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街での活動 その88 なぐさめられ回(その1)

話は進まないけどそれなりに字数が稼げてしまったので

「さて、第一回ヒーローショーやりなおし会議ぃ~」


 クーの機嫌が少し戻ったところで、この問題も片付けなくてはならない。


「テオ、前回の始めに盗んだものは全て返しました。もう必要ないのでは?」


「何言ってるの?ダメに決まってるじゃん。みんな続きを凄い気にしてるよ?衛兵のオッサン達なんか、気になりすぎて上の空で警備してるんだから」


「まぁ不自然なブツ切りになってしまいましたからねぇ」


「一応は闇を司る方のテオロッテがフられちゃって、感情をあふれさせたために世界が暗闇に包まれたという解釈をされている。そんな変な事にはなっていないよ」


「ですがストーリー的に修復は難しいのでは」


「それを何とかしようって会議だよ。とりあえず衛兵のオッサン達は、『俺がロッテちゃんを救ってハッピーエンドにする』って言ってた」


「別の男と結ばれるストーリーですか。それなら王子様でも連れてこないと女性客が納得しませんねぇ……」


「王子様かぁ……思い当たる変態が一人居るけれど、流石にそういう絡みはヤダなぁ」


「ザフロールにとっても好ましい展開ではないでしょうね。王子の身で救国の女神と結ばれるという事は、そのままこの国の王になる事を意味します」


「それはないわー。個人的に色々な意味でないけど、一人の国民としてもないわー」


「となるとザマァ展開でしょうか。少女の求愛を拒絶した少年は旅行く先々で人々から拒絶されつづけ、最後は森の中を歩いている最中に狼の群れに襲われ、助けを求めるもその声は誰にも届かず一人寂しく……」


「ストーップ!やめて!怖いよ!」


 クーがまだ少し病んでいるようなので、二人だけの会議を中断して他の人の話を聞きに行くことにした。


***


「というわけでコローナお嬢様、私はどうすれば良いのでしょう」


「そそそそういう問題は私には分かりません!」


「ですよねー、そうだろうと思って始めに聞きに着ました」


「わ、分かっていてなぜ相談にくるのですか!意味が分かりません!相変わらず姉弟子は非論理的で意地悪でイイカゲンです!」


「ははは、ごめんなさい。問題解決に来たわけじゃなくて、一緒に『分かんないよねー』って言って欲しかったんですよ。そういうの苦手なお嬢様を利用しちゃいました、ごめんなさい」


 いたずらっぽくテヘペロする俺。


「あ、姉弟子のそういう女性的なところが本当に大嫌いです!ズルくて憎くて……羨ましいです!」


 コローナが急に目をウルウルさせて抱き付いてきた。その反応は想定外。


「わ、私、姉弟子の事、大嫌いですが大好きです。尊敬してます。私と師匠が前しか見ていないのを、後ろから見守り、心配し、フォローしてくれる。冒険者ギルドだってそうなのですよね?私達が取りこぼした人達を救うためなんですよね?なんで姉弟子は私より子供なのに、そんなにも優しく、愛情あふれるしっかりしたお姉さんなのですか?しかも落ち込んでいる筈なのに私達に心配させまいと強く振舞える。どうしてそんなにカッコイイ大人の女性なのですか?年上の私の立場が無いではないですか。そんな素敵な姉弟子が拒否されてしまうなんて間違ってます!私は姉弟子には素敵な人が現われると信じていますから!」


