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街での活動 その75 お風呂場回(女)

実は前回の後半部なのです

「ザフロール様はなぜそんなに覗きが好きなのですか?」


 今日の覗きは上からとの事で、俺とザフロールは屋根によじ登り中である。


「なぜって、そんな事を聞く君の方が不思議だよ。大工さん達だって何も言わなくとも覗けるポイントを作ってくれる。それくらい当然の行為じゃないか」


「まぁそうなんでしょうけど……やっぱり良くない事ですしー」


「見たいんだからしょうがないよ。もうね、目が僕の意思とは勝手に動きだしている状態なんだ。そしてその悪いオメメが僕の体を勝手に動かしてしまう。逆らおうとしても逆らえない。君も大人になれば分かるようになるよ」


「ならないと思う……」


 男として胸につい目がいってしまうみたいのは分かる。そんなの目線を感じて相手の顔を見返すのと同じような反射行動だ。でも俺は見られる側にもなるので少し複雑。やられるとなんとなく値踏みされている気になる。まぁ仕方が無いのは理解はしているので「今見たでしょ!分かってるんだから!」とばかりに悪戯っぽく笑いながら睨んでやるのだが。


 でもザフロールのはそんな反射的チラ見レベルに留まらない。目線が下りるだけでなく顔ごと動いて胸を見てくる。そしてまるで心の中で対話でもしたかのように、一呼吸おいてから満足げに目線が顔に戻ってくる。子供連れの人に出会ったときにまず子供に話しかけるがごとく、まずは乳に挨拶しやがる。好きなのは分かるけどドン引きするレベル。まぁ覗きたい一心で女湯を作ってしまう人なので今更だが。


「それにしても、もう屋根の上くらいしか覗きポイントがないわけで、そろそろ潮時ですね」


 何度も覗きを繰り返した結果、女湯の内側についたてが立てられてしまっている。これではいくら壁に覗き穴が仕込まれていても無意味だ。


「上側は対策が難しいから大丈夫だよ。それにまだ脱衣所も残っているしね」


「まだ続くのか……」


「テオ君、静かに!報告どおり中に人が居るようだ」


 俺とザフロールは壁に耳を当てて内部の様子を探る。中からは女性達の声が聞こえる……。


「室長殿は案外立派なモノをお持ちですね」


「そそそそんな事ありませんよ。みなさんと変わりません」


「へぇーどれどれ、あら羨ましい。でも新品って感じだわ。確かにこれは私達がイロイロ教えてあげないといけませんねぇ……」


「よよよよろしくお願いします。ウチでは誰も何も教えてくれないので……」


「ウフフ、お貴族様の知らない技をたーっぷり見せてあげるわ」


 中に居るのは紡績ギルドのお姉さん達かな?コローナまで居るようだ。俺は心配になってザフロールに問いかける。


「ザフロール様ヤバイです。室長が居るようです。その辺の町娘の裸をみるのとワケが違いますよ。今日は止めておきましょうよ」


「珍しいな。彼女なら自分の屋敷で入浴するはずなのに。だがしかし、それは止まる理由にはならない。むしろ見たくならないか?あの白い外套の中身がどうなっているのかを」


「止めましょうよ。室長はそういうの苦手そうじゃないですか」


「テオ君、一つ良いことを教えよう。覗きもバレなきゃあ覗きじゃないんだぜ!」


「格好つけて言っても覗きは覗きですよ」


 ザフロールはそのまま屋根を這い上がり、換気窓を目指す。中からは楽しそうな声がする。


「室長殿はもう少し絞った方がよろしいですね。この辺など柔らか過ぎます」


「ややや止めてください。さ、触らないでください」


「ははは、姉様キビシー。でも室長、太過ぎると後で後悔するのは確かです。それでいて細過ぎてもダメ。女の道は厳しいんですよー」


 中からキャッキャと楽しそうな声が聞こえる。それを聞いてザフロールの目が鋭くなり、動きが機敏になった。


「ザフロール様はどこかで訓練を?その動きは只者じゃないです」


「王族には危険がいっぱいなのだから当然だよ。時には隠密スキルが生死を分かつ事もあるんだ。幼い頃から鍛えられているさ。よし、換気窓だ。さすがに湯気であまりよく見えないな。テオ君も早く!一瞬の湯気の切れ目を逃したら一生後悔するよ!」


