表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/143

街での活動 その82 まばゆき世界を求むる者

既定路線。なのに書くのは遅いからふしぎ

 黒猫団更生計画の要は、やはりデベルの攻略だろう。隊長との話を聞いていて再認識した。デベルを納得させられなければ、どんな計画を立てようが実行不可能だ。でも逆に協力を得られれば、本人達以外の問題は全て片付く気がする。超面倒くさそうでやりたくない。しかし避けては通れない。


「というわけでデベルさん、黒猫団の方針についてご相談があります」


「今の奴らのボスはお前だ。好きにしたらいい」


 よく言う。気に入らなかったら潰すくせに。


「それでは少し話を変えます。黒猫団のボスとして、街の支配者に相談があります」


「チッ……なんだ、話してみろ」


「黒猫団の更生に力を貸してください」


「具体的に」


 デベルはそう言って俺を睨む。


 俺はどうせデベルの気に入らない案は通らないと踏んで、話し合いながら決めようと思っていた。それを拒否されそうになって咄嗟に話しの矛先を変えて話を繋いだは良いが、その先は考えていないのがバレバレ。デベルは当然そこをついてくる。しかし、俺にはメンタルとタイムの指輪がある。一呼吸おく間があれば、考えをまとめてデベルに具体的要求を返すことなど造作も無い。


「犯罪だけでなく、普通の人がやる仕事も斡旋して頂きたいです」


「ほう、犯罪の斡旋を止めろとでも言うかと思ったが」


「何者にも成れなかった人にも犯罪者として生きる道を残す。そういったデベルさんの救済策を否定する気はありません。私も全ての団員が更生できるとはとは思っていませんし。ただ、普通の人に戻る道も作りたい。それだけです」


「ふむ、多少は現実が見えているようだな。だが勘違いをするな。犯罪の斡旋は救済策などではなく、その犯罪が必要だからやっているのだ。たとえ全員が更生したとしても、別の誰かがやる事に成る」


「和を乱す者への粛清ですか」


「そうだ。たとえ法を破っていなくとも、悪意を持った者は居る。ルールの内側で悪意を実現させようとする輩がな」


「それは新たに法で規制すれば良いのでは?」


「新たな法の内側で可能な最大限の害を振り撒くだけだな、それも『ルールは守っている』と悪びれずにな。ルールを守りながら悪意を振り撒く奴をルールで正そうとするのは、ルールを守らない奴をルールで正そうとするのと同じく無駄な事だ。大体そんな事してやる必要がどこにある。他の者には新たな法など必要ない。問題の者を排除するのが一番てっとり早い」


「支配者としてはそうだろうけど……まぁいいわ、私が口をだす事じゃないし。でも普通の仕事も斡旋してほしいの。犯罪の斡旋が止められないとしても」


 今回の勝利条件はデベルに協力させる事。もっとぶっちゃけてしまえば、巻き込む事だ。反目などしている暇は無い。


「チッ、今日はやけに真面目に交渉してきやがるな。いつもはノリだけでかき回していくくせに。今は奴らなんかより大きな問題が……いやまてよ、それもこいつらに……」


 デベルはブツブツ言いながら思案し始めた。ちょっと嫌な予感がする。


「そうだな、仕事の斡旋はしてやる。但し条件がある」


「えー、子供のお願い事に条件なんかつけないで下さいよー。教育ママじゃあるまいし」


「やかましい。相変わらずムカつくクソガキだな。まず一つ目、今の黒猫団とは新たに別組織を作れ。表面上だけで構成員は被っていて構わん。そして二つ目、そこで俺からだけでなく広く仕事を募集しろ。この二つは最低条件だ。でなければ表の仕事は回せん」


「まぁ建前上それらは必要でしょうね。了解です」


「それら加えてもう一つ条件がある。構成員の方も広く受け入れ態勢を作れ。壁内だけに限らず、外から来る身元の怪しいものも含めてだ」


「はー!?何を言っているんですか!それじゃ街を壁で囲ってる意味が無いじゃないですか!黒猫団が存在できているのだって、地元民が多いからって理由が大きいのに!大体、私は数を減らしたくて相談しにきたのに何でそんな事を!」


「そんな事はお前に言われなくても分かっている。だがな、戦争が終わった事で元兵士が大量にあぶれてしまっているんだ。地元にすんなり帰れる奴は良いがそうでない奴も多い。放置すれば人々を襲うようになる。そいつらも含めて真っ当な労働力に仕立てろ」


「えー、私はデベルさんを面倒事に巻き込みに来たののであって、デベルさんの厄介事に巻き込まれに来たんじゃないんですが」


「ぶっちゃけやがったなクソガキが。拠点も含めて必要な物は揃えてやる。つべこべ言わずに仕切って見せろ!」


「へーい、どーなっちゃっても文句は言わないでくださいよ?」


 デベルを巻き込むという勝利条件はとりあえずクリアしているので、デベルの機嫌を損ねる前に俺は引き下がる事にした。


***


 そして早速、部下一号と秘密会議。


「というわけで、影の支配者っぽい人に協力を頼んだら、色々と条件を出されたわ」


「影の支配者に直接頼みごと出来るなんて姐さんはやっぱスゲェ!俺らは怪しい情報屋を通じてしか繋がり無いのに」


 いや、その怪しい情報屋がその人なんだが。


「カバーとなる別組織を作るのは形式だけで良いので問題なさそう。箱もその人が用意してくれるって話しだし。仕事の募集も、産総研の友達を通して各ギルドに依頼してみるつもり。ただ、壁の外の人を無条件に受け入れるってのがねぇ……。そんな人、壁の中に入れてもらえないし、請けれる仕事も限られちゃうわ」