 なんというヘタクソな慰め。でもとても癒される。だいぶ勘違いが入っているし、そもそも俺は一ミリも落ち込んでないのだけれど。


「ありがとう、私もそういうお嬢様の優しいところ大好きです」


「あ、あとこれを……」


 お嬢様はブニブニと握れる鳥の置物を俺に手渡した。なんだこれ。


「ら、ラバーダックです。あ、姉弟子はこういったものが好きだと聞いていたので……現在研究を進めている伸長結晶化物質を流用して作ってみました」


「ちょっとクーデリンデ!何を教えているの!あぁでも悔しい!ブニブニしてると癒される!」


 俺は癒しのアイテムを手に入れた。


***


「ルブさーん、ルブさんも何かちょーだい」


「なんだ突然……あぁ室長のとこでアヒルを受け取ってきたのか。聞いた話と違って全然元気じゃねーか。黒い方は落ち込んでるんじゃなかったのか?」


 おっと趣旨を間違えた。俺は気まずそうな顔をして上目遣いで誤魔化す。


「えっと、これは強がっているだけで、本当はウロウロせずには居られないくらい落ち込んでいるんですよ?」


「ウソくせぇ。ま、メソメソされるよりマシだから良いけどな。どれ、気分転換も兼ねて適当に何か作ってやるか」


 ルブは工場こうばの中をうろつきながら、いくつか材料を拾っていった。俺とクーは後ろから子供っぽくテクテクついていく。ルブは拾ってきた材料を加工しながら、こちらに顔も向けず話し始めた。


「お前らが室長に授けていく知識はまさに人智を超えたものばかりだ。タンポポの根からそんなアヒルが出来ちまうんだからな。そのブニブニのおかげで液体や空気を使う複雑な機械がとても作りやすくなった。これから機械はもっともっと進化していくだろう」


 このブニブニのアヒルにそんな力が?


「だがそれに戸惑っている職人多い。一生食っていくために時間をかけて身につけた技術が、機械が一つ発明されるだけで陳腐なものになるんだからな。今は紡績や紡織、それと材木ギルドくらいにしか影響が出ていないが、多くの職人が明日は我が身とビクビクしちまってる」


「ルブさんもそうなの?」


「俺は違うな。俺は機械を作る側、恐怖を振り撒く側、どちらかというと嫌われる側だな」


 俺がなんと言っていいか迷っていると、ルブは続けた。


「俺の事は気にしなくていい。これまでにも散々戦争の道具を作ってきた。武器や防具の美しさに惹かれて散々人殺しの道具を作ってきたんだ。喜ぶ人の裏で悲しむ人が出たとして、そんな事に一々悩みはしない。だがお前らは影響が大き過ぎる。俺が与えるのが恐怖だとしたら、お前らが与えてしまうのは絶望だ。なので一つ頼みがある」


 ルブは突然作業を止め、俺とクーの方に向き直って言う。


「あの少年にも花を持たせてやって欲しい」


「あら、そんな事ですか」


「大事な事なんだ。今や職人達は、機械と対等に戦うあの少年に自身を重ねている。あの少年が機械に負けて叩き潰されてしまったら、職人達も絶望の淵に沈むだろう。機械を日々作り出している俺がお願いするのも虫がいい話ではある。だが、それでもこの街の職人達に希望を残してやって欲しいんだ」


 俺はテオドリクス側にも応援している人が居ると知って嬉しくなった。


「大丈夫ですよ!ルブさんが心配しなくてもテオドリクスは絶対に負けたりしません!きっと次回も皆の期待に応える活躍をしてくれますよ!」


「ははは、嬢ちゃんは本当にあの少年が好きなんだな」


 しまった、つい素が出た。俺は顔を赤くして照れ、手を振って誤魔化す。


「そら、出来たぞ」


「何コレ」


「伸長結晶化物質の弾性力を利用して物を飛ばすイタズラ道具だ。こう……飛ばしたいものを一緒に掴んで引っ張る。そして弾くだけで物を飛ばせる」


「スリングショットですね」


「白い嬢ちゃんは知っていたか。まぁこの素材を伝えたのもお前らだからな」


「へー、いいねこれ。私のポシェットにもピッタリ入る」


「そりゃそうだ。お前にやるために作ったんだから」


 このオッサンはナチュラルに専用装備を作ってくれるから困る。


「えへー、私はルブさんの事も大好きですよ」


 俺は思いがけず新たな装備を手に入れた。こんなに優しくして貰えるなら、たまには落ち込むのも良いかもしれない。


 いやまぁ、俺はやはり一ミリも落ち込んでいないのだけれど。

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