挽回の機会を下さったと取れる。そしてまた、今の私ならばその役目をこなせると認めてくれた事でもある。名簿に名前が乗っているだけでなく、真の一員として認めてくれたって事でもあるのよ。色々あったけれど、私もようやく少し成長できたみたい」


「へぇ、商人代表としてコローナに相談するのか。なんか出世した感ある」


「うふふ、そーでしょう?ありがと。まぁ、それだけ大変なのだけれどね。少しでも信頼を失えば纏まらなくなるし、かといって時間をかけたら皆ばらばらに動きだしちゃうし」


「そうでしょうねぇ……私も門の外に居た人達に動かないでって言ったんだけど、結局無視されちゃった」


「商人にとって時間はお金と同じくらい大切なものだものねー。簡単に他人に差し出したりしないわよ。でも今、街の中については大手の商会が主導となってお金の時間を止めているの。それでようやく猶予ができている状態ね」


「お金の時計を止めるって?お店は普通にやってたよ?」


「物が動いた時に動くお金は別よ。今止められているのは、時間経過によって動くお金の方。借入金の返済だったり店賃だったり、固定給だったりとね。固定費さえなくなれば法人はそうそう破産しないもの。そして貸している側の大きな商会が承諾してくれているから、小さい所も今は追従してくれている。それがなかったら皆勝手に動き回って収拾がつかなくなっているところよ」


「でも固定給もって賃金とめたら働いている人が困るんじゃない?冬篭り前だから備蓄はあるとは思うけれど……」


「利益に紐付けて変動費に置き換えているだけだから物が売れていればちゃんと支払われるわ。でも長引いて売り物が無くなればそのうち支払われなくなるのは確かね。その前に渡りをつけるのが私の役目ってわけね。ま、それでも行き詰る人達は出るから、貴方の冒険者ギルドも活用させて頂くつもりよ」


「まぁ……たぶんそれは大丈夫だと思うけど……土木工事で人手は必要になるでしょうし……。でもそれも依頼元になるコローナお嬢様と姉さんが調整しておいて欲しいな……。ウチのギルマスはまだ素人同然なので……あのーそのー……無茶ぶりして苛めないであげて下さい」


「ウフフッ、心配しなくても大丈夫よ。もうそこまで恨んだりしていないから。ただ窓口として利用させてもらうだけよ」


「こわーい。姉さんのその笑顔が逆にこわーい」


 カロエはやっぱり強い。傷はあるのだろうがとっくに立ち直っていた。むしろ俺なんかが負い目を感じるなんておこがましいとすら思えるくらいだ。俺は心の中のつかえが一つ消えるのを感じた。


 でももう一つスッきりしない事がある。クーの態度だ。


「クーデリンデ、しばらく会えないのだから、貴方もちゃんと挨拶しときなさいよ」


「フフ、私は気にしてないから大丈夫よ。リンデちゃんはお姉ちゃんを取られないかと心配しているだけだもんねー。後で安心させてあげてちょうだい」


「そこまで子供扱いして頂かなくて結構ですよ。カロエには何度かしてやられたりもしましたが、私もカロエを利用させて貰いました。存在に感謝はしています。次に会うときもちゃんと利用させて頂きますのでよろしくです」


「ウフフ、楽しみね」


「そうですね」


 カロエとクーは笑顔でトゲトゲしい言葉を交わす。俺は耐え切れなくなってクーの頭に軽くチョップを入れる。


「余計な事言わずにただ『お世話に成りました』でいいのよ。もう」


「お姉様、私は本当に感謝しているのですよ。そうですね、お礼に一つ良い事をお教えしておきましょう」


「「?」」


「お姉様、スリングショットをカロエに見せてあげて下さい」


「え?」


 俺は少し躊躇した。イタズラ道具といってもスリングショットは武器だ。カロエに見せると怒られる気がした。


 なのでブニブニのアヒルも一緒に出し、スリングショットを少し引っ張ってアヒルを撃ち出した。


 ぽいん、ぽいん、ぽんぽんぽん……


 アヒルは壁に当たると跳ね返り、床に落ちてさらに跳ねた。カロエはそのアヒルを拾い、ブニブニさせながら丹念に確認した。


「なぁにこれ。不思議なおもちゃね」


「やれやれ、ゴム紐の方に注目して欲しかったのですが──。仕方ありませんね、実例をお見せしましょう」


 クーはそう言うと少し離れた。そして俺とカロエに顔を向けたまま前かがみになると、ワンピースの裾から中に手を入れる。そのまま少しモゾモゾしたと思ったら、両足を繋ぐ足枷の様な白い布が、クーの足にそって下げられてきた。