 俺が困った顔をしていると、トラウは腕組みをしながら口を開く。


「そいつらに黒猫団のルールを叩き込むしかないでしょうねぇ」


「そんなモノあるの?」


「もちろん俺らの中にだってルールはあります。めくらめっぽうカタギ連中に手を出していたらこ狭い街ではやっていけませんからね。破った奴にはきっちり落とし前を付けさせます。酒を飲める所だって、なんとなく決まっているんですぜ?」


「なるほど、一応そういうのはあるのね。とはいえ一応は別組織だからね、実際は裏で黒猫団に動いて貰うとして、表向きは新組織が自ら実力で責任を取らせる──と」


 だがそれだけで街の人が納得するだろうか。所詮は何も持たない者達だ。誰かに損害を与えた場合に身内で制裁を加えると言った所で、損害の補償にはならない。犯罪者の更生だの言った所で、何かあった時の補償なしでは街の人の納得は得られない。持たざる者のままではダメだ。


「あと、一人一人の口座を作りましょう」


「なんスかそれ」


「お金の出し入れを記録する台帳よ。依頼主からの仕事の報酬は、その台帳に入金として記帳して組織で預かる。各人は台帳に基づいてお金を引き出せる。引き出さずに貯めて置くことも出来る。そして口座の残高に応じた証明証を発行するの。所詮はならず者だから人物の保証は難しい。でも口座の保証なら出来る。それをもってその人の信用を引き上げれば、なんとか街に入れてもらえるように交渉できると思う。あとは決済サービスも使えるようにして利用者にも利便性を図り……」


「やっぱ世の中は金っすか。世知辛いっすね」


「何を言ってるの、お金で信用が得れるなら安いものじゃない。しかもこの場合は経済力を示すために無駄使いをしなくて済む。積み上げておくだけで良いのよ?」


「それは分かるのですがね、なんかこう……社会に負けてるっていうか、兎に角ビビッとこねぇんですよ。姐さんが言っている事も大事だとは思うんですがね」


 くそう面倒くさい。でもチンピラ歴の長いトラウの意見は恐らく正しい。トラウが気に入らないシステムは他のならず者たちにも受け入れられないだろう。


 チンピラさん達は他人からの評価を気にするくせに、現実の他人の評価を認識しようとはしない。あくまで彼らが気にしているのは、彼らの妄想している仮想世界での評価だ。現実の評価を突きつけられても妄想が壊されるだけなので面白くないのだろう。


 一応は俺もその気持ちは理解できる。俺も『ドラゴン族と精霊のハーフで世間からは避けられおそれられている』というような妄想をたまにして気持ちよくなったりするが、クーのさげすんだ目を見て現実に引き戻されると、妄想が現実に打ち負かされたと感じてとてもやるせなくなる。たぶんその感覚だろう。


 でも彼らの妄想力は俺より何倍も強くて、現実世界にまだ負けていない。現実世界に妄想を追加して拡張現実として見る事が可能なのだ。極めた者はなら、とある物語の海軍大将のコスプレをして堂々と街中を歩く事など造作も無い。俺にもその力があれば、左手の甲に紋章を描いたりと楽しい人生を満喫できただろう。ちょっぴり羨ましい。


「紙とかでなく、普段から人に見せてスゲェってなる装備品に出来ませんかね。あと、金はやっぱ使った方がスゲェってなる気がします」


 トラウの一言でトリップから現実に引き戻される俺。


「あ、うんそうね。それじゃぁ穴のついたタグにしましょう。紐を付けて首から下げるもよし、衣服に縫い付けるもよし、ブレスレットにしてさりげなく見せるもよし。見た目で分かるように額によって材質を変える……と。お金は供託金として支払う事にしますか」


「その額によってってのも何とかなりませんかね。なんかこう……酒の席で武勇伝を語るのに繋げやすい物の方が俺ら好みです」


 トラウはそう言って、盗品らしきペンダントを摘まんで見せた。ヤレヤレだ。でも確かに実績の証明にも能力の証明にもなる。悪い仕事でなければ名誉にも繋がるし良い案だ。


「勲章みたいなものね。とても良い案だと思う。それは供託金の額とは別に、こなした仕事ごとに依頼があればタグを発行できる様にしましょう。供託金の額も……意識させない方が良いのかなぁ。仕事ごとに仲介手数料として取って、裏で貯めておくみたいな……。表向きには仕事の実績によってランク別のタグを発行する事にして」


「ランク、良いですね。社会一般のランクでなくて組織内独自のランク。そういうの好きですぜ俺ら」


「決まりね。ランク名はトラウさんのセンスに任せるわ。黒猫二等傭兵でも上級ツカイッパーでも、ビビっとくる名前を考えると良いわ」


「へっへっへ、任せてつかぁさい。すげぇのを考えて見せまさぁ。それにしてもですが姐さん、組織名はどうするんです?それもアッシが?」


「やれやれ、危ない仕事を好き好んで請け負う人達の集団、身元の保証もない人でも受け入れてくれる組織、なのに不思議と街と共存している。そういった組織の呼び方なんて一つしかないじゃない」


「え?全く新しい組織なのに?なんですそれ」


「冒険者ギルドよ!」


 タイヒタシュテット冒険者ギルド爆誕。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