「やれやれです。ザフロール様のはただの覗きスキルですよね」


 俺も仕方なく内部を確認し、共犯者になってあげた。中では室長らしき人を皆で囲ってワイワイやっている。


「それでね、これをお湯に入れて……室長、触ってみて」


「は、はい。では失礼して……あぁ凄いです。先ほどとは明らかに違いますね。ツルりとしてツヤも少し出たような」


「でしょう?この状態にしてから、もう一度糸車にかけるんですよ。さっきのは仮()りだから緩くてよかったけれど、今度はちゃんとしたりを入れるの。室長やってみて、さっき私が言った事の意味が分かるわ」


 あれ?何をやってるんだこの人達……あ、湯気の切れ目……。


 そこでは数人の女性に囲まれて、糸車を回すコローナの姿があった。


「「服脱いでない!!」」


「「「キャーいつもの覗き魔よー」」」


「あ、ヤバ……」


「姉様!そこのヒモを外して!排煙窓を全部落とすの!」


「ガッテン!」


 ガラガラガラガラ!


 俺とザフロールが張り付いていた屋根が、音を立てて内側に向かって倒れ始めた。


「うわぁ、この周りごと落ちるの?ヤバイ逃げなきゃ」


「テオ君ごめん!」


「な!?人を踏み台に!」


 ザフロールは俺より早く立ち上がると、俺を足場にしてさらに上に逃げた。俺はそれで体勢を崩され、屋根と一緒に内部に落ちて行った。


「なんのこれしき!」


 俺は落下する屋根を蹴って空中で回転して華麗に着地した。女湯内だが。


「ふぅ危ない危ない」


「みんな、早くその不届き者を捕まえて!」


 紡績ギルドの人達が俺を捕まえようとしてくる。しかし俺は捕まらない。自分の足の筋肉を魔術で操作し、予備動作なしの不思議な動きでスルスルと避ける。


 この技はクーが助けてくれないので自分で編み出した技だ。クーが人の体を操るのを真似て、自分の体を騙して動かす技。普通とは違う方法で変なところの筋肉を変な出力で動かすので、次の日には変なところが筋肉痛になっている。が、今は背に腹は変えられない。


「こいつ……日に日にすばしっこくなりやがる」


「止めて下さい。親分を逃がした事で私の任務は完了しています。これ以上の争いは無益です。そんな事より、ここで何をしているのですか。ここはお風呂に入る人の部屋ですよ?」


「覗きに来たくせにいけしゃあしゃあと、どの口が言うかね。今日はここにはお湯を使いに来ただけだよ。残念だったね」


「あぁ、亜麻糸のつむぎ方を室長殿に教えるためですか。でもギルドとして良いんですか?室長殿は糸を作る機械のために学ぼうとしているんですよね。お仕事なくなっちゃいますよ?」


「フン、アンタに言ったって分かりゃしないよ。室長殿の立てた計画はアタイらの夢でもある。それだけさ」


 なにそれカッコイイ。でもコローナの計画ってなんだろう。ただの糸作りじゃないのか。えーと……あぁ、前にカロエが話していた経糸たていとに使える木綿糸の開発の話か。そんな物に夢を抱くって紡績ギルドの人もやっぱ職人なんだなぁ。


「ふーん。でも作りたいのってたぶん木綿糸だよね。綿は花だけど麻は茎。似ている様で別物だから木綿糸は湯通ししてもツルっとしないよ。それに亜麻糸が強いのは素材が強いからで、綿で作り方を真似ても強くならない。綿なら少なくとも毛糸みたく双糸──二本の糸を撚って作る糸──にしないと経糸たていとは無理じゃないかなぁ」