「これがパンティの完成形です」


 クーはそう言いながら片足立ちしになり、ゆっくりと足から布を外した。


 何を言っているのか分からないと思うが、俺もカロエも何が起きたのか分からなかった。


 催眠術とか超スピードだとかその類のものではない。一旦紐を解いてヒップからはずし、ハラリと落ちる前にスカートの中で再び結び直した訳じゃない。なにせそのパンティには、そもそも紐の結び目が一つもなかったのだ。


 そして今、そのパンティはクーの指に摘ままれて全貌を露にしている。それを目にした俺は、訳も分からず謎の引力でフラフラと引き寄せられた。しかし───


 ビュッ!ガシッ!


 俺を追い抜いて、カロエが超速でパンティを奪った。


「何なのこれ!?一体どういう事なの???」


 カロエは脱ぎたてのパンティを両手でグイグイ引っ張りながら混乱している。


「天然の伸長結晶化物質の紐──ありていに言えばゴム紐をパンティの各所に入れてあるのですよ。それにより紐を解かなくても着脱できますし、結び目が出来ないため寝転がっても痛くなく、食べ過ぎてお腹がぽっこり出ても苦しくなりません。そして何より──」


 久しぶりにクーが満面のドヤ顔でふんぞり返っている。でも俺とカロエはそんなクーの解説にゴクリと唾を飲む。


「脱いだ後にも着用時とトポロジー的に同じ状態を保てるようになるのです!つまり、パンティがパンティとして、常にパンティの姿を保てることに!もうパンティが干しイカみたいな醜態をさらす必要はありません!これはパンティの存在革命なのです!」


「「???」」


 溜めを作って力説されたが全く理解できなかった。分かるのはクーもパンティに思いいれがあるという事だけだった。


「それでリンデちゃん、これは人間にも作れるものなの?貴方が魔法で作ったとかでなくて」


 冷静に疑問を投げかけるカロエ。


「先ほどカロエも人が作ったゴムを触っていたではないですか。あのゴムのアヒルも産総研で作られたものですよ。産総研では既に色々な事に使われています。服飾への採用については縫製方法も含めて多少の最適化が必要ですが、それでも技術的には十分可能でしょう」


「そう。でも可能性を気付かれていないのね。それならすぐにコローナと協同で開発しなきゃ、誰かに先をこされる前に。貴方の言っている事は良く分からなかったけれど、確かにこれは下着の一大革命になる。教えてくれてありがと」


「いえ、こちらこそ。先ほど言ったとおり、この話はカロエへの感謝の印です」


 少し微妙な笑顔ではあるが、二人ともお互いを認め合うように微笑みあっている。離れる前によい関係になれて良かったと俺も胸をなでおろす。


 その後、クーはパンティをカロエから奪い返し、下を向いて穿きながら言う。


「ですがこのパンティの開発には一つの問題が存在します。まぁ大した事ではないのですが」


「なーに、それもぜひ聞かせて」


「この街の支配者はこの大事な局面で二人がパンティ開発に夢中になるのを許さないって事です。あの男は全く融通が利きませんからね」


「あー……確かに」


 眉間にシワを寄せて静かに怒りを表すデベルの顔が俺の脳裏に浮かんだ。


 そしてカロエも、眉間にシワを寄せて真剣に悩んでいた。


「んんんんん……でも誰かに先をこされたりしたら───」


「カロエ姉さん……パンティのために命をかけようとしないでよ」


 一方でクーはというと、悩むカロエを見て満足げに不適な笑みを湛えている。


 うん、やっぱりこいつ性格悪い。

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