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街での活動 その74 お風呂場回(男)

のんびり。話も筆も

 かぽーん。


 子分としてザフロールに付き合ってお風呂。たまに身代わりとして酷い目にあうけれど、お風呂に入れるのは役得である。


「お湯って凄いなぁ。汚れもベタベタも全てスルっと落ちていく。これは一度覚えてしまうと止められないなぁ」


「良い事です。是非継続してください」


 クーは体にピッタリくっついた変な服を着ている。その服もいつもと同じ白色だが、丸の中に「湯」とかかれた変なマークが付いている。それでお風呂用の服だと分かるが、服を着ていたら洗えないので理解しがたい服。まぁそもそもこいつは裸足で地べたをペタペタ歩いても汚れないんだが。


「そうは言うけれど、ウチの村じゃお風呂のために火を焚くなんて考えられないよ。薪や焚き木を集めるのだって楽じゃないんだから。自分でやるとなるとちょっとなぁ……。お湯も水車が作ってくれれば良いのに」


「原理的には水車でも可能なのですがね。ヒートポンプという物もありますが、熱が逃げないようにして水をかき混ぜ続けるだけでもお湯は作れます」


「原理的にって事は、現実的には難しいのか。まぁ何かのついででお湯を沸かして、それで体を拭く程度が現実的な線か」


「前にも少し話しましたが、エネルギーを保存するにはそれなりに技術が必要なのです。技術さえあれば水車は勿論、日の光だけもお湯は作れます。そうですね、コローナお嬢様と一緒に少し検討してみます。今の技術で出来るものもあるしれません」


「へぇ、そんな事に前向きになってくれるんだ。変な感じ」


「傍に居るなら、汚いテオより綺麗なテオの方が良いですからね。私のためです」


「ははっ、納得だわ」


「一人で何をブツブツ言っているのかな?」


 俺とクーが湯桶の中でペチャクチャしていると、ザフロールが割り込んできた。クーはそれを見て一人遊びをしだした。お湯の中に沈んでブクブクと泡を立てるだけの良く分からない遊び。俺はそれを放置してザフロールに目を移す。


「えーと、どうにかして故郷にある自宅にもお風呂を作れないかと……」


「君の故郷はシュラヴァルトだよね。少し頑張れば週に一度入るくらいは出来るんじゃないかな」


「へぇ、ザフロール様はウチの故郷をご存知なのですか。誰も入ってこない辺ぴな所なのに意がーい」


「まぁ正直に言ってしまうと、君の事を調べさせたから知っているんだけどね。外部との交易も少なく、ほぼ自給自足でやっている土地なのだろう?特産品でお金を稼いでいる訳でもないし、毎日お風呂を沸かす余裕はなさそうだよね」


「そうですねぇ、なので悩んでいるんですよ。簡単だったら悩みませんよ」


「ふーん、なるほどねぇ……それでも諦めないんだ」


 ザフロールはそのまま真顔で俺を見つめて少し黙った。なんかキモい。


「あれ?俺なんか変な事を言いました?」


「あぁ、いや、そういったところが妙な信頼の理由なのかなとね」


「突然なんですか、気持ち悪い」


「君の周りからの評価だよ。悪い子ではないってだけでなく、適当な仕事を押し付けて放っておけば自分で勝手に何とかする。他の一兵卒より手がかからないってね。そんな信頼のワケを僕が少し納得できたってだけさ」


「ちょっと!それを言ったの誰ですか!適当な仕事を押し付けておけばって!」


「はははっ、さーね。僕も又聞きだから詳しくはね」


 くそー、きっとアヒムだ。今に見ていろ。


「ただ──君はまだちょっと愛が足りないかな」


「えー、私は誰でも大切にしてるつもりですよう」


「そうなんだろうけどね。やはりまだ子供っぽい。まぁ大人に成なれば分かるよ」


「ザフロール様、その言い方はずるいですよ。言いたい事があるならハッキリ言ってください」


 俺は分かり易いふくれっ面で不満を表面した。


「そうは言っても、こればかりは経験だからね。大人は子供が嫌う苦い食べ物も喜んで食べるだろう?それと同じさ。大人になると人のダメな部分も含めて、そのまま愛せるようになるのさ」


「先日のニーダーレルム公の事を言っているので?」


「まぁそうだね。叔父さんは叔父さんで色々あったんだよ。第一王子の当て馬として使われた第二王子。アレはそうした結果なんだ。結果だけを見るんじゃなくて、そういったこれまでの人生を想像出来るようになると、もっと広い心で愛せるようになるよ。完全なモノだけでなく、いびつに成ってしまったモノもそのまま受け入れられるようにね」