 紡績ギルドのお姉様方がお互いに顔を見合わせる。そして幾人かはプルプルと顔を横にふり、分からないというようなポーズをとった。


「アンタ、なぜそれを知っている」


「へへー、少しロープ作りに打ち込んだ事があるんですよ。下撚りと上撚りの関係次第では、元の紐から太さ2倍で強さは3倍なんてのも可能で、実に研究しがいのあるテーマでした」


「違う!そっちじゃない」


「へ?」


「なぜ『フカフカパンティー量産化計画』を知っていると聞いているんだ!」


「何それ初耳」


「しらばっくれるんじゃないよ!得意げに木綿糸の経糸たていとの話をしたのが何よりの証拠だよ!」


「いやそれはカロ……じゃなくて、綿花が運び込まれるのを見たんです。だいたい木綿でパンティを作るとか意味分かりません。よく洗うものは亜麻布リネンで作るのが常識じゃないですか。リネンという言葉を洗濯の意味で使う事があるくらいですよ?ランジェラリーという言葉だってリネンが語源で……」


「やれやれ、やはりお子様だね。何も分かっちゃいない。室長殿、この子に見せてやって下さいよ」


「ななな何をですか突然」


「ご自慢のコットン100%のパンティに決まっているじゃないですか!」


 紡績ギルドのガタイの良いお姉さんがコローナを捕まえると、まるで小さい子供にお仕置きをする時の様に、小脇に抱え上げてスカートを捲り上げてお尻を見せた。


「わわわ止めて下さい、下ろしてください。誰か助けて」


「室長殿、心配しないで下さい。このふざけた少年だって実際に触ってみれば理解しますよ。ほらアンタ、早く触ってみなさい。そうすれば、私らが何をしようとしているのかすぐ理解できるわ」


「そんな出来るわけないじゃないですか」


「それでは私が失礼して……」


「「「「「!?」」」」」


 横から突然男の腕が出てきた。


「ザフロール様いつの間に……」


「パンティの開発と聞いては黙っていられないよ。それにしてもなんだこれ……まるで産毛に包まれた動物を撫でているかのような手触り。そしてむしろ肌よりも温かく感じる温もり。人の尻とはかのように優しくなれるものなのか……。さらに特筆すべきはこの白さだ。亜麻布のパンティでは決してありえない白さ。まるで白ウサギ。そうだ!このパンティはまるで小さな白ウサギだ!」


 なにやら偉く感動しているけれど、周りの目はザフロールに集中している。ちな、まだ全裸である。せめて服くらい着てくればいいのに。


「その変態を捕まえろー!!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!僕は画期的な商品に出資しに来ただけで、決して怪しいものじゃ……」


 流石のザフロールも成すすべなくつかまって簀巻きにされた。これほど簀巻き姿が板についている人も珍しい。


***


「ザフロール様ぁ、流石に無防備過ぎますよ。私の犠牲はなんだったんですかもう」


「うぅ、あの綿毛の様なフカフカパンティを見たらつい……」


 やれやれである。


「コイツがアンタの親分かい?少しは人を選んだ方がいいんじゃないかい?」


「ははは、普段はこんなですけど実は凄い人なんですよ。なんてったって、この国の王子様なんですから」


「寝ぼけた事を言ってるんじゃないよ。裸で屋根に登って覗きをする王子様がどこに居るって言うんだい。アンタ騙されてるよ」


「あー、ですよねー。それが普通の反応ですよねー」


「テオ君!なにを簡単に諦めてるんだ!今こそ持ち前の粘り強さを発揮する時だよ!ここのお風呂場も私が作らせたんだ。だから毎日各所を点検しているんだとか、そういう説明をしておくれよ!」


 全裸でか。さすがにその言い訳は無理だろう。コローナが説明してくれるのが一番早いんだけど……ダメだ、頭を抱えて床の上で丸くなっている。


「ザフロール様、喜んでください。ダメなモノをそのまま受け入れるって感覚、私も掴めた気がします」


「テオ君!今はそういうのいいから!冷めてちゃダメ、もっと熱くなれよぉぉぉ」


 ザフロールはそのまま衛兵の下に連行された。が、強権発動で抜け出てその日の夜には風呂に居た。


 そしてフカフカパンティの量産化研究に王家から多額の出資がなされた。


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