「うーん、色々あったのは分かりますが、これからでも別の目標をもった方が良いかなと思ったんですよね。本人のためにならないかなと。さらに周りに迷惑を振り撒いていましたし」


「やっぱ若いねぇ……でもその若さに付いていけない人も沢山いるんだ。いや、むしろ明確な目標ややりたい事に向かって生きている人なんて少数派と言ってもいい。殆どの人は、何となく自分の人生が間違っていないと思いたいだけで生きているんだ。ここに居る人達を見てごらん。のんびりお風呂入ってお酒を飲んでいるだけで幸せそうだろ?それで何かが成せる訳ではないけどさ。でも僕はそれで良いと思うんだ。それでもとても愛おしい人達だよ」


「まぁ私も別に彼らの事は嫌いではありませんけど……(俺が動けなくなっている時に良くしてくれたし。)彼らはオジサンみたいにならなさそうですし」


「叔父さんだって彼らと同じ環境ならきっと普通の人で居られたさ。ただ王族として生まれ、兄弟がそこそこよい王様になってしまったから、少し焦ってしまったってだけさ。たまたま兄弟に優秀な奴が居て、それと自分を比較してしまっただけ。君のお兄さんともそんなに違わないよ」


「!?……なぜ兄の事を」


「君の事は調べさせたと言ったろう。次男も居たが村を出て行ってしまったため、三男の君が徴兵された。それを聞いて僕は察したよ。身近に似た人が居るからね」


「兄の件は私にはどうしようもなかったのです……今もどうすれば良かったか分かりません……」


「勘違いしないでくれ。僕は別に君の事を責めている訳じゃない。僕だって父が良い王様になったのが悪いだなんて思ってはいない。ただその影響で少し失敗してしまった人が居る。そういう人にも優しく接して欲しいだけさ。君は叔父さんに言った事を自分の兄にも言えるかい?」


 そう言われただけで、勝手に脳内で兄の反応がシミュレートされた。シミュレートするまでもなく直感でヤバイと思ったが、兄は不快な顔をして俺に背を向けて立ち去る姿が頭の中に映し出された。


「……言えません。言っても怒らせるだけです。でもそうですよね。口で言われて出来るものでもないし、出来る事ならやっているし」


「ん、まぁ分かれば良いんだ。大丈夫、君はもっと優しくなれるさ。なにせ僕の子分だしね」


 ザフロールは俺の頭をグシャグシャしてきた。


「ザフロール様、実は兄はこの街にいるのです。それに良くない仕事もしています。なんとか家族の下に帰らせる方法は無いでしょうか」


「やれやれ、ありのままを認めてあげようって話をしたばかりなのに。でもまぁ家族だから放っておけないという気持ちも分からないでもない。僕の身近にも困った人が居るからね」


 ザフロールは苦笑してから続けた。


「一つアドバイス出来るとすれば、他の誰かを頼った方が良いという事かな。父が叔父の事を僕に頼んでいるようにね。直接対峙するのは止めた方が良いだろう」


「なるほど。でも誰に頼めば……」


「君の隊の誰かで良いんじゃないか?似たような年齢の次男や三男が多そうじゃないか」


「今少し頭の中でシミュレートしてみたのですが、私から頼まれた事がバレてこじれる未来しか見えませんでした」


「はっはっは、ありそうだね」


「笑い事じゃないですよ、もう」


「それじゃぁ女の人をくっつけよう。それなら君の企みだとバレても悪い方向には行かない。女性は百薬の長だからね」


「そんな言葉始めて聞きましたよ。ザフロール様に真面目に相談した私が馬鹿でした」


「僕も真面目に言っているのに。つれないなー」


 いつものザフロールだ。この人は本気で女性で全てなんとかなると思っているから困る。


 そして見張りをしていた護衛の一人から報告が入る。


「ザフロール様!女湯方面に人影を多数確認!これより入浴と思われます!」


「でかした!君は僕の分の酒も飲んでよし!ではテオ君、出動だ!」


 ザフロールはザバァと音をたてて勢いよく立ち上がる。凛々しい顔でビシっと言っているがやる事は所詮ノゾキ。しかもフルチンでだ。非常にゲンナリである。でも子分の契約があるので断れない。


 やれやれ、ダメな大人もありのままに受け入れるか。やはり俺はそんな境地には至れる気がしない。とはいえ、少しはオジサンの事も許せるようにはなった気がした。

